ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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 漸く自分が書きたかった話の1つに辿り着いた……

 今回はオリジナル設定登場&エリーチカ(の心が)フルボッコ回です。

 そして次回はあのNo.1アイドルにも……


第36話~アウトローとアイドル研究部・前編~

 絵里が穂乃果達の申請を却下した事により、沈黙に包まれる生徒会室。穂乃果達は間の抜けたような表情で立ち尽くし、紅夜もまた、彼女の返答に困惑していた。

 

「はぁ、えりち……」

 

 そんな中で希は、呆れたような、『こうなると思った』とでも言うような、そんな声音で小さく呟く。

 

「……どういう事ですか?」

 

 そこで、この状況に耐えかねた海未が言葉を発した。

 

「聞こえなかったの?この申請を受ける事は出来ないと言ったのよ」

「それは分かっています。その理由が分からないと言っているのです。以前とは違い、今回はきちんと6人以上の部員を確保してしますし、他の不備も無い筈です。一体、何が駄目なのですか?」

 

 すると、漸く我に返った穂乃果やことりも声を上げる。

 

「そ、そうですよ!この前は3人しか居なかったから駄目だったけど、今回はちゃんと6人分書いてるじゃないですか!」

「ちゃんと理由を説明してください!でないと私達も納得出来ません!」

「……良いわ」

 

 2人が声を張り上げる中でも淡々と頷いた絵里は、説明を始めた。

 

「先ずこの学校には、既にアイドル研究部というアイドル関連の部活が存在しているの」

「「「ッ!?」」」

「……何?」

 

 これには紅夜も驚いた。

 これまでの校内探検で、彼は幾つもの部活動の部室や勧誘ポスターを見てきた。しかしアイドル研究部に関しては部室も勧誘ポスターも見た事が無く、それらしい活動をしている生徒も見かけなかった。寝耳に水とは正にこの事だ。

 

「まぁ、今のところ部員は1人だけやけどな」

 

 すると、希が補足する。

 

「は?1人だけ?そんな状態で活動出来るのか?と言うか、そもそもよくそんな状態で申請が通ったな?」

「一応、申請する際には6人以上の部員が必要なんやけど、承認後の人数については問わない事になってるんよ。だから設立したばかりの頃は、ちゃんと6人居ったよ」

「……つまり、申請後に部員が何らかの理由で辞めたとしても、1人でも残っていれば続けていられる、という事か?」

「そういう事。まぁ流石に0人とかになったら廃部やけどね」

「成る程な……」

 

 そうして紅夜が静かになると、再び絵里が口を開いた。

 

「生徒の数が減少している今、徒に部活動を増やす訳にはいかないの。それが同じジャンルの部活であれば尚更ね。だからアイドル研究部が存在する以上、貴女達の申請は受けられないわ」

「そ、そんな……!」

「せっかく6人集められたのに……」

 

 ショックを受け、狼狽える穂乃果とことり。海未も何か言い返そうとするものの、言葉が見当たらないのか悔しそうに唇を噛んでいた。

 

「…………」

 

 絵里はそんな3人を睥睨すると、最後に紅夜へ視線を向ける。

 

「……」

 

 彼は何かを考えているのか、目を瞑って腕を組んでいる。だが、暫く見つめても何も反応しないために彼も特に言いたい事は無いのだろうと判断した絵里は、話を締め括る。

 

「言いたい事はもう無いかしら?じゃあこの話はこれで終わり──」

「──にしたくなかったら、アイドル研究部と話をつけてくるんやね」

 

 だが、そこで希が言葉を被せてくる。

 

「の、希!?貴女何を言って……!」

「別に2つの部活が1つになるだけなんやから、何も問題無いやろ?」

「そ、それは……そうかもしれないけど……」

 

 言い返せなくなる絵里を横目に、希は紅夜へ視線を向ける。彼は相変わらず、目を閉じて何かを考えているように見えた。

 

「(長門君、あの時質問してきてから何も言わなくなったな……興味無くなったんかな?)」

 

 それは有り得ない話ではない。

 確かに、絵里の答えは普通の人間からすれば驚いても何ら不思議ではないものだ。しかし、理由を聞いて納得してしまえばそこまでだ。それが、最早マネージャーの職を辞して部外者になっているのなら尚更。

 だが希は、彼を部外者のままでいさせるつもりは無かった。

 彼女の占いで思い浮かんだ、全てをハッピーエンドにするためのシナリオ。そこには彼の、長門紅夜の存在が必要不可欠だった。

 

「(長門君は部外者のままでいるつもりなのかもしれないけど、ウチとしてはそのままいられちゃ困るからね。悪いけど、ちょっと巻き込まれてもらうで)」

 

 そうして、彼女は紅夜へ声を掛けた。

 

………いや、この後のやりとりを考えると、掛けてしまったと言った方が適切かもしれない。

 

「なぁ長門君。さっきから何か考え事してるみたいやけど、どうかしたん?」

 

 すると、絵里や穂乃果達の視線も集まる。紅夜も彼女等からの視線を感じ、ゆっくり開いた赤い目を向けた。

 

「あぁ、いや。別に……」

 

 言葉を濁す紅夜。どうやら言うか否かで迷っているようだ。

 だが希は、そんな彼を逃がす程甘くはない。

 

「何か思ってる事があるんやったら、この際遠慮せず言ってみて?」

「………良いのか?」

「勿論。えりちも、別に構わへんよな?」

「え、ええ。私も異論は無いわ」

 

 絵里の承諾を得た希は彼に向き直り、『さあ』と話を促す。

 穂乃果達も、紅夜の言葉を待っている。

 

「まぁ、それならお言葉に甘えて言わせてもらうが…………先ず絢瀬」

「……何かしら?」

「お前………頭でも打ったか?」

「は?」

 

 ポカンとした表情で聞き返す絵里。

 

「えっと……それは、どういう意味かしら?」

「はっきり言って、さっきのお前の答えはあまりにも無理があり過ぎる。そもそも生徒の数と部活の数は言う程関係無いだろう。『部活の数が多過ぎて、部室として使える部屋が無い』って言われた方が、未だ納得出来る」

「そ、それはそうだけど……でも!既にアイドル関連の部活があるのよ?流石に同じジャンルの部活を幾つも作るのは……」

「なら、コレに関してはどう説明するんだ?」

 

 そう言って、紅夜は鞄からあるプリントを取り出して絵里の前に広げる。それは新入生歓迎会の日に配られたプリントで、そこには音ノ木坂学院に存在する部活動がリストアップされていた。

 

「文化部の欄を見てみろ、吹奏楽部の他に軽音楽部がある。使う楽器や演奏する曲のジャンルこそ違うが、少なくとも音楽に関する部活である事に変わりは無い。つまり、この時点で同じジャンルの部活が2つ存在しているという事になる。それに、コレは最早極論も極論だが、運動部だと全てスポーツに関する部活だから、此方でも同じジャンルの部活が幾つも乱立している事になるんじゃないのか?」

「うっ……」

 

 痛いところを突かれ、思わず呻く絵里。だが、紅夜は構わず続けた。

 

「次に、このアイドル研究部についてだが……東條、幾つか聞きたい事がある」

「聞きたい事?何かな?」

 

 そうして紅夜は、質問を始める。両者の間で交わされた質疑応答の内容は次の通りだ。

 

 

 

Q1:アイドル研究部が発足したのは何時か?

A:2年前の春頃

 

Q2:部員が1人になったのは何時か?

A:発足してから3~4ヶ月後くらい。長く見積もっても半年未満

 

Q3:発足してから今日に至るまで、何か実績を収めているか?

A:特に無い

 

Q4:今は活動しているのか?そもそもどのような活動をしているのか?

A:不明

 

 

 

「………………」

「「「「「……………」」」」」

 

 やがて質問のネタが尽きたのか、黙り込んでしまう紅夜。他の面々も、質問が続くにつれて段々と重くなっていった空気や彼から放たれるプレッシャーに怯み、まるで怖い父親に説教される子供のように縮こまっていた。

 そして1分程沈黙した後、漸く紅夜の口が開かれ、底ひえするような声が彼女等の耳に入った。 

 

「……何だコレは?」

「「「「「ッ!!」」」」」

 

 その瞬間、彼から放たれるプレッシャーが一層強くなる。穂乃果やことりは手を固く繋いでいたものの、やがてその場にヘナヘナと座り込み、海未や絵里、希は崩れ落ちる事こそ無かったものの、滝のような冷や汗を流していた。

 

「おい絢瀬、お前はこんな部活のためにコイツ等の申請を却下しようとしていたのか?幾らこのアイドル研究部とやらが先に出来た部活で、校則で部活の管理の仕方が決まっているからって限度というものがあるだろう」

「そ、それは……」

「そもそも、発足してから半年もしない内に部員が1人を残して全員辞めるなんて明らかに異常だろ。ただでさえそれだけでも十分おかしいのに、その後約2年間全く活動していないなんて……言ってみれば、何も仕事をしない社内ニートと変わらん」

「…………」

「だが高坂達はどうだ?未だ正規の部活動として承認されてはいないが、既にそれ等と変わらず活動しているし、結果こそあまり良いものとは言えないが、新入生歓迎会の日にライブをしたという確かな実績がある。そして今日、こうして申請しに来たんじゃないか。欄もキチンと埋めた申請書を持ってな………アイドル研究部と比べれば、どちらが部活動として相応しいかなんて一目瞭然だとは思わないか?」

「まぁ、確かにそうやな」

 

 何も言えなくなった絵里の代わりに、希が答える。

 

「更に言えば、2年前から存在しているというのなら、何故先日の新入生歓迎会の部活紹介でアイドル研究部の発表が無かったんだ?その日に部員が休んでいたり時間が無かったりしても、『アイドル研究部がある』と口頭で伝える事も出来た筈なのに、何故それを言わない?これではまるで、お前等生徒会が意図的にアイドル研究部の存在を隠しているようじゃないか」

「…………」

「これはまた、痛いところ突いてくるなぁ……」

「こんな言い方をするとアイドル研究部の人間には悪いが、はっきり言って2年間もロクに活動していない上に誰にも認識されていないのなら、最早あったところで何の意味も無い。そんな部活の存在は許されて、高坂達みたいに真面目に活動している連中の申請が却下されるというのは…………ちょっと筋が通らないとは思わないか?明らかに不公平だろ」

 

 紅夜の冷たい視線が突き刺さる。

 絵里は、最早言い返そうにも言葉が見つからず涙目状態だ。穂乃果達も、本来なら絵里に対して『ざまあみろ』と言えるところだが、こうして淡々と言葉でフルボッコにされる状況に同情の念すら覚えていた。

 

「それから東條、お前にも言いたい事がある」

「ウチに?」

 

 まさか自分にも飛び火してくるとは思っていなかったのか、少し驚いた様子で聞き返す希。そんな彼女に『ああ』と短く頷いた紅夜は、早速話を始めた。

 

「お前は先程、高坂達に『話を終わりにしたくなければアイドル研究部と話をつけろ』と言ったな?」

「?うん、言ったけど……それがどうかしたん?」

 

 『別に間違いではないやろ?』と首を傾げる希に、彼は続ける。

 

「まぁ、確かに手段としては間違いではない。寧ろそのやり方も正しいと言えば正しいんだが……はっきり言ってまどろっこしい。何故そんな遠回りなやり方を選ぶ?やるならやるで、もっと手っ取り早い方法があるだろう」

「手っ取り早い方法?それって………!?な、長門君。まさか!?」

 

 紅夜が言おうとしている事を察したのか、目を見開く希。

 

「え、何なに?何なの紅夜君?その手っ取り早い方法って」

 

 穂乃果がそう訊ねる。海未やことりも彼が何を言おうとしているのか分からず、穂乃果と同じように答えを求めていた。

 

「何、簡単な事だ。アイドル研究部を潰してしまえば良い。そして連中が使っていた部室を、そっくりそのままお前等にくれてやるんだ。それで全部片付くだろ」

 

 そして紅夜は、答えを述べた。一番手っ取り早く、そして無慈悲な答えを。

 

「「「えっ……?」」」

 

 最初、穂乃果達は紅夜が何を言ったのか理解出来なかった。

 対して希は、『何て事を言うんだ』という気持ちや『やっぱりか』と言った様々な感情が入り交じった、複雑な表情を浮かべている。

 

「ん?聞き取れなかったか?だから、アイドル研究部を廃部にすれば良いって言ったんだ。そして、連中が使っていた部室をそのままお前等に明け渡す。まぁ、例えるならとある土地に新しく家を建てるために、元からあった古い家を取り壊すようなものさ。そうすれば、お前等は部室が手に入って天候を問わず練習出来る環境が整うし、『徒に部活動が増えるのを避けたい』という絢瀬の望みも叶えられる……どうだ、悪くない考えだと思うんだが?」

「う、うん……」

「確かに、そうだけど……」

 

 穂乃果やことりは一応賛成の意を示しているものの、どこか歯切れが悪い。

 

「確かに、そのアイデアだと私達や生徒会長の望みは叶えられます。ですが、その……アイドル研究部の方については……」

 

 海未がそう言った。

 そう。紅夜の意見では、確かに穂乃果達や絵里の抱えている問題は纏めて解決出来る。少なくとも、今回出された意見の中では最も手っ取り早く、合理的だと言っても過言ではないだろう。だが、そのためにはアイドル研究部を犠牲にしなければならないのだ。

 物事に犠牲が付き物というのは理解しているつもりだが、だからと言って『はい、そうですか』と受け入れられるかと聞かれれば、また話は別なのだ。

 

「アイドル研究部については、この際仕方が無いだろう」

 

 だが、それでも紅夜はブレなかった。

 

「そもそも、部員が1人になってから今日まで、約2年間も猶予があったんだぞ?その間にまた新しく部員を獲得して体制を立て直すなり、1人でも出来るような活動にシフトするなり、方法は幾らでもあった筈だ。それ等をせずに今までやってきたんだから、もう遠慮する必要はあるまい。まぁ、絢瀬の意見が変わってこの申請書が受理されるのなら、話は違ってくるがな」

 

 そう言って絵里の方へと視線を向けると、彼女は未だに俯いたままだった。

 

「(う~ん、ちょっと言い過ぎたかな……?)」

「長門君」

 

 すると、いつになく真面目な表情をした希が声を掛けてくる。

 

「どうした?」

「ウチの方から意見求めといて悪いんやけど………そういうのはナシって事に出来ひんかな?」

「……?つまり何か?アイドル研究部を潰すなと言いたいのか?何なら、さっきお前が言ったように話し合いで解決する方向にしたいと?」

 

 『そうや』と、希は頷いた。

 

「確かに、長門君の意見は的を得てる。今回の話に関しては、にこ……アイドル研究部に問題があるのは事実やし、今言ってたやり方が一番手っ取り早く事を済ませられるってのにも頷ける。でもな、何でもかんでもそういうので判断するのもどうかと思うんよ」

「その考えを否定するつもりは無いが、そもそもこうなったのはお前等生徒会の部活動の管理体制やそれに関する校則の内容が杜撰だったからでもあるんだぞ?ただ存在するだけで何の活動もしないような部活に対して、何の指導もせず放置しているからこんな事になったんじゃないのか?」

「それに関しては、今後の課題って事できちんと受け止めさせてもらうし、対応していくよ。せやけどここは、一先ずは話し合いって方向を取らせてくれへんかな?」

 

 『お願いや』と、希は頭を下げる。

 

「………………」

 

 紅夜はそんな彼女を暫く見つめると、穂乃果達に顔を向けた。

 

「……東條はこう言ってるが、お前等はどうしたい?」

 

 意見を求められた穂乃果達は、互いに顔を見合わせる。全員の意見は同じらしく、同時に頷いた。

 

「私も、今回は希先輩のやり方にしたいかな」

 

 口を開いたのは、穂乃果だった。

 

「確かに、紅夜君が言ったやり方は正しいと思うよ。でも、そのためにアイドル研究部の人を無視して勝手に決めちゃうのは、ちょっと違うんじゃないかなって思うんだ」

「それに私達は、未だアイドル研究部の方と会った事はありません。仮に紅夜さんのアイデアを遂行するとしても、先にアイドル研究部の方と話し合ってからでも遅すぎる事は無いと思います」

「ことりもそう思うな。多分、紅夜君のやり方で進めたら揉めちゃうと思うから……やっぱり、解決するなら皆が納得出来るような形にしたいんだ」

「……そうか」

 

 希の時とは違い、紅夜は彼女等の意見に対して反論する事無く、素直に頷いた。

 

「ゴメンね?せっかく色々考えて言ってくれたのに、無駄にしちゃって」

「別に謝る必要は無いよ、高坂。俺はあくまでも意見を求められたから答えただけだからな」

 

 それに、以前は彼女等と行動を共にしていたとは言え、今の彼は外部の人間、すなわち傍観者(オブザーバー)に過ぎない。

 最終決定権は、当事者である彼女等にあるのだ。彼女等が希の考えを採用すると言うのなら、それに従うまでだ。

 

「それじゃ、今から花陽ちゃん達と一緒に行ってくるよ。この時間だと、未だ活動中だと思うし」

「それは良いんだが……部室が何処なのか知ってるのか?」

 

 すると、出口へ向かおうとしていた足が止まる。どうやら知らないようだ。

 

「(まぁ、そりゃそうだよな。今日初めて聞いた部の部室が何処にあるかなんて、知ってる方がおかしいってモンだ。現に俺も知らねぇし)」

「はい、コレ」

 

 そこへ、希が地図を差し出す。

 何時の間に書き込んだのか、そこには生徒会室からアイドル研究部部室までの行き方が矢印で記されていた。

 

 そして穂乃果達が部屋を出ていくと、後には紅夜と絵里、そして希の3人が残される。

 

「長門君」

 

 暫くの沈黙の後、声を発したのは希だった。

 

「何だ?」

「あの子達の様子、見に行かんでええの?」

「別に良いんじゃないのか?俺がついていったところで何か変わる訳でもないしな」

「ウチやえりちにあれだけ言っといて出てくる言葉がそれって、中々凄いな」

「一応言っておくが、俺は──」

「分かってる。そもそもウチが、何か意見あるなら言ってくれって声掛けたのが始まりやし、長門君の言ってた事は全部正論やったからな。別に恨みとかは感じてへんよ」

 

 『もう少し優しく言ってくれたらもっと良かったけどな』と付け加え、希は笑った。

 

「でもまぁ、ウチとしては行っといた方が良いと思うで?こんな雰囲気じゃどの道体験の続きなんて出来ひんし、仮にもμ'sの子達と関わりがあるんやから、今後のためにも知っておいて損は無い筈や」

「……俺、マネージャーやるつもりは無いんだがな」

 

 そう言う紅夜だが、一先ず希の意見を受け入れる事にした。

 彼女の言う通り、この重苦しい雰囲気では生徒会体験の続きなど出来そうにない。

 それなら、一旦離れた方が良いだろう。

 

「まぁ、そうだな。軽く様子を見てくるとしようか」

 

 そう言って鞄を回収した紅夜は、再び希が用意した地図を受け取って生徒会室を出る。

 

「ああ、そうそう」

 

 ドアを閉めようとしたところで何かを思い出した紅夜は、閉じかけていたドアを再び開けて言った。

 

「その、さっきは言い過ぎたよ…………すまなかった」

 

 そう言うと今度こそドアを閉め、アイドル研究部の部室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……ホラ、えりち。何時までそこでいじけてるつもりなん?」

 

 紅夜を見送った希は、椅子の上で三角座りをしている親友に声を掛ける。

 

「だって……あんな風に言わなくても良いじゃないのよ……」

 

 足に埋めていた顔を少し上げた絵里は、未だに涙目だ。

 

「まぁ、確かに言い方はキツかったと思うけど、言ってる事は間違いじゃなかったやろ?それに、出ていく時も謝ってくれたやんか」

「それは、そうだけど……」

 

 絵里も、頭では分かっていた。

 紅夜の意見は正しい。そして、あのような言い方をしたのも決して意地悪ではない事を。

 だが、頭では分かっていても心が納得しない。

 

 何故彼女等の肩を持つのか?

 何故自分の味方をしてくれないのか?

 何故自分の正当性を理解してくれないのか?

 

……そんな嫉妬のような感情が、彼女の心の中で渦を巻いていた。

 

「(やれやれ、長門君も中々罪な男の子やで)」

 

 心の内でそう呟いた希も、ドアへと歩みを進める。

 

「……何処か行くの?」

「うん、ちょっと体固まっちゃったから、慣らしがてら散歩にな。えりちも来る?」

 

 口ではそう言うが、実際は嘘だった。

 

 とある目的のため、彼女もアイドル研究部の部室へ向かおうとしていたのだ。

 絵里を誘ったのは、あくまでもそれを誤魔化すためのカモフラージュに過ぎない。

 彼女が断る事を見越して、敢えて誘いを掛けたのだ。

 

「……私は良いわ。行ってらっしゃい」

 

 予想通り、絵里は断ってきた。

 

「そっか。じゃあちょっと行ってくるね」

 

 そう言って生徒会室を出た希は、彼等の後を追うように部室へと歩みを進めるのだった。




 一応言いますが、本作に原作キャラに対するアンチはありません。

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