ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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 大変長らくお待たせ致しました!


第32話~アウトローの休日~

 花陽達1年生の加入から数日が経った、ある土曜日の朝。紅夜はある場所を目指してR34を走らせていた。

 

「♪~」

 

 朝のラジオを聴きながら運転するその隣では、黄緑色のロングヘアの少女が鼻歌を歌っている。

 そう。今日は彼の妹・綾も一緒なのだ。

 

「ご機嫌だな、綾」

「そりゃそうよ。だって、兄様とお出掛け出来るんだもの。機嫌が悪くなる筈が無いわ!」

 

 これが運転中でなければ腕に抱きついてきそうな程の上機嫌で、綾は答えた。

 

 綾は現在高校2年生、本来なら部活やアルバイトをしたり友達と遊んだりする年頃なのだが、幼い頃からのお兄ちゃん子で、今となっては最早ブラコンの領域に達している彼女は、紅夜の帰省中は基本的に彼の傍に居たがった。

 以前の瑠璃達との集まりでは残念ながら用事があって不参加だったが、今日は予定も無く、彼の外出に同行出来ていた。

 

「それにしても、おっちゃん達に会うのもかなり久し振りだな……」

「ええ。確か最後に会ったのって、兄様が帰ってきた日だった筈よ」

「俺が帰ってきた日………となると、大体1ヶ月半ってところか。一応電話でやり取りしてたとは言え、こりゃまた随分空いちまったモンだな」

「仕方無いわよ。だって兄様、今までずっとμ'sの人達の練習に付き合ってたんだから。それが平日だけなら未だしも、土日も行ってたらそれだけ間も空くわ」

 

 まるで昔を思い出す老人のように言う紅夜に、綾がそう返す。

 因みに彼の言う『おっちゃん達』とは、彼等が小さかった頃によく一緒に遊んでいた者達であり、当然ながら紅夜の事情も知っている、身内や幼馴染み以外の理解者だ。

 紅夜も彼等には信頼を寄せており、身内や幼馴染み、走り屋仲間以外で眼帯を外して接する事の出来る存在である。

 

「(おっちゃん達に会ったら、色々話したいな。Rの事とかベンチュラの事とか、あの時話せなかった事が一杯なんだよな)」

 

 そんな事を考えていると、不意に綾が神妙な面持ちで訊ねてきた。

 

「ところで兄様、最近の音ノ木坂での生活はどうなの?虐められたりしてない?」

「ああ、今のところ何も問題無く過ごせてるよ。クラスや他の連中からの視線も、少しずつとは言え少なくなってきてるからな」

 

 あまりにも唐突な質問だが、紅夜は淡々とした様子でそう返した

 これまで大人しく過ごしていたのが功を為したのか、彼の学校生活は平穏そのものだ。編入当初は雨のように降り注いでいた多数の視線も今ではめっきり減り、音ノ木坂学院の一員として溶け込みつつあった。

 強いて言うなら未だに穂乃果達からの勧誘攻撃が続いている事くらいだが、これも上手く躱せているために大して問題には思っていなかった。

 

「それもそうだけど、私が言ってるのは教師とか保護者の方よ。試験生の話、凄く反対してたんでしょ?」

「……ああ、そっちか」

 

 納得したように頷く紅夜。

 綾は、過去に紅夜が受けたいじめと今の状況を照らし合わせているのだ。

 

 あの時、紅夜を虐めていたのはクラスメイトだけではなかった。

 いじめを見て見ぬふりするばかりか、紅夜を悪者のように扱った教師は勿論、それを隠蔽しようとした学校上層部。そして、他のいじめっ子に同調して紅夜を腫れ物扱いした彼等の保護者。

 本来であれば、いじめを止め、しっかりといじめっ子達に言って聞かせるべきである大人までもが敵になったのだから、またあの時のような事が起こるのではないかと、綾は心配していたのだ。

 

「そっちも心配ねぇよ。ソイツ等は理事長が抑えてくれてるみたいだから、今のところは大人しくしてるさ」

 

 そう言うと、紅夜は綾の頭を優しく撫でる。

 

「んっ……それなら良いんだけど」

 

 気持ち良さそうに目を細めながら、綾はそう言った。

 

 それから他愛の無い話をしながら車を走らせること数分、彼等は目的の場所に到着した。

 2人がやって来たのは、自動車のチューニングショップと整備工場が一体化したような、大きな建物だった。シャッターは開いており、中には客のものと思われるスポーツカーが2台、カーリフトに乗せられている。

 

「おーい、おっちゃん!約束通り来たぜ!」

 

 愛車から降り、中に呼び掛ける紅夜。すると、奥から筋骨隆々とした40代くらいの男が現れた。

 彼の名は氷室(ひむろ) 龍一(りゅういち)と言い、このチューニングショップ兼整備工場のオーナーであり、紅夜達の理解者の1人だ。

 

「よぉ~、待ってたぜ長坊!」

 

 そう言って、彼は熊のように大きな手で紅夜の頭を撫で回す。出掛ける前に深雪が整えた髪が一瞬にしてぐちゃぐちゃになるが、紅夜は慣れているのか、それとも諦めているのか抵抗せず、されるがままだ。

 因みに、撫でられて髪がぐちゃぐちゃになるのを嫌って、綾を含めた女性陣が彼に撫でられるのを避けているのは余談である。

 

「おう、久し振りだな。おっちゃん」

 

 ぐしゃぐしゃに撫で回されながら挨拶を返す紅夜。

 

「ああ、本当に久し振りだな。1カ月半も会いに来ねぇなんてよぉ、おっちゃんは寂しかったぜ?」

「ははっ、悪かったって。此方も此方で色々忙しかったんだよ」

 

 そうして龍一は、次に綾に向き直る。

 

「綾も久し振りだな。元気してたか?」

「ええ、龍おじちゃん。お陰様でね」

 

 綾も笑顔でそう答える。

 撫で回されるのは苦手だが、それでも彼を慕っている事に変わりは無いのだ。

 

「ところで、今はおっちゃん1人か?」

「まあな。でも、もうすぐ皆揃う筈だぜ。ホラ、噂をすれば何とやらってな」

 

 龍一がそう言って敷地の外へ目を向けると、2台のスポーツカーが入ってくるのが見えた。

 

 1台はダークシルバーのボディにGTウィングを装着したSkyline GT-Rで、もう1台は幅約2mもあるパールホワイトのボディに鋭い目のようなヘッドライト、特徴的なテールライトを持ち、見た目だけでも高級外車である事が分かる車だった。

 

 Bugatti Centodieci。Bugatti Cironをベースに開発されたフランスのハイパーカーで、この地球上にたったの10台しか存在しない限定車だ。

 1600馬力という紅夜のR34や瑠璃のAgeraを遥かに上回るハイスペックに加え、その台数から希少価値も高く、値段も1台で10億円。今この場にある中で最も値段が高く、瑠璃のAgeraの2倍以上もする程の高級車だった。

 

「おや、どうやら私達が最後のようですね」

 

 2人がそう言い合っていると、Centodieciから降りてきた50代後半くらいの男性、紅露 英雄(こうろ ひろ)が声を掛けてきた。

 

「おじさん、久し振り!」

「ええ、お久し振りですね綾ちゃん。大体1ヶ月半ぶりですか?いやはや、この歳になると時間の流れが早く感じられますね」

 

 そう言って穏やかに笑った英雄は、次に紅夜へ視線を向ける。

 

「紅夜君も、お久し振りですね」

「そうだな、ヒロおじちゃん。今日は解体所は休みなのか?」

「ええ。と言うより、そもそも基本的に暇してますし、出てきたところで盗られるようなものも大してありませんからねぇ」

「ハハッ、成る程な……それと」

 

 そこまで言いかけたところで、紅夜はもう1人の男、風宮(かざみや) (しょう)に向き直った。

 

「翔兄も久しぶり」

「おう、久しぶりだな坊ちゃん」

 

 そうしてハイタッチを交わした紅夜は、翔が乗ってきた車に目を向ける。

 

「今日は34で来たんだな、相変わらずダークシルバー1色でバシッと決まってんじゃねぇか」

 

 すると、彼は『またか』と言わんばかりの表情を浮かべ、深く溜息をついた。

 

「だからな坊ちゃん、コイツは34じゃなくて324だって何時も言ってんだろぉ~?」

「分かってる。冗談だって翔兄」

 

 紅夜は笑いながらそう言った。

 

 因みに、翔の言う324とは彼の乗ってきたSkyline GT-Rの事だ。

 紅夜のR34の2つ前の型式であるR32にR34のフロントバンパーを装着しており、その姿から『34の顔をした32』という事で、いつしかこういう改造がされたR32の事を324Rと呼ぶようになったのである。

 

「まっ、34だろうが324だろうが2人共『R』って呼んでっからあんま意味ねぇけどな!」

「龍一君、それを言ってはおしまいですよ」

 

 英雄は苦笑交じりにそうツッコミを入れ、5人は楽しそうに笑った。

 

 それから紅夜は、彼等にアメリカでの生活について話した。

 主に内容はベンチュラ・ベイでのストリートレースの話だったが、彼等も車好きだった事もあって話はかなり盛り上がっていた。

 

「いやぁ~、相変わらずベンチュラ・ベイは盛り上がってるみてぇだな」

「そりゃストリートレースの聖地の1つだからな。あの町から走り屋が消えない限り、レースブームは終わらねぇよ」

 

 そこまで言って、紅夜は英雄に視線を向けた。

 

「ヒロおじちゃんはどうだ?元D1ドライバー兼関東地方最速の走り屋"ゴースト"として」

「……紅夜君、そんな事は態々聞かなくても分かるでしょう?」

 

 そう言う英雄は、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 今でこそ、レースの世界から身を引いて解体所を経営している彼だが、若い頃は関東地方では知らない者は居ない程の有名な走り屋だったのだ。

 因みに"ゴースト"という二つ名は、幽霊のように突然背後に現れ、気づいた頃には追い抜いて遥か先へと消えている事から付けられたもので、それからD1ドライバーへと進んだ際には、毎回この二つ名を出されていたという。

 

 そんな彼の笑みを見た紅夜は、『そうなると思ったよ』と返して笑った。

 

 その後も紅夜のアメリカでの思出話に花を咲かせる一行だったが、不意に龍一が話題を変えた。

 

「それもそうだが長坊、試験生としての生活は順調なのか?」

「あ~、そういや坊っちゃんって今女子校に通ってるんだったな……何つー学校だっけ?」

「音ノ木坂学院ですね。千代田区にある学校で、創立100年を超える伝統校ですよ」

 

 英雄は取り出したスマホを操作し、音ノ木坂学院のホームページを見せる。

 

「へぇ~、それにしちゃあ随分綺麗な校舎だな。とても創立100年超えの学校には見えねぇや」

「ああ、しかもコレで廃校の危機に陥ってるってんだからまた驚きだぜ」

「私も調べてみたけど、この学校って言ってみれば歴史の長さだけが取り柄みたいなモンだし、特にこれと言って新しい事を取り入れてるようにも見えないからか、年々入学希望者が減ってきているらしいわ。そんなところにUTXなんて学校が出来たから……」

「正に、弱り目に祟り目ってヤツですね」

 

 英雄が龍一達のやり取りを締め括る。

 

「……まぁ、そんな訳で理事長が学校の共学化プロジェクトなんてモンを始めて、俺がその試験生として選ばれたのさ」

「しかも兄様、編入して直ぐにスクールアイドルのマネージャーに勧誘されてたのよ!それで3人のライブも成功させたんだから!」

 

 『流石は兄様!』と紅夜に飛び付く綾だが、当の本人はライブを見に来た数が数なだけに微妙な表情だ。

 そんな彼の心境など全く意に介さず、相変わらずのブラコンぶりを発揮する彼女を龍一や翔が微笑ましそうに眺める中、英雄が口を開く。

 

「そうそう、最初に聞いた時は驚きましたよ。期間限定とは言え、まさか紅夜君が他の子とチームを組むとはね」

「……ああ、彼奴等が中々手強い隠し球を出してきやがってな。ソイツにまんまと乗せられただけだよ」

「ですが、それでも他人と一緒に何かをするという事が日本(こっち)でも出来るようになったんです。確実に1歩ずつ前進出来てますよ」

 

 そう言って、英雄も紅夜の頭を撫でる。

 

「まっ、確かにその通りだな」

「昔と比べりゃ、坊っちゃんも大分丸くなったもんな。あの時なんて……」

「しょ、翔兄ぃ、あの頃の話は止めてくれよ~……」

 

 普段と違って弱々しく頼む紅夜に、他の面々から笑いが溢れ出す。

 それから暫くの間、工場内では楽しそうな笑い声が響いているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ皆、久々に会えて楽しかったよ」

「またね!」

 

 一頻り笑った後、再びお喋りに盛り上がる一行だったが、楽しい時間とはあっという間に終わってしまうもので、日は沈んで暗くなっていた。

 

「んじゃな坊ちゃん、俺等も楽しかったぜ!」

「今度は、私の解体所にも遊びに来てくださいね」

 

 家路につくべくR34に乗り込んだ兄妹が声を掛けると、翔と英雄が笑みを浮かべてそう返す。

 

「長坊、何かあったら何時でもおっちゃん達に相談しろよ?どんな事だろうと絶対力になるからな!」

「ああ、ありがとうな。おっちゃん」

 

 そうして龍一とも挨拶を交わし、紅夜は愛車を発進させる。

 久々に昔からの知り合いと会えて上機嫌な彼は、未だいじめを受ける前によく見せていた無邪気な笑みを浮かべて先程までの事を振り返り、そんな兄の姿に綾も頬が緩む。

 

「今度は、瑠璃達も誘いたいな。何ならレナ達も巻き込んで、皆各々の車に乗ってさ」

「兄様、その時は私も」

「はいはい、分かってるって。綾も車でな」

 

 年齢もあって、唯一車どころか免許すら持っていない綾だが、彼女に贈る車自体はあった。

 と言うのも、紅夜達MAD RUNがフォーチュンバレーに遠征に行った際、彼等にガレージ兼寝床を提供すると共に専属メカニックを引き受けてくれた、ラヴィンドラ・チョードリーという男が払いの悪い客からぶんどったHonda S2000をくれると言い出したのだ。しかし、既に車を持っていた紅夜達には必要無かったため、この車を欲しがっていた綾にプレゼントする事になったのである。

 今は来るべき時に備えてラヴィンドラのガレージに保管中であり、時が来たら此方に空輸される予定だ。

 

「お前も車手に入れたら、ますます賑やかになるな。その時が待ち遠しいぜ」

 

 そう言って、紅夜は楽し気に笑った。

 

 その後、2人は無事に自宅へ到着し、豪希や深雪に龍一達と交わしたやり取りを聞かせるのだった。




 どうしようか悩んだ結果、1話だけ日常回を入れる事にしました。
 本当はもう1つ書くつもりでしたが、それはまた別の機会に。

 そして後半で出てきたラヴやS2000については、NFS Paybackを参考にしています。
 S2000はストーリー序盤で車を失った主人公(プレイヤー)のタイラーが選ぶ3台の内の1台で、ラヴ曰く『(3台共)払いの悪い客のだ』と言っていた事やその後もその客が取り返しに来る事が無く、引き続き使用出来る事から『客は車(S2000)を手放した』と認識しているのでこうなりました。

 実際にこんな事しようものならどうなるかは分かりませんがね←おい

 因みに、本作ではタイラー及び彼のクルー(ジェスやマック)は出ておりません。

 そして次回からは、にこにー襲来編を書いていきます。
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