さて、今回は1年生の2人が登場します。
これで残すは、後1人です。
音楽室での一時を楽しんだ紅夜は、戸締まりを済ませて職員室に鍵を返し、靴を履き変えて駐車場へと向かっていた。
「ん~……それにしても、放課後の音楽室で1人演奏会ってのも中々良いモンだな。また行ってみるか。気晴らしにもなるし」
体を大きく伸ばし、満足そうな表情を浮かべてそう呟く彼は、自分の演奏が穂乃果達3人組や真姫に聞かれていたとは夢にも思っておらず、次は何時行こうかと呑気に考えながら歩みを進める。
一般生徒でも申請すれば音楽室を使えるという事を知れたのは、放課後の暇潰しに困っていた紅夜にとっては大きな収穫だった。
「とは言え、昨日の1年みたいに先客が居るかもしれねぇから、後1つか2つくらいは、何か暇潰しになるものを見つけておかないとな」
そう呟く紅夜が思い浮かべたのは、昨日の放課後、音楽室で弾き語りをしていた1年の女子生徒だ。
今後、彼女や他の生徒が使っているところに出会す可能性も全く無いとは言えないため、音楽室が使えなかった時に備え、他にも暇潰しに使えそうなスポットを見つけておく必要があったのだ。
更に、そこには『1人で過ごせる事』というオプションも付けられているのだから、この条件を満たすものは限られてくるだろう。
「(まあ最悪の場合、車の中で待つってのも1つの案だが)」
そう考えている間に、紅夜は愛車であるR34の元へ到着する。
ロックを解除して乗り込み、エンジンに火を入れると、ギアを入れてゆっくりと車を発進させる。
「……良し、誰も居ねぇな」
正面玄関の前に出たところで、紅夜は自分以外に下校中の生徒が居ない事を確認する。そして、学校に来てから今まで左目を封印していた黒い眼帯を外してドアのポケットに入れると、左目をゆっくりと開く。
それによって、サファイアのように青い瞳が顔を出し、紅夜の視界が一気に広がった。
「ふぅ………やっと両目で見れるようになったぜ」
邪魔者が居ない事で心置き無く左目を開けられる解放感を味わいながら、紅夜はそう呟いた。
周囲に誰も居ない今、この左右色違いの目を他人に見られないように気を配る必要は無い。後は学校の敷地内を出て、我が家へ向けて車を走らせるだけで良いのだ。途中で信号に引っ掛かって止まったりもするだろうが、流石に窓から覗き込んで目の色を見ようとするような物好きは居ないだろう。
そして家に駆け込んでしまえば、もう此方のものである。
「よぉ~し、もうすぐだ。この校門を出れば………!」
校門が近づいてくるにつれて、段々とテンションが上がっていく紅夜。
校門から車の前半分が出て、いざ車道へ乗り出そうとした時、左方向からやって来る1台のスポーツカーに気づいた。
全体をダークシルバー1色に染められた流線型のボディを持つその車は、車道へ出ようとしている紅夜のR34に気づいたのか、停止線の手前で止まった。
「Toyota Supra SZ-Rか……」
その車の名を呟いた紅夜は、ふとリアフェンダーに視線を向ける。そこには、水色でBLITZ BULLETと書かれたデカールが貼られてフロントバンパーやウィング等、あちこちにカスタマイズが施されていた。
このような改造が施されたSupraは、紅夜の知る限りでは1台しかない。
「成る程、ありゃ大河の車で間違いねぇな」
そう呟いた紅夜は、今度は運転席に視線を移す。
Supraの運転席側の窓は何時の間にか開いており、やや長めの黒髪に龍のような鋭い目を持った青年が、此方を見て手を振っていた。紅夜の幼馴染みの1人にして、瑠璃率いる走り屋チームBLITZ BULLETのメンバー、篝火 大河だ。
「(やっぱり)」
内心そう呟きながら、手を振り返す紅夜。すると大河はSupraの心臓である2JZエンジンを軽く吹かし、前方を指差す。
その仕草は、彼に『遊びに付き合え』と語っていた。
「……………」
大河の意図を察した紅夜はスマホを取り出し、時計を確認する。
時刻は午後5時前と、遊びに出掛けるにしては遅すぎる時間帯だ。だが、ベンチュラ・ベイに居た頃は深夜にストリートレースに繰り出し、明け方に帰ってくる事が多かった紅夜にとっては大して気にするような時間ではない。
日本に居る今は流石にその頃のような時間帯に帰る訳にはいかないが、夕飯の時刻に帰れば問題無いだろうし、それより遅くなるなら、近くの飲食店で済ませて直ぐに帰れば良いだけの話だ。
「……まあ、良いか」
1人頷いた紅夜は深雪に電話を掛け、帰りが遅くなる事を伝える。そして窓を開けると右手を出し、親指を立ててみせた。
「よっしゃ!それじゃ早速行くぞ!」
大河の喜ぶ声が、紅夜の耳に飛び込んでくる。
不良のような見た目とは裏腹に陽気な性格をしている幼馴染みに微笑を浮かべながら、紅夜は先に走り出したSupraの後にR34をつけ、大河の後に続いた。
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「ホラ、紅夜。此方だ此方!」
「はいはい、そんな急かすなよ」
校門前を出発した紅夜達がやって来たのは、秋葉原だった。
近くのコインパーキングに愛車を止めた2人は、平日の夕方であるにもかかわらず賑やかな道を練り歩く。
日本の観光スポットの1つなだけあって外国人観光客の姿も多く見られ、英語等の様々な言語が飛び交っていた。
「しっかしまあ、こうなると予想はしてたが……見られてるなぁ。俺等」
ふと、大河がそう呟いた。紅夜が周りを見ると、他の通行人が此方をチラチラ見ているのが分かる。そして、その原因は間違いなく、2人の容姿だ。
大河の容姿は整っているのだが、耳や首を覆う程に長い黒髪に加えて龍のように鋭い目を持ち、服装も黒一色に白い字で"OUTLAW"と書かれたTシャツに、銀色のアクセサリーを幾つも付けたジーンズというものであるため、見る者によっては不良だと思われるだろう。現に中学・高校時代は不良に絡まれる事が多く、それが彼の悩みだった。
別に本人は不良になったつもりなど微塵も無く、性格は本来の紅夜や達哉と同じく陽気で、この服装も単なる好みだったのだが、他人にはどうしても、そのように映ってしまうようだ。
そして次に、紅夜の容姿だ。彼の場合は言うまでもなく、ポニーテールに纏められた真っ白な髪に白い肌、真っ赤な瞳。そして極めつけには、左目を覆い隠す黒い眼帯だ。
背はすらりと高く、アレクサンドラの店の手伝いで力仕事をしていた事や、仲間達とのバンド演奏やダンスのための体作りをしていた事で体も引き締まっており、顔つきは中性的で整っている。しかし、色素を失った白髪や肌、そして真っ赤な瞳が何処と無く不気味さを感じさせる上に、黒い眼帯や無表情である事が威圧感を与えるため、全てを台無しにしていた。
「まあ仕方ねぇだろ。俺等の容姿が容姿だからな」
過去に受けたいじめの主な原因だったオッドアイさえ見られなければどうでも良い紅夜はそう返し、周囲を見回した。
「それにしても、秋葉原か………此所に来るのは数日ぶりだな」
そう呟く紅夜が頭に思い浮かべたのは、音乃木坂学園に編入する前日。自主勉を終え、暇潰しにドライブに出掛けた際に此所を訪れた時の事だ。
建ち並ぶ幾つものアニメショップや電器店に加え、アメリカでは先ず見る事が無かった、メイド喫茶やコスプレ喫茶という特殊な喫茶店。他にも、それらの呼び込みと思しき様々な衣装に身を包んだ少女達や、通行人の多さ。そして、時折見かける痛車に圧倒されたのは記憶に新しい。
アメリカでも、ベンチュラ・ベイやフォーチュンバレーの走り屋達が各々の車をデカールで飾っており、それは紅夜や彼が率いるMAD RUNの面子も例外ではない。何なら瑠璃達の車にも多かれ少なかれデカールが貼られているくらいだ。しかし、アニメのキャラクターという、自分達のものとは全く違ったジャンルのデカールがあちこちに貼られた車を見るというのは、紅夜にとっては正に未知との遭遇だった。
「(あんなのでベンチュラ・ベイやフォーチュンバレーを走れば、間違いなく目立つだろうな……別の意味で)」
紅夜は苦笑を浮かべながら、内心そう呟いた。
決して痛車を馬鹿にしている訳ではないし、ベンチュラ・ベイやフォーチュンバレーにも派手なデカールを貼っている走り屋は大勢居るが、彼等のそれとは違ったジャンルであるため、少なくとも奇異の目で見られるのは確実だろう。
「(………まあそういう点だけ見れば、俺も人の事は言えないんだが)」
他の走り屋達と同様、エアロパーツやデカールによるカスタマイズが施されている上に、アップグレードによって1000馬力前後というモンスターマシンとなった改造車を乗り回していた紅夜は、今回日本で過ごす際に、その内の1台、R34を持ってきていた。
先日のドライブでも、幼馴染み達と共に町に繰り出した時も、人々からの視線を集めていたのはよく覚えている。そして彼は、そんな車に乗って登下校しているのだ。
タイミングを調整しているために現時点では大して目立ってはおらず、彼の車の事を知っているのも、生徒の中では穂乃果達3人組と絵里の4人だけなのだが、もし生徒が多い時間帯に学校に出入りしようものなら、多くの生徒達から視線を集める事になる上に、学校中の噂になるのは言うまでもないだろう。
「おい紅夜。さっきからずっと黙ってるが、どうしたんだ?」
大河が話し掛けてきた事で、紅夜は考え事を止めた。
不思議そうな表情で此方を見る幼馴染みに、紅夜は『大した事じゃない』と返す。
そのまま特に宛も無く歩き回っていた彼等は、気づけばとある歩道橋の階段を上っていた。
「あっ、そう言えば此所って、UTX学園の前だったな」
「……UTX学園?」
「そうだ。あれ見てみろ」
そう言って、目の前に聳え立つ建物の入り口付近に付けられた看板を指差す大河。
その看板には、確かにUTXと書かれていた。
「数年前に出来たばかりの高校で、芸能関係と繋がりが深いとか留学プログラムが充実してるとかで人気なんだとさ。それに……」
そこで一旦言葉を区切った大河は、次にスクリーンを指差した。
それには、スクールアイドルと思しき3人の少女達が踊っている映像が流れている。
「A-RISEとかいうスクールアイドルが登場してからは、更に人気に拍車が掛かってるんだよ。何でも、スクールアイドルを全国的に有名にした立役者で、今や日本中のスクールアイドルの頂点に立つ連中なんだとか」
「へぇ、そりゃまた凄い事で」
そんなやり取りを交わしながら暫く映像を眺めていた2人だが、此所を訪れた時間が時間であるために何時までもそうしている訳にはいかず、キリの良いところで引き上げる事にした。
「あ~あ、今日は何か不完全燃焼だな。ただ歩き回るだけで終わっちまったし。俺オススメの店を紹介したかったのにさ」
「仕方ねぇよ。そもそもアキバに来た時点で5時過ぎてたんだからな。ゆっくり店を見る時間もそんなに無かったろ」
各々の愛車を止めたコインパーキングまでの道中、未だ遊び足りないのか残念そうに言う大河に、紅夜はそう返した。
今回はただ秋葉原を歩き回るだけだった2人だが、大河としては、自分が気に入っている店を紅夜に紹介したかったようだ。
「なあ、今度の休みにまた来ようぜ。今日のリベンジするからさ」
「はいはい、空いてたらな」
そんなやり取りを交わしている内にコインパーキングに辿り着いた2人は、料金を払って車を出し、大河のSupraを先頭に賑やかな道をゆっくり進んでいく。
そして大通りから人気の無い道にやって来たところで、突然前を行くSupraのハザードランプが光り、路肩に寄って動きを止める。
「……何だ?」
紅夜も続けて止めると、スマホを取り出して大河に繋げた。
「おい大河、いきなり止めてどうしたんだ?」
『前見てみろ、そうすりゃ分かる』
そう言われた紅夜は窓を開けて顔を出し、前方へ目を向ける。
彼の視線の先には、電柱を背に追い詰められているかのように立っている女子高生らしき2人の少女と、そんな彼女等をニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら取り囲む、不良のような風貌をした5人組の男グループが居た。
ラブコメアニメでよくあるナンパ現場である。
「あ~、成る程。理解した」
『どうする?見る限り、あの2人に助けを呼ぶような余裕は無さそうだし、そもそも此所、人気全く無いし』
「…………」
その問いを受けた紅夜はドアのポケットにスマホを置き、手を顎に当てた。
未だ人間不信は完治していないが、だからと言って誰彼構わず見捨てようと考える程酷くはない。
実際、ベンチュラ・ベイに居た頃は、脱輪や燃料切れ、エンジントラブル等で困っていた他のストリートレーサーを助ける事が何度かあった。
それに加えて仲間達と共にフォーチュンバレーへ遠征に繰り出した際には、とある理由から裏組織の組員に追い詰められ、強姦されそうになっていた女性を救ったりもしている。
「(それに、このまま見捨てて行くってのも、何と無く後味悪いしな………仕方ねぇ)」
答えを出した紅夜は、再びスマホを手に取った。
「大河、悪いがちょっと待っててくれ。あのチンピラ共を追っ払ってくる」
『ククッ………あいよ、それでこそ我等がリーダーだ。派手にぶちかましてやれ!』
そんなエールと共に通話が切れると、紅夜は愛車を男達に近づけるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「だからさぁ、ちょっと俺等とお茶するだけだって言ってんじゃ~ん」
「そうそう、行こうよ。どうせこんな時間だし、親御さんには適当に『晩飯食ってくる』とか言って誤魔化しとけば解決だろ?」
「だから、
人気の無い閑静な道に、オレンジ色の髪をショートヘアにした少女、
後ろに隠れている親友、
「まあまあ、そんな怒らなくても良いじゃん。ね?」
「……ッ!気安く触らないでよ!」
そう言って、男が伸ばしてきた手を乱暴に振り払う凛。
だが、今回はそれが仇となった。
「痛ッ!?」
振り払った拍子に、男の手を引っ掻いてしまったのだ。
「おいおい、何すんだよ?コレはマジで付き合ってもらわねぇとな」
「さっさと連れていこうぜ。数的に俺等が圧倒的に有利なんだからさ」
「慰謝料として、たっぷり俺等にご奉仕してもらおうぜぇ」
「り、凛ちゃん……」
下卑た笑みを浮かべてくる男達に怯え、凛の腕を強く掴む花陽。
「(どうしよう………何か、良い方法を考えないと……!)」
凛は必死にこの状況を打破する方法を考えるが、こんな人気の無い道で叫んだところで人は来ないし、携帯で警察を呼ぼうにも、押さえられてしまえばそこで終わりだ。かといって花陽の手を引いて逃げようにも、相手は自分達より体格で勝っており、しかも人数は倍以上だ。どう見ても勝ち目は無い。
正に万事休す。そう思い、心の中で親友に謝った、その時だった。
「……ん?」
男の1人が足元に違和感を覚え、後ろを振り向く。
「何だ……車?こんなのさっきまで停まってたっけ?」
彼の目の前にあるのは、トランク部分が黒く染まった青い車。
大きなリアウイングを付けており、どう考えてもそこらを走っている一般車とは違う。
「つーか何だよコイツ?ピッタリ寄せてきやがって………当たったらどうしてくれんだっつーの」
そう言って、軽くR34のボディを小突く男。だが次の瞬間、男はそのツケを払わされる事になる。
「まあ良いや。ホラ、さっさとソイツ等連れていこ……って、あっちぃぃぃいいっ!?」
その車のエンジンが唸りを上げ、男の足に排気ガスを吹き付けていたマフラーが、爆音と共に火を吹いたのだ。
ゴオゴオと火を吹くその姿は、さながら小型の火炎放射器。そして、その炎に運悪く素肌の部分を焼き炙られ、男は悲鳴を上げながらそこら中を跳ね回る。
「……えっ?」
いきなりの事に困惑した凛は、取り敢えず花陽の方へと視線を向ける。
彼女も凛と同じ心境だったらしく、間の抜けた表情で凛を見ていた。
「ちょっ、ヒデちゃん!?て、テメェ、このクソドライバー!いきなり何しやがる!?」
それを見たもう1人の男が、口汚く言いながらドライバーに詰め寄ろうとするのだが、そうはさせないと言わんばかりに、その車が次の動きを見せた。
主に直線コースでの速さを競うドラッグレースでよく行われる、タイヤを空転させる行為、すなわちバーンアウトを始めたのだ。
後輪が勢い良く空転する事で甲高いスキール音が辺りに響き、後輪から立ち上る凄まじい白煙が男達に襲い掛かる。
「ちょっ、何だよコレェ!?」
「ゲホッ!何つー臭いだ!」
「うぇぇ!煙が口に………ゴホッゴホッ!」
「目が!目がぁぁ!?」
巻き上げられる白煙に苦しむ男達。しかもマフラーは絶えず火を吹いているため、のたうち回ってマフラーの真後ろに来れば最後、足を炎で焼かれる。
「えっと、どうしよう凛ちゃん……」
「と、取り敢えず離れるにゃ!凛達まで煙でやられちゃう!」
凛は戸惑う花陽の手を引き、道の反対側へ走って避難する。
「ゲッホゲホッ!も、もうこんな所に居られるか!帰るぞ!」
いきなり現れた車に足を焼き炙られた挙げ句に煙で目や鼻や口をいじめ抜かれて冷静さを失ったのか、先程ヒデちゃんと呼ばれていた男が一目散に逃げ出す。
「ああっ!?ヒデちゃん1人だけズルいぞ、待てよ!」
それにつられて、男グループは1人、また1人と逃げ出していく。
だが、彼等の不運はこれだけでは終わらない。
「ちょっ、おい嘘だろ!?あの車追ってきやがったぞ!」
何と、車が180度ターンして向きを変え、彼等を追い始めたのだ。
暗闇で光るヘッドライトやエンジンのエキゾーストノートが、彼等の恐怖心を煽る。
「クソッ、何なんだよ一体!?」
「ちょっとナンパしただけで、なんであんなのに追い回されなきゃならねぇんだよ!?」
「ごちゃごちゃ言うな!取り敢えず今は逃げるんだよッ!!」
「「…………」」
先程まで自分達を相手に強気だった男達がたった1台の車にしてやられ、最後には悲鳴を上げながら逃げていくという何とも間抜けなオチに、凛と花陽は言葉が出なかった。
一応、男達の拘束から解放されたいという彼女等の願いは叶ったのだが、それが予想外の形で叶ったため、これは助かったと言って良いのだろうかと疑問に思っていたのだ。
「いやぁ~、アッハハハッ!流石はアメリカのアウトローだ。こんなやり方でチンピラ共を追っ払うとはな!」
2人がこの状況に困惑していると、電柱から数メートル後ろに止まっていたスポーツカーのドアが開き、先程の男達とは違った雰囲気を纏った青年が姿を現す。
その反応から、この男は一部始終を見ていたと、凛は即座に悟った。
そして再び花陽の前に立ち、新たに現れた青年を警戒する。
だが彼は凛達には目もくれず、先程まで男達が立っていた場所へとやって来る。
「あ~らら、紅夜の奴思いっきりタイヤ痕刻み付けちまってまぁ……つーかバーンアウトした後の匂い酷すぎだろ。ウェッ」
「…………」
道路につけられたタイヤ痕を見ながら、何やらブツブツと呟いている青年。
鼻を摘まんで手をヒラヒラさせる姿を見ていると、凛は警戒しているのが馬鹿らしく思えてしまう。
そして一通り呟くと、彼は漸く彼女等の方へと視線を向けた。
「あっ、そういやそこのお二方、怪我は無いか?」
「えっ?……あっ、はい。大丈夫です」
今思い出したとでも言うような口調で安否を訊ねてくる青年に、凛は戸惑いながらも返事を返した。
「そっか………んじゃ、そっちの眼鏡ちゃんは?怪我とかしてないか?」
「ひゃいっ!だ、大丈夫です!」
「あ、噛んだ」
青年にツッコミを入れられ、顔が赤くなる花陽。それを微笑ましそうに眺める彼に、凛はおずおずと訊ねた。
「あ、あの………さっきの青い車は、何だったんですか……?」
「ああ、それ俺の仲間。お前さん等が絡まれてるのを伝えたら、『あのチンピラ共を追っ払ってくる』って出てきたんだよ。で、俺はその様子をのんびり眺めてたって訳さ。仮にあれが通じなくても、あの程度の連中なら彼奴1人で十分ぶちのめせるだろうし」
そう言ってケラケラ笑う青年に、凛も花陽も呆気に取られていた。
自分達が女で、彼等に体格で負けていたからそう思うのかもしれないが、たった1人で5人を相手取るなど正気の沙汰ではない。だが目の前の青年は、当たり前のようにそう言っている。
一体、あの車に乗っていたのはどんな人間なのかと思っていると、1台の車が曲がり角から姿を現した。男達を追い払った、あの青い車だ。
此方に近づいてくるその青い車は、青年が乗っていた黒い車の後ろで停車し、エンジンの鼓動を止めた。
「おっと、漸く戻ってきたか………紹介しよう、コイツがお前さん等を助けた、アメリカ最強のアウトローだ!」
得意気に言う青年の後ろで車のドアが開き、ドライバーが降りてくる。
「おい大河。俺の方指差して何か言ってたみたいだが、ソイツ等に変な紹介してねぇだろうな?」
ドアの向こうから、呆れたような声が聞こえてくる。そしてドライバーの全貌が明らかになった時、凛と花陽は驚愕に目を見開いた。
車から降りてきたのは、すらりと高い身長にポニーテールの白髪を持ち、中性的な顔立ちに、赤い瞳と黒い眼帯という変わった姿をした青年だ。
だが、それよりも注目すべきところがある。それは言うまでもなく、彼の服装だ。
彼が着ているのは、どう見ても制服。それも、今2人が着ているものと同じだった。
「こ、この人………凛達と同じ制服着てるにゃ!」
白髪の青年が着ている服を指差して、凛が声を上げる。
花陽も驚きながら、自分達と青年の服を見比べている。
「いや、『にゃ』って………猫じゃあるまいし」
「紅夜、それについては触れないでおいてやろうぜ。それがこの娘のキャラなんだろうよ」
驚く2人の前で、青年達はそんなやり取りを交わすのだった。
如何でしょうか?
ナンパされているところに主人公が助けに入るのはよくある事ですが、大抵はヒロイン達の知り合いのふりをするか喧嘩のどちらかになるし、せっかく車に乗ってる上にアウトローって言うくらいだから少しはそれっぽい事させてみようと思い、今回のような展開になりました。
まあ、実際にあんな事すれば騒音や器物損壊等で問題になるのは確実でしょうけどね。(Wikipediaによると、過去に路面にタイヤ痕つけて器物損壊罪で摘発された例があるようです)
しかも車で人追い回してますからね……調べたところ、中学生を車で追い回す動画を投稿した男が居たとか何とか………
あらすじにもありますが、本作は現実世界での違法行為を推奨するものではありません。絶対に真似しないでください。