ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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第10話~アウトローは中途半端である~

 真姫が去った後、紅夜と穂乃果は音楽室の戸締まりを済ませて鍵を職員室に返し、校舎裏へと移動していた。

 

「はぁ………」

 

 その場にしゃがんで壁に凭れ掛かった穂乃果が、空を見上げながら溜め息をつく。

 せっかく良いアイデアを考えついたのに幼馴染みには断固として拒否され、更に勧誘も断られてしまったため、気持ちが少々滅入っているようだ。

 

「(まあ、普通に考えたら、あの2人の反応が正しいんだけどな)」

 

 そんな彼女を横目に見ながら、紅夜は内心そう呟いた。

 

 昼休み、雑誌やパンフレットを広げて熱弁する穂乃果を見た紅夜は、海未と同じように彼女の考えを見抜いていた。

 

 今の日本ではスクールアイドルが流行っていて、有名なグループが居る学校は入学希望者が増えているから、自分達も同じようにやれば廃校を撤回させる事が出来ると穂乃果は考えたのだろうが、残念ながら世の中というものは、そう甘くはない。

 プロのアイドルとは違って部活感覚で始められるスクールアイドルだが、雑誌に乗っていたグループのように有名になるには、それこそプロと同様に死に物狂いで努力しなければならない。

 勿論、自分達で楽しむ事も大切だ。しかし、ただメンバーと共に歌やダンスを楽しむだけでは単なるお遊びでしかなく、他のスクールアイドルのように雑誌に載って学校の知名度を上げるなど夢のまた夢。

 よくパーティーの出し物で行われるような一発芸とは、訳が違うのだ。

 

 それに勧誘の件においては、穂乃果が断られるのは至極当然の事だった。

 あの女子生徒にとっては、見ず知らずの上級生がいきなり音楽室に乗り込んできてアイドルに勧誘するという、常識的に考えて有り得ない行動を取ったのだから、そこで『はい、やります』なんて答えが出る訳が無いのだ。

 

「良いアイデアだと思ったんだけどな……」

 

 そう呟いた穂乃果は、先程から一言も発しない紅夜へと視線を向けた。

 

「ねぇ、長門君はどう思う?やっぱりスクールアイドルやるのって、私達には無理なのかな?」

「…………」

 

 そう言われた紅夜は、返答に困った。

 

 彼女の質問に対して、『知らん』とか『俺には関係無い』と、何も考えずに答えてしまうのは簡単だ。人間不信真っ只中の頃の紅夜なら間違いなくそう言っていただろうし、更に酷い暴言を吐いている事も有り得る。

 いや、そもそもこうして彼女と一緒に行動する事も無かった筈だ。

 しかし、その人間不信が中途半端に治っている事や親からの言いつけもあり、弱っている彼女に対して非情になれず、かといって人間不信になる前のように優しくもなれないという何とも微妙な位置に立たされていた。

 

 そんな状態で沈黙して少し経つと、突如として紅夜のスマホが、メッセージの着信を知らせる。

 差出人はアレクサンドラで、何やら1本の動画を送ってきていた。

 

「(ああ、この動画はあれだな)」

 

 メッセージ欄に表示されている動画のファイルを見た紅夜は、その正体を悟った。

 

 実は、彼等MAD RUNでも時折動画を撮影しては仲間内で共有しており、紅夜が日本に里帰りした際に他のメンバーが何かしらの動画を撮影した時は、こうして送ってくるのだ。

 

「どうしたの長門君?誰からなの?」

「アメリカに居る仲間からだ。動画を送ってきたんだよ」

 

 訊ねてくる穂乃果に淡々とした口調で答え、動画を再生する紅夜。すると曲が流れ、画面に映っている3人の女性が踊り出した。

 

「おっ、彼奴等遂に完成させたんだな。動きもテンポに合ってて完璧だし、俺が教えたところもしっかりマスターしてやがる………やっぱり、振り付け担当やってて良かったぜ」

 

 そう言って頬を緩める紅夜。

 普段教室では見せない穏やかな笑みを見た穂乃果は、思わず見惚れてしまう。

 

「……はっ!?」

 

 数秒程紅夜を見た後、彼女は我に返って立ち上がる。

 そして紅夜の邪魔にならないようにしつつ、画面を覗き込んだ。

 その3人は笑顔を浮かべて踊っており、本気で自分達のパフォーマンスを楽しんでいる事が画面越しにも伝わってくる。

 そしてダンスも、素人である穂乃果でも分かる程に上手かった。

 

「うわぁ、凄いな……!」

 

 目を輝かせてそう言った穂乃果の心に、今朝、UTX学園の前でスクールアイドルの映像を見た時に受けた衝撃や感動が甦る。

 

 あの映像を見た後、彼女は衝動的に近くのコンビニへ駆け込んでスクールアイドルの雑誌を買い、妹の雪穂から借りてきたUTX学園のパンフレットに書かれていたスクールアイドルの記事を何度も読み直し、スマホでも調べた。

 そして昼休み、幼馴染み2人を呼び寄せて自分達もスクールアイドルをやろうと提案したのだ。

 それを思い出すと、彼女の心の中で消えかけていたやる気の炎が、再び燃え上がる。

 

「……高坂?」

 

 微動だにせず動画を見ている穂乃果におずおずと声を掛ける紅夜だが、返事は返されない。

 彼女が動いたのは、動画が終わり、紅夜がポケットにスマホをしまってから数十秒後だった。

 

「………決めた。私、やっぱりスクールアイドルやる!」

 

 青い瞳を光らせ、穂乃果は声高に言った。

 

「い、いきなりだな………さっきまで諦めかけてたのに」

「うっ、確かにそうだけど………でも、やっぱりやりたいの!」

 

 紅夜に言われて一瞬言葉を詰まらせる穂乃果だったが、負けるものかとばかりに言い返した。

 

「だって私、この学校を無くしたくないんだもん!私のおばあちゃんもお母さんも、昔は此所に通ってて、ことりちゃんや海未ちゃんのお母さんもそうだったの」

 

 胸に両手を当て、過去を懐かしむように言う穂乃果。そんな彼女の言葉を、紅夜は静かに聞いていた。

 

「そして今は、私と海未ちゃんとことりちゃんが居る。他の友達も居る。この学校には、皆の思い出がいっぱい詰まってるの!そして今の1年も、来年や再来年に入ってくる新入生も、此所でいっぱい思い出を作るの!だから、廃校なんて絶対させない!アイドルやって有名になって、入学希望者を増やすの!」

 

 マシンガンの如く捲し立てる穂乃果は、ずいっと紅夜に顔を近づけ、最後に一際強い声で言った。

 

「私はやる、やるったらやる!!」

「……………」

 

 そんな彼女の剣幕に、紅夜はすっかり気圧されていた。

 その口調や表情には強い意志が込められており、彼女が本気である事が分かる。

 

「……と、取り敢えず、お前の気持ちは分かった。だが先ずは落ち着け。それと近すぎだ」

「………あっ、ゴメン」

 

 そう言われた事で、今にも互いの鼻の先がくっつきそうな程に顔を近づけている事に気づいた穂乃果は、頬を赤く染めながら離れた。

 先程までの剣幕が嘘のようにしおらしい反応を見せる彼女に気まずさを感じた紅夜は、頬を指で掻きながら口を開いた。

 

「……まあ、何だ。それだけの意志があるなら、やってみれば良いんじゃないか?少なくとも、それにケチつけるようは奴は居ないだろうし」

 

 そう言って、紅夜はスマホを取り出して時間を確認する。

 時刻は午後3時45分。授業が終わったのが3時5分であるため、これから下校するという生徒は殆んど居ないだろう。車を他の生徒に見られないようにして帰るなら、今が絶好のチャンスだ。

 

「スクールアイドル、上手くいくと良いな」

 

 そう言うと、紅夜は壁に立て掛けていた鞄を拾い上げ、ポケットから車の鍵を取り出す。

 

「じゃあ、俺は帰る。頑張れよ」

「え?」

 

 『何言ってるの?』とばかりに呆然とする穂乃果をその場に残し、駐車場へと向かう紅夜。

 

 元々彼女がスクールアイドルを始める事自体には何の文句も無かったが、だからと言って、自分もそれに関わろうという気は微塵も無いのだ。

 その理由の1つとして、この学校の行く末に興味が無いというのが挙げられるが、理由はもう1つあった。

 

「(……コレは、ある意味チーム戦みたいなモンだ。そういうのは仲間だけとやるって、決めてるからな)」

 

 昔受けたいじめやその後の一件で、重度の人間不信になった紅夜。

 アレクサンドラ達の尽力もあって家族や幼馴染み達との和解は果たしたが、当時のショックから、『身内や仲間といった、古い付き合いの人間以外とは必要以上に関わらない方が良い』という考えが生まれたのだ。

 

 勿論、雛や両親に言われた事もあるため、赤の他人とも最低限関われるようにはなるつもりだ。だからこそ何か話し掛けられたらちゃんと答えているし、昔のように拒絶するようかのような反応はしないようにしている。

 だが、その更に先の関係へ進もうとは思わない。

 正体が知られた時、相手は自分を忌避するだろう。それで昔のように裏切られたような気分になるのは、もう御免だ。

 ならば最初から、関係をただのクラスメイトに留め、それ以上先の関係に進まないようにしようと考えていたのだ。

 

「(俺の仲間は、家族や幼馴染み、それからベンチュラ・ベイやフォーチュンバレーの彼奴等だけ………それ以外との関係は、最低限会話する程度で十分だ。そんなに仲良くなる必要なんて無い)」

 

 内心そう呟きながら駐車場へ歩みを進めていると、前方から2人の女子生徒が歩いてきた。

 

「あっ、長門君だ。お~い!」

 

 その内の1人、ことりが紅夜に気づいて手を振る。その隣には、胴着に身を包んだ海未が居た。

 

「……南に園田か」

 

 紅夜は、2人の前で歩みを止めた。

 

「長門さん、未だ残っていたのですね」

「ああ、ちょっと校舎内を探検していたんだが、そこで高坂に会ってな」

「穂乃果ちゃんに?」

 

 聞き返してきたことりに頷き、紅夜は自分が来た方向を指差した。

 

「彼奴なら校舎裏に居る。そこでちょっと話を聞いたが………本気でスクールアイドルを始めるつもりらしい」

「そう、ですか………」

 

 そう言って、小さく溜め息をつく海未。

 穂乃果への呆れと、何と無くこうなると思ったという彼女の気持ちが、その態度に表れていた。

 

「穂乃果ちゃんって、昔からこうなの。何かやろうって言い出すのは何時も穂乃果ちゃんだったんだ」

 

 そんな海未に苦笑を浮かべながら、ことりが紅夜に言った。どうやら穂乃果の思い付きからの行動は、今に始まった事ではないらしい。

 

「まあ、そのせいで何度も酷い目に遭いましたけどね………大体、穂乃果は何時も強引すぎなんです。やろうとする事も毎回無茶苦茶なものばかりで──」

「でも海未ちゃん………それで後悔した事って、ある?」

 

 愚痴を溢す海未だったが、ことりに遮られる。

 

「ことりも、最初は海未ちゃんの言う通りだと思ったよ?木に登った時なんて、怖くて泣いてたもん。それに、悪戯して怒られる時もあった。でも何だかんだで、最後は皆笑って終わってた………違うかな?」

「それは……」

 

 そう言われた海未は、言葉を詰まらせた。

 

 穂乃果の無茶な思い付きに何度も振り回され、その都度散々な目に遭ってきた彼女等だが、ことりの言う通り、最後は笑って終わっていたし、怒られても、それで穂乃果を恨んだ事は1度も無かった。

 

「…………」

 

 そんな海未を暫時見ていたことりは、不意に歩き出す。そして曲がり角に着くと、向こうの様子を窺った後に此方へ振り返って手招きした。

 海未が彼女に続き、曲がり角から覗く。その先には………

 

「ほっ、ふっ……!」

 

 1人でダンスの練習に励む穂乃果の姿があった。

 何度も足を縺れさせて転んでは、再び立ち上がって練習を始める。そんな彼女に、海未は思わず目を奪われていた。

 

「ねぇ、海未ちゃん………私もやってみようかな、スクールアイドル」

「えっ……?」

 

 目を丸くして聞き返す海未に、ことりは普段のほんわかした笑顔を浮かべた。

 

「だって穂乃果ちゃん、あんなに頑張ってるんだもん。それに長門君も、本気でやるつもりだって言ってたし」

 

 そう言って、再度穂乃果へ視線を向けることり。

 

「うわっ!?」

 

 その先では、穂乃果が尻餅をついていた。

 何度も転んだためか、青いスカートは砂で汚れていた。

 

「…………」

「海末ちゃん………一緒にスクールアイドル、やろ?」

 

 最後の一押しとばかりに、誘いの言葉を掛けることり。海未も昼休みに誘われた時は断固として拒否していたが、ここまで真剣に取り組もうとしている穂乃果の様子を見せられたら、断る事も出来ない。

 

「そうですね」

 

 小さく笑みを浮かべた海未は、未だその場に座り込んでいる穂乃果の前に立つと、手を差し伸べる。

 

「海未ちゃん……?」

「穂乃果………私とことりも、仲間に入れてくれませんか?」

「……ッ!海未ちゃん!」

 

 激情に任せ、海末の胸に飛び込む穂乃果。

 

「フフッ、やっぱりこうでなくちゃね!ねぇ、長門君も私達と一緒に………あれぇ?」

 

 3人が揃った事を喜んだことりは、紅夜も誘おうと振り向く。だが、既に紅夜の姿は無かった。

 

「ことり、どうしました?」

「……あっ、ううん!直ぐ行くよ~!」

 

 何時の間に居なくなったのかと首を傾げることりだったが、海末に呼ばれたために彼女等の元へ駆け寄る。

 

「よぉ~し、じゃあ早速生徒会室に行って、アイドル部設立の申請をしよう!」

「「おー!」」

 

 そうして穂乃果達は、意気揚々と生徒会室へ向かうのだった。

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