長くなっても3話くらいで終わらせたいところ。
あれから飛ぶように時間は流れ、4月も下旬に差し掛かり、ライブ本番まで数日を残すのみとなった。
今日も今日とて穂乃果達との練習を終えた紅夜は、愛車のR34と共に家路を急ぐ。
「ふぅ、取り敢えず形にはなったな。後は細かい部分を調整して本番に臨むのみ、か」
夕暮れの高速を駆け抜ける愛車の中で、彼はそう呟く。
日々の練習の甲斐あって、彼女等のダンスのクオリティは飛躍的に向上していた。
それは練習を間近で見ていた紅夜は勿論だが、彼の仲間達も認める程だ。
と言うのも1度、3人に頼まれてダンスの通し練習の様子を撮影したのだが、帰宅後にその動画をMAD RUNの仲間達や瑠璃達幼馴染み組にも見せて感想を求めたところ、かなりの好評を得ていたのだ。
プロのアイドルと比べれば間違いなく彼女等が負けるだろうが、少なくとも素人からすれば十分に『上手い』と言えるレベルにまでは持ってこれている。
後は微調整を済ませ、ライブ当日にベストのパフォーマンスを披露するだけだ。
「それと同時に、俺のマネージャーとしての役目も終わる訳だ。何か、今日まであっという間だったな……」
穂乃果達からのしつこい勧誘や、どういう訳か無関係の筈である希からも説得されたというのもあり、最初は仕方無くやっていたマネージャーの仕事も、日が経つにつれ、少しずつではあるが楽しさを感じるようになっていた。
元々アメリカでMAD RUNの仲間達とバンド演奏やダンスをしていた事もあり、こうしてパフォーマンスのクオリティが上がっていく喜びや完成させた時の達成感も、彼はよく知っている。
それが後少しで終わるとなると、寂しさというか、物足りなさを感じる。
「(いっそ、このままマネージャーを続けるってのも良いかもしれねぇな……)」
そんな事を考えた紅夜だが、直ぐ我に返って激しく頭を振った。
「(いやいや、何馬鹿な事考えてんだ俺は?こういうのはレナや瑠璃達みたいな信頼出来る連中としかやらないって決めただろうが。ちょっと一緒に居たからって簡単に絆されてんじゃねぇよ)」
そう自分に言い聞かせながら愛車を走らせていると、黒のボディに金色のバイナルグラフィックスが施された車が後ろについている事に気づいた。
「(コイツは……Corvetteか。となると、ドライバーは彼奴か)」
後ろを走るCorvetteのドライバーに目星をつけた紅夜は、一先ず高速から降りる。そして近くのコンビニに車を停めると、ついてきたCorvetteもその隣に停まった。
「ヤッホー、紅夜君!今帰り?」
R34から降りると、同じくCorvetteから降りてきた女性、草薙雅が声を掛けてくる。
「ああ、そうだよ雅。お前も仕事帰りか?」
「そうそう。今日も今日とて疲れたよ~ってね」
おちゃらけたように言って、袋から取り出したパンケーキサンドを頬張る雅。美味そうにモグモグと口を動かすその姿は、何処と無くパンを頬張る穂乃果を連想させる。
「お前、何処に居ても菓子とか食ってるよな。この前だって菓子パン食いながら電話してきたし
「だって好きなんだも~ん」
呆れたように言う紅夜にそう返した雅は、あっという間に食べきる。そして口の中に残ったものをジュースで流し込むと、思い出したかのように話を振った。
「あっ、そう言えば紅夜君が手伝ってるって言うスクールアイドルの子達のライブ、もうすぐなんだよね?」
「ああ。大分形にはなってきてるから、後は微調整を済ませて本番に挑むだけだ」
紅夜はそう言った。
期間限定とは言え、彼が穂乃果達の手伝いをするという事は既に瑠璃達にも伝えており、今日までにも何度か近況を報告していたのだ。
「それにしても、駆け出しとは言えスクールアイドルの生ライブを、それも学校で見れるなんて凄い役得だよね。招待券無いの?皆、月末は予定空いてるって言ってるよ?勿論、私も」
ワクワクした様子で雅は言うが、紅夜は苦笑しながら首を横に振った。
「せっかくの話だが、それはねぇな。今回はあくまでも学内での向けたライブだから、外の人間を呼ぶ事は考えてないだろうし」
「そっか……ちぇ~。そのスクールアイドルの子達がどんなダンスをするのか、ちょっと興味あったのになぁ」
残念そうに言いながら、足元にあった小石を蹴飛ばす雅。彼女のそんな子供のような反応に、紅夜は微笑を浮かべた。
それから2人は暫く世間話をした後、各々の車に乗り込んで解散するのだった。
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「……で、何なんだこの状況は?」
翌日、屋上で蹲る海未を見下ろしながら、紅夜は残りの2人に言った。
「い、いやぁ~……何と言うか、その…」
「じ、実はね?ついさっきの事なんだけど……」
ことりが言うには、3人で登校してきた時に彼女等に興味を持った3年生から『少し踊ってみて欲しい』と頼まれ、ライブを見に来る事を条件に引き受けようとしたところ、突然海未が逃げ出してしまったのだ。
そして追い掛けて訳を聞いてみたところ、3年生から頼まれた事で自分達が人前で踊るという事を改めて認識し、恥ずかしくなって逃げたのだと言う。
「海未ちゃんって、凄い恥ずかしがり屋さんだから……昔から人前で何かをするのとか苦手なの」
「……そんな状態でスクールアイドルやるとかよく言えたなお前」
「グフッ……!」
容赦無く放たれたその一言は、海未の心に大きなダメージを与えた。
「う、海未ちゃ~ん!?」
まるで銃で撃ち抜かれたかのように倒れる海未に駆け寄る穂乃果を見下ろしながら、紅夜は面倒臭そうに頭を掻いた。
「(全く、まさかここに来て新しい問題にぶち当たるとはな……)」
しかもその内容が、人前で踊るのが恥ずかしいというパフォーマンスのクオリティ云々以前の大問題だ。
そもそも、自分達の歌やダンスを人に見せるのがアイドルだというのに、人前で踊るのが恥ずかしいなど話にならない。
「……どうするつもりだ?もう本番まで数日しかないが」
「う、う~ん……」
ことりは、そんな紅夜からの問いにどう答えたものかと首を捻るが、一向に答えは出ない。
だが、そこで答えを出したのは、意外にも穂乃果だった。
「あ、そうだ!私に良い考えがあるよ!」
何処かの総司令官を彷彿とさせる台詞と共に立ち上がる穂乃果に、紅夜達の視線が集まる。
「こういう時はね、お客さんを野菜だと思えは良いってお母さん言ってたよ!」
「「「…………」」」
しかし、そんな彼女の口から出てきたその言葉に、ことりは勿論だが海未も沈黙していた。
紅夜に至っては右手で顔を覆い、『何言ってんだコイツは……』と呟いている。
「(何を言うかと思えば、そんなの幼稚園とかのガキにしか通用しねぇだろ。ましてや園田がこんな事するとは到底思えんが……)」
「お客さんは野菜、お客さんは野菜……!」
「(……マジか)」
本来の海未なら、こんな子供騙しとしか言い様の無いレベルの提案など一蹴するのが目に見えているが、今は必死になって実行している。
「……溺れる者は藁をも掴むって、こういう事を言うんだな」
そんな彼の呟きに、思わず苦笑を浮かべることり。
だが、何時までもこんな所で立ち止まっている訳にはいかない。既にライブを行う事を告知して講堂の使用許可を取り、今日まで練習を重ねてきた以上、何としてでも海未がステージに立てるようにしなければならないのだ。
「(だが、どうする?こんなの数日でどうにかなるような問題じゃねぇし……)」
如何にして海未がステージに立てるようにするかを考える紅夜だが、一向に良い案が浮かばない。
そのまま数分が経った後、再び穂乃果が声を上げた。
「閃いた!」
「却下」
「早っ!?てかなんで却下なの!?穂乃果未だ何も言ってないのに!」
「数十秒前のお前の発言を思い出してみろ」
内容すら聞かず即答で却下された事に文句を言う穂乃果だったが、紅夜に言い返されて何も言えなくなる。
「ま、まあまあ長門君、取り敢えず聞いてみよう?もしかしたら、今度こそ何か良いアイデアを思い付いたのかもしれないし」
「……確かに、俺も南も何か考えがある訳でもないしな」
そう言って、2人は穂乃果へと顔を寄せ、彼女の意見に耳を傾ける。
「実は、放課後にね……」
そうして穂乃果は、海未に聞かれないように自らの考えを伝えるのだった。
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そして放課後、穂乃果達はとある場所を訪れていた。その場所というのは……
「ひ、人だらけです……」
「そりゃそうだよ、そういう場所を選んだんだから!」
そこにあるのは、見渡す限りの人、人、人。そして幾つもの建物。それ等の殆んどにはアニメのポスターが貼られており、アニメ専門店である事が一目で分かる。
また、アニメのキャラクターの衣装やメイド服等に身を包んだ女性が、プラカードやチラシを手に呼び込みをしている。
これだけ言えば、分かる人には4人の居場所が分かるだろう。そう、4人が居るのは秋葉原だ。
「成る程。確かに此処なら、チラシ配りを通じて宣伝も出来るし、園田の照れ屋克服にも繋がるから一石二鳥だな」
大通りを見回した紅夜が、ウンウンと頷きながら言う。
「そうでしょ?穂乃果だってやる時はやるんだから!」
褒められていると思ったのか、穂乃果は得意気に胸を張った。
「よぉし、それじゃあ早速チラシ配りを──」
「……あっ、ねぇ穂乃果ちゃん」
そして早速チラシ配りを始めようとする穂乃果だったが、そこへことりが割り込む。
「今更だけど、長門君はどうするの?」
「え?そりゃあ一緒にチラシ配りを……あっ」
ことりの質問に愚問だとばかりに答えようとするも、そこである事を思い出して勢いが止まった。
彼女が思い出したのは、彼をマネージャーにするにあたって交わした約束の1つである、『長門紅夜が面倒を見るのは、あくまでも練習面だけ』という内容だ。つまり、チラシ配りについては管轄外となる。
そもそも、女子校である音ノ木坂学院で発足したスクールアイドルのチラシ配りに男が、それも男用の制服に身を包んだ者が居るというのも、人によっては怪しいと感じるだろう。
そのため、紅夜は彼女等がちゃんとチラシ配りを進められているかを見守る係という、何とも変な役に落ち着いた。
だが……
「俺の事なんかより、先ず園田をどうにかするべきだと思うが?」
紅夜はそう言って、ある場所を指差す。そちらへ2人が目を向けると、ガチャマシンの前でしゃがんでいる海未の姿があった。
どうやら彼等があれこれ話している間にガチャマシンの方へと移動し、回していたようだ。
「……あっ、レアなの出たみたいですよ」
「駄目だこりゃ、コイツ現実逃避してやがる」
そんな彼女を見た紅夜は、右手で顔を覆ってやれやれと首を振る。
穂乃果とことりは何とか海未を説得しようとするが、彼女は床に根を生やしたかのように動こうとしない。
「どうしよう?このままだと海未ちゃん、ずぅ~っとコレやり続けちゃうよ」
「う~ん……」
どうしたものかと首を捻る2人だったが、そこで再び穂乃果が閃いた。
「よし、それならあそこにしよう!そこなら海未ちゃんでも大丈夫な筈!」
そうして海未を引き摺って行く穂乃果に続き、紅夜とことりも移動する。
再び車に乗り込んで向かった先は、音ノ木坂学院だった。
放課後になってから暫く時間は経っているが、それでも家路につこうとする生徒はチラホラと見かける。
「学校?此処で配るのか?」
「うん!ずっと通ってた此処なら、海未ちゃんでも安心してチラシ配り出来るでしょ?」
そう言って、有無を言わさず海未にチラシの束を持たせる穂乃果。
「ま、まぁ……秋葉原でやるよりはマシですが」
チラシを受け取った海未は、歯切れ悪く答える。
「よし、それじゃあ始めるよー!」
そうして、穂乃果とことりはチラシを配り始める。
「あっ、え、えっと……」
出遅れた海未も2人に続いて配ろうとするが、ただ場所が変わっただけで人見知りが解消される訳でもなく、生徒達は次々と素通りしていく。
「そんなんじゃ駄目だよ、海未ちゃん!もっと声出さなきゃ!」
そんな彼女を見かねたのか、穂乃果がやって来た。
「ほ、穂乃果はお店の手伝いで人と接するのに慣れてるからそんな事が言えるんです。でも私は……」
「でも、ことりちゃんも同じようにやってるよ?別にお店の手伝いしてる訳でもないのに」
反論するもそう言い返され、何も言えなくなる海未。
「ホラ、海未ちゃんも!それ全部配り終わるまで止めちゃ駄目だからね!」
「ええっ!?そんな無理ですよ!」
少し離れた場所から見守っている紅夜ですら思わず『マジか……』と呟くような穂乃果の発言にそう言い返す海未。
だが、穂乃果はそんな彼女に対して挑発するような眼差しを向けて言った。
「あれれ~?でも海未ちゃん、私が階段ダッシュで5往復出来ないって言った時に何て言ってきたっけ?」
「むっ……分かりました、やりましょう!」
すると海未もやる気に火がついたのか、声に覇気が出て積極的にチラシ配りを始める。彼女も何時かの真姫と同じように、案外挑発に乗りやすいタイプなのかもしれない。
「……と言うか、コレって別に俺が居る意味無くね?」
そう呟いた紅夜が、いっそ3人にバレないように愛車の元へ行こうかと考え始めた時、後ろから声を掛けられた。
「あ、あの……」
「ん?……お前は」
そこに居たのは、ライトブラウンの髪に眼鏡を掛けた小柄な女子生徒だ。そして彼女は、紅夜にとって見覚えのある人物だった。
「確か、小泉……だったか」
「は、はい!お久し振りです、長門先輩!」
自分の事を覚えていたからか、パッと表情を輝かせる花陽。
すると、彼女の声が聞こえた穂乃果達が近づいてきた。
「あっ、貴女はこの前の!」
「え、えっと……こんにちは、先輩方」
穂乃果の勢いに圧されたためか、先程とは違ってオドオドした様子で返事を返す花陽。
すると彼女は、3人が抱えているチラシに目を向けた。
「ら、ライブ……やるんですよね?1枚貰っても良いですか?」
「もっちろんだよ!はい、チラシ!」
「どうせなら1枚と言わず、全部持っていってくれても……」
「良い訳無いだろ、何言ってるんだお前は?」
意気揚々とチラシを渡す穂乃果に便乗して余ったチラシを全て渡そうとする海未に、すかさず紅夜がツッコミを入れる。
そんな3人のやり取りに苦笑したことりは、再び花陽に向き直った。
「もしかして、ライブ見に来てくれるのかな?」
「は、はい……アイドル、好きなので」
その返答を受け、穂乃果達は3人は顔を輝かせた。
それから軽く世間話をした後に花陽は帰っていき、3人のチラシ配りも終了した。
「いや~、終わった終わった!」
「それにしても良かったね、小泉さんがライブ見に来てくれるって!」
「ええ。1人だけとは言え、見に行くと言ってくれる人が居るだけでもありがたい事です」
そう言って、満足げに笑い合う3人。
紅夜も何とか今日まで漕ぎ着けた事に安心するのだが、そこで1つの違和感を覚えた。
「(あれ?でも何か違うような……)」
「長門君!」
そうしていると、穂乃果に声を掛けられる。
「あ、ああ……何だ?」
「実はね、ことりちゃんが私達のライブ衣装を作ってくれて、もう出来てるんだって!今から私の家で一緒に見ようよ!」
そう言って紅夜の手を取った穂乃果は、先に駐車場へ向けて歩き出している2人の方へと引っ張っていく。
「ホラホラ、早く行こうよ!時間無くなっちゃうよ!」
「ちょ、おい待て!分かったから引っ張るな!」
なし崩し的にまた穂乃果達の送迎をする事になってしまった訳だが、今の紅夜にそんな事を気にしている暇など無く、グイグイ進んでいく穂乃果に引っ張られていくのだった。
改めまして、新年明けましておめでとうございます。
今年もまた1年、宜しくお願い致します。