ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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第14話~アウトローの1人演奏会~

「まさか、こうもあっさり貸してくれるとは思わなかったな………ただ軽く弾いて遊ぶだけだってのに」

 

 穂乃果達がライブの準備のために動いている頃、紅夜は音楽室に居た。

 

 先日の一件で、一般生徒でも授業以外で音楽室を使えるのかという疑問を抱いた彼は、試しに職員室に赴いて訊ねたのだ。

 流石にそんな都合の良い事は起こらないだろうと思いながら訊ねた結果、申請すれば借りる事が出来ると返され、そのままあれよあれよという間に鍵を借り、気がつけばこうして、音楽室に足を踏み入れていたのだ。

 

「そういや講堂も、生徒会に申請すれば一般生徒でも自由に使えるって、生徒手帳に書いてたっけ………」

 

 そう呟きながら、鞄から取り出した生徒手帳のページを捲っていく紅夜。

 そして目当てのページに辿り着くと、やはり一般生徒でも、生徒会に申請すれば講堂を使えるという事が書かれていた。

 

 音楽室や講堂といった一部の特別な教室や施設は、基本的に授業や部活、その他のイベントを除けば一般生徒は使えないというイメージを持っていたのだが、この学校はそうではないらしい。

 

 予想よりも施設の使用に関する規則が緩い事に拍子抜けしながら、紅夜は昨日と同じように音楽室の中を探検する。

 室内をゆっくりと歩き回りながら、ピアノや並べられた机に触れてみたり、後ろの壁やホワイトボードの近くに貼られている、時代ごとの作曲家と有名な曲を纏めた表やコンサートのチラシ等を眺めたりして、思い思いに過ごす紅夜。

 一時的とは言え、このだだっ広い音楽室を独り占めにしているというのは、何と無く気分が良かった。

 

「……ん?」

 

 一通り探検を終えて机に腰掛けた紅夜は、窓側に何かが置かれている事に気づいた。

 白いシーツを被せられたそれは、机にしては横幅が広く、そして不自然に盛り上がっている。

 

「何だあれ?昨日来た時は、あんなの置いてなかったと思うが……」

 

 紅夜はその物体に近づき、シーツを剥ぎ取る。すると、2段の鍵盤や幾つものスイッチ、そしてピアノより遥かに多いペダルを持つ黒い楽器が姿を現した。

 

「おっ、エレクトーンか」

 

 現れた楽器の名を呟き、まじまじと眺める紅夜。

 

 エレクトーンは、彼がベンチュラ・ベイに居る時、仲間達とのバンド演奏で使っていた楽器の1つだ。

 これ1つに他の様々な楽器の音色が詰まっており、それによる表現力の幅広さは、他の追随を許さないと言っても過言ではない。

 ピアノ程ではないが、それでも楽器としては大型で重く、それ故に運搬はかなり大変なのだが、最近では軽量・小型化に加え、分解する事によって持ち運びが容易になったものも登場している。

 

「…………」

 

 暫くエレクトーンを眺めていると、弾いてみたいという気持ちが紅夜の心の中で湧き上がる。

 ストリートレーサーである一方、バンドやダンスといった音楽にも触れてきたのだから、こうなるのは無理もない。

 それに、せっかく音楽室を借りられた上に慣れ親しんだ楽器もあるのだから、何か1曲くらい弾いておかないと勿体無いだろう。

 

「よし、そうと決まれば」

 

 紅夜は近くにあった机の上にシーツを置くと、音楽室の外や近くの空き教室に誰も居ない事を確認する。

 そしてドアや窓を閉め、スイッチを入れて準備を整えると、椅子に腰を下ろし、指を鍵盤に添えた。

 

「曲は……まあ、あれで良いか。そんなに長くないし、ガッツリ弾く訳でもねぇからな」

 

 自分の記憶の中から手頃な曲を1つ選んだ紅夜は、軽く深呼吸して気持ちを落ち着かせると、鍵盤を押し込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、中央階段には音楽室に向かう1人の女子生徒が居た。

 

「予想外だわ。ちょっと遅くなったとは言え、既に誰かが鍵を借りていったなんて」

 

 そう呟きながら、彼女──西木野真姫は階段を上っていく。

 

 彼女は今日も音楽室を使おうと、職員室へ鍵を借りに向かったのだが、その道中で忘れ物に気づいたため、一旦教室へ戻って忘れ物を回収し、改めて職員室へやって来たのだ。しかし、いざ鍵を借りようとすると、既に他の生徒が鍵を借りて上がっていった事を知らされたのである。

 1人で過ごしたかった彼女は今日は諦めようとしたのだが、鍵を貸したという教師から興味深い話を聞かされたため、今はこうして音楽室を目指していた。

 興味深い話というのは、その生徒が鍵を借りに来た理由だ。どうやら、昨日自分がピアノを弾いているのを聞き、一般の生徒でも音楽室を使えるのかと訊ねてきたらしいのだ。

 つまり、今音楽室に居るのは、自分が音楽室で弾き語りしていたのを知っている人物、つまり、あの2人という事になる。

 

「…………」

 

 そこで真姫は、昨日の放課後に会った2人をもう1度思い浮かべた。

 先ずは、いきなり乗り込んできた上に自分をアイドルに勧誘してきた、サイドテールの茶髪を持つ2年の女子生徒。そして彼女と一緒に居た、ポニーテールの白髪に黒い眼帯という印象的な姿をした青年だ。

 特に興味が無かったので名前は覚えていないが、取り敢えず試験生としてやって来た人物という事だけは覚えている。

 

 果たして音楽室に居るのは、あの女子生徒なのか、それとも青年の方なのか……そう考えている内に、真姫は音楽室があるフロアに辿り着いた。

 そして角を曲がり、音楽室の表札が見えてきたところで、彼女は足を止める。

 音楽室の方から、楽器の音色が聞こえてきたのだ。それも1つではなく、複数の。

 

「……?」

 

 一体誰がバンド演奏なんかやっているのかと疑問に思いながら、足音を立てないように音楽室へと近づいていく真姫。ドアの窓から中を覗くと、その正体が判明した。

 

 ポニーテールの白髪を持つ人物が、窓側に置かれたエレクトーンを弾きながら歌っている。

 その声から昨日会った青年だと直ぐに悟った真姫は、荷物を下ろして壁に背を預け、彼の演奏に耳を傾けた。

 

「へぇ、中々上手いわね………曲も歌も」

 

 彼の演奏に、真姫は素直なコメントをつけた。

 

 幼い頃から英才教育を受けてきた彼女は、特に音楽に秀でており、それ故に一般家庭出身の者との間に大きな差があった。

 勿論、自分のように特別な教育を受けているかどうかは人によって異なるし、特技も人各々であるため、自分が英才教育を受けており、音楽に長けているからと言ってそうでない連中を見下すような事はしなかった。

 だが1つだけ、どうしても我慢出来ない事があった。それは、彼女を取り巻く異性との関係だ。

 

 少なくとも彼女が知る男子は、芸術性の欠片も無い連中ばかりだった。

 中学生の頃、彼女の数少ない楽しみである音楽の授業中、音楽が好きではないからというくだらない理由で、真面目に聞かずにふざけては教師に注意されている子供のような男子をどれだけ目障りに感じていたかは、今でも忘れていない。

 そんなに音楽の授業が嫌いなら、自分達のように真面目に授業を受けようとしている連中の邪魔だから教室から出ていけと心の中で呟いたのも、1回や2回どころではなかった。それだけではなく、思春期という異性への興味が出る時期に入っているためか、彼等の会話に卑猥な話題が上がったり、中には軽く見ただけで妙な勘違いをする輩も少なからず居た。

 そのため真姫には、身内を除いた男性にはあまり良い感情が無かったのだ。

 

 しかし、今音楽室で1人演奏会を開いている白髪の青年からは、当時の男子に抱いた嫌悪感は湧かず、寧ろ親近感のようなものを感じていた。

 人間とは意外なところで敏感になるもので、こうして暫く視線を浴びていると、何と無くそれを感じ取って視線の主を探してしまうものなのだが、この青年は演奏中、1度も周りを気にするような素振りを見せなかった。つまり、それだけ自分の演奏に、そして音楽に夢中になっていたという事なのだから、同じ音楽好きとして、これは見逃せない。 

 以前の集会で試験生の件を知らされた際には大して興味も湧かず、昨日会った際にも深く関わる事は無いだろうと思っていたために無視していたあの青年が、自分の興味対象に登録された瞬間だった。

 それと同時に、もっと彼の演奏を聞きたいという気持ちが心の中に生まれる。

 

「……あっ」

 

 そうしている内に、どうやら彼の1人演奏会は終わったらしい。鍵盤から手を離して立ち上がり、大きく体を伸ばしている。

 

「ふぅ………この曲は久し振りに弾いたし楽譜も無いが、体ってのは案外覚えてるモンだな」

 

 軽く肩を回しながら呟く青年を、真姫はドアの窓から見つめる。

 彼の体は此方を向いているが、どうやら自分が外から覗いている事には気づいていないようだ。

 

「………」

 

 ここで真姫は、初めてその青年の全体を視界に収めた。

 

 顔立ちは整っているが、男性らしく力強さを感じさせるようなものではない。背が高く、すらりとした体型と相まって、寧ろ女性のようにも見える。イケメンと言うよりは、美人と言った方がしっくり来るだろう。

 男性でありながら髪を伸ばしている事が気になるが、それ以上に目を引くものがある。それが何なのかは言うまでもなく、彼の左目を覆い隠す黒い眼帯だ。

 医者の家系に生まれた身の性と言うべきか、あの眼帯に隠された左目には興味が出てしまうのだ。

 何か秘密があるのか、それとも単なるファッションなのか、と。

 

「(……って、何変な事考えてるのよ私は!?今は相手の体の事なんて関係無いじゃない!)」

 

 思考がそこまで至ったところで、真姫は頭を振った。

 

 あの青年に興味を持った理由は、あくまでも彼が演奏する姿に親近感を抱いたからであって、あの印象的な姿ではないのだと、心の中で自分に言い聞かせる。

 

 そうして心を落ち着かせると、真姫は再び青年へと目を向ける。

 先程は余計な事を考えて混乱してしまったが、彼への興味と共に心の中に湧いた、もっと演奏を聞きたいという気持ちは消えていなかったのだ。

 

「(さて、次はどんな曲を弾いてくれのかしら……?)」

 

 普段の彼女らしくもなくワクワクしながら、行動を見守る真姫。

 だが、あれから暫く経っても、青年が演奏を再開する気配は感じられなかった。

 彼は満足そうな表情を浮かべており、近くの机に腰掛けている。 

 

「(えっ、もう終わりなの?)」

 

 これには、流石の真姫も驚きを隠せなかった。まさか、たった1回弾いただけで終わるとは思っていなかったのだ。

 

「(何よ、面白くないわね。もっとやれば良いのに)」

 

 彼女の表情が、驚きから不満へと変わった。

 

 せっかく自分より先に音楽室の使用権を手に入れ、このだだっ広い部屋を独り占めしているのだから、もっと演奏を聞かせろと内心で催促する真姫。

 だが、そんな彼女の訴えも空しく、結局この青年は、それっきりエレクトーンに向かう事は無く、ピアノにも向かわなかった。

 ただ音楽室を歩き回っては、作曲家や有名な曲を纏めた表やコンサートのチラシを眺めたり、窓を開けて外を見たりしている。

 

「……どうやら今日の演奏は、コレで終わりみたいね」

 

 もう彼が弾く事は無いだろうと悟った真姫は落胆したように溜め息をつくと、荷物を持って静かにその場を去り、家路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの演奏、凄かったね2人共!」

「うん!」

「ええ。私達も、踊りながらあれくらい歌えるようにならなければなりませんね」

 

 その頃、屋上では穂乃果達が、先程聞こえてきた演奏についての感想を言い合っていた。

 

 彼女等が屋上に居る理由は、スクールアイドル活動をするにあたっての練習場所を探していた際、運動場や体育館はおろか空き教室も使えず、職員室で練習場所に使える所が無いか訊ねた結果、屋上しかないと言われたからである。

 因みに、その事を伝えた教員は何をするつもりなのかと聞いたのだが、穂乃果がスクールアイドルを始めた事を伝えると、何が可笑しいのか鼻で笑い、3人が赤面したのはここだけの話だ。

 

「それにしても、あんなに音楽が得意なら一緒にやってくれたら良いのにね、長門君」

 

 後頭部で両手を組んで空を仰ぎながら、穂乃果がそう言った。

 あの時、音色に混じって聞こえてきた歌声から、音楽室で演奏しているのは紅夜だと悟った穂乃果は、あれだけの腕を持つ彼が自分達のグループに居ない事を残念に思っていた。

 

 スクールアイドルは女子生徒がやるものだと世間では言われているため、男性である紅夜はマネージャーのポジションになり、表舞台に出る事は無いだろう。しかし、だからと言って蔑ろにするつもりは毛頭無い。何故ならば、一口にメンバーと言っても、ただ舞台で踊るだけではなく、傍で支えてくれる人材も立派なメンバーだからだ。

 たとえ、裏方であるが故に世間から見向きされなくても、自分達はきちんとメンバーの1人として向き合い、接していくつもりなのだ。

 

「「……………」」

 

 海未とことりも、口にはしないが穂乃果の言う事に同感だった。

 彼女等も、手伝ってくれる人材を蔑ろにするつもりは無い。たとえマネージャーでも、立派なメンバーとして付き合っていくつもりだ。

 だからこそ、断る時に紅夜が決まって口にしていた、親しさや信頼といった単語が頭から離れなかった。

 まるで、『お前等を信用していない』と言われているように感じたからだ。

 

「(それに長門さんは、私達以外のクラスメイトとも、一定の距離を置こうとしているようにも見えますし……)」

 

 教室での紅夜は殆んど他人と話さず、自分の席で静かに過ごしている。一応話し掛けられたら答えるのだが、逆に彼自らクラスメイトに話し掛けている姿は滅多に見ない。 

 稀に何か話し掛けていると思えば、ただ移動教室の場所といった学内に関する事を確認していただけで、世間話を持ち掛けているところは見た事が無かった。

 

 これだけなら、単に大人しい性格なだけだと納得出来たのだが、紅夜がアメリカで仲間達とバンド演奏やダンスをしていたという事実や、見せてもらった彼の友人達のダンス映像、そして先程の演奏から考えると、少なくとも彼が大人しい性格の持ち主だとは思えない。

 そうなると、紅夜が普段取っている態度は自分達だけに向けられる表の顔で、本来は陽気な性格なのではないか。そして、自分達の勧誘を断る際に決まって口にしていた親しさや信頼といった単語には、何か特別や意味があるのではないかと海未は考えた。

 

 すると、先程までずっと黙っていたことりが不安そうな表情を浮かべて口を開いた。

 

「ことり達、もしかして嫌われてるのかな……?」

 

 彼女がこう思うのは無理もないが、話し掛けられた際にはっきり受け答えしているのを見る限り、そうとは思わなかった。

 

「それは──」

「違うよ、きっと、私達の事を嫌ってる訳じゃない」

 

 ことりの意見を否定しようとする海未だったが、意外にも穂乃果が割り込んできた。

 

「穂乃果ね、今朝断られた時に、長門君の顔を見たの」

「顔、ですか……?」

 

 目を丸くして聞き返す海未に、穂乃果は頷いた。

 

「今朝、教室から出ていく時、辛そうな顔してたの。それに信頼がどうとか言ってる時も、暗くなってて………」

 

 穂乃果の話を聞きながら、2人はあの時の紅夜の顔を思い出していた。

 自分達が勧誘するたびに、親しさだの信頼だの、出会って1週間も経っていない状態で言っても意味が無い単語を持ち出して断っていた紅夜。

 そんな彼からは絶えず哀愁が漂っており、休み時間が終わって席に戻ると深く溜め息をつき、穂乃果が言っていたように辛そうにしていたのを彼女等は見逃さなかった。

 あの態度からは、少なくとも自分達への嫌悪は感じられず、もっと別のところに理由があるように思われていた。

 

「だから、私達を嫌ってるんじゃなくて、他に何か理由があるんじゃないかな?皆でバンドとかダンスをやるのが好きな筈なのに、それを決まった人としかやらないって言う、理由が」

 

 そう言う穂乃果の表情は、普段の彼女からは想像もつかないような真剣なものになっていた。

 

「兎に角明日も、長門君に突撃だよ!だって、可能性感じたんだもん!長門君が入ってくれれば、きっと楽しくなる!凄いところを目指せるって、そう思ったの!2人もそうでしょ?」

「「……………」」

 

 海未とことりは、互いに顔を見合わせた。

 

 彼女等も、今朝見たアレクサンドラ達のダンス動画や、先程の紅夜の1人演奏から何も感じなかった訳ではない。

 素人とは言え、自分達を感動させるようなパフォーマンスが出来るのだから、彼が仲間に加われば、きっと高みに上り詰める事が出来ると、そう思っていた。

 

「……穂乃果の言う通りですね」

「うん!」

 

 そして2人も同意した事もあり、穂乃果達による紅夜マネージャー化計画が発足したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、歓迎会の日にやる曲とか決めないと……」

「「ハッ!?」」




今回は、ちょっと盛り込みすぎたかな……?
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