ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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第16話~アウトローとりんぱな~

「えっと………助けてくれて、本当にありがとうございました!」

「あ、ありがとうございました!」

 

 あれから数分後、一先ず凛と花陽を落ち着かせて近くのコンビニに場所を移した紅夜と大河は、2人から感謝の言葉を受け取っていた。

 とは言え、実際に介入したのは紅夜で大河は特に何もしていないため、礼を言われているのは実質紅夜1人だけなのだが。

 

「……………」

 

 深々と頭を下げる2人に、紅夜はどうしたものかとばかりに頬を掻いた。

 

 アメリカに渡る前はいじめを受けて過ごしており、他人に悪意を向けられる事はあっても感謝された事は殆んど無かった紅夜。渡米してからも暫くは引き籠っており、他人と触れ合う事は無かった。

 つまり彼は、数年間他人に感謝される事を知らずに過ごしてきたのだ。

 

 人に感謝されて悪い気はしないし、少なくとも彼女等が真剣に感謝を伝えようとしている事は分かる。だが、相手は何度も関わってきたストリートレーサーではなく、一般の女学生だ。自分達とは住む世界が明らかに違う。

 ベンチュラ・ベイにて初めてストリートレーサーを助けた時や、フォーチュンバレーで裏組織の組員に強姦されそうになっていた女性を救った時もそうだが、他の人間と比べて感謝される経験が圧倒的に少ない中で慣れない相手から感謝されるのは、何と無く面映ゆかったのだ。

 

「おい、紅夜」

 

 そんな紅夜の脇腹を、大河が肘で小突く。

 

「こうして礼を言ってるんだから、何か答えてやれよ」

「あ、ああ……分かってる」

 

 そうは言うものの、何処ぞのラブコメアニメの主人公のように気の利いた台詞を言って慰めてやれる程、紅夜は器用ではない。ましてや微笑みかけたり頭を撫でて安心させてやるなど論外だ。

 人間不信が完治していない紅夜にとって、これは色々な意味で難易度ハードのミッションだった。

 

「あ、あの……」

 

 紅夜がどのように言ってやれば良いのか悩んでいると、凛が恐る恐る話し掛けてきた。

 

「そ、それで凛達は……何をすれば、良いでしょうか………?」

「「………?」」

 

 そんな問いを投げ掛けられた紅夜と大河は、揃って首を傾げた。

 礼を言われた次の言葉が『何をすれば良いのか』という質問なのだから、2人が戸惑うのは当然の事だった。

 

「……質問に質問を返すようで悪いが、『何をすれば良い』とは?」

「だ、だから、その……助けてもらった訳だから……何か、お礼しないといけないんじゃないんですか……?」

 

 凛は途切れ途切れにそう言った。

 自分達を助けてくれた事には感謝しているが、そもそも赤の他人である自分達を助ける理由は、彼には無い。

 そのため、見返り目的で自分達を助けたのではないかと、彼女は思ったのだ。

 

「…………」

 

 花陽も凛と同じ気持ちなのか、若干の怯えを見せながらも、覚悟を決めたような表情で紅夜を見る。

 

「いや、別に要らん」

 

 だが紅夜は、凛からの質問をその一言で一蹴した。

 

「「……え?」」

 

 そう言われた凛と花陽は、間の抜けた表情で聞き返した。まさか何の見返りも要らないと言われるとは思わなかったようだ。

 

「……最初に言っておくが、俺は別に見返り目当てでお前等を助けた訳じゃない。だから礼をしなきゃいけないとかは考えなくて良い」

「じゃ、じゃあ……どうして、助けてくれたんですか……?」

 

 そこで、花陽がおずおずと疑問を口にする。

 本当に見返り目的で助けた訳ではないと言うのなら、何故見ず知らずの自分達を助けたのかと疑問に思うのは当然の事だった。

 

「……別に、ただ目障りなチンピラ共を退かしたかっただけだ。それ以外に理由は無い」

 

 視線を逸らしながら言う紅夜だが、そこで大河が割り込んだ。

 

「とか何とか言って、実際は見捨てられなかったんだろ?お前って何だかんだで優しいからな。その辺、ガキの頃と変わってねぇよな!」

「五月蝿ぇぞ大河、余計な事言うな」

 

 からかうように言う大河の足に軽く蹴りを入れた紅夜は、小さく溜め息をついて2人に向き直った。

 

「まあ兎に角だ。俺は礼など要らんし、変に気を遣う必要も無い。チンピラ共は消えて、お前等も無事だった。それで、この話は終わりだ」

 

 あまり長引かせると面倒な上に、また大河にからかう隙を与えてしまうと思った紅夜は、そう言って話を締め括った。

 

「「……………」」

 

 凛と花陽は暫くポカンとした表情で紅夜を見た後、互いに顔を見合わせる。そして、どちらからともなくクスッと笑みを溢した。

 

「……?な、何だよ。何が可笑しい?」

「ご、ごめんなさい……でも、何か……くふふっ、可笑しくて……!」

 

 両手で口許を覆った花陽が、必死に笑いを堪えながら言う。

 それは凛も同じだった。

 

 車から降りてきたのを見た時は、その見た目や表情から威圧感を感じて尻込みしたが、花陽が自分達を助けた理由を聞いた時や大河にからかわれた時の反応から、彼は自分が思っているような人間ではないと気づき、警戒していたのが馬鹿らしく思えたのだ。

 

「はぁ………まあ良い。変に長引いたら後が面倒だ」

 

 溜め息をつき、半ば投げやりにそう言った紅夜は、車の鍵を取り出して愛車に向け、ロック解除のボタンを押す。

 

「もう話は終わったんだ、さっさと帰るぞ大河」

「おう………って、ちょっと待て。この2人はどうするんだ?」

 

 歩き出した紅夜に続こうとした大河だが、凛達をどうするのかと訊ねる。

 

「どうするって?」

「いや、このまま2人を置き去りにするのか?一応あのチンピラ共は追っ払ったけど、もうこんな時間だし、何より親御さんとか絶対心配してるだろ」

 

 大河は左の袖を捲ると、現れた腕時計を紅夜に見せつけた。

 時計の針は7時前を指しており、空も暗くなっている。流石にこの時間になれば、部活をしている生徒でも大体は家に帰っているだろう。帰宅部の生徒なら尚更だ。

 それに、先程2人に絡んでいた男達は紅夜が追い払ったものの、それで万事解決という訳ではない。この暗くて人気の無い道を、か弱い少女2人だけで歩かせるのが危険である事は変わらないのだ。

 そして、『親御さん』という単語で我に返った2人は、携帯を取り出して画面に映し出されたものに唖然としていた。

 その様子を見る限り、親からの着信が何件も入っていたのだろう。

 

「………つまりお前は、この2人を家に送ってやれって言いてぇんだな?」

 

 その問いに、コクりと頷く大河。

 確かに、彼の主張は間違いではない。彼女等の立場になって考えれば、あのような事があった直後なのだから、夜道を2人だけで歩く事に不安を感じるのは当然だ。

 それに2人の家族の事も考えると、早めに家に帰してやった方が良いだろう。

 そして、それを可能にする手段が、彼女等を自分達の車で送り届けてやるというものだ。

 

「(それに、大河のSupraにはスペースが無いらしいからな……仕方ねぇか)」

 

 大河は紅夜と合流する前に買い物をしており、それらは全て後部座席に積まれているため、花陽達を座らせるスペースが無い。トランクに移そうにも、そこには車にトラブルがあった時のための道具が積まれており、荷物を移すのは不可能だ。

 それは紅夜のR34にも積まれているが、それらは全てトランクに収まっており、後部座席には空きがある。

 つまり、現時点で彼女等を乗せられる車は、紅夜のR34だけという事だ。

 

 それに彼の人間不信は、完治とまでは言えないが、ある程度は改善されているため、1度送り届けてやるくらいなら問題は無いだろう。

 

「そ、そんな!流石にそこまでやってもらう訳には………!」

 

 しかし、紅夜が送迎役を引き受けようと考えたところで、花陽が割り込んできた。

 

 確かに、紅夜と大河のやり取りで多少は気が楽になったとは言え、完全に不安が消え去った訳ではない。だが、だからといって何の礼もしていないのに家に送り届けてもらうのは、やはり申し訳無いのだろう。

 隣に立つ凛も、彼女の言う通りだと言わんばかりにコクコクと頷いている。

 

「そ、それに皆さんも、早く帰らないとお家の人が心配するんじゃ………?」

「別に構わん、お前等を送り届けて直ぐに帰れば済む話だ」

「困った時は、お互い様ってヤツだ。俺等は見ての通り車で来てるし、家もそんなに離れてる訳じゃないから心配要らねぇよ。それに、このまま放置して帰って、また何処かで絡まれたら後味悪いからな」

 

 気を遣う花陽に、2人はそう返した。

 

 先程は早々に秋葉観光から引き上げた2人だが、彼女等を助けて此所に連れてきた時点で帰りが予定より遅くなるのは決定したようなものである上に、そもそも遊びに行くために帰りが遅くなるのは各々連絡済みであるため、特に気にしていないのだ。

 

「ホラ、さっさと行くぞ。親御さんも心配してるだろうからな」

 

 紅夜はそう言って、大河を連れて歩き出す。暫く呆然としていた花陽と凛も慌てて後に続き、いそいそとR34の後部座席に乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「………えっと、そこの角を右に曲がって、暫く真っ直ぐです」

「ああ、分かった」

 

 公園を出発した紅夜は、花陽のナビを受けながら彼女等の家へと車を走らせていた。

 前方に目を向けてナビを続ける花陽の隣では、凛が車内を見回している。どうやらスポーツカーに乗るのは初めてらしい。

 そんな彼女が前に身を乗り出すと、あるものに目をつけた。

 

「あれ?この車、酸素ボンベなんて積んでるにゃ」

 

 そう言う彼女が指差したのは、助手席の下にある青いボンベだ。

 

「ん?………ああ、それは酸素ボンベじゃなくてNOSだ」

「「え、NOS?」」

 

 聞いた事の無い単語に、思わず花陽も聞き返した。

 

 NOS──ナイトラス・オキサイド・システム(Nitrous Oxide Systems)という正式名称を持つそれは、ボンベに入ったナイトラス・オキサイド、つまり亜酸化窒素をエンジン内部に噴射するシステムである。

 このシステムを使用すると、エンジン内部に吹き付けられた亜酸化窒素から熱で酸素が遊離し、それがガソリンの燃焼率を大幅に上げる事により、車は一時的に爆発的なパワーを得られるのだ。

 有名な車の映画やレースゲームでよく使われているのがこのシステムだが、実際に自分の車に取り付けて使う者も存在する。

 

 現に紅夜を始め、ベンチュラ・ベイやフォーチュンバレー等で活動しているストリートレーサー達の中でもこのシステムを採用している者は多く、中にはこのシステムを使った時に時速400㎞近いスピードを叩き出した者も居る。

 かくいう紅夜も、とあるレースでこのシステムを使った際には時速370㎞以上というとんでもない速度を叩き出していた。

 

 だが、こんなものをストリートレースの世界とは無縁な彼女等に教えたところで分かる筈が無い。

 そのため、紅夜はあまり長ったらしく話さず簡単に伝える事にした。

 

「まあ簡単に言うと、NOSってのは車を一時的にパワーアップさせるためのシステムで、そのボンベには、パワーアップさせるのに必要な気体が入ってるんだ」

 

 そう言い終えると、再び運転に集中する紅夜。だが、それは突然流れ始めた曲によって遮られた。

 

「あっ、すみません!」

 

 どうやら花陽のスマホから流れていたらしく、彼女はいそいそと取り出す。

 電話に出た彼女の口振りから、掛けてきたのは親のようだ。

 

「それにしても、随分テンション高い曲だな………アイドルか何かの曲か?」

「そうです。かよちんはアイドルが大好きなんだにゃー」

 

 凛が笑いながら言った。

 相変わらずの猫口調に違和感を覚える紅夜だったが、何とか気にしないようにする。

 

「うん、大丈夫だよお母さん。今家に向かってるから………うん、うん。じゃあまた」

 

 そうして通話を終えた花陽は、スマホをしまう。

 

「お母さんから、『ちゃんと帰れそうなのか』って……」

「結構遅くなっちまったからな、なるべく急ぐよ………それで、何処で曲がれば良い?もうすぐか?」

 

 そう言った紅夜は、再び指示を仰ぐ。

 そして花陽から指示が入るとそのように車を走らせ、彼女等の家へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「この度は娘達が、本当にお世話になりました!」

 

 紅夜が花陽の家に着くと、彼女の母親が出迎えた。

 母親は車から降りてきた娘の姿を見るなり飛び出して力一杯抱き締め、続いて降りてきた凛の事も、娘と同じように抱き締めた。

 そして一頻り再会の喜びを噛み締めた後、こうして紅夜に深々と頭を下げて感謝を伝えていた。

 

「いえ、別に……」

 

 そして、相変わらず友人や身内といった親しい者以外の人間からの感謝を素直に受け止められない紅夜は、指で頬を掻き、目線を逸らしながら言う。

 その際、彼のR34の後ろに止まっているSupraからニヤニヤと此方を見ている大河が目に留まるが、一先ず無視した。

 

 それから花陽の母親が言うには、凛の母親も此方に向かってきており、到着次第彼女を引き渡すようだ。

 つまり紅夜の役目は、これにて終了という訳だ。

 

「そうですか………では、俺はこの辺で失礼します」

 

 そう言って踵を返した紅夜は、さっさと車に乗り込んでエンジンに火を入れる。

 役目を終えたなら、もう此所に留まる必要は無い。後は家に帰って明日に備えるだけだ。

 

「ほ、本当にありがとうございました、長門先輩!」

「先輩、本当にありがとうにゃ!」

 

 もう帰ってしまう事を悟った2人は、再び深々と頭を下げて感謝を伝える。

 紅夜は軽くクラクションを2、3回鳴らして返事を返し、大河を連れて家路につく。

 

 その後、世田谷にある自宅前で大河と別れ、家族への説明もそこそこに夕食を摂り、自室に戻って明日に備えるのだった。

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