ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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第3話~アウトローは和菓子屋と神社へ向かう~

「ん~、ざっとこんなモンかな」

 

 翌日、朝から自室に籠った紅夜は勉強机に向かい、雛から受け取った教材やノートを広げて予習に励み、たった今その勉強を終わらせたところだった。

 というのも、試験生として今年度の2年生に編入する事になった紅夜だが、アメリカで高校を卒業してからはストリートレースやデッカード家の仕事の手伝いに勤しんでいたためにその分のブランクがあり、勉強の進度は、此方の学生より遅れていると言える。

 そのため、1月に試験生になる事が決まった後、彼は日本の幼馴染みの1人に頼んで高校時代の教科書やノートを譲ってもらい、再び日本に来るまではストリートレースに使っていた時間を勉強に回し、刻々と迫る日本での2度目の高校生活に向けて準備を進めていたのだ。

 因みに、その時は何年に編入されるのか聞かされていなかったため、紅夜は3年分の教材を貰って勉強していた。

 

「それにしても、彼奴のノートは本当に見やすいな。メモも分かりやすくて勉強も捗るからマジ助かったぜ」

 

 脇に置いていた水色のノートのページをパラパラと捲りながら、紅夜はそう呟いた。

 

 普通なら、僅か3ヶ月弱の間で3年分の勉強をするのは困難だが、このノートを譲ってくれた幼馴染みが優秀でノートを纏めるのが上手かった事は勿論だが、紅夜も何だかんだで優秀だった事や、普段ストリートレースに使っていた時間や他の空いた時間を勉強に回した事から、どの学年に編入されても乗り切れるようになっていたのだ。

 

「さて、今日の勉強はこの辺で終わりっと」

 

 そう言いながら教材を閉じ、机の棚にしまう紅夜。ふと壁に掛けられた時計に目を向けると、針はちょうど昼の12時を指していた。

 彼が勉強を始めたのは、午前8時。すなわち4時間ぶっ続けで勉強していた事になる。

 

「(こんなに長時間勉強したのは、飛行機の中でやって以来だな………)」

 

 アメリカでも勉強に励み、日本へ向かう便に乗っている間も持ち込んだノートを読んで勉強していた紅夜。

 それに集中するあまり、機内食を運んでいた乗務員に話し掛けられても中々気づかず、隣の客に声を掛けられて漸く気づき、その際微笑ましそうな表情で見られながら『勉強熱心だね』と言われて恥ずかしい思いをしたのは余談である。

 

「こうちゃ~ん、ご飯出来たわよ~!」

 

 当時の事を思い出していた紅夜だが、1階のリビングから聞こえてきた深雪の声で現実に引き戻される。

 

「ああ、今行くよお袋!」

 

 そう返した紅夜はリビングへ向かい、深雪の用意した昼食を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼下がり。紅夜は愛車のR34を駆り、ドライブに出掛けていた。

 

 昼食を食べ終えた後、雛に渡された制服を試着したりして時間を潰していた紅夜だが、それを終えるとやる事が無くなり、何をしようか悩んだ結果、こうして出掛ける事に決めたのである。

 

「それによく考えたら、俺1人で出掛けた事って1度も無かったしな」

 

 それに、アメリカに居候していた紅夜は、家族や幼馴染み達と和解して以来、毎年夏と冬の2回里帰りをしているのだが、その間に出掛ける事があっても毎回家族や幼馴染みが一緒で場所も同じ所だったため、たまには彼1人で、行った事が無い場所へ行ってみたいと思っていたのだ。

 

 そうして、彼はスマホのナビや標識を頼りに様々な場所を見て回った。

 

 先ずは千代田区へ向かい、明日から通う音ノ木坂学院の周辺を走り回り、次に向かった秋葉原では、アニメショップの数々や人の多さに圧倒されたり、アニメのキャラクターのステッカーが貼られた、所謂痛車に出会したり、一際目立つ巨大モニター付きのビルのような建物を見上げた。

 その後も紅夜は、幼馴染みの1人が所有し、今ではその人物と彼含む関係者専用のサーキットのようなものになっている峠に向かったり、未だ見ぬ場所へ愛車と向かったりと、実に楽しい時間を過ごした。

 だが、楽しい時間とはあっという間に過ぎ去ってしまうもので、気づけば日が傾いていた。

 車の時計を見ると、午後5時45分と表示されていた。

 

「もうこんな時間か………帰る時間を考えると、後行ける場所は精々2ヶ所ってところかな」

 

 走り回っている内に再び音ノ木坂学院の前に戻ってきた紅夜は、時計にチラリと目を向けながら呟く。

 その後、せっかくなので家族に土産でも買っていってやろうと考えた紅夜は、住宅街の中に建つ1件の建物と、その建物の名前らしき字が書かれた看板を見つけた。

 

「『和菓子屋 穂むら』………?そんな店があったのか」

 

 紅夜は車を止めると、窓を開けて軽く身を乗り出し、その建物をまじまじと見る。

 

 それは古さを感じさせる2階建ての建物で、和菓子屋兼その店の人間の家である事が窺える。

 玄関の引き戸には、看板と同じように『和菓子屋 穂むら』と書かれた暖簾が掛けられていた。

 

「他に良い店は見当たらねぇし………此所にするか」

 

 土産屋をこの穂むらに決めた紅夜は、店の傍に愛車を寄せて止め、エンジンを切る。

 その後、何時もの眼帯をつけて降り、引き戸を開けて中に入ると、店内を軽く見回した。

 

 店内にはあちこちにショーケースや棚が置かれており、和菓子やその詰め合わせの箱が並べられていた。

 

「さて、何を買っていこうかな?」

 

 ノロノロ歩き回りながら、家族に買っていくのにうってつけの土産を物色する紅夜。

 すると、店の奥からパタパタと、スリッパが床を蹴る音が聞こえてくる。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 その音の主はレジに姿を現すと、澄んだ声を店内に響かせた。

 

「ッ!?」

 

 それまで大して気にせず店内を歩き回っていた紅夜は、突然聞こえた声に驚いて振り向く。

 そこに立っていたのは、白の割烹着に身を包んだサイドテールの茶髪と青い瞳を持つ少女だった。

 見たところ、15~16歳といったところだろう。

 

「(何だ、店の人か………)」

 

 内心そう呟く紅夜だが、そもそも店の奥から出てくる人物と言えば、そこの関係者以外に考えられない。

 

「えっと……どうしました?」

「いや、何でもない。ちょっと驚いただけだ」

 

 ぱちくりと瞬きしながら訊ねてくる少女にそう言って、紅夜は再び店の中を見回すのだが、1度も来た事の無い店で何がオススメなのか分かる訳が無い。

 

「仕方無い……店員さん」

 

 紅夜はレジに向かい、その少女に声を掛けた。

 

「家族に土産を買っていきたいんだが、何かオススメはあるか?」

「勿論、ありますよ!」

 

 そう言って、少女は白い生地に『ほ』と書かれた饅頭を差し出した。

 

「へぇ、饅頭か」

「はい!和菓子屋穂むらの名物、穂むらまんじゅうこと、ほむまんです!」

 

 自慢気にその饅頭、ほむまんの紹介をする少女に『ふーん』と生返事を返しながらも、まじまじと見る紅夜。

 

「(………まあ和菓子の事なんてほぼ知らねぇし、この店の名物ってんならコレにするか)」

 

 和菓子に関する知識など全く持っていない紅夜は、それを買う事に決めた。

 

「決めた、それ3つ貰うよ」

「毎度ありー!」

 

 素っ気ない態度を取られても気にしないのか、彼女は元気良く答えた。

 その後、茶色の紙袋にほむまんを入れ始めた少女は、紅夜に話し掛けた。

 

「ところで、お客さんって何処から来たんですか?」

「……?」

 

 財布を取り出そうとする手を止めた紅夜は、少女に視線を向ける。

 

「いやぁ、この辺の人なら穂むらの事は知ってるんですけど、お客さん、全く来た事無いみたいですし………」

 

 赤の他人が相手だというのに、彼女は興味津々な様子で訊ねてきた。

 

「……出身地は世田谷だが、今はカリフォルニアに住んでる」

 

 昔の彼なら、答えないか『そんな事聞いてどうする?』と突っぱねるだけだったが、日本に戻ってきた際に、親からぶっきらぼうな返事は控えるように言われているため、そう答えた。

 

「へぇ~、カリフォルニアですか~!」

 

 口ではそう言う少女だが、その表情からカリフォルニアというのが何処の事なのか理解していないようだ。

 

「………一応言っておくが、カリフォルニアってのはアメリカにある州の1つだ」

「お、おぉ……つまりお客さんは、アメリカから来た、と?」

「そういう事になるな」

 

 そんなやり取りを交わしている内に、ほむまんが袋に収まった。

 紅夜は財布を取り出して代金を払い、袋を受け取る。

 そして一言掛けてから店を出ようとするのだが、再び少女が口を開いた。

 

「それじゃあ、コレはアメリカのご家族に渡すんですね?」

 

 そう訊ねてくる少女に、紅夜は首を横に振った。

 

「いや、家族は日本に住んでる。アメリカに住んでるのは俺だけだ」

「じゃあ、どうして日本に?」

「………まあ、ちょっと訳ありでな」

 

 紅夜は言葉を濁した。

 

 流石に、『共学化が計画されている女子校に試験生として入る事になったから』と馬鹿正直に答える訳にはいかない。

 彼女がその学校の生徒なら話は違うのだが、態々それを聞いて話してやる必要も無い。

 どうせ、もう関わる事の無い赤の他人なのだから。

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

 そう言ってそそくさと店を後にした紅夜は、外で待たせていたR34に乗り込み、紙袋を助手席に置く。

 そしてエンジンを掛けると直ぐにギアを入れ、逃げるように車を発進させた。

 

 それから暫く走らせると、紅夜の運転も落ち着きを取り戻し、先程までのゆったりした運転に戻った。

 

「何と言うか、変な奴だったな……」

 

 運転しながら、紅夜はあの少女について考えていた。

 

 普通の人間ならいの一番に眼帯の事を訊ねてくるのだが、彼女はそうしなかった。

 彼女は、赤の他人である自分と積極的に関わろうとしていたのだ。まるで、店員と客という関係の1歩先へ踏み込もうとしているかのように。

 

 紅夜としては、店のオススメを聞いてそれを買うと決めたら、後はさっさと会計を済ませ、店を出て終わりだと思っていたのだが、あの少女は無言で終わらせるのではなく、会話を持ち掛けてきたのだ。

 更に、これは彼女の元からの性格だったのかもしれないが、他人である紅夜への警戒心や、自分を隠している気配がまるで感じられなかった。

 太陽のような明るい笑顔を振り撒き、自分を一切偽る事無く近寄ってくる。それは、今の紅夜には決して出来ない事だった。

 何せ彼は、家族や幼馴染み、そしてアメリカのホストファミリーや友人といった限られた相手にしか、眼帯の下に隠された左目はおろか、自分の本来の性格すら見せず、他人に心の底からの笑顔を向ける事は、殆んど無いのだから。

 

「……っと、コンビニだ。ちょっとトイレ休憩していくか」

 

 暫く走らせたところで見えてきたコンビニの駐車場に入った紅夜は、お手洗いを借りて用を済ませると、再びR34に乗り込もうとするのだが、ロックを解除しようとキーを取り出したところで、何かを思い出したかのように手を止めた。

 

「そう言えば、何か向こうに長い階段があったな」

 

 駐車場に車を入れる前、数十メートル程先に見えた石造りの階段を思い出す紅夜。

 スマホを取り出して時間を確認すると、軽く見に行ける程度の時間があった。

 

「どうせだし、行ってみよう」

 

 取り出したキーを再びポケットに入れた紅夜は階段へと走っていき、そのままの勢いで上り始める。

 

 階段はやたら長く、少なくとも年寄りに優しいものではないが、デッカード家の仕事の手伝いで鍛えられていた紅夜は何の苦も無く登っていく。

 どうやら、この階段の先には神社があるらしく、ふと顔を上げると、頂上に赤い鳥居が見えた。

 

 階段を上りきると、鳥居の奥にある立派な建物が紅夜を出迎える。

 彼以外に人の姿は見当たらず、境内は静まり返っていた。

 

「誰も居ないなら、コレは外しても良さそうだな」

 

 つけていた眼帯を外してポケットに入れると、紅夜は賽銭箱の前に立つ。

 

「(そういや、ガキの頃は神様も恨んでたっけな。『なんで俺ばっかりこんな目に遭わせるんだ!』って)」

 

 人間不信になった頃の彼は、全てを恨んでいた。

 自分をいじめた上に化け物扱いした同級生を恨み、会うたびに『気味が悪い』と暴言を吐いた隣人を恨み、こんな姿に産んだ親や、自分とは違って普通の姿で産まれた他の連中を恨み、そして、自分ばかり理不尽な目に遭わせる神を恨んだ。

 

「ったく。昔の俺って、今考えるとホントどうしようもねぇクソガキだったな………まあ、ストリートレースやってる今の俺も大概だが」

 

 そう呟きながら、財布から取り出した5円玉を賽銭箱目掛けて指で弾き飛ばす紅夜。

 ピンッと音を立てて飛び出した5円玉は、高速で回転しながら綺麗な放物線を描き、賽銭箱の中へと吸い込まれていった。

 

「(この1年くらいは、無難に過ごせますように)」

 

 願い事を済ませた紅夜は踵を返し、R34を止めてある駐車場に向かおうとする。だが振り向いた瞬間、視界に人影が映った。

 巫女服に身を包み、竹箒を持った少女だった。

 

 緑色の瞳を持ち、腰まで伸びる青紫の髪を白い布で後ろに1本で纏めたその少女は、優しげな笑みを浮かべて紅夜に話し掛けてきた。

 

「こんばんはお兄さん、お賽銭おおきにな」

「ッ!?」

 

 そんな彼女とは打って変わって、紅夜は軽いパニック状態に陥っていた。

 

「(クソッ、まさか人が居たとは!)」

 

 来た時には誰も居なかった事や、そもそも祭りや初詣といったイベントが無ければ、神社には殆んど人は来ないと思い込んで油断していた事から、眼帯を外した姿を他人に見せるという失態を犯してしまう紅夜。

 これまで他人の前に出る際は眼帯で左目を隠して過ごしていたため、眼帯を外した姿を赤の他人に見せるのは、実に数年ぶりだ。

 そのため、もし彼女がオッドアイに気づいた時、どのような反応をされるのかという恐怖心が、紅夜に襲い掛かる。

 

「(と、取り敢えずさっさと隠さねぇと!)」

 

 慌ててポケットから眼帯を引っ張り出し、左目を隠す。

 そして、まるで風で捲れそうになったスカートを押さえた後の少女が近くの男性にするように、『見たのか?』と言わんばかりにその少女を睨む。

 

「………?そんな怖い顔して、どないしたん?」

 

 だが、その少女は不思議そうに首を傾げるだけだった。この様子だと、どうやらオッドアイに気づいていないらしい。

 そのまま暫く少女を見つめる紅夜だったが、『ウチ、何か気に障る事しちゃった?』と訊ねてくる事から彼女が嘘をついていないと知り、睨むのを止めた。

 

「……いや、何でもない。睨んで悪かった」

 

 そう言って軽く頭を下げ、紅夜は彼女の脇を通り過ぎる。

 だが鳥居の下を潜り、階段を下りようとしたところで紅夜は足を止めた。

 

 長い階段の上にあるためか、そこからの眺めは中々良く、沈んでいく夕日が絵になっていた。

 

「……悪くねぇな」

「そうやろ?ウチも気に入ってるんよ、此所からの眺め」

 

 思わず心の声を溢すと、横から先程の少女が話し掛けてきた。

 

「この神社に来る人は皆、1度は此所からの景色に圧倒されるんやで?ちょうどお兄さんみたいに」

「……そうか」

 

 何時から隣に居たのかと内心驚きながら、紅夜は答えた。

 

「ところでお兄さん、その眼帯はどないしたん?さっき慌てて出してたから気になって」

「………」

 

 先日の絵里と言いこの少女と言い、何故眼帯をつけているとその事について訊ねられるのかと、内心辟易する紅夜。

 自分でやっている事であるためにあまり文句は言えないが、前々から初対面の相手には大抵眼帯の事を聞かれるため、いい加減うんざりしていたのだ。

 

日本(こっち)に来る前に怪我して、その痕を見られたくないだけだ。眼帯出したのは、誰も居ないと思っていたらお前が出てきたから隠そうと思っただけだ」

「別にウチ、そんなん見ても気にせぇへんけどなぁ……」

「……ッ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、紅夜の表情は嫌悪一色に染まった。

 実際、眼帯の事について誤魔化そうとしても彼女のような返答を返し、眼帯を取ってみろと言ってくる者は何人か居たのだが、いざ目を見せると、その色が左右で異なっている事に戸惑い、言葉を失っていたのだ。

 その事から紅夜は、彼女のような返答をする者に対して嫌悪感を抱くようになっていたのだ。

 

「俺が気にするんだよッ」

 

 当時の事を思い出したためにキツい口調で言い放った紅夜に驚いたような反応を見せた少女は、恐る恐るといった様子で『そう……』と返した後、続けて謝罪の言葉を口にした。

 

「いや、良い………俺こそ悪かった」

 

 事情を知らない相手に向かってキツく言い放ってしまった事に、紅夜も謝罪の言葉を口にする。

 

「………俺はもう行く。邪魔したな」

 

 それから何と無く気まずい空気になってしまったためにさっさと立ち去る事に決めた紅夜は、階段を下りていく。

 

「あっ……」

 

 少女は小さく声を漏らしながら手を伸ばすが、紅夜が足を止める事は無い。

 そして一番下まで下りると、紅夜はコンビニの駐車場で待たせていたR34に乗り込むとエンジンを掛け、逃げるように家路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「………行っちゃった」

 

 独特のエキゾーストノートを響かせながら遠ざかっていく紅夜のR34の後ろ姿を見送りながら、その少女、東絛 希(とうじょう のぞみ)は呟いた。

 

 占いやパワースポット、はたまた霊的なものに昏倒するスピリチュアルガールな彼女は、昔からそういった類いのものには敏感で、境内に入ってくる紅夜を見た際にも、これまで見てきた者とは違った何かを感じ取っていた。

 

 勿論、それには身体的特徴も含まれていた。

 色素を失ったかのように真っ白な、男性としては長い髪や、先程慌てて左目につけていた、黒い眼帯。これまでの記憶を遡っても、彼のような特徴を持った人間には会った事が無い。

 それに纏っている雰囲気も、これまで会ってきた他の参拝客とは違っていた。

 そして何より、彼女が得意としているタロットカードの占いに出た、『流れを変える者』というものが彼なのではないかと感じたのだ。

 

 スピリチュアルガールとして見逃せなかった彼女は早速接触を試みたのだが、その結果がこれだ。

 

「ウチは、どうしたら良かったんかな………?」

 

 その小さな呟きは、風に乗って何処へと飛んでいった。

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