タグに『NEED FOR SPEED要素』入れてるから、たまには出さないと……(←23話目にして漸くである)
日本から飛行機で約10時間。太平洋の向こうにある国、アメリカ合衆国のカリフォルニア州に、その都市、ベンチュラ・ベイは存在する。
住宅街や山岳地帯、コンビナート等、大きく分けて6つの区域で構成されたこの都市は、長門紅夜の第2の故郷であるのと同時に、彼のようなストリートレーサーの溜まり場として有名な都市の1つである。
日中は何処にでもある普通の都市だが、夜になるとストリートレーサー専用のサーキットへと姿を変える。いや、それこそが、ベンチュラ・ベイの本当の姿なのかもしれない。
都市の至る所で白煙が舞い上がり、駆け抜ける車のエキゾーストノートや甲高いスキール音。そして、レーサー達を追い回すパトカーのサイレンや警察官の怒鳴り声が、闇夜に響き渡るのだ。
さて、そんなベンチュラ・ベイでは今日も今日とてレースが行われ、ストリートレーサー達が富や名声を求めて競い合っている。
紅夜が率いるMAD RUNのメンバーも、レースに繰り出して………
「あ~あ、やっぱり紅夜が居ないと退屈ね」
「…………」
「あっ、兄さんズルい!そのアイテム私が取ろうとしてたのに!」
「ふははは!こういうのは早い者勝ちだよ!」
………いなかった。
此所はベンチュラ・ベイの地区の1つ、バーンウッドにあるガレージ。トラビスという中年男性がオーナーをしており、ちょっとしたパーティーの会場にも使われているのだが、それが無い時は、専ら彼がリーダーを務める走り屋チームや、紅夜達MAD RUNの活動拠点兼溜まり場である。
そして今、ガレージではMAD RUNのメンバーが集まり、各々好きなように過ごしていた。
エメラリアは愛車のCamaroのボンネットに凭れて『紅夜が居ないと暇だ』とぼやき、アレクサンドラは愛車の1台であるPorscheの中で爆睡。そして零と、その妹である
因みにオーナーであるトラビスは、別の町のストリートレーサーと約束があると言って外出中だ。
「ねぇレナ、紅夜から連絡無いの?………って、寝てるし」
Porscheの窓を叩いて中に居るアレクサンドラに呼び掛けるエメラリアだが、気持ち良さそうに寝ているのを見て小さく溜め息をつく。
そんな彼女に、対戦が一段落した零が思い出したかのように声を掛けた。
「そう言えばレナ、エメルが来る前に紅夜から連絡来たって言ってたよ?」
「ホント!?何て言ってたの零!」
それに食いついたエメルは、ターゲットを彼に変更して詰め寄る。その際ちょうど和美と画面の間に割り込む形になり、和美から『画面が見えない』と苦情が入るがガン無視だ。
「えっと……確か、試験生で入った学校のスクールアイドルのマネージャーになったとか言ってたな」
「……は?」
笑顔から一転してポカンとした表情を浮かべるエメラリアは、暫くその表情のまま固まっていたが、やがて復活した。
「スクールアイドルのマネージャー?紅夜が?」
「ああ。言っておくけど、コレは嘘じゃないよ。僕や和美も2人の電話聞いてたから、間違いない」
「……………」
信じられないと言わんばかりの表情を浮かべるエメラリア。
人間不信も未だ完治しておらず、自分達走り屋仲間や日本の家族、幼馴染みにしか心を開いていない紅夜が、出会って間もない連中と共にグループとして活動しているという事にかなり驚いていた。
「どうやら数日前から勧誘されてたみたいでね。ずっと断ってたんだけど、何か別の女の子に説得されて、引き受けたんだって」
「へぇ~、あの紅夜がねぇ……」
零の隣に腰を下ろしたエメラリアは、染々とした様子で呟く。
自分が信用している人間以外とは必要以上に関わろうとしない紅夜を動かした人物に対して、少なからず興味が沸いていた。
「とはいっても、1ヶ月くらいの期間限定らしいんだけどね…………まあ取り敢えず、今回の話を機に、紅夜の人間不信が少しでも改善される事を祈るよ」
そう呟く零に、和美とエメラリアは揃って相槌を打った。
瑠璃や達哉といった日本の幼馴染みや家族もそうだが、零達もまた、紅夜が抱えている問題を知る者として、彼の人間不信が一刻も早く完治する事を望んでいるのだ。
「おーっす!」
そこへ、赤いシャツにパーカーを羽織り、白い帽子をかぶった男が入ってきた。
彼の名はスパイクといい、トラビスの走り屋チームのメンバーだ。
BMW M2を愛車とし、トラビスから『スピード小僧』と呼ばれるだけあって、誰よりも速く走り抜ける事に重きを置いている青年だ。
「あっ、スパイクじゃん。どうしたの?レースのお誘い?」
「ああ。元々そのつもりだったんだが、ちょっとお客さんが来ちまってな。連れてきたのさ」
それに気づいて声を掛けてきた和美にそう言うと、スパイクは出口の方へ顔を向けて呼び掛けた。
「おーい、入って良いぜ!」
すると、紫色のロングヘアを後頭部で1つ結びにした女性が入ってくる。
その瞬間、3人の表情が驚愕に染まった。
「「「イレーネ!」」」
同時に名を呼ぶと、イレーネと呼ばれた女性は笑みを浮かべ、小さく手を振った。
彼女、イレーネ・カーミラとMAD RUNの出会いは、昨年9月のある日。トラビスに勧められ、MAD RUN全員でベンチュラ・ベイから北東へ約700㎞進んだ先にある都市、フォーチュンバレーへ遠征に出掛けた日に遡る。
この日は各自でフォーチュンバレーを自由に散策する事になっており、紅夜は持ってきていたSilviaでシルバーロックのビリオネア通りを観光していたところ、フォーチュンバレーに蔓延る裏組織、ハウスが主催するストリートレースで勝利したレーサーが男数人に乱暴されかかっているところに遭遇。そのまま車ごと乱入して救出したのだが、それが、訳あって正体を隠していたイレーネだったという訳だ。
その後、ある人物との出会いやその他の紆余曲折を経て、紅夜は彼女や仲間と共にハウスを壊滅させたのである。
「紅夜を見送って以来だねイレーネ。あれから調子はどうなの?」
「ああ、零。皆元気にやってるよ。このベンチュラ・ベイが霞んで見えるくらいに盛り上がってるさ」
「おっ、言ってくれるじゃない」
そんなやり取りを交わして盛り上がる3人を暫く眺めていた和美は、同じように蚊帳の外になっているスパイクに声を掛けた。
「イレーネとは何処で会ったの?」
「ガレージの前だよ。ダウンタウンで良いレースがあるからお前等も誘おうと思って来たら、先に彼奴が居てな。そのまま連れてきたって訳さ」
そう言うと、スパイクは時計を確認し、次に話し込んでいる零達を見て苦笑を浮かべた。
「レースまで未だ時間はあるが………こりゃ、参加するって雰囲気にはならなさそうだな。入った時からそうだったが」
「……何かごめん、せっかく誘いに来てくれたのに」
「気にすんなよ。マヌやロビンだって、今頃各々の場所でのんびりやってるだろうし」
手をヒラヒラ振りながらそう答えたスパイクはガレージを見渡し、1人足りない事に気づいた。
「そういや、レナはどうしたんだ?今日は休みか?」
「ううん、車で寝てるよ」
和美は、アレクサンドラが寝ているPorscheを指差した。スパイクはそちらへ近づいていって中を覗くと、笑いを堪えながら戻ってきた。
「ホントだ……てか俺、あんな口開けてグーグー寝てるレナなんて、初めて見たぜ………!」
そう言う彼は、余程面白かったのか両手で口元を覆っている。
「それ、レナには言っちゃ駄目だよ?ぶん殴られるから」
「ククッ……ああ、分かってる…!」
スパイクは、そう答えた後も暫くは必死に笑いを堪えていたが、やがて落ち着きを取り戻す。それと同時に、零達3人のお喋りも終わった。
「いやぁ~、紅夜を見送った後も色々話した筈なのに、また話し込んじゃったね」
「まあ良いじゃない、楽しかったし」
イレーネの肩をポンポン叩きながら言うエメラリアだが、そこで漸くスパイクに顔を向けた。
「そういやスパイク、アンタ今日はレースに誘いに来たとか何とか言ってなかったっけ?」
「……あっ!」
スパイクは大慌てでスマホを取り出して時刻を確認し、盛大に落ち込んだ。
「やっちまった…………結構良いレースだったのに逃しちまった」
ガックリと肩を落とすスパイク。これがアニメや漫画なら、彼は間違いなく暗いオーラを纏っているだろう。
「あ~、ごめんねスパイク。僕等が話し込んでたばっかりに」
「……別に良いさ。俺も和美と話してて、レースの事忘れてたから」
すまなそうに謝る零にそう言って、スパイクは体を起こす。
「仕方無い、今日はもう引き上げるかな」
「……あっ、待ってスパイク」
興が削がれたのか、踵を返してガレージを出ようとするスパイクだが、それをイレーネが呼び止める。
「せっかくこうして集まってるんだし、皆で走りに行かない?ボク、この町の事殆んど知らないからさ。良かったら案内してほしいんだ」
自分がいきなり来たためにスパイクの予定を狂わせてしまった事へのせめてもの詫びのつもりなのか、代わりのプランを提案するイレーネ。
それを受けた零達の反応は良く、3人は賛成していた。
「ねぇ、スパイク。せっかくだし行こうよ!コレも良い機会だと思ってさ!」
零にそう言われたスパイクは暫く考えた後、フッと笑みを浮かべた。
「……断る理由も無いか」
「よしっ、じゃあ私はレナの奴叩き起こしてくるから、皆は先行ってて!」
エメラリアはPorscheの方へと駆けていくと、ドアを開けて揺さぶるという中々強引なやり方で起こしにかかる。
そんな光景を背に、4人は外に出て自分の車に乗り込み、残りの2人が出てくるのを待つ。
当然の事だが、こうして車に乗り込むと互いの声は殆んど聞こえなくなる。そんな時に活躍するのが、レーサー達の間で使われている通信道具、
『それにしてもイレーネ。前見た時も思ったが、お前凄いの乗ってるよな』
『フフッ、そうだろ?イタリアが誇るスーパーカーの1つ、Lamborghini Murciélago!お金を貯めたら、絶対買おうって思ってたんだ!』
自慢気にそう言って、窓から手を出してボディを軽く叩くイレーネ。
だが、そこで和美のKY発言が炸裂する。
『まあそれ、アウトローラッシュの賞金の他にもハウスから慰謝料って名目で巻き上げまくった連中の資金とか、コレクターの野郎からパクった車売って得たお金で買ったのは内緒だけどね……』
『コラ、和美!今それを言うんじゃない!』
和美はボソボソと言ったつもりなのだろうが、bl@hが通話状態になっている以上はその呟きも丸聞こえで、零から小言が飛ぶ。
アレクサンドラとエメラリアが出るのを待っている間も、4人はやり取りは止まらない。
『まあ、コレクター………と言うかハウスには、父さんの車を盗まれたり乱暴されかけたりと散々な目に遭わされたからね。それに、彼奴等のせいで町を追われたストリートレーサーも大勢居るんだから、あれくらいやったところで何とも思わないさ』
そう言いながらフォーチュンバレーでの出来事を思い出したのか、イレーネの表情が悪人のそれに変わる。
bl@hからも、それを感じ取った零やスパイク達の声が聞こえてきた。
『おやおや、怖いねぇ』
『悪人の匂いがプンプンするぜ』
『いや兄さん、それで怖いなら紅夜はどうなるの?彼奴、Silvia盗もうとしてたハウスの連中にキレて一方的にぶちのめしてたけど』
『紅夜は別格だ。ついでに言うとレナも』
『それは言えてるね』
然り気無くMAD RUNのトップ2人を怪物扱いする零達にイレーネが笑っていると、漸く残りの2人が各々の愛車と共にガレージから出てきた。
エメラリアがCamaroで出てきたのに対し、アレクサンドラはPorscheだ。大方、零達を待たせているから車を乗り換えるかどうかを決める時間を与えなかったのだろう。
『ごめんごめん、レナが中々起きなくて』
『だって、凄く良い夢見てたんだもん………あ~あ、今頃夢の中のアタシは紅夜とホテルに……』
『おい、それどういう意味だ。詳しく話せ』
零達に謝っていたエメラリアは、アレクサンドラのその言葉に瞬時に食いつくが、これは2人が居る状態で紅夜関連の話をした時にはよくある事である。
『あはは、この2人は相変わらずだね』
『ごめんねイレーネ、お見苦しいところを』
溜め息混じりに謝る零だが、イレーネは変わらず笑っていた。
『いや、気にしなくて良いよ。2人の気持ちは分からなくもないし』
『分かるのかよ……』
スパイクが呆れたように言った。
紅夜に好意を持っているのは、彼が知っているだけで3人。そう、アレクサンドラとエメラリア、そしてイレーネである。
だが、普通の女性と比べると何処か感覚が狂っているため、もっとまともなのは居ないのかと内心呟くのがお約束となっていた。
『それもそうだけど、そろそろ行かない?時間無くなっちゃうよ?』
このままお喋りで時間が潰れると思われた時、和美からそんな一言が飛ぶ。見ると、和美のNSXと零のRX-7がノロノロと走り出していた。
『ああ、ごめん和美………』
『悪い悪い。それじゃお前等、行こうぜ!』
そうして、6台のスポーツカーが列になって走り出す。
その後、彼等のベンチュラ・ベイ巡りは夕方まで続き、ガレージに帰ってくるや否や、そのまま各々の車内で寝てしまうのであった。
漸くMAD RUNのメンバー全員出せた……
登場人物設定を書くのは未だ先になりそうですが、取り敢えずメンバーが持ってる車と色だけ挙げます。
紅夜:Nissan Skyline GT-R BNR34(青)
Nissan Silvia S15 Spec R(銀)
アレクサンドラ:Porsche 911 Carrera RSR 2.8(黒)
Ford Mustang 1965(黒)
エメラリア:Chevrolet Camaro Z28(黒)
零:Mazda RX-7 FD3S Spirit R(群青)
和美:Honda NSX Type R(黄)