これ1話に纏めようとしたら、文字がまさかの10000字超え(゚Д゚)!!
こんなに長くなったのはいつぶりだろうか……?
《……以上をもちまして、新入生歓迎会を終わります。各部活動とも体験入部を行っているので、興味のある方は是非覗いてみてください》
翌日、遂に穂乃果達μ'sのライブ本番の日がやって来た。
絵里が歓迎会の終了を告げると、2、3年生達は体験入部の準備のために一足先に講堂から出ていく。
紅夜も同じように講堂を出た後、教室で穂乃果達と軽い打ち合わせをしてから行動を開始した。
各々の役割としては、先ず紅夜は、ヒデコやミカ、フミコの3人と共に舞台の設営を行い、その間に穂乃果達はチラシ配りを。そして設営が完了次第、チラシ配りはミカにバトンタッチされる事になっていた。
「長門君、それ此方に持ってきて!」
「おーい長門君、それ持ってったら此方にコード引っ張ってきてくれる!?」
「あ、ああ。分かった!」
そして今、ステージ上では紅夜がヒデコやミカの指示を受け、機材を持ってあちこち走り回っている。そして最後の1人であるフミコは、音響や照明の調整中だ。
「いやぁ~、それにしても穂乃果達も人が悪いよね。長門君がこんなに良い人だったなら最初から教えてくれたら良かったのに」
「確かに。編入してきた日は他の子から色々質問攻めにされてたけど、それでもちょっと怖いってイメージあったもんね」
紅夜が持ってきた機材のセッティングをしながら、ヒデコとミカがそんなやり取りを交わす。
2人がそんな感情を抱いたのには、当然理由がある。
先ずは教室での打ち合わせを終えて講堂へ向かう際の事、彼女等が手伝いを申し出た事について彼が改めて感謝を伝えてきたのだ。
紅夜からすれば当たり前の事を言っただけのつもりだが、普段の態度から無愛想で無口な印象を抱いていた3人にとっては、こうして感謝されるのには驚いていた。
そして2つ目が、今行っている機材のセッティングだ。
今回のライブで使用する機材の中には、当然重いものも存在する。それをミカが運ぼうとしていた際に彼が作業を代わり、力仕事は全て自分が請け負うと言ったのだ。
これは作業を効率的に進めるために紅夜が勝手にやった事だが、3人にとっては好印象だった。
そんなこんなで無事に舞台の設営が終了し、ミカは穂乃果達のチラシ配りを代わるために講堂を出ていった。
「よし、後は連中を待つだけか……」
そう呟いた紅夜は、軽く肩を回しながら講堂を見渡す。
「ねぇ長門君、ここはもう良いから穂乃果達の所に行ってきなよ!」
そんな彼に、ヒデコが声を掛ける。
「……良いのか?」
「勿論だよ!マネージャーなんでしょ?穂乃果達緊張してるだろうしさ。控え室に行って、声掛けてあげてよ!後は私とフミコで何とかやっておくからさ!」
そう言って親指を立ててみせるヒデコ。
紅夜は『すまないな』と一言掛けると、控え室に向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
場所は変わって、控え室ではチラシ配りをミカに代わってもらった穂乃果達が、ライブ衣装への着替えを終えたところだった。
「遂にここまで来たね、ことりちゃん」
「うん……」
穂乃果の思い付きで、見切り発車同然に始めたスクールアイドル活動。そんな彼女等は今日、活動を開始してから初のライブを行う。
普段から笑顔を絶やさない穂乃果も、この時ばかりは緊張した面持ちだった。
「…………」
そんな彼女以上に緊張しているのか、スカートの裾をキュッと握り締めて俯くことりの手に、穂乃果はそっと自らの手を添えた。
「大丈夫。だって、あんなに練習したんだもん。きっと上手くいくよ」
「穂乃果ちゃん………うん、そうだね!」
ことりは力強く頷いた。
「……そう言えば、海未ちゃんは?」
「えっとぉ~、未だあっちに」
そう言って、カーテンで仕切られた着替えスペースを気まずそうに見やることり。
先日ことりが作った衣装の確認をした際は、『スカート丈が短いから自分だけ制服で踊る』とごねていただけあって、未だ恥ずかしがって着替えスペースに閉じ籠っているようだ。
「もうっ、往生際悪いんだから……」
穂乃果が海未を引っ張り出そうと椅子から立ち上がった時、控え室のドアがノックされた。
「は~い?」
ヒデコかフミコ辺りが呼びに来たのかと思い、返事を返す穂乃果だが、声の主は彼女の予想とは別の人物だった。
「ああ、高坂か?長門だ」
声の主は紅夜だった。すると、穂乃果はパアッと表情を輝かせる。
「長門君!どうぞ入って入って!」
「な、長門さんが!?ちょ、待ってください穂乃果!」
カーテンの向こうから顔だけを出した海未が焦ったように言うが、時既に遅し。ドアが開かれ、紅夜が中に入ってきていた。
「来てくれたんだね!」
嬉しそうに出迎える穂乃果。椅子に座っていたことりも、彼に向かって手を振っていた。
「ああ、3人がお前等の様子を見に行ってやれと言ってくれてな」
そう言った紅夜が室内を軽く見回していると、顔だけを出している海未と目が合った。
「……ッ!」
すると、彼女は顔を真っ赤に染めて奥に引っ込んでしまう。
「……どうやら、未だ恥ずかしさは抜けていないみたいだな」
「まぁ、この前あれだけ言ってたからね……」
苦笑混じりに言う紅夜とことりだが、穂乃果はそんなの知った事かとばかりに着替えスペースに歩いていく。
「ホラ、海未ちゃん!せっかく長門君が来てくれたんだから出てきなよっ!」
そして、カーテンの向こうから海未を引っ張り出した。
恥ずかしさから抵抗する海未だったが、結局は彼女に力負けして引っ張り出されてしまった。
「ホラ、見てよ長門君!海未ちゃんもすっごく可愛い……で、しょ……?」
徐々に言葉の勢いを失っていく穂乃果。それもその筈、何せ海未は、スカートの下にジャージを重ね着していたのだから。
「えぇ~……?」
「園田、流石にコレは無いぞ……」
そんな彼女の姿に微妙な反応を見せることりと紅夜。
「ど、どうでしょうか……?」
誤魔化そうとしているのか、作り笑いを浮かべながらポーズを決めてみせる海未。だが、穂乃果はそんなものでは誤魔化されない。
「『どうでしょうか?』じゃないよ!何この往生際の悪さは!?」
ズカズカと海未に詰め寄り、スカートを掴み上げる。
「あ~、高坂?気持ちは分かるが、一応目の前に男が居るのを忘れないでほしいんだが……」
重ね着している海未が悪いとは言え、男が居るという事を全く考えていない穂乃果にやんわりと注意を促す紅夜だが、当の本人には聞こえていない。
「だ、だって……こんな格好、恥ずかし過ぎて……」
「問答無用!そりゃあ!!」
ボソボソと言い訳をする海未だが、穂乃果は聞く耳を持たない。そして目の前に男が居るのも構わず、ジャージを強引に脱がせた。
「きゃあっ!?」
いきなりの行動に、海未は顔を真っ赤に染めてスカートを押さえた。
「ちょ、何て事するんです!?」
「いやいや、スカート穿いてるんだから隠さなくても良いじゃん?」
「そういう問題じゃありません!そこに殿方が居るんですよ!?」
「……あっ」
必死な様子の海未に最初は首を傾げる穂乃果だったが、彼女の指摘で漸く自分がした事に気づく。
そして恐る恐る紅夜の方を向くと、彼は右手で顔を覆っていた。
「え、えっとぉ~……もしかして見ちゃった?」
その問いに答えたのは、ことりだった。
「ううん。穂乃果ちゃんがジャージを下ろす瞬間に目を瞑ってたから、そこは大丈夫だよ」
彼女はそう言うと、もう手を退けても良いと紅夜に促す。
紅夜はゆっくりと手を退けて目を開けると、上目遣いで此方を見る穂乃果と対峙した。
「……取り敢えず高坂」
「な、何かな……?」
紅夜は穂乃果の目の前まで歩み寄ると、彼女の頭上に拳を構える。そして、1度閉じた目をカッと見開いて言った。
「目の前に男が居るのに、いきなりスカートの下に重ね着してるジャージを脱がせる馬鹿があるかァ!!!」
「ご、ごめんなさぁぁ~~い!!」
その言葉と共に振り下ろされた拳は、何処ぞの国民的アニメのような拳骨と同じような音を立てた。
その後は穂乃果も反省した事や、頭にたん瘤を拵えて涙目になっている彼女を見て流石に可哀想だと思った海未が許したため、穂乃果による海未のジャージずり下ろし事件(ことり命名)は幕を下ろした。
「全く、彼奴等に言われて様子を見に来てみたらとんだ災難だったな 」
少しでも状況が違っていたら自分が痴漢扱いされていたかもしれなかったため、壁に凭れ掛かった紅夜が愚痴を溢す。
「ま、まあまあ長門君。穂乃果ちゃんにもそんな気は無かったんだから、許してあげて?」
そんな紅夜に苦笑を浮かべながら、ことりはそう言って彼を宥めた。
確かにいきなりジャージを脱がせた穂乃果が悪いが、彼女も別に悪気があった訳ではない。ましてや紅夜に痴漢の冤罪を吹っ掛けようなど思ってもいないのだから。
「……まぁ良い。取り敢えず問題は無さそうだから、俺は講堂に戻っておく」
「あっ……」
そう言って控え室を出ようとする紅夜に、穂乃果は小さく声を漏らす。
そのままドアを開けて外へ出るのを見て残念そうに顔を伏せるが、『そうそう』と何かを思い出したような彼の声に、再び顔を上げる。
「……今更だが、似合ってるぞ。お前等の衣装」
それだけ言うと、紅夜は今度こそ部屋を出ていった。
穂乃果達は暫く呆然と互いに顔を見合わせていたが、やがて小さく笑った。
そして部屋にある机や椅子を端へ移動させ、本番に備えて最後の通し練習を始める。そして確認を終えると、3人手を繋いで舞台へと移動を始めるのだった。
最高のライブにしようと誓って。
そして、その先に厳しい現実が待ち受けているとも知らずに。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「……よし、送信完了っと」
一方、控え室を出てきた紅夜は、講堂へ向かいながらとある人物にメッセージを送っていた。
今日のために呼んだ"客人"に、学校に到着してからの指示を改めて出しておいたのだ。
「にしても、今回は部外者だけでそこそこの人数になるな」
今回やって来る"客人"は10人。講堂の広さからすれば雀の涙程度でしかないが、それでもたった1日で人数が2桁に到達しただけ上々だろう。
それも、穂乃果達がやっていたチラシ配りのように来る
「さてさて、取り敢えず観客10人は確定として、
講堂に辿り着いた紅夜は、そう言いながらドアを開けて中に入る。
「………え、マジで?」
そして中を一通り見回すと、ポカンとした表情でそう呟いた。
満席とはいかずとも数人は来るだろうと思っていた講堂の観客席は、見渡す限り空席だ。生徒の姿はおろか、荷物を置いて席だけ取っているという様子もない。
「小泉は……居ないか」
あの日、態々ライブを見に行くと宣言していた花陽の姿も見えなかった。
だが、仕方無い事でもある。
もしかしたら、用事や体調不良等で来られなくなってしまった可能性もあるからだ。
《スクールアイドルμ'sのファーストライブは、間もなく開演となります!ご覧になられる方はお急ぎくださーい!》
放送席から呼び掛けるフミコの声が、空しく響き渡る。
「…………」
1度講堂を出て、廊下の様子を窺う紅夜。しかし、やはり生徒が来る気配は無い。
ここで彼は、何故このような結果になったのか、何がいけなかったのかと改めて考えてみる。すると、あの時には気づけなかったもう1つの点が浮き上がった。
それは、ファーストライブの日程だった。
先ず、彼女等のファーストライブは今日、新入生歓迎会後の午後4時となっているが、よく考えれば、その時点で間違っていたのだろう。
新入生歓迎会当日は、どの部活も1人でも多くの新入部員を獲得しようと躍起になっているし、部活動に入るつもりが無い生徒は、そもそも歓迎会が終わって解散となった時点で帰宅しているだろう。
ライブの開演時刻が4時でクラスの解散時刻が3時過ぎである事を考えると、待ち時間があまりにも長すぎる。これなら他の部活動の見学に行く方が遥かに有意義と言えるだろう。
それに加えて穂乃果達は、別にプロのアイドルだとか有名人である訳でもない、ただの一般生徒だ。
ついこの間結成したばかりである無名のスクールアイドルのライブを1時間近く待たされてでも見ようとする物好きは居ないと言っても過言ではない。
町や広場で見掛けるストリートミュージシャンを思い浮かべてほしい。往来のど真ん中で歌っていても、それに足を止めて耳を傾ける者はほんの少ししか居ない。何なら、全員素通りする事だって珍しくない。
それらの事を考えれば、こうなるのも当たり前と言えば当たり前である。
「見切り発車同然で始めたが故にその辺まで考えが至らなかったって訳か……まぁ、それに今まで気づかなかった俺も悪いんだが」
そう呟いていると、ポケットに突っ込んでいたスマホが震える。取り出して電源を入れると、『着いた』と短くメッセージが表示されていた。
「……『了解』っと」
紅夜はメッセージを返すと、講堂へ戻る。
最前列の席へやって来ると、ステージを隠す幕の向こうから、既に控え室から移動してきたのであろう穂乃果達の笑い声が聞こえてくる。『最高のライブにしよう』という穂乃果と、それに答える海未やことりの声が。
そして開演を告げるブザーが鳴り、幕が左右に捌けていく。
「……え?」
穂乃果の口から、間の抜けた声が漏れ出した。
両隣に立つ海未やことりは、目の前に広がる光景に言葉を失っている。
見渡す限りの空席、その中にポツンと立っている紅夜………これが、全てを語っていた。
「ゴメン、皆……頑張ったんだけど」
ただ呆然と突っ立っている3人の元へ、そんな弱々しい言葉と共にフミコがやって来た。
ミカやヒデコも、申し訳なさそうな表情で近づいてくる。
「…ほの、か……ちゃん……」
「……穂乃果」
海未もことりも何とか声を絞り出すが、その声は何とも弱々しい。彼女等も、この現状にショックを受けていたのだ。
「ッ……そ、そりゃ、そうだよね……世の中そんなに、甘く……ないッ!」
努めて明るく振るまい、そう声を張り上げる穂乃果。だが彼女の姿は、誰がどう見ても強がりにしか見えなかった。
その青い目には涙が溢れ、唇も震えている。
「………………」
そんな3人の元に、紅夜はゆっくりと歩みを進める。
「長門、君……ごめんね」
震える声で、穂乃果は謝罪の言葉を口にした。
強引な勧誘の末に、期間限定という条件でマネージャーを引き受けさせたにもかかわらず、こんな結果になった事を申し訳なく思っているのだろう。
ことりや海未も、同じような視線を向けている。
紅夜はそんな3人を少しの間見つめた後、静かに首を横に振った。
「……謝らなくても良い。こうなったのは俺にも責任があるからな」
「そ、そんな事……!」
そんな事は無いと否定しようとする穂乃果を遮り、紅夜は言葉を続ける。
「実は、お前等がチラシ配りを始めた辺りから違和感があってな。それが何なのかずっと分からなかったが、昨日漸く分かったんだ」
そうして紅夜は、自分の中で導き出した答えを語る。
スクールアイドルの活動で学校を有名にするのが目的なのに観客が生徒だけに限定されていた事や、ライブの日程、その開演時刻のタイミングがあまりにも悪かった事。
「だからこの結果を招いたのは、俺の責任でもあるんだ……すまなかった」
そう言って頭を下げる紅夜に、穂乃果達は掛ける言葉が見つからない。
その後、頭を上げた紅夜は取り出したスマホを操作しながらこう言った。
「だからコレは、俺なりの償い。そして……」
最後の操作のところで手を止めた紅夜は、穂乃果達に目を向けた。
「俺がお前等にしてやれる、最初で最後のお節介だ」
その言葉と共に、彼の指がスマホの画面に叩きつけられる。
がらんとした講堂にコール音が数回響き、応答した人物に指示を出した。
「俺だ。もう入って良いぞ」
その言葉を合図に、講堂の扉が勢い良く開け放たれた。
「イェェ~~イ!!BLITZ BULLET様のお通りじゃ~い!!」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
威勢良く入ってきた大河に、紅夜を除いた全員が振り向く。
そこには、彼を始めとした紅夜の幼馴染み5人と、中学生と思しき女子生徒が4人。そして……
「兄様!」
その集団から抜け、紅夜の元へ駆け寄る黄緑のロングヘアの少女。彼の妹、長門綾だ。
「よぉ、綾。お前も来たんだな」
飛び込んできた妹を受け止める紅夜。
「此所来る途中で綾が帰ってんの見かけてさ、ついでに拾ってきたのさ」
ゾロゾロ近づいてくる集団を代表するように、達哉が言う。
穂乃果達は、何が何だか分からないといった様子でポカンとしていた。
「な、長門君……この人達は?」
「ん?そんなの見れば分かるだろ」
そう言った紅夜は綾を優しく引き剥がすと、得意気な笑みと共に振り向いた。
「……お客さんだ。理事長に許可を貰ったから、勝手ではあるが呼ばせてもらった」
「「「……!」」」
「俺等だけじゃねぇぜ?実は後2人居るんだよ」
顔を輝かせる穂乃果達だが、大河が更に言葉を付け加える。そして出入り口の方を向くと、口笛を響かせた。
「おーい、入ってこいよ嬢ちゃん達!」
すると、先程とは打って変わって静かにドアが開き、眼鏡を掛けた大人しそうな少女、小泉花陽がひょっこりと顔を覗かせた。
「お、遅れてごめんなさい……」
「こ、こんにちは」
彼女に続く形で、凛も講堂を覗いている。
「ホラ、2人共!そんな所に突っ立ってないで早く此方おいでよ!ライブ始まっちゃうよ!」
そう2人を呼び寄せた雅は、紅夜の方を振り向いてウインクした。
「……あいよ」
紅夜は穂乃果達の方へ向き直り、ライブの開始を促した。
「お前等の望んだ形とは違うかもしれんが、こうして客は揃った…………これで、ライブ出来るよな?」
「長門君……!」
感極まって再び涙を浮かべる穂乃果。ことりや海未も、同じ反応だった。
フミコ達は漸く状況が飲み込めたのか、互いに顔を見合わせて頷き、曲や照明の準備をするべく走り出した。
それを見届けた紅夜は、不適な笑みを浮かべて言った。
「さあ、泣いてる暇があったらさっさとライブを始めるぞ。俺もコイツ等も、お前等のリタイアを見に来たんじゃない。スタートを見に来たんだからな」
「「「……うん(はい)!!」」」
頷いた3人は各々の定位置へと戻る。そして……
「「「μ'sic、スタート!!」」」
女神達のライブが、始まった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「「「ありがとうございました!!」」」
曲が終わり、手を繋いだ3人が一斉に頭を下げると、花陽や凛、達哉達の拍手が講堂に響く。
20人にも満たない少人数だが、彼等の拍手の音は、それを感じさせない程に大きかった。
「………」
歓声を上げる幼馴染み達の傍では、紅夜も拍手を送っている。
その表情は何時もの無表情ではなく、優しいものだった。
すると、そんな拍手の中からカツカツと足音が鳴り、一行がその音の主へと視線を向ける。
そこに居たのは、絵里だった。
「……これからどうするつもり?」
見に来た観客を一通り見てから、穂乃果達に訊ねる絵里。
開始前の穂乃果達なら打ち切りにしていたかもしれないが、ライブが終わった今、あの時感じた絶望など吹き飛んでいた。
「続けます!」
その青い瞳に強い意志を宿し、穂乃果はそう返した。
「どうして?今日のこれを見るに、続けたところで意味は無いと思うけど?観客だって、そこの2人を除けば全員学外の方々じゃない。そんな状態で、何故これからも続けようと思えるの?」
「やりたいからです!」
またもや穂乃果は即答する。
「確かに今回のライブは、長門君が……
穂乃果の思い付きで、見切り発車同然に始めたアイドル活動。当然、問題は山積みだったし、練習も、これまで体育や運動会を除けば殆んど運動をしてこなかった彼女にとっては厳しいものだった。
しかし、それを嫌だと感じた事は1度も無い。大変ではあったが、同時に楽しさや達成感を感じてもいたのだ。
「このまま、誰にも見てもらえないかもしれない。応援してもらえないかもしれない……でも、私達で精一杯やって、伝えたいんです!この思いを!」
「…………」
「私達はまだまだですけど、何時か……何時か必ず!」
そこで言葉を区切った穂乃果は、最後の一言を講堂に響かせた。
「
それから暫く静まり返っていた講堂だったが、不意に大河が拍手を始め、それにつられて達哉や瑠璃達も拍手を始めた。
「おぉ、良いぞお前等!頑張れよ~!」
「派手にぶちかましてやんな!」
「応援してるよ~~!!」
特に達哉や大河、雅はそんな声援を送っており、女子生徒達もキャッキャとはしゃいでいる。
「…………」
絵里はそんな彼等を一瞥すると、静かにその場を去っていった。
「ホラ、紅夜」
去っていく絵里を見送る紅夜に、瑠璃と蓮華が近寄る。
「ん?どうした?」
「『どうした?』じゃないわよ。一応あの子達のマネージャーやってたんでしょ?声くらい掛けてきてあげなさいな」
そう言って、紅夜を押し出す瑠璃。
彼は頷くと、ステージから降りてきた3人と向き合った。
「3人共、一先ずおつk──」
「「「紅夜君(紅夜さん)!」」」
労いの言葉を掛けようとする紅夜だったが、それは3人が一斉に飛び込んできた事で遮られる。
「ちょ、おい待てお前等!一斉に来る馬鹿が……うぉわぁ!?」
アメリカで鍛えられていた紅夜でも、流石に3人同時の不意打ちタックルを喰らえば敵わない。そのまま勢いに負けて押し倒されてしまう。
背中の痛みを感じながらも抗議しようとする紅夜だったが、3人が自分の胸に顔を埋めて泣いているのを見るとその気も失せてしまい、暫くは彼女等の好きにさせる事にした。
「ヒューヒュー!幸せモンだな紅夜!」
「(
その際、綾や瑠璃からの嫉妬に溢れた視線を受けながら、紅夜は冷やかしてくる大河をどう処刑してやろうかと考えるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
その後、泣き止んだ穂乃果達が様子を見に来たヒデコ達に冷やかされて顔を真っ赤に染めるというハプニングがありながらも、ライブの片付けもつつがなく終わった。
「それじゃあ、私達はここらでお暇させてもらうわ」
「またね、紅夜」
「そんじゃな~!」
先に帰った花陽や凛に続き、各々の愛車に乗り込んで帰っていく幼馴染み達を見送ると、それと入れ替わるようにして希が近づいてきた。
「お疲れ様、ええライブやったな」
先程の絵里とは逆に、柔らかな笑みを浮かべている希。
「それにしても、まさか外部の人呼んでくるなんて思わんかったわ。中々考えたな、長門君」
「この学校の事を広めるなら、コレが一番だと思ってな。まぁ思い付いた時期が遅かったから、たまたま予定が空いていた幼馴染みやその関係者しか呼べなかったが」
「それでも、この学校の認知度アップに繋がった事は変わらんよ。チラッと見たら中学生や他の高校の子も居ったみたいやから、その子達が広めてくれる筈や」
その言葉にウンウンと頷く穂乃果達。
彼女等も、自分達が今まで気づけなかった事に気づき、解決のために行動に移してくれた紅夜には感謝していた。
「さて、前置きもこのくらいにして……長門君、取り敢えずお試し期間は終了した訳やけど……どうかな?」
「……やはり、そうきたか」
そう言って、紅夜は深い溜め息をついた。
期間限定のマネージャーを引き受けてから約3週間、彼は穂乃果達と行動を共にしてきた。
基本的にはパフォーマンスや体力作りのトレーニングのみ担当していたが、それでも彼女等の人となりは、ある程度分かったつもりだ。
「(少なくとも、コイツ等が悪人じゃねぇってのは分かったんだがな………)」
昔とは違い、自分が相手にしているのは高校生だ。小学生の頃とは違って物事の善悪はきちんと見分けられるし、そもそも彼女等がそんな事をするような人間ではない事は、これまで活動を共にしてきて分かっている。
だが、頭では分かっていても、未だ心がついてきていなかった。
だからこそ、彼は眼帯を外すこともしなければ、穂乃果達が名前で呼んでいるにもかかわらず、自分は相変わらず名字で呼んでいるのだ。
「……残念ながら、このまま続投って訳にはいかないみたいやね」
「……ああ、すまないが」
そう言う紅夜に、希は『ええんや』と首を横に振った。
そして次に、穂乃果が口を開く。
「紅夜君の過去に何があったのかは分からないけど、それだけの事情があるんでしょ?なら、無理矢理マネージャーなってもらう訳にもいかないから。紅夜君がマネージャーをやらないって言うなら、
以前までしつこく勧誘してきた時とは違い、潔く身を引く穂乃果。海未やことりも何も言わないのを見る限り、2人も同じ意見なのだろう。
「そうか………ん?おいちょっと待て、『今は』とはどういう事だ?」
安心したように言う紅夜だったが、穂乃果が言った『今は』という言葉が引っ掛かり、その意味を問い質す。
「だって、今は未だマネージャーをやろうとは思えないってだけで、今後考えが変わるかもしれないでしょ?私、今は止めておくとは言ったけど、諦めるなんて一言も言ってないからね!」
「はぁ!?」
目を丸くして素っ頓狂な声を上げる紅夜。そんな彼に、希がニヤニヤしながら言葉を付け加えた。
「確かに。あの時交わした約束も、あくまでも『しつこく勧誘したらダメ』ってだけで、『勧誘自体やったらダメです、諦めなさい』とは言ってないしな~」
「ことりも、紅夜君の事は諦めたくないかな~。一緒に居て、凄く楽しかったし!」
「私も、貴方にマネージャーをやってほしいという気持ちはありますから……こればかりは譲れませんね」
他の2人も、苦笑を浮かべながらも穂乃果や希を止めるつもりは無いようだ。
最早多勢に無勢である。
「お、お前等………!」
完全にしてやられたと、紅夜は思った。
マネージャーを続けない事は決定だとしても、結局は彼女等から狙われる生活が終わる事は無いのだ。
「………もう手に負えん。お前等の勝手にしてくれ」
これまで作ってきた無愛想キャラが崩壊しているのも構わず、ガックリと肩を落とす紅夜。
そんな彼に、3人の女神達は笑顔を向けて言うのだった。
「「これからもよろしくね、紅夜君!」」
「よろしくお願いします、紅夜さん!!」
さて、次回からは1年加入編を予定しております。
ここから暫くはサクサク進めていける筈……多分、きっと、maybe