琴葉葵はバーにいる~吸血鬼殺人事件~   作:一条和馬

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【前回のあらすじ】

じゅーにがつ よーか

きょー  は あおい ともだち と デート やって んて。
でも ほんとー は たんてー の おしごと。
おそうじ やさん の フリ して おはなし。
さがしびと の おかん と なかよく なった んやて。
おおきい ワンコ かわいかった らしいよ。
で あおい いっぱい はたらいたから おさけ のんで かえってきた。
ウチ ひとり で さみしかった けど
れいぞーこ の なか マグロ の さしみ あってん。
メモ あって あったかいの ようい できなくて ごめんね って。
で かえって きた あおい また ごめんね って。
なんや きょー は あおい いっぱい あやまる なぁ。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

じゅうにがつ ここのか

きょうは あさから パトカー うるさかった。
あおい とびおきて そと とんでった。
なんでも おとなりさん ころされたんやって。
はんにん は つかまった らしいけど。
それから あおい ずっと かなしそう。
ウチが だいじょうぶかて きいたら しんぱいないよ って。
ぜったい ムリしてるわ。
あしたは ひさしぶりに おねえちゃん がんばろかな。

(琴葉茜の手記より抜粋)



12月10日〈朝〉

     ●

 

 闇に沈んでいた私の意識を、まばゆい光が無理やり掬い上げた。目を開ける。自分の部屋だった。どうやら着替えもせずに寝てしまっていたらしい。最悪の目覚めだった。目を瞑ろうにも、今日に限って外は快晴。ベランダから清々しいほど眩しい朝日が入ってくる。憂鬱で仕方がなかった。いっそこの現実すら夢であってほしいと思う事すら許されないようだった。

 

 昨日の朝7時頃。〈きづな〉の近くで止まったサイレンの音に嫌な予感を覚えた私は寝起きそのままで服だけ着替えて外に出た。表には一台のパトカーと警察官、そして大家さんの姿がった。昨晩の雪で濡れていた階段を必死に降りながら大家さんの元に向かった私は、その時初めてイタコさんが殺されたことを知った。

 

 死因は後頭部を鈍器で殴られたことによる出血死。手荷物はなく、着ていた衣類を滅茶苦茶に引き裂かれた状態で発見された。遺体はここから東に1キロメートル程離れている住宅地のゴミ捨て場で、犬の散歩をしていた近所の主婦が偶然発見、通報に至ったという。殺人容疑が掛かったのは住宅地に住んでいた無職の男、松原忠司32歳。早朝に大急ぎで部屋に戻る音を隣人が聞いており、それを警察に証言したのだ。事情聴取の為に赴いた警官を突き飛ばし、逃走。その後数分としない内に拘束、逮捕された。彼の部屋には空になった大量のアルコール飲料の他、イタコさんの鞄と衣類の一部が見つかったらしい。警察は強姦目的でイタコさんを襲撃し、その後ゴミ捨て場にあった廃材で彼女を殴打。現金50万円の入った鞄を以て大急ぎで戻ったと推理した。

 

 私が警察から事情を聴いた時は松原忠司が逮捕される少し前だったのだが、夕方近くまで大家さんと二人で「悪いのは私だ」「いや違う私です」と抱き合いながら泣いた。酔っ払いの襲撃なんて防ぎようがない、なんて口に言うのは簡単だったが、私達には後悔しかなかった。急かさなければ、あるいはもっと早い段階で催促していればという考えが過るから、尚更だった。

 

 なんとか大家さんを落ち着かせることに成功はさせたものの、必死に励ます事ばかりしていた私の心労はかなりのものだった。まだお酒を出す時間じゃない〈ARIA〉に突撃し、とにかく飲んだ。校内の噂で聞いた弦巻姉さんは夕方頃にすっ飛んできて、夜には司法解剖から解放されたギャラ子がノロノロと現れた。そして私達三人は、人目も憚らず泣いた。いつもは寝ているIAさんが珍しく起きており、ONEさんと一緒に励ましてくれた。そこからの自室の布団で目を覚ますまで、つまり今な訳だが、その間の記憶がさっぱりない。自分の足で戻ってきたのが、それとも誰かに介抱されてやってきたのかも定かではなかった。

 

 「起きなければ。」脳内葵ちゃんの誰かが言う。起きてどうする?何をする?「仕事が残っている。」仕事?仕事とはタカハシ君を見つける事か?それは明日で良い。いや、来週。週明けにしよう。今日はイタコさんの葬式がある。それまでは悲しみの海に沈んでいたい。しかしお腹が空いた。

 

 よく考えれば昨日はほとんど酒ばかり飲んでほとんど食事らしい食事をしていない気がする。IAさんが気を利かして何か作ってくれた様な記憶が朧気に残ってはいるが、ほぼ一日中泣くエネルギーを賄えたとは思えない。どんなに辛い時も、どんなに悲しい時もお腹は空いてしまうのだ。台所から聞こえるお湯の沸騰した音を聞きながら、それでも私は瞼をもう一度閉じようと……。

「ん?」

 ちょっと待て。誰がお湯を沸かしているんだ?

 

 もしかしてギャラ子か弦巻姉さんが?いや、二人とも学校と仕事がある。それは考えにくい。ならば大家さんか、それか〈ARIA〉の姉妹どちらかだろう。後者の場合は彼女が運んできてくれた可能性がある。流石にそれを前に無碍に泣き寝入りを決め込むほど、私は子どもじゃなかった。部屋を出る。

 

 〈きずな〉の部屋はLの字になっており、私の部屋から台所に向かう為には、姉の寝ている部屋を経由していかねばならない。しかし物が乱雑に置かれたこの部屋を音を立てずに移動するのは、千鳥足になる今の私では少々難しい。そう言えば昨日は自分の事で手一杯で姉のご飯を用意できなかった。きっとお腹を空かせているに違いない。一昨日は遠出が確定していたので、御飯は包丁で切ってラッピングしたマグロの刺身を冷蔵庫に忍ばせておいただけだった。今日こそは温かいご飯を出してやらねば。私は姉の寝顔を見るべくベッドの方に顔を向けた。いない。

 

「まさか…」

 台所の方を見る。かつては日常風景の一部だった、エプロン姿の姉の背中がそこにあった。

「姉さん!?」

「あっ、ごめん葵。起こしてもうたかな?」

 

 菜箸片手に振り替える姿を見るのは半年ぶりだった。イタコさんの『死』で日常が瓦解しかけていたと思っていたはずなのに、世界に一条の光が戻った、そんな気がした。

 

「私がご飯作るよ。姉さんは無理しちゃいけない」

「ウチは少なくとも、今の葵の方が無茶してると思うよ?」

 

 菜箸を鍋の横に置いた姉がゆっくりと近づいてくる。右手が私の左頬に触れた。ほのかに温かい。姉の香りがする。

「こういう時くらいお姉ちゃんがしっかりせなな。お風呂沸いてるよ。先入って来なさい」

「……うん」

 久しぶりに姉の姉らしい所を見て、私は素直に頷く事しかできなかった。

 

 

 

 お風呂好きの私が30分という異例の速さで浴室から現れるのはどれくらい凄い事なのかというと、火星で発見されたパンドラボックスの力で日本が三つに別れる事とほぼ同じか、少し下だっだ。原因はやはり空腹。姿見の向こうの裸体はいつもより痩せこけ、やつれている様に見えた。私の『女の子好き』は勿論自分の事も含まれるので、こういう顔は好ましくない。しかし人間の三大欲求たる【食う・寝る・ファック】に忠実な私は髪の手入れも程々に浴室を出た。お腹が減って仕方がないのだ。

 

 ほとんど物置状態だったテーブルの上は二人分の食事スペースが確保されていた。テーブルの上にはご飯と、具のない味噌汁、そして卵焼きが用意されていた。冷蔵庫の中身は底をついていたらしい。

 

「準備できてるよ葵。さ、一緒にご飯食べよか?」

「うん…」

 私が台所上の棚に入れたブラックニッカのボトルとグラスを取ろうと手を伸ばすと、姉の柔らかい手が重なって静止してきた。

「折角やし、お酒は抜きで味わってほしいかな」

「それは……うん、そうだね」

 

 無意識に酒に手を伸ばすようになっていた己を恥じる。二人でご飯を食べている頃と言えば常にお酒は横にストックされていたが、それも半年以上前。きっと病み上がりでお酒が飲めないのを内心拗ねているに違いない。

「今日はお茶で我慢するよ」

「それがええよ。妹を飲酒運転の容疑で逮捕されたくないしな」

「ん?なんで?」

「なんでって……今日はウチ病院行く日やで?」

 

 カレンダーを見る。丸を付けるのが姉の日課だった。そして今日の日付である12月10日には丸字で【びょーいん】と書いてある。

「あ、今日だったか……」

 日にちの感覚が完全にどこかに行っていた。やはり昨日飲み過ぎたのが一番の原因かもしれない。

「先生にはちょっと遅れるって電話してあるから、ゆっくりご飯食べてから連れてってな?」

「わかったよ姉さん」

 二人で椅子に座る。食卓を囲む。ただそれだけの事で腹の奥底から何かこみ上げてきそうだった。

「ほな」

「「いただきます」」

 

 味噌汁を一口。空きっ腹に入れる食事というのはいつも、舌で触れてから胃に落ちるまで全ての感覚を全身で感じられるようだった。ご飯を一口。いつもよりゆっくり、長く噛み締めた。甘い。日本人が米を千年以上愛する理由を歴史ではなく舌先で理解していた。卵焼きを一切れ。視界が滲んだ。飲みこもうとしても、謎の嗚咽がそれを阻害する。

「どっ、どないしたん葵!? ごめん、美味しくなかった!?」

 姉の声が聞こえる。しかしよく見えない。

「ち、ちがっ…」

 

 喋るのも上手くいかない。しかし姉は私の背中をさすりながら、私の言葉を待っていた。私はゆっくり、口の中に残っていた卵焼きを時間をかけて飲み込んだ。

「姉さん、これ塩多いよ……」

「…ごめんな葵。失敗しちゃったわ……」

 

 もう枯れ果てたと思っていた涙が卵焼きに落ちる。私は情けなく大粒の涙を流していた。

強がっているのは誰から見ても明らかなのに、姉は優しく、何度も頷きながら謝ってくれた。

 

 かつて当たり前だった、しかし本当に大切だった日常が戻ってきた事に、私はもう格好をつけられずに情けなく泣き続けた。

 

 

 

「皿洗いは私がするよ」

 食べ終わった私が席を立つと、また姉が静止してきた。

「いや、ええよ。今日はウチが全部やるから」

「ダメだよ姉さん。役割分担は『いつもの』でしょ?」

 

 そうは言ったが譲らないのは知っていた。なんたって同じ『血』が流れている双子なのだ。どっちも頑固なのは親譲りである。結局、姉が洗い、私がその横で拭いて片付ける事で決着が付いた。狭い台所に並んで立つと、余計に狭く感じる。

 

「……姉さん。背、伸びた?」

「寝る子は育つからなぁ。葵もお酒とタバコ控えて、猫背治したら伸びるんとちゃう?」

「どうせ大きくなるなら胸が良いな」

「そらアカンわ。ウチも大きくならんかったもん」

 ふふふ、という笑い声が漏れた。どっちの声かはよく分からなかった。

 

 

 

 時刻は14時半。予定ではクリニックに行く時間は11時で、葬式準備の手伝いは14時からだった。両方完全に遅刻である。私は〈きずな〉の手前に黄色いボディーのフィアット500ちゃんを停め、スマートフォンを内ポケットから取り出した。一足先に準備を手伝いに行っていた大家さんに、姉をクリニックに連れて行ってから向かう旨を電話で伝えると、短い言葉で返事をしてくれた。短くはあったが、少なくとも昨日よりは声色の調子が良かった。

 

 カタカタと階段を降りる音が聞こえた。スマートフォンの画面から目を離すと、丁度姉が降りてきた所だった。

「ごめんなぁ葵~。待った~?」

 

 姉は黒いレース生地のドレスに、ツバの広い帽子を目深に被っていた。一年ほど前に姉がどこからか買ってきたものだが、今はクリニックで『デート』に行く時の格好になっていた。こんな服が我がゴミ屋敷に眠っていたとは思えない美しさだった。助手席を開けて、優雅に入ってくる。対する私は白シャツ&黒ズボンにカーディガン(今日は赤)、それにトレンチコートのいつものスタイルだった。

 

「そんなに眩しい?」

「久しぶりのお日さんの下やしねぇ。それに、葵とのデート、ウチも楽しみにしとったんよ?」

「作業服着て草むしりはしないから安心してね」

 軽口もそこそこに、私はフィアット500ちゃんを発進させた。

 

 

 

 姉が通っている〈月読クリニック〉は〈きづな〉から北東に移動した位置にある、小さなクリニックだ。どうやら姉の病気が特殊らしく、ギャラ子のいる〈実乃村医大付属総合病院〉でも担当できる医師がいないという。それ以上に大きい都会の病院に通うとなると交通費も医療費も馬鹿にならない。という事で紹介されたのがここだった。最もその効果の程は怪しかったが、今日の様に元気でいられる姿を確認できれば、半年間足繁く通った成果は間違いなくあったと思う。

 

 診療時間が既に過ぎていたが、姉が説得の甲斐もあって営業時間を少し伸ばしてもらった。この手の腹芸のない交渉に関しては、やはり私ではなく姉にしかできない得意分野だった。最もその方法というのは、『猫なで声で相手が折れるまで必死に懇願する』という傍から見ると非常に恥ずかしいものなのだが。

 

「……………」

 診察室に姉を送った私は、営業時間外の待合室という孤独の空間でひたすら待たされていた。いや、正確には看護師の月読アイさんがいるが、流石に姉の通うクリニックでナンパする程無節操ではない。それにいつもはそんな事はないのだが、今日はどうも『変』なのだ。私が医大を中退した理由の一つに『薬品の臭いに耐えられない』というのがあったが、今の〈月読クリニック〉にはそれとは違う『何か』を感じて止まない。懇意にしてもらっている以上大きくは言えないが、ここには来てはいけない様な、そんな感覚にすら襲われることがある。まぁ、営業時間外だし、加えて病院に『何度も来たくなるフレンドリーな雰囲気』なんてあっても困るっちゃ困るんだけどね。昨日の今日でおかしくなっているのかもしれない。私は今日の新聞でも眺めながら時間を潰そうとして、手が止まった。

「あれ?」

 いつも入り口に新聞を溜めている場所に、今日は一冊もなかったのだ。

 

「あの、アイさん。今日の新聞どうしたんですか?」

「新聞ですか?ごめんなさい。さっき診察にきたおじいちゃんが倒れた時に、持ってた水稲のお茶が全部かかっちゃって……」

「そうだったんですか…」

 

 仕方なく私は外に出て、道路向かいの自販機まで小走りで移動した。クリニックの前でホットの缶コーヒーとピースでなんとか時間を潰す事にしたのだ。

 

 外は寒くて敵わないが、手を出せない謎の美女と行き苦しい空間で黙ってるよりかはマシだった。しかしヒマだ。ここ数日は忙しく動き回っていたから良かったが、私は基本何かしてないと落ち着かない人間なのだ。スマートフォンがあるのでゲームアプリでも、という選択肢はあるが、どうも私は『画面を触る』という事に昔から抵抗があり、携帯ゲームもニンテンドーDS登場以降は一切触っていない。ボタンがあったDSでさえそうなのだから、液晶画面しかないスマートフォンなど尚更だ。その昔原因を考えたことがあったが、多分幼少期に親戚から譲ってもらったお古のブラウン管テレビの画面を触って親にこっぴどく怒られたのが原因だと思う。地デジ対応した数年後まで使っていたので、私はこの年にして珍しくブラウン管テレビを殴って起動させることが出来るぞ。

 

 おっと、流石に年の事ばかり考えて時間は潰したくない。私はまだピチピチの26歳なのだ。なので若者らしく年下をからかって時間を潰す事にする。スマートフォンの電話帳を開き、この時間一番ヒマそうなヤツに電話を掛ける事にした。

『はい水無瀬です』

「やっほー、こーちん元気ー?」

『あっ、あああ葵さん!?』

 

 電話の向こうでガタガタという物音が聞こえる。きっとダラダラしていた中大慌てで姿勢を正したに違いない。愛い奴よの。

 

 この『こーちん』は一か月ほど前から私に交際を申し込んできた男だった。23という若さで小学校の教師になり、生徒からの人気も高い。年の少し離れた兄の様にからかわれているというのが実情だが。そんなこーちんとは三カ月ほど前に彼の生徒絡みの『仕事』をこなした際に知り合いとなり、そこから私の何を気に入ったのか猛烈にアタックしてくるのだ。今週辺りから小学校は順次冬休みに入る期間なので、彼はきっと暇に違いない。

 

「今ヒマ?」

『忙しいけどヒマにします! どうかしましたか!?』

 素直な奴だ。

「いや、私がちょっとヒマでね。話し相手になってよ」

『えぇー…』

 

 私は『仕事』のその後の話を聞いた。地元の警察官にストーカーされていた女の子も、落ち着きを取り戻して普段通りの生活を送っているという。まがい物の探偵である私だが、こうやって『仕事』の成果が上手くいくと素直に嬉しくなるものだ。

 

『そう言えば葵さん、昨日のニュース、見ましたよ…』

「あぁ、うん」

 きっとイタコさんの事だろう。今はメディアのほとんどが事件現場周辺ばかりでカメラを構えているが、どこかの一局だけ〈きづな〉を取り上げていた。その時非常に気が立っていた私はカメラマンを蹴り飛ばしたが、多分蹴り飛ばす直前までの映像が流されたのだろう。

 

『その、大丈夫なんですか……?』

 大丈夫な訳がないだろうアホか。と言いたかったが、この無垢な青年は本気で心配しているのだ。こういった清い心を持っているからこそ、子どもからも好かれるし、私も好感が持てた。

 

「昨日いっぱい泣いたからね。とりあえずは」

『本当は授業投げて捨てでも向かいたかったんですけど、そんな事したら逆に葵さんに嫌われそうで……』

「はっはっは分かってるじゃないか少年!無職の私を抱きたかったら真面目に働き給えよ」

『抱くって、いやっ、僕はそんなつもりは……ッ!』

 

 あからさまに動揺しておる。若いなぁ。私は誰かと籍を入れようとは思ってないが、こーちんなら良いかな、とは薄々思っていた。このやりとりは単なる『惚気』なのだ。テレフォンセックスならぬテレフォンデートである。

 

 程なくするとこーちんの声の奥から怒号が飛んできた。「職員室で惚気話はやめろ!」子の声は万年独身の教頭だな、嫉妬とは見苦しい。しかしまだまだ青いこーちんは私と教頭に謝りながら電話を切った。切り際に『大好きです葵さん!今度こそデートしましょう!』と言っていたので少なくとも彼は教頭から一本取った事になる。

 

 身体はすっかり温かくなっていた。残っていた缶コーヒーに口を付ける。中身はすっかり冷え切っていた。私はポイ捨てしない善良なスモーカーなので、中身の残った缶コーヒーにタバコを入れて火を消し、それから自販機横のゴミ箱に捨てた。戻ってもう一本タバコを吸おうとした時に、丁度姉が〈月読クリニック〉から出てきた。歯を見せない上品な笑顔で手を振ってきたので、私も軽く手を振り返した。

 

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