ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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 な、何とか書けた……

 後編は書き溜めしてないから、1から書かねば……


第30話~アウトローとまきりんぱな・中編~

 真姫の生徒手帳を届けた先で、彼女の母・美姫の誘いを受け、西木野宅にお邪魔する事になった紅夜と花陽。

 中に案内された彼等を待っていたのは、あの外観に違わぬ豪華なリビングだった。

 

「す、凄い……」

 

 キョロキョロと室内を見回す花陽。

 

 壁に掛けられた高そうな絵画を始め、中央に置かれた高級な絨毯やフカフカのソファー。そして天井からぶら下がっているシャンデリア。

 一般家庭出身の彼女からすれば、何れも一生お目に掛かれないとすら思っていたものだった。

 

「す、凄いですね。先輩」

「……ああ、そうだな」

 

 そう答える紅夜だが、実際はあまり驚いてはいなかった。

 と言うのも、幼馴染みの1人である蓮華の家が真姫の家とほぼ同じくらいの豪邸で内装も似ていたため、昔はよく互いの家に遊びに行っていた彼からすれば、それ程驚くようなものでもなかったのだ。

 

 そこへ、茶菓子を乗せたトレーを持った美姫がリビングに入ってくる。彼女は2人にソファーを勧め、自分も向かい側に腰を下ろした。

 それから2人(と言っても主に紅夜)が美姫からの質問に答えると言ったやり取りが続いていたが、玄関が開く音と真姫の声で中断される。

 

「あら、やっと帰ってきたみたいね」

 

 そう言って立ち上がった美姫はリビングを出て、帰ってきた娘を出迎える。

 

「ママ、玄関に知らない靴があったけど誰か来てるの?」

「ええ、貴女にお客さんよ。落とし物を届けに来てくれたから、お礼を言っておきなさいな」

 

 そんなやり取りを交わしながらリビングに入ってきた真姫は、その客人の正体に目を見開いていた。

 

「お、お客さんって貴方達だったの!?」

「こ、こんにちは~」

 

 そんな彼女におずおずと挨拶する花陽。

 

「……邪魔してる」

 

 紅夜も淡々とした口調で続いた。

 

 少しして真姫も落ち着きを取り戻し、紅夜達の向かい側。先程まで美姫が座っていた場所に腰を下ろした。

 

「手帳、ママから受け取ったわ。態々ありがとうね」

 

 少々無愛想ながらも礼を言う辺り、根は真面目なのだろう。

 

「それにしても、まさか貴方も来るなんて思わなかったわね……知り合いだったの?」

 

 そう言う真姫の視線の先に居るのは、言うまでもなく紅夜だった。

 1年生のクラスが1つしかない事を含めたこれまでの経験から、彼が違う学年である事は言うまでもない。本来なら出会う事もなく1年を終えていただろう。

 そんな彼が花陽と一緒に自分の家に来ているのだから、真姫は少し驚いていた。

 

「……まあな」

「えっと、この前ちょっと助けてもらって……それからたまに会う事もあったの」

 

 あまり多くを語ろうとしない紅夜の代わりに、花陽が説明する。

 

「助けてもらった……?」

「う、うん。この辺は話すと長くなるけどね」

「そう……」

 

 それから両者の間で暫く沈黙が流れるが、意外にも紅夜が口を開いた。

 

「そう言えば西木野、お前スクールアイドルに興味あるのか?」

「え?な、何よ藪から棒に?」

 

 あまりにも唐突な質問に驚く真姫。だがその表情は、僅かに『何故分かった?』という気持ちも混ざっているように見える。

 

「いや、コイツが言うには、お前の手帳が落ちてたのはμ'sの勧誘ポスターの傍だったらしいからな。スクールアイドルに、ひいてはμ'sに興味があるんじゃないかと思っただけだ」

 

 『それに』と付け加えた紅夜は、彼女の鞄を指差した。

 

「その外側のポケットのチラシ……それもμ'sの勧誘のチラシだろ」

「ッ!ち、違っ。コレはその、ちょっと拾っただけで……!?」

 

 勢い良く立ち上がって言い訳をする真姫だったが、膝をテーブルに強打してバランスを崩したのか、座っていたソファー諸共盛大に引っくり返ってしまう。

 

「だ、大丈夫!?」

「何やってんだお前は……」

 

 心配そうに声を掛ける花陽の隣で、紅夜は呆れ返っていた。

 

「あ、貴方が変な事言うからじゃない!」

「いや人のせいにするなよ……」

「どう考えても(あなた)のせいでしょうが!」

 

 出来の悪いコントのようなやり取りを繰り広げる2人。それを見て可笑しくなったのか、花陽はクスクスと笑っていた。

 

「そこ、笑わない!」

 

 そんな花陽を指差しながら、真姫は声を張り上げた。

 

 

 

 それから紅夜と花陽は引っくり返っている真姫やソファーを起こし、再び腰を下ろした。

 

「そう言えば、西木野さんってスクールアイドルにはならないの?」

 

 不意に、花陽がそんな問いを投げ掛ける。

 

「私が?どうして?」

「だって西木野さん、音楽得意でしょ?それにピアノも歌も上手だったし、あんなに上手なら、スクールアイドルになってもやっていけるんじゃないかなって思って……」

「…………」

 

 真姫はそんな花陽を暫く見つめた後、小さく溜め息をついて言った。

 

「生憎、それは無理な話ね。私の音楽はもう終わってるんだから」

「……?終わってる、と言うと?」

 

 今度は紅夜が聞き返す。

 

「私、大学は医学部に進むって決まってるの。親の病院を継ぐためにね。だから私の音楽は、もう終わってるって事よ」

 

 達観したように言う真姫だが、紅夜は何と無く、本心で言っているのではないのではないかと感じていた。

 

 本当に自分の音楽は終わりだと思っているのなら、放課後に音楽室でピアノを弾いて遊んだり、自分を音楽室に連行して曲を弾かせたりしないだろう。

 それに医学部に進むのなら、恐らく普通の大学に進学するより多く勉強しなければならない。何ならこうして自分達と話をしている暇すら無い筈だ。

 

「それより小泉さん、貴女はどうなの?」

 

 不意に、真姫がそんな事を訊ねる。

 

「貴女、スクールアイドル好きなんでしょ?この前のライブも凄く熱心に見てたし」

「う、うん……もしかして、西木野さんも来てたの?講堂では見なかったけど……」

「ち、違うのよ?ちょっと通り掛かった時に音が聞こえたから覗いてみただけで……って、私の事は良いのよ私の事は」

 

 自分の事は後回しとばかりに、真姫は言った。

 

「それで、どうなの?スクールアイドル」

「そ、それは好きだし、やりたいって気持ちはあるけど……」

「じゃあやれば良いじゃない。あんなに熱心に見てくれてるなら、先輩達だって無下にはしない筈よ」

「(……まぁ、コイツの言う通りだな)」

 

 紅夜は心の内で相槌を打った。

 今、穂乃果達μ'sは練習と並行して更なるメンバーを募集している。花陽のように熱心なスクールアイドルファンが入ってくれるのなら、向こうも喜ぶだろう。

 

「少しでもやりたいって気持ちがあるなら、やるべきよ。もし本気でスクールアイドルをやるのなら……私も、少しくらいは応援してあげるから」

 

 そう言って優しく微笑んだ真姫に、花陽は花が咲いたような笑顔で頷いた。

 

 

 

 それから日が傾き始めたのもあり、2人は帰る事にした。駐車場から紅夜がR34を持ってきて、花陽が助手席に乗り込む。

 

「じゃあ、俺達はこれで」

「お菓子、御馳走様でした」

 

 開いた窓から紅夜と花陽が声を掛けると、真姫と共に見送りに出てきた美姫が微笑む。

 

「また何時でも来てね……ホラ、真姫」

「あの……今日はありがとう」

 

 美姫に促された真姫が、再度礼を言う。

 

「もうこんなもの落とすなよ?校内なら未だマシかもしれんが、外だとどんな人間に拾われるか分からんからな」

「ええ、気を付けるわ」

 

 真姫が頷くと、紅夜は車を発進させようとする。

 

「……ああ、そうだ。おい西木野」

 

 だが、そこで何かを思い出したかのように真姫へ声を掛けた。

 

「何?」

「お前はさっき、小泉に『やりたいならやれば良い』と言っていたが………それは、お前にも言える事だぞ」

「え…?ちょっと、それはどういう──」

「じゃあな」

 

 真姫が聞き返そうとするのを遮ってそう言った紅夜は、今度こそ車を発進させた。

 

 

 

「あの、今日はありがとうございました」

 

 真姫の家を出発して暫くすると、花陽が口を開いた。

 

「……別に構わん。案外良い暇潰しになったからな」

 

 ぶっきらぼうに聞こえつつも、何処か照れ隠しにも聞こえるような彼の言葉に苦笑を浮かべる花陽だったが、先程の彼の言葉を思い出し、その真意を訊ねた。

 

「ところで長門先輩。さっき西木野さんに言ったのって、どういう意味なんですか?」

「……お前も聞いてくるのか」

 

 溜め息混じりにそう言うと、紅夜は説明を始めた。 

 

「さっき西木野は、自分の音楽は終わりだと言っていたが、何処か諦めきれないような、そんな顔をしていたように見えてな……そこでだ、小泉。彼奴の母親が言ってた事を思い出してみろ」

「……?西木野さんのお母さんが言ってた事、ですか?」

「ああ、そうだ。あの人は西木野が自分達の病院を継ぐ事になっていると言っていたが……その手前に、『一応』って言ってたろ?」

「……あっ、確かに!」

 

 そう。美姫は真姫が将来自分達の病院を継ぐ事に関して明言はしておらず、『一応』と曖昧な表現を付け加えている。

 すなわち、真姫が病院を継ぐかどうかは未だ確定していないという事になるのだ。

 

「この事から西木野の親は、病院の経営者として言えば継いでほしいが、親としては娘のやりたいようにさせてやりたい。だからもし、病院を継ぐ以外にやりたい事を見つけたなら、そっちに進んでほしいと思っている……という考え方も出来る訳だ」

 

 その言葉に、花陽はコクコクと相槌を打つ。

 

「だが、娘の方はそれに気づいてない。恐らく自分は親の跡を継がなければならないって事しか頭に無いんだろうな」

「……じゃあ先輩は、その事に気づかせてあげるためにあんな事を?」

「……さあな」

 

 それから暫くは無言を貫き、花陽のナビ通りに車を走らせていた彼だが、ある建物が目に留まると再び口を開いた。

 

「悪いが、ちょっとあの店に寄っても良いか?」

 

 そう言って彼が指差したのは、編入前に訪れた穂むらだった。

 

 実はあのドライブの後、帰って家族に食べさせたところ意外と好評で、また機会があったら買ってくるように頼まれていたのだ。

 

「良いですよ。私も家族にお土産買おうと思ってたので」

 

 花陽の承諾を得た紅夜は車を停め、店の扉を開ける。

 その先には、割烹着姿の穂乃果が立っていた。

 

「あっ、紅夜君!それに花陽ちゃんも!」

「こ、こんばんは……」

「……よう」

 

 店に入ってきた2人に気づいた彼女は、明るい声と共に出迎える。

 

「その服装……店番か?」

「そうなんだよ~。今日は海未ちゃんやことりちゃんと約束してるのにさ」

 

 そう言ってブー垂れる穂乃果。どうやら母親が用事で少し出掛ける事になったらしく、その間だけ店番を任されているという。

 

「その2人は、もう来てるのか?」

「ううん、今来てるのは海未ちゃんだけだよ。ことりちゃんはパソコン取りに行ってるんだ」

 

 そこまで言った穂乃果は、2人を交互に見て再び口を開いた。

 

「それより、紅夜君と花陽ちゃんが一緒に帰ってるなんて珍しいね。何時の間にそんな仲良くなったの?」

「別にそういう訳じゃない。コイツのクラスメイトの落とし物届けに行くのに付き合わされてただけだ」

 

 即座に否定する紅夜だが、その隣では花陽が少し残念そうにしていた。

 確かに付き合わせたのは事実だし、あまり彼と親交がある訳でもないが、だからと言って赤の他人扱いされるのは、少し寂しかった。

 

「クラスメイト……?もしかして、この前アルパカ小屋に居た時に来たオレンジ色の髪の子?」

 

 そんな花陽だったが、穂乃果がそう訊ねると紅夜の代わりに答える。

 

「い、いえ。西木野さんです……生徒手帳落としてたから」

「西木野さん!?」

 

 そこで穂乃果は食いついた。前から彼女のピアノや歌の上手さに目をつけていたのもあって、そんな彼女の家に2人が行ったというのは、彼女にとっては無視出来ない情報だった。

 

「そ、それで?どうだったの?」

 

 この質問は、恐らく彼女を勧誘したのか、はたまたどんな反応を見せたのかを訊ねているのだろう。

 

「小泉がスクールアイドルやらないのかと聞いていたが、本人はやらないと答えてたな」

「そっか……」

 

 残念そうな表情を浮かべる穂乃果。

 それから両者の間に沈黙が流れるが、本来の目的を思い出した紅夜が話を切り出そうとするも、それより先に復活した穂乃果が口を開いた。

 

「まぁ、それはそれとして。良かったら2人共上がっていってよ!ことりちゃんがパソコン持ってきたら、この前のライブの映像を皆で見ようって話してたんだ!」

 

 穂乃果はそう言って、部屋へ上がるよう促した。

 どうやら、先日のライブの映像が何者かによってネットに投稿されていたらしく、その映像を見て反省会をしようというのだ。

 

「いや、俺は……」

 

 家族へ土産を買いに寄っただけであるために断ろうとする紅夜だが、花陽がそっと袖を掴んで言葉を遮る。

 そのままじっと見つめてくる彼女に断れそうにないと悟ったのか、紅夜は溜め息をついた。

 

「まぁ、そうだな。一応このライブには俺も関わったんだ、見ても損は無いか」

「やった!じゃあ穂乃果の部屋で待ってて!ことりちゃんが来たら直ぐ行くから!」

 

 穂乃果にそう言われて2階へと上がってきた2人だが、ここでちょっとした問題が発生した。

 それは……

 

「……そう言えば、彼奴の部屋って何れだ?」

 

……そう。彼女に促されるまま上がってきた彼等だが、肝心の彼女の部屋の場所を聞きそびれていたのだ。

 面倒だが聞き直しに1階へ降りようかと考える紅夜だったが、それより先に花陽が近くのドアを開けていた。

 

「お、おい。先にノックした方が……」

 

 時既に遅しとは正にこの事。ドアが開かれ、裸にバスタオル1枚巻き付けただけというあられもない姿の少女、雪穂が鏡の前で必死に胸を寄せている光景が広がった。

 

「…………」

 

 紅夜は光の速さでドアを閉めると、何事も無かったかのようにもう1つのドアへ向き直り、ノックをする。

 

「♪~……!」

 

 だが返事は返されず、代わりに海未と思しき少女の歌声が聞こえてくるだけだ。

 

「園田、居るのか?入るぞ」

 

 そこに立っていても意味は無いため、一先ず断りを入れてドアを開ける紅夜。

 すると、ちょうど海未も歌い終えたらしく、上機嫌でポーズを決めていた。

 

「ありがとー!」

 

 ステージで踊っている姿を想像していたのか、そう言って手を振る海未。

 

「せ、先輩……コレはどう反応すれば?」

「……俺に聞くな」

「ッ!?」

 

 2人が困惑していると、その声が聞こえたのか海未が勢い良く振り向く。そして此方を見ている2人へ向けて一言。

 

「………見ました?」

 

 短くそう訊ねた。

 

「あ~……まぁ、見たと言うか、何と言うか……」

 

 するともう1つのドアも開き、雪穂がバスタオル姿のまま出てきた。

 

「……見ました?」

 

 海未と全く同じ台詞を吐く雪穂。

 こうなれば、最早逃げ道は無いに等しい。

 

「(クソッ、恨むぞ小泉……)」

 

 心の内で花陽に悪態をつきながら、紅夜はコクりと頷いた。

 

 

 

 

 その後はラブコメアニメの如く2人からの平手打ちを喰らう……なんて事にはならず、2階の騒ぎを聞いた穂乃果がやって来た事で何とか事なきを得た。

 雪穂は顔を真っ赤に染め、『もうお嫁に行けない……』等とぶつぶつ言いながら部屋に引っ込んでおり、それを見た紅夜が彼女にバレないように合掌していたのは余談である。

 

「それにしても、海未ちゃんがキメポーズしてたなんてねぇ~?」

 

 部屋に入ると開口一番、穂乃果がからかうように言う。

 

「そ、それは……穂乃果が途中から店番で居なくなるからですよ!」

 

 何とも理不尽な理由をつける海未に、花陽は苦笑を浮かべる。

 

「と、ところで!紅夜さんと花陽さんが一緒だなんて、また随分と珍しい組み合わせですね」

 

 話題を逸らそうとしたのか、紅夜と花陽を標的にする。

 

「何か、西木野さんの落とし物届けに行ってたみたいだよ?良いなぁ~。私も紅夜君の車に乗りたかったのに」

「……穂乃果の場合、単に歩いて帰るのが面倒なだけでしょう?」

 

 呆れたように言う海未。どうやら図星だったらしく、穂乃果は『バレた?』とでも言うようにあざとくペロッと舌を出した。

 

 それから少しすると、再び足音が近づいてくる。そして部屋のドアが開かれ、鞄を持ったことりが姿を現した。

 

「遅れてごめんね~って、紅夜君に花陽ちゃん?2人も来てたんだね!」

 

 そう言って入ってきたことりは、紅夜達が来ている事に驚いていた。

 

「ああ。土産を買いに寄ったら、そのまま成り行きでな」

 

 紅夜が答えると、花陽も相槌を打った。

 

 そうしてことりはパソコンを起動し、件のサイトを開く。

 

「コレなんだけどね……」

 

 そう言ってパソコンを見せてくることり。どうやらスクールアイドル専門の映像投稿サイトのようだ。

 

「それにしても、誰が投稿したんだろうね?」

 

 穂乃果が首を傾げた。

 この事を知った彼女は、一先ず今回のライブで手伝ってくれたミカ達にも訊ねてみたものの、彼女等はやっていないという。

 そもそもこの3人は音響や照明として動いていたため、動画を撮るのは物理的に不可能だった。

 

「…………」

 

 そんな中、首を傾げている者がもう1人居た。紅夜だ。

 しかし彼が首を傾げているのは、彼女等とはまた別の理由だった。

 

「(蓮華の奴、このサイトに投稿したのか?彼奴の事だから、てっきり自分のブログに投稿すると思ってたが……)」

 

 そう。紅夜は幼馴染み達をライブへ誘った際、ウェブデザイナー兼ブロガーとして活動している蓮華に、宣伝を兼ねて穂乃果達μ'sのライブ映像をブログに投稿するよう依頼していたのだ。

 

「……?紅夜君、どうしたの?」

 

 すると、じっと画面を見ている紅夜を不思議に思ったのか、穂乃果が訊ねてくる。

 

「……高坂、お前等の動画が投稿されてるのはこのサイトだけか?」

「え?」

 

 『何故そんな事を?』とでも言いたげな表情で聞き返す穂乃果だったが、そんな彼女の代わりに海未が答えた。

 

「いえ、もう1つ別のサイトにも投稿されていたみたいです。どうやら以前のライブに来てくれた外部の方がブログに投稿したようでして……」

 

 そこまで言いかけたところで、海未はハッとなって紅夜を見つめる。

 

「もしかして、その映像って……」

 

 すると、穂乃果やことりも紅夜の方を向いた。

 

「……ああ、そうだ。このサイトは知らんが、もう一方に投稿したのは俺の幼馴染みだ。彼奴はこの界隈だとかなり有名だから、宣伝にもなると思ってな」

 

 そう言うと、3人の目が輝く。

 

「まさか、お客さんを呼んでくれただけでなくそこまでしてくれていたとは……」

「本当に凄いよ紅夜君。ことり達が考えられなかった事、いっぱい思い付いて実行しちゃうんだもん」

「ありがとう、紅夜君!」

 

 次々と感謝を伝える3人。それを見ていた花陽も、尊敬の眼差しを向けていた。

 

「別に。あの時は未だマネージャーだったから、その仕事をしただけだ……それより、動画見るんだろ?さっさと見よう」

 

 そう言って、早く再生しろと促す紅夜。ことり達はそれが照れ隠しだと見破ったのか、ニコニコと笑みを浮かべながら動画を再生した。

 

 

 それからは、ここの振り付けが上手く出来たとか、声が裏返らなかったとか、そんなやり取りが交わされていた。

 彼女等が当時の事を楽しそうに話している傍らでは、花陽が熱心に動画を見ていた。

 

「…………」

 

 部屋の隅で壁に凭れている紅夜は、そんな花陽を見て思った。

 

「(こんだけ熱心に見てるって事は、やっぱりやりたいんだろうな。スクールアイドル)」

 

 穂乃果達のライブに来た事は勿論だが、スクールアイドルの曲を着メロに設定している事や他人の車に乗っているのも忘れてスクールアイドルのラジオに熱中するのを見る限り、彼女が大のスクールアイドル好きだというのは明らかだ。そして、今もこうして穂乃果達のライブ映像を熱心に見ている。

 これだけの要素が揃えば、彼女も内心では、自分もスクールアイドルをやってみたいと思っているというのは容易に考え付く。

 

「ねぇ、花陽ちゃん」

 

 すると、不意に穂乃果が声を掛ける。

 

「は、はい?」

「スクールアイドルなんだけどさ、本当にやってみない?私達と一緒に!」

「えぇっ!?」

 

 勧誘されるとは思っていなかったのか、花陽は目を大きく見開いて驚く。

 

「で、でも、私なんて……声も小さいし、臆病だし。とてもスクールアイドルなんて……」

「私も人前に出るのは苦手ですよ」

「そうそう。海未ちゃんってば、この前チラシ配りした時なんていきなりガチャガチャなんてやり始めてたし!」

「ちょ、ちょっと穂乃果!それは誰にも言わない約束……!」

 

 秘密をあっさり言われて思わず声を荒げる海未だったが、花陽も近くに居るのを思い出し、咳払いで誤魔化した。

 

「確かにプロのアイドルだったら、私達なんて到底足元にも及ばないよ。でもスクールアイドルなら、やってみたいって気持ちさえあれば誰でも始められるし、自分の目標を持って進んでいける。スクールアイドルって、そういうものじゃないかな?」

「だからさ。もし少しでもやりたいって気持ちがあるなら、やってみようよ!」

 

 ことりに続けて言った穂乃果は紅夜の方へと向き直り、『紅夜君もそう思うよね?』と同意を求める。

 

「……まぁ、そうだな。さっき西木野も言ってたが、やりたいならやってみれば良い」

「最も、練習は厳しいですがね」

「……園田、お前少しは空気というものをだな」

「あっ……コレは失礼」

 

 紅夜にツッコミを入れられる海未を見て、穂乃果達はクスクスと笑う。

 

 彼女の言う通り、確かに練習は厳しいだろう。だが、ただ苦しいだけではない。

 その練習の中にも楽しさはあるし、それらを乗り越え、ライブを成功させた時の達成感も、また格別だ。

 

「…………」

 

 気づけば花陽も、先程までの卑屈な姿勢は引っ込んでいた。

 今日の真姫の家や穂むらでの出来事は少なからず彼女に勇気を与えた筈である。

 

「ゆっくりで良いから、答えを聞かせて?」

「私達は何時でも、待ってますよ!」

 

 そんな彼女等に、花陽は明るい笑みで頷いた。

 

 

 

 その後は遅くなってきたのもあり、2人は手早く家族への土産を買って帰路につく。

 

「……あの、先輩」

「ん?」

「私に……いや、やっぱり何でもないです」

 

 そう言って顔を伏せる花陽だったが、紅夜は彼女が何を言おうとしていたのか分かっていた。

 大方、本当にスクールアイドルを始めたとして、自分がやっていけると思うかと聞こうとしていたのだろう。

 

「……未だ、決心はつかないか?」

「……はい」

 

 頷いた花陽は、ポツリポツリと話す。

 

「そりゃ、スクールアイドルは好きですし、やれるならやってみたいです。でも、入れてもらった後の事を考えたら、やっぱり怖くて……」

「…………」

「ご、ごめんなさい。何時までもウジウジしちゃって」

「別に謝る事じゃない。そうなるのは仕方無い事だ」

 

 『だが』と付け加えたところで路肩に車を止め、紅夜は続けた。

 

「お前は今、スクールアイドルが好きだと言った。なら、それで良いんじゃないかと俺は思う」

「……でも、私に向いてるかどうか」

「そもそもその考え自体が間違ってるんだ。俺達が重視しているのは()()()()()()()()であって、向いてるかどうかは聞いてない」

 

 バッサリと切り捨てる紅夜だが、言っている事は間違いではなかった。

 

 現に穂乃果達は、以前までスクールアイドルのスの字も知らなかったのだ。

 それに、運動部である程度体力がある海未は未だ良いとして、帰宅部である上に体育の授業以外では運動なんてしていなかった穂乃果やことりは、とてもスクールアイドルとしてやっていけるとは言えなかった。

 だが、そんな彼女等も、日々の練習でそれなりに踊れるレベルにまで漕ぎ着けた。

 

 要するに、先程から花陽が気にしている向いているか否かという問題は、その後の練習次第でどうとでもなるのだ。

 

「難しく考えなくて良い。結局はソイツの気持ちの問題だ」

「気持ちの、問題……」

 

 花陽は自分の胸に手を添える。そんな彼女を横目に、紅夜は小さく溜め息をついた。

 

「(やれやれ、ちょっと喋り過ぎたか……)」

 

 そうしている内に花陽の家に着き、彼女を降ろす。

 

「ここからは、お前が考えて答えを出すんだ。向いてるかどうかじゃなく、やりたいかどうかをな」

 

 それだけ言い残し、紅夜は車を発進させる。

 

「(……俺らしくねぇ。日本(こっち)ではあまり他人とは関わらないって決めてたのに、こうして何だかんだで関わっちまうなんてな)」

 

 非情になりきれず、かといって昔のように誰とでも話せた頃にも戻れない。そんな自分に若干の嫌悪を覚えつつ、紅夜は高速道路へ乗り入れ、世田谷へ向けて飛ばすのだった。




 どうでも良い事ですが、昨日からスクスタを始めました。
 元々は以前買ったにじよん1巻の特典が勿体無くて、取り敢えず貰っとこうと思って始めたのですが上手く出来ず、そのまま諦めてゲームを楽しんでいます。

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