ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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第17話~アウトローと太陽少女達の様子~

 翌日の早朝、空が明るくなり始める頃。神田明神の前には体操着に身を包んだ海未とことりの姿があった。

 

「それで、穂乃果は未だ来ないのですか?約束の時間まで、後少しだというのに……」

 

 スマホで今の時刻を確認した海未が、苛立ち混じりに言った。

 その隣では、ことりが『まあまあ』と苦笑を浮かべながら宥めようとしているのだが、海未は『1秒たりとも無駄には出来ません』と言って聞かない。

 

「ライブまで1ヶ月も無いのに、私達はダンスの練習はおろか、基礎となる体力作りすら出来ていないんですよ?穂乃果もその辺りをもう少し自覚するべきです」

 

 そう言葉を続ける海未に、ことりはただ苦笑を浮かべた。

 

 このやり取りから分かるように、彼女等が早朝からこの神社に集まっているのは、新入生歓迎会の日に行うライブに向けての体力作りを行うためだ。

 

 昨日、彼女等は穂乃果の家に集まってライブに向けての話し合いを行い、衣装や作詞といった役割を決めたのだが、そこで彼女等3人は、ある事を再確認した。それは、アイドルとしてパフォーマンスを披露する際、非常に体力を消耗するという事だ。

 1曲の長さはものによって異なるが、大体3~5分といったところだ。そしてアイドルは、その間ずっと歌いながら躍り続けなければならない。それも、()()()()()というおまけ付きだ。

 それだけ聞くと、それ程難しい事ではないと思えるかもしれない。だが実際にやってみると、たった1曲踊るだけでもかなり大変だ。

 ただでさえぶっ通しで躍り続けるだけでも体力を消耗するのに、客に疲れを見せないよう常に笑顔を崩さず、更に歌声も響かせなければならないのだから、それがどんなに過酷で大変なのかは言うまでもないだろう。

 そして今、自分達はそんな過酷な事に挑戦しようとしている。それも本番まで1ヶ月もない上に、ただ各々の役割を決めただけで肝心の曲決めや練習は手付かずという、プロのアイドルが聞けば間違いなく論外だと言われるような状態で。

 そのため、少しでも振り付けや歌の練習に充てる時間を増やすには、こうして基礎となる体力作りを早朝等の空いた時間に行う必要があるのだ。

 

「2人共おはよー!いやぁ、何とか間に合った~!」

 

 すると、穂乃果が大きく手を振りながらパタパタと駆け寄ってきた。此所まで走ってきたのか、若干息が上がっている。

 そんな彼女に、海未は容赦無く斬り込んだ。

 

「遅いですよ穂乃果!ライブまで時間が無いんですから、もう少し時間に余裕を持って行動してください」

「うぅ、そんなに怒らなくても良いじゃん。一応約束の時間には間に合ったんだから……」

 

 そう言って落ち込む穂乃果に微笑を浮かべ、ことりがよしよしと頭を撫でる。だが、何時までもこんなやり取りを続ける訳にはいかない。

 3人は階段付近に荷物を置くと、軽く準備運動を済ませて練習に入った。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

「こ、コレ……キツいよぉ………」

 

 今、穂乃果とことりは、神田明神の長く急な階段を駆け上がっている。

 これは海未が考えた練習メニューの1つで、この階段をひたすら何往復もするという、シンプルだが非常に疲れるものだ。

 

「はぁ、はぁ……な、何とか上りきったぁ………こんなの、地獄以外の何物でもないよ……」

「こ、ことり……もう足が動かないよぉ~……」

 

 この階段ダッシュも既に10往復目に突入しており、急勾配の階段を喘ぎながら上り終えた2人は、仰向けに倒れる。

 

「2人共、弱音を吐いている暇はありませんよ?この練習は毎日、朝と放課後にやるんですから」

「い、1日2回も!?」

 

 そんな自分達に更なる追い討ちを掛けてくる海未に、思わず声を上げる穂乃果。

 その表情は、こんな過酷な練習を毎日、それも1日2回もやらなければならない事への絶望の色で染まっており、ことりも彼女と似たような表情で海未を見ている。

 

「当然です。やると決めたからにはちゃんとしたライブをしなければなりませんし、そのためにはしっかり準備を整えておかなければなりません。そうしなければライブは成功しませんし、生徒を集めるなんて夢のまた夢ですよ」

 

 そんな2人を見下ろしながら、キッパリと言う海未。穂乃果やことりもそれは分かっているのか、文句を言ったりはしなかった。

 そもそもスクールアイドルを始める事もライブをする事も、元はと言えば穂乃果が言い出した事である上に、先日の話し合いで、海未が作詞を担当する条件としてライブまでの練習メニューを彼女に任せる事に同意しているのだから、それで彼女が決めた練習内容にケチを付けるのは筋違いというものである。

 

「さあ、後もう1セットですよ!」

「「お、おぉ~!」」

 

 疲れた体に鞭を打って立ち上がる穂乃果とことり。練習に戻ろうとする彼女等に来客が訪れたのは、そんな時だった。 

 

「君達」

 

 優しげな声で話し掛けてくる、巫女服に身を包んだ少女。その見覚えのある顔に、3人は目を丸くした。

 

「副会長、さん……?」

「せやで。音ノ木坂学院生徒会副会長、東條希さんや」

 

 おずおずと声を発することりに、希は態々役職付きで答える。

 すると、今度は穂乃果が口を開いた。

 

「えっと、その格好は……?」

「ああ、コレ?実はウチ、此所でお手伝いしてるんよ。神社って、色な気が集まるスピリチュアルな場所やからね。ウチにピッタリな場所なんよ」

 

 境内を軽く見回しながら答えた希は、再び穂乃果達に向き直った。

 

「こんな事態々言わんでも分かってるとは思うけど、神社には神様が祀られててな、何時も皆の事を見守ってくれてるんや。勿論、今こうして練習してる君達の事もな」

 

 そう語った希は、更に言葉を続けた。

 

「せやから君達も、こうして階段使わせてもらってるんやから、御詣りくらいしていき?」

 

 そう促された穂乃果達は、互いに顔を見合わせて頷くと、拝殿の前に並んでライブの成功を祈る。

 

「フフッ。あの3人、どうやら本気みたいやね………」

 

 その様子を見ながら、希は意味深な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は流れ、午前7時20分。音ノ木坂学院の敷地内に1台の青いスポーツカーが入ってきた。言うまでもなく、紅夜のR34である。

 

「よぉ~し、今回は中々良い時間に着いたぞ」

 

 ディスプレイに表示されている時間を確認し、軽くガッツポーズを決める紅夜。

 今回、彼は下道を使って7時30分までに到着する事を目標としており、それがあっさり達成出来た事が嬉しいようだ。

 紅夜はエアコンに貼り付けているメモ用紙にチラリと目を向け、自分が家を出た時間を確認する。

 

「それじゃ、今後下道使う日は大体この時間に家を出るようにして……ん?」

 

 そうして前方に視線を戻すと、1台の車の後ろ姿が目に留まる。その白黒の車は、彼がベンチュラ・ベイで何度も目にしてきたものだった。

 

「ほぉ、AE86か………まさか、こんな所でお目にかかれるとはな」

 

 ベンチュラ・ベイでは度々見掛けるこの車は、日本車の中でも言わずと知れた名車の1つだ。

 多くの人間から86(ハチロク)と呼ばれているこの車は某走り屋アニメでも登場し、今でも高い人気を集めている。そんな車を日本で、それも学校で見られた事に、紅夜は軽くテンションが上がる。

 そのまま後に続くようにして駐車場にやって来ると、紅夜は何時も使っているスペースに愛車を止める。そして眼帯をつけた上で車から降りると、先に駐車を終えていたAE86のドライバーが声を掛けてきた。

 

「よぉ、長門。おはようさん」

 

 声を掛けてきたのは、紅夜のクラス担任である野上龍治だった。

 

「おはようございます」

 

 気さくに声を掛けてくる龍治に、淡々とした口調で挨拶を返す紅夜。そして直ぐに、彼が乗ってきたAE86へと目を向けた。

 

「(見たところ、ヘッドライトは固定式じゃないか………だとしたら、コイツはTruenoだな)」

 

 そもそも、AE86という車には大きく分けて2種類あり、各々Trueno、Levinという呼び名がある。全体的に似たような姿をしている2台を見分けるのに注目すべき点は、やはりヘッドライトだ。

 Levinのヘッドライトが固定式なのに対し、Truenoは折り畳み式(リトラクタブル)のヘッドライトを持つ。

 そして龍治の車は、その後者。つまり、先程紅夜が言ったようにTruenoである。

 

「……ん?」

 

 すると、龍治は紅夜の目線が自分の車へ向けられている事に気づいた。

 

「何だ長門、俺の86が気になるのか?」

「ええ、まさか学校にコレを持ってくるような人が居るとは思わなかったので………先生個人の車ですか?」

「ああ、小さい頃からコイツを乗り回すのが夢でな。思いきって買ったのさ」

 

 そう言った龍治は、『もうコイツとは長い付き合いだよ』と言葉を付け加える。

 憧れていただけあって、かなりの愛着を抱いているようだ。

 

「そうでしたか………それにしても、スポーツカーで学校に来る人間が居るとは」

「おいおい長門、お前も人の事言えないだろ。自分が何に乗ってるのか、よく見てみな」

 

 紅夜の反応に、苦笑を浮かべながらツッコミを入れる龍治。

 彼の言う通り、紅夜のR34は外装もエンジンも改造されており、1026馬力というとんでもないモンスターマシンである事に加えてNOS付きだというのだから、この学校には明らかに場違いな代物だ。その一方で龍治のAE86には特に改造はされていないため、他の教員の車の中に混ざっても特に違和感は感じられなかった。

 

「登下校に使える車が、このRしか無かったんでね…………許可は出てるし俺自身も納得してるから、コレで良いと思ってます」

 

 愛車のボンネットを軽く撫でながら、紅夜はそう返した。

 

 もう1台の愛車であるSilviaは雛から持ってくるなと言われている上に、豪希のFocusを使わせてもらう事も出来ない。そしてレンタカーやカーリースを利用する気にもならない。

 そうなると、必然的に残された選択肢はR34だけとなるのだが、彼自身はそれに納得しているため、特に問題は無かった。

 

「成る程な………まあ、お前が納得してるなら、それで良いと思うぞ」

 

 そう言った龍治は、ふと何かを思い出したような表情を浮かべた。

 

「そう言えば長門。つくづく思うんだが、お前その年でよくRなんか買えたよな」

 

 龍治の言葉に、一瞬何を言っているんだと首を傾げる紅夜だったが、直ぐにその言葉の意味を悟った。

 

「理事長から初めて聞いた時は凄く驚いたよ。前にネットで調べてみたら、中古でも普通に800万くらいはするし、ものによっちゃ2000万や3000万するのもあったからな。しかも、それアメリカから持ってきたんだろ?よくそんな余裕あったな」

「あ、あぁ。それは………」

 

 紅夜は返答に困った。『アメリカで生活している時にストリートレースで稼いだ』とか、『マフィアを潰して金を巻き上げた』と馬鹿正直に答える訳にはいかないからだ。しかし、かと言って仕事で稼いだというのも無理がある。

 そのため、何かそれらしい事を言って誤魔化す必要があった。

 

「えっと………たまたま、安くしてもらえたんですよ。知り合いのつてで」

「へぇ、ソイツは羨ましいこった」

 

 苦し紛れに少々無理のある嘘をつく紅夜だが、その言葉を真に受けたのか、龍治はそう返して歩き出した。

 紅夜も教室へ行くため、後に続く。

 

「(それにしても先生、俺がR持ってるってだけでこんなに反応するとはな………コレ、もし俺がSilviaも持ってるなんて言ったらどうなるのやら)」

 

 お忘れの方も居るかもしれないが、紅夜はR34だけでなくSilvia S15も所有している。

 車そのものの値段はR34より安いが、外装やエンジンのアップグレードに掛けた資金を合わせると、その額はとんでもない事になる。

 その事を龍治が知れば、きっと驚きのあまり引っくり返るだろう。

 だがこの程度、紅夜にとっては大した事ではなかった。

 

 実際、ベンチュラ・ベイやフォーチュンバレー等で活動しているレーサー達の中には、余程の金持ちでなければ買えないような外国のスーパーカーを乗り回す者が多数居り、それは紅夜達MAD RUNや瑠璃が率いるBLITZ BULLETのメンバーも例外ではない。

 現にアレクサンドラは、祖父からの貰い物とは言え、Porsche 911 Carrera RSR 2.8や初代Ford Mustangと言ったクラシックカーを所有している他、エメラリアもChevrolet Camaro Z28を乗り回している。それも全て改造が施されたモンスターマシンだ。

 それに加え、BLITZ BULLETの女性陣も全員高級外車を乗り回しており、中には1台だけで億単位の金が動くものもある。

 おまけにアレクサンドラのPorscheやMustangは、世界的に有名なチューナーやレーサーが乗るものと同じ仕様になっており、到底金を積んだだけで手に入るようなものではない。

 そんなマシンと常日頃からつるんで走っている紅夜は、最早若者が高級外車を乗り回す事など何とも思わなくなっていた。

 

「(それに零や達哉達も、俺と同じようにスポーツカーを乗り回してるからな。それも結構高くて維持費も掛かるヤツだし)」

 

 ここまで高級外車ばかりにスポットを当ててきたが、だからと言って他の車が安物なのかと聞かれれば、そうでもない。

 車そのものの値段は勿論だが、改造や維持費もかなりの額になるのだ。

 そう考えると、つくづくスポーツカーや高級外車を当然のように乗り回し、それを当たり前だと思っている自分達が非常識な存在である事を思い知らされる紅夜だが、そうしている内に正面玄関に着いていた。

 

「それじゃあ長門、また後でな」

 

 そうして、紅夜は一旦龍治と別れ、靴箱で靴を履き替えて職員室へ行き、鍵を受け取る。そして、さっさと階段を駆け上って教室へと向かう。

 鍵を開けて中に入ると、当然ながら誰も居ない。つまりこの教室は、今は紅夜だけの貸し切り状態である。

 

「……………」

 

 荷物を置いて自分の席に腰を下ろした紅夜は、スマホを取り出して電源を入れ、待受画面をまじまじと見る。

 画面に表示されているのは、家族や幼馴染み達と和解を果たした際、全員で撮った集合写真だ。アレクサンドラや幼馴染み達に囲まれる形で写っている彼は、幸せそうに笑ってピースサインを見せつけている。

 勿論、眼帯はつけていない。

 

「懐かしいなぁ………あの後は、皆と朝までどんちゃん騒ぎしたっけ……」

 

 そう呟きながら画面を横にスクロールすると、今度は日本へ発つ前にアメリカの仲間達と撮った集合写真が表示された。

 その写真には、MAD RUNの面子や他のベンチュラ・ベイの走り屋仲間は勿論、フォーチュンバレーに遠征した際に出会ったストリートレーサーの女性、イレーネの姿もある。

 彼女が住むフォーチュンバレーは、ベンチュラ・ベイからは勿論、紅夜が利用した空港からも離れた場所にあるのだが、彼が音ノ木坂学院の試験生をするために1年間日本へ帰る事を知らせると、車を飛ばして遥々見送りに来てくれたのである。

 

 

 それから紅夜は、待受画面やファイルに保存されている写真をひたすら眺め、過去の思い出に浸る。

 ベンチュラ・ベイやフォーチュンバレー等、アメリカで撮った写真は勿論、日本で撮った写真も多く保存されている。そしてそれらを眺めていると、当時の記憶が蘇り、仲間達の顔も思い浮かぶと共に、久々に彼等の声を聞きたいという気持ちになる。

 だが、そんな楽しい時間も長くは続かないもので、他の生徒がチラホラ教室に来るようになると、紅夜はスマホをしまった。

 

「(………今日帰ったら、彼奴等に連絡してみようかな)」

 

 窓の外へと目を向け、広がる青空に仲間達の顔を浮かべながら、紅夜はそう決めるのだった。

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