ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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 今回、ちょっとシリアス(?)入ります


第20話~アウトローとスピリチュアルガールと3人の女神~

 翌日の早朝。紅夜は今日も今日とて学校へ向かおうとしていた。

 

「こうちゃん、本当にこんな時間で良いの?もっとゆっくりしても十分間に合うのに」

 

 制服に着替えて鞄を持ち、家を出ようとする息子に向かって、母親の深雪がそんな言葉を投げ掛ける。

 

「ああ、良いんだよお袋」

 

 何処と無く寂しそうに見える母に、紅夜は笑みを浮かべてそう返した。

 

 今の時刻は5時半、家を出るにはあまりにも早すぎる時刻だ。深雪の言う通り、もう少しのんびりしていても十分間に合うし、仮に着いたところで学校に入れるのかも怪しい。門が閉まっていれば、開くまで待ち惚けを食う羽目になるのは火を見るより明らかだ。

 だがこの日の紅夜は、それでも早めに出発したい気分だったのだ。別に学校に行くのが待ちきれないとかそんな理由ではなく、ただ何と無く、早めに出発したかったのだ。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

 そう言って家を出た紅夜は、愛車のR34のエンジンに火を入れるとスマホを繋ぎ、曲を流してから車を発進させる。

 

 早朝という事もあって、町は死んでいるかのように静まり返っており、下道もがら空きだ。

 

「しっかし、こんなスッカスカなら、アメリカに居た時みたいに思いっきりブッ飛ばしても良さそうだな………親父達との約束があるからやらねぇけど」

 

 そう呟き、1人でクスクスと笑う紅夜。

 アメリカでストリートレースをしている時は、どんな場所でも飛ばしていた。

 それが大通りや路地裏であろうと、はたまた峠や高速道路であろうと、走れる場所であれば構わず突っ走る。それが、彼等ストリートレーサーなのである。

 

「……まあ良い。またアメリカに帰ったら好きなだけレース出来るし、日本(こっち)でも瑠璃の峠に行けば思いっきり走れるんだ。今はのんびりドライブを楽しませてもらおうじゃないの」 

 

 そのままスマホから流れる曲を楽しみながら走らせること30分弱、紅夜は千代田に入っていた。

 近くのガソリンスタンドで給油を済ませ、次にコンビニに寄って軽食を買ったりしていたのだが、そこで1つの問題に直面した。

 

「そう言えば、この時間帯って学校開いてるのかな………?」

 

 紅夜は普段、学校に朝7時30分頃に着くようにしているのだが、今日はあまりにも早く家を出てきたため、予定している到着時刻まで時間が余りすぎているのだ。

 勿論、学校が開いているならそのまま向かっても良いのだが、閉まっていれば開くまで待ち惚けを食らう羽目になる。

 

「……取り敢えず、車で暇潰しでもしておこうかな」

 

 そう呟いた紅夜はコンビニを後にし、駐車場に止めてある愛車の元へ向かう。だが、鍵を取り出してロックを解除しようとしたところで何やら違和感を覚え、その手は止まった。

 

「そう言えば、此所って通い始める前にも来た事あるような………」

 

 辺りを見回す紅夜だが、そこで大通りから外れて住宅地へと伸びる路地が目に留まる。そちらへ行って道の向こうへ目を向けると、その先に長い階段が見えた。

 

「ああ、そうだ。確かこの先には、神社があるんだったな」

 

 音ノ木坂学院に通う前、あちこちドライブした時に偶然訪れた神社、神田明神の事を思い出した紅夜はそう呟く。

 

「せっかく来たんだし、ちょっと行ってみるか」

 

 紅夜は購入した軽食を車に置くと、以前と同じように階段へ向けて駆け出し、そのままの勢いで上っていく。そして最後の1段を上り終えると、軽く側方宙返りや前方宙返りを披露した。

 これ等の技はMAD RUNの仲間達とダンスをする際のパフォーマンスとしてよくやっていたものだが、たまにこうして、何も無い所で披露したりする。

 勿論その時、周囲に誰も居ない事は確認済みである。

 

「よっと………ふぅ。暫くやってなかったが、体は案外覚えてるモンだな」

 

 そう呟くと、紅夜は後ろを振り返って町を見渡す。階段は長い上に急だったが、その分高さがあるために頂上からの景色は良い。

 それに早朝という事もあって涼しく、ただその場に立っているだけでも中々心地好い。

 そのまま紅夜は、暫く頂上からの景色と朝の涼しさを味わうのだが、それは後ろから聞こえてきた少女の声によって中断される。

 

「あれ?そこに居るのって………もしかして長門君?」

 

 その話し方や自分の名前を知っている人物は、紅夜の記憶には1人しか居ない。

 

「……東條か」

 

 声の主の方へと振り返り、その人物の名を口にする紅夜。

 

「ああ、やっぱり長門君や。おはようさん」

 

 巫女装束に身を包んで竹箒を持った少女、東條希は、そう言って柔らかな笑みを浮かべた。

 

「こんな朝早くにどないしたん?この時間帯やったら、未だ学校開いてないで?あっ、もしかして長門君も──」

「何時もより早く家を出たら、思いの外暇になってな。暇潰しがてら寄ってみただけだ」

 

 淡々とした口調で答えると、希は暫く呆然と見つめた後、『なぁ~んや』と若干残念そうに言った。

 

「ウチ、てっきりあの3人のお手伝いしに来たんかと思ったわ」

「あの3人?」

「うん………あっ、ホラ。噂をすれば」

 

 そう言って、希は紅夜の背後を指差す。紅夜がそちらへ目を向けると、見知った3人の少女達がジャージ姿で階段を上ってくるのが見えた。

 穂乃果と海未、そしてことりだった。

 

「(成る程、彼奴等の事か……)」

「実はあの子達、最近スクールアイドルを始めてな。今はこの神社で朝練してるんよ」

 

 ご丁寧に説明してくれる希だが、紅夜はとっくに知っていた。

 スクールアイドルを始めるというのは、当事者である穂乃果の口から直接聞いているし、この神社で朝練しているというのも、昨日彼女等から勧誘された際に聞かされている。

 

「さあ2人共、今日もビシバシいきますよ!」

「「お、おぉ~……」」

 

 静まり返った空間に声を響かせる海未を、紅夜は何とも言えない表情で見ていた。

 彼がそんな反応を見せるのは無理もない。何故なら海未は、当初スクールアイドルに対して否定的だったからだ。

 以前は、『好奇心で初めても上手くいく筈が無い』、『アイドルは無しだ』とキッパリ言い放っていた彼女が、今では一番やりたがっていた穂乃果以上の熱意を見せており、おまけに学校へ行けば、穂乃果と一緒になって自分を勧誘してくるようになっている。

 一体どういう風の吹き回しだと紅夜が疑問に思うのは、当然の事だった。

 

「いやぁ~、今日も今日とて精が出るなぁ。あの子達」

 

 そんな紅夜の隣で希が言うと、その声に気づいた3人が振り向く。

 

「ああ、東條先輩。おはようございま……え?」

 

 真っ先に挨拶しようとした海未が、希の横に居る紅夜を見て固まった。

 

「な、長門さん……?どうして此所に?」

「えっ、長門君が来てるの?」

 

 驚く海未の背後から、穂乃果とことりがひょっこり顔を覗かせる。

 

「あっ、ホントだ!おっはよー!」

「おはよう、長門君!」

 

 パッと花が咲いたような笑みを浮かべ、2人が声を掛けた。

 

「こんな朝早くに何してるの?何かの朝練………は違うよね。だったらお参りかな?」

「いや、俺は──」

 

 ことりからの質問に答えようとする紅夜だが、それを遮るように穂乃果が口を挟んできた。

 

「あっ、もしかしてマネージャーやってくれる気になったとか!?」

 

 期待したような眼差しを向けて詰め寄ってくる穂乃果だが、生憎紅夜にそのつもりは全く無い。この神社を訪れたのも穂乃果達に会ったのも、ただの偶然なのだ。

 彼は首を横に振り、この神社には暇潰しで来ただけである事を伝える。

 

「なぁ~んだ、マネージャーやってくれるんじゃなかったんだ」

 

 すると穂乃果は、先程までの明るさから一転して残念そうに言う。

 前々から言っているのに未だ諦めないのかと呆れていると、希が近づいてきた。

 

「何や長門君、この子達がスクールアイドル始めた事知ってたん?」

「ああ。更に言えば、マネージャーやらないかって言われてる」

「ッ!」

 

 紅夜が投げやり気味に答えると、希の眉が僅かに動いた。

 

「(マネージャーか………ええな、それ。あの結果に確信が持てそうや)」

 

 この神社で初めて会ってからというもの、希は何度も紅夜の事を考えていた。

 

 初めて会った時に感じた、これまで会ってきた者とは明らかに違った雰囲気に加え、試験生という特殊な立場での編入。

 自他共に認めるスピリチュアルガールである彼女は、これ等に運命的な何かを感じており、同時に以前の占いに出た『流れを変える者』というのは、きっとこの男だと思っていた。

 だが、彼が編入してから今日に至るまで、彼の周りにこれと言った変化が起きているようには思えなかった。

 部活設立の申請や講堂の使用許可を得るために穂乃果達が乗り込んできた時も紅夜の姿は見られず、彼女等が此所でトレーニングをする際も、彼は居なかった。

 教室では彼の噂を多少聞くのだが、『○○で見た』等の話ばかりで、『スクールアイドルと一緒に練習している』なんて話は1つも無かった。当然、廃校阻止のために独自に行動しているという話も無い。

 そのため、神社で感じた運命的な何かというのは気のせいで、『流れを変える者』というのも紅夜ではなかったのではないかと、希は自分の占いへの自信を失いかけていたのだ。

 

「(でも、そうじゃなかった…………あの時の感覚は、やっぱり気のせいじゃなかったんやな)」

 

 自分がよく見ていなかった、はたまた紅夜が自分の予想とは違った行動を取っていたために気づかなかっただけで、変化は訪れていたのだ。

 そう思うと、希の頬が自然と緩む。

 

「………?おい東條、そんなニヤニヤしてどうした?」

「う、ううん!何でもないんよ?」

 

 不思議そうに首を傾げる紅夜に、希はそう言って誤魔化す。

 

「そ、そんな事より長門君、『誘われてる』って事は、未だマネージャーにはなってないって事やんな?」

「ああ、と言うかやるつもりは無いからな。何度も他を当たれって言ってるんだが………」

 

 頬が緩んでいたのを誤魔化すためか話題をすり替えた希にそう答え、穂乃果へと視線を向ける紅夜。

 

「だって長門君が良いんだもん!」

「……こんな感じで、全然諦めてくれないんだ」

 

 そして、駄々っ子のように言う穂乃果に深く溜め息をつき、やれやれと言わんばかりに首を左右に振る。

 

「でも、マネージャーに誘われてるって事は、誘われるだけの実力があるって事やんな?」

「実力って言うか………まあ、アメリカで仲間とバンドやダンスやってて、遊びでやってる連中の中では上手い方だって思ってるだけなんだがな」

「しかも長門君って歌や演奏も上手だし、ダンスの振り付けも長門君が考えてるんですよ!」

 

 穂乃果が言葉を付け加える。

 希は紅夜の意外な面に驚きながらも、更に話を続けようとした。

 

「それなら──」

「だが、それとこれとは話が別だ」

 

 だが、そこで紅夜が割り込んでくる。

 このやり取りに疲れているのか、その表情からは『いい加減にしろ』という気持ちが伝わってくるようだった。

 その表情や、無意識に放たれている威圧感で怯んだ4人に向けて、紅夜は言った。

 

「俺はただの試験生だ。一応その責務は全うするつもりだが、それ以上の事は期待するな」

 

 それだけ言うと、紅夜は踵を返して歩き出し、階段を下りていく。

 

「あっ……!」

 

 手を伸ばす穂乃果だが、紅夜は止まらない。彼の後ろ姿は、下から徐々に消えていく。

 

「(このままじゃいけない………何か、言わないと!)」

 

 しかし、肝心の言葉が思いつかない。彼を呼び止めたところで、何も言葉が出なければそこで終わりだ。彼は再び歩き出し、今度こそ止まる事無く階段を下りていくだろう。

 

「…ッ!待ってください、長門さん!」

 

 そこで、先程からずっと黙っていた海未が声を張り上げる。

 そんな彼女を他の3人は驚いたように見つめ、紅夜も足を止めて振り向いた。

 

「何だ?」

「……1つ、教えてほしい事があります」

 

 そう言って近づいていった海未は紅夜と同じ所まで階段を下り、真っ直ぐ見つめた。

 

「これまで私達は、何度も貴方を勧誘し、断られてきました。そして貴方は、断るたびにこう言っていましたね?『本当に信頼している人間としかやらない』と」

「ああ」

「それは、どういう意味なのでしょうか?貴方にとって、私達は何なのでしょうか?」

「前者は言葉通りの意味だ。そして後者は………ただの知り合いだ。それ以上も以下も無い」

 

 紅夜はそう言った。

 

 彼にとって、穂乃果達3人や他のクラスメイトは勿論だが、希や絵里でさえ、ただの知り合いでしかないのだ。

 自分は来年の春、はたまた試験生の必要が無くなった時点で、音乃木坂学院を去る。その後は2度と日本に戻ってこないという訳ではないが、少なくともこの学校を訪れる事は無いだろう。つまり自分の試験生としての生活が終わると同時に、彼女等との関係も終わるのだ。

 それに紅夜は、そもそも自分のような人間が試験生に選ばれる事自体が間違っていると考えてもいた。

 

 色素が少ないために髪は真っ白、更に目は左右で色が違う。つまり、アルビノ&オッドアイという異様な姿で生まれたのだ。

 それが原因で起きたいじめのせいで、小学校時代は暴力事件を起こして周囲から化け物扱いされ、それが今では、アメリカの公道を毎晩暴れ回り、時には警察と鬼ごっこをするストリートレーサーだ。

 

 更に、とある町ではレーサーでも警察でも構わず喧嘩を売っては吹き飛ばしてクラッシュさせ、また別の町では、仲間達と共に裏組織を壊滅させて金を巻き上げ、悪人とは言え幹部や部下の人生を潰している。

 そんなアンダーグラウンドな世界に生きている自分が、そういった世界とは無縁な学校に、それも女子校に通うなど場違いとしか言えない。自分と彼女等は、本来相容れない存在なのだ。

 それだけに、全てを知られた時の反応が怖い。下手にスクールアイドルなんて活動を通じて仲良くなって、また裏切られたような気分を味わうくらいなら、いっそ関係を『ただの知り合い』程度にして関わりも最低限に留め、試験生生活終了と共にさっさと去り、忘れてしまう方が互いのためにも良いに決まっている。

 どうせアメリカに行けば一緒に馬鹿騒ぎをする仲間が居るし、日本にも幼馴染み達が居るのだから、何も困る事は無いのだ。

 

「………もう良いか?だったら行かせてもらう」

 

 そう言って、紅夜は今度こそ階段を下りていき、コンビニの駐車場へ向かう。そして愛車のR34に乗り込むと、ノロノロと学校へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「……成る程、そんな事があったんやな」

 

 紅夜が去った後、穂乃果達はこれまでの事を希に話していた。

 

「それにしても、『本当に信頼している人間としかやらない』、かぁ………そんな事、今言っても仕方無いと思うんやけどなぁ」

 

 希の言う通り、紅夜が断る際に口癖のように言っていた『本当に信頼している人間としかやらない』という言葉は、穂乃果達に言ったところで仕方がないものだった。

 何せ彼は、未だ音乃木坂学院に通い始めてから約1週間しか経っていない。そこで信頼だ何だと言ったところでどうしようもないのだ。

 

「はい………それに、本当に穂乃果達が信じられないって言うなら、少しずつでも良いから私達の事を知って、信じられるようになってほしいんです!」

 

 穂乃果は、その青い瞳に強い意志を宿してそう言った。

 そもそも彼女が紅夜に話し掛けたのは、純粋に彼と仲良くなりたいという気持ちからだった。

 勿論、試験生という特別な立場や学校で唯一の男という事への興味、はたまた転入前に自分の店に来たからというのもある。だが一番に大きかったのが、仲良くなりたいという気持ちだ。

 だからこそ昼食に誘ったり、休み時間に声を掛けたり、移動教室の時に案内を申し出る事もあった。

 そして今、自分達はスクールアイドルのマネージャーに紅夜を迎え入れたいと思っている。

 彼のダンスや歌の技術が欲しいというのも確かにあるが、それ以上に、『彼が加わればきっと楽しくなる』、『自分達は、もっと上を目指せる』と、そんな予感がしたから。

 

「成る程、気持ちはよく分かった」

 

 穂乃果から彼女の心情を聞き終えた希は、そう言って相槌を打った。

 

「つまり3人は、長門君にマネージャーをやってほしくて、それと同時に、自分達の事を少しでも信じられるようになってほしい………そういう事やね?」

「はい!」

 

 元気よく返事を返す穂乃果に続くようにして、海未とことりも頷く。

 

「……分かった。じゃあ放課後、長門君を校舎裏に連れてきてくれる?ちょっと良い考えが浮かんだから」

 

 そう言って、希は小さく笑みを浮かべるのだった。

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