それにしても、まさか10000文字超えるとは……
「あ~あ、失敗したな……あそこまで言うつもり無かったのに、ついあれこれ言っちまった」
アイドル研究部の部室へ向かう道すがら、紅夜は先程の一件を振り返っていた。
そもそも紅夜としては、承認に必要な条件をクリアしているのであれば、余程の事が無い限り却下されるのは有り得ないと考えていた。その矢先に絵里が穂乃果達の申請を却下したのだから、外面では冷静に見せていたものの内心ではかなり驚いていた。
そしてどういう理由で申請を却下したのか、彼女の語る理由を聞いてみれば、その内容は何とも微妙で、少なくとも申請を却下する理由としては十分とは言えなかった。
しかもアイドル研究部について情報を聞いてみれば、最早それを部活動と呼んでいいのか分からなくなるような粗末さ。
2年前に発足し、それから半年も経たない内に部員がほぼ全員辞め、挙句の果てには今日に至るまで何の活動実績も無いばかりかそもそもまともに活動していないときたものだ。
それらを聞かされた紅夜は、柄にもなく怒りを感じた。
『
半ば巻き込まれる形だったとは言え、彼女等の活動に関わり、その努力を他の誰よりも近くで見てきただけあって、それが無視されているような状況がどうしても気に入らなかったのだ。
「で、あの有様だもんなぁ。もっと冷静でいられると思ってたのに……未だガキだな、俺も」
そう呟きながらも、紅夜は歩みを進めていく。ここで希から貰った地図を取り出し、自分の現在地とアイドル研究部の部室の位置を確認する。
「どうやら、此処を右に曲がれば直ぐみたいだな」
そうして角を曲がろうとした、その時だった。
「うおっ!?」
急に飛び出してきた影に驚き、反射的に飛び退く紅夜。
「あっ、先輩ゴメンにゃ!でもちょっと急いでるからまた後でにゃ!」
飛び出してきたのは凛だった。彼女は謝罪もそこそこに、また走り去ってしまう。
「い、一体何なんだ……?」
走り去っていく彼女を見送った紅夜は、状況を確認するべく再び歩き出す。そして角を曲がると、その先に穂乃果達の姿を捉えた。
閉め出されているのか、先程の凛を除いた全員がドアの前で集まっている。
「あっ、紅夜君!来てくれたんだね!」
すると、彼に気づいた穂乃果が手を振る。
「ああ、東條に様子を見に行ってこいって言われてな……それで?状況からすると、閉め出されてる感じか」
「うん。それで凛ちゃんが外から行くって、さっき走っていったの」
「成る程な」
そんなやり取りを交わしていると、穂乃果達のスマホがメッセージの着信を知らせる。どうやら凛からのようで、窓から逃げ出してきたアイドル研究部の部長がアルパカ小屋に突っ込んで気絶しているので回収を手伝ってほしいとの事だ。
そのメッセージを受けた一行がやって来ると、確かにそこではアイドル研究部の部員と思われる小柄な少女が干し草の上で気絶していた。
「てか、コイツ前に絡んできた奴じゃないか。まさかアイドル研究部の人間だったとはな」
「うん、私も初めて見た時はビックリしたよ」
紅夜と穂乃果がそんなやり取りを交わしていると、真姫が口を挟んでくる。
「そんな事より、さっさとその人回収して部室まで連れて行かないと、話し合いが出来ないわよ」
「ああ、そうだったな」
そうしてアイドル研究部部長をアルパカ小屋から連れ出して部室へと戻った紅夜達は、彼女がポケットに忍ばせていたカギでドアを開け、バリケードのつもりだったのか山のように積み上げられていた段ボール箱を退かした。
そして今は、意識を取り戻して膨れっ面を浮かべて椅子に座っているアイドル研究部部長を他所に、各々室内を見回していた。
「A-RISEのポスター!」
「あっちのは福岡のスクールアイドルね」
「大阪とか秋田のスクールアイドルもあるよ」
アイドル研究部を名乗っているだけあって、室内には全国のスクールアイドルのポスターやグッズ、雑誌等が所狭しと並べられていた。
「それにしても、校内にこんな所があったとは思ってもみませんでした」
「まあ、それはそうだろ。現にスクールアイドル大好き人間な小泉ですら知らなかったんだからな」
「た、確かに」
そんなやり取りを交わしていると、本棚を見渡していた花陽が突然ワナワナ震え出す。
「こっ、ここっ、コレは……!」
「ん?どうした小泉?」
紅夜が訊ねると、花陽は手を震わせながらあるものを指差す。それは、とあるDVD BOXだった。
「コレって、『伝説のアイドル伝説DVD全巻BOX』ですよね!?私、コレ持ってる人初めて見ました!」
「そ、そうなのね」
目を輝かせて迫ってくる花陽の勢いに、アイドル研究部部長は若干引いていた。
「で、伝説の何だって?」
「『伝説のアイドル伝説DVD全巻BOX』です!まさか紅夜先輩、知らないんですか!?」
「あ、ああ。全く知らん」
すると、花陽は信じられないとい言わんばかりの表情を浮かべた。そして、キッとアイドル研究部部長へと視線を向ける。
「すみません部長さん、ちょっとパソコンお借りします!」
「あ、うん。どうぞ……」
その勢いに押された彼女が許可を出すと、花陽は普段の彼女の様子からは考えられないような速さでパソコンを操作してページを開くと、呆然と突っ立っている紅夜を画面の前へと引っ張り出した。
「良いですか先輩?『伝説のアイドル伝説』というのは、各プロダクションや事務所、学校等が限定生産を条件に歩み寄り、古今東西の素晴らしいと思われる様々なアイドル達の姿を集めたDVDボックスで、その希少性から伝説の伝説の伝説、略して伝伝伝と呼ばれているアイドル好きなら誰もが知っている、正に究極の一品なんです!!」
「な、成る程……」
「ていうか花陽ちゃん、キャラ変わりすぎじゃない?」
彼女のアイドル好きは知っていたがこれ程とは思っていなかった彼等は、豹変した彼女の様子に戸惑いを隠せなかった。
「公式の先行抽選の倍率もとんでもなく高くて、その後の通販や店頭販売でも1時間もしない内に完売したこの一品を2セットも持ってるなんて、尊敬です」
余程見逃せない品だったのか、花陽の目は輝いていた。
「ああ、因みに言っておくけど、家にもう1セットあるわよ」
「そ、それ本当ですか!?最早神じゃないですか!!」
「「そこまでなんだ」」
花陽の大袈裟とも言える反応に、紅夜と穂乃果は同時に呟く。
「じゃあ、皆で見てみようよ!」
「駄目よ、それ保存用だから」
そして穂乃果が名案とばかりにDVDの視聴を提案するが、当の持ち主にあっさり却下される。
すると花陽は、まるで余命3日を宣告された患者のような、絶望に満ちた表情で崩れ落ちる。
「あうぅ、伝伝伝……」
「かよちんがいつになく落ち込んでる!?」
「そ、そんなに見たかったんだね花陽ちゃん」
滝のように涙を流す花陽にドン引きしながら、穂乃果は優しく彼女の頭を撫でて宥めた。
「…………」
そんな4人を他所に、ことりはある一点をずっと見ていた。
「ことり、さっきから何を見ているのです?」
「えっ!?いや、その……」
やけに歯切れの悪いことり。それに気づいた紅夜や穂乃果も、何事かと近寄ってことりが見ていたものへ視線を向ける。
それは2枚のサイン色紙で、内1枚は、紅夜が知っているものだった。
「あれ?このサインって……」
「ん?ああ、アンタ達も気づいたみたいね」
すると、立ち上がったアイドル研究部部長が近寄ってきて説明を始めた。
「左にあるのが、ミナリンスキーさんのサインよ」
「ミナリンスキー?何だそれは、ソイツもスクールアイドルなのか?」
「いや、秋葉のメイド喫茶で働いてる人の名前よ。つい最近入ったばかりなのに、その対応の良さや声や仕草の可愛さで、一気にその店でトップの人気者になったらしいわ」
「ほう。じゃあコレは本人から貰ったと?」
「違うわよ、それはネットのオークションで手に入れたヤツ。だから本人には会った事無いわ」
すると、何故かホッと溜め息をつくことり。
「どうした南、何か知ってるのか?」
「う、ううん!何でもないよ?」
「そうか……まあ、良いんだが」
どう見ても何かを隠しているとしか見えないものの、紅夜は一先ず置いておく事にした。
「では、その右隣のサインは?」
「そっちはWeTuberグループ、BLITZ BULLETのサインよ」
「ッ!?ぶ、BLITZ BULLETのサインですか!?」
すると、穂乃果と交代する形で凛に慰められていた花陽が復活して話に入ってきた。
「ほ、ホントだ。凄いです!伝伝伝3つ持ちに加えて、あのBLITZ BULLETのサインまで持ってるなんて!」
「まあね」
アイドル研究部部長が得意気に胸を張る。
「因みに、そのグループはどういうところが凄いのですか?話を聞く限り、スクールアイドルではないみたいですが」
「それはですね!」
再びハイテンションになった花陽がパソコンを操作し、WeTubeのアプリを起動してチャンネルのページを開いた。
「このBLITZ BULLET、使用曲こそ既存のものではあるものの、その振り付けは全て完全オリジナル!更にメンバー全員の容姿の良さもそうですが、何よりもダンス、背景のクオリティの高さが他の音楽系WeTuberとは段違いで、『WeTube界のA-RISE』という別名がつけられたり、『時代が少しでもずれていたら彼等がA-RISEのポジションに立ち、同時に史上初の男女混合スクールアイドルとして業界に名を残していた』とまで言われている、正に音楽系WeTuberの革命児と言っても過言ではない存在なんです!!」
「そ、そうなんだ……」
そうして画面に顔を近づけた穂乃果は、ある事に気づく。
「あれ?この人達って確か………ねぇことりちゃん、海未ちゃん。この人達って、あれだよね?前に私達のライブを見に来てくれた……」
「え?……あっ、ホントだ!」
「確かに、紅夜さんが呼んできてくれた方々ですね」
そうすると、全員の視線が自然と紅夜に集中する。そして、その面々を代表するかのように花陽達アイドルオタクコンビが出てきた。
「さぁ紅夜先輩、前から中々タイミングが掴めなくて聞けませんでしたが、今日と言う今日ははっきりさせていただきます!ズバリ、BLITZ BULLETの人達とはどういう関係なのですか!?」
「いや、どうも何も……」
「そう言えばアンタ、この前外のベンチで電話してたわよね?『雅』って呼んでたの、私ちゃんと聞いてたんだから。しらばっくれても無駄よ!」
「この前?……あっ」
紅夜が思い出したのは、未だ編入したばかりの頃、昼休みに昼食を食べながら雅と電話で話していた事だ。
「(誰も居ないと思ってたが、まさか部屋で聞かれてたとはな…………てか、それすら聞こえるとか地獄耳にも程があるだろ)」
そう考えていると、彼は突然2人によって椅子に座らされる。
「さあ、キリキリ吐きなさい!アンタ、BLITZ BULLETの人達とはどういう関係なの!?」
「紅夜先輩、答えてください!」
最早息がかかる程に顔を近づけてくる2人。
紅夜は、そんな2人の鬼気迫る表情に何をそこまで必死になるのかと呆れながら、その答えを述べた。
「どうも何も、ただの幼馴染みだよ」
すると、2人の動きが止まる。
「お、幼馴染み?」
「ああ、そうだよ。幼稚園の頃からな。ついでに言うと、コイツ等が活動するきっかけになったのは俺のチームの活動だ」
「じ、じゃあ、この人達の活動については……」
「当然知ってる。何ならコイツ等の撮影に同行したり、投稿こそ止めてもらってるが一緒にバンドやったり踊ったりもしていたぞ。そのサインだって、俺が言えば幾らでも書いてもらえると思う」
「「何て羨ましい事を~~~~!?」」
「最早息ピッタリね、この2人」
真姫が呆れたように言う。
「……と言うか、お前等こんなやり取りするために来たんじゃないだろ?さっさと話し合いを始めたらどうなんだ?」
「「「「「「「あっ」」」」」」」
~~~~~~~~~~~~~~~~
そうして、漸く話し合いが開かれた。
「えっと、アイドル研きゅ──」
「にこよ」
穂乃果の言葉を遮り、彼女は言った。
「え?」
「
「じゃ、じゃあにこ先輩。実は私達、スクールアイドルをやってて……」
「んなモン態々言わなくても知ってるわよ」
アイドル研究部部長こと、矢澤にこが再び穂乃果の言葉を遮った。
「それに、此処に来た理由も大体想像つくわ。大方、希に『部にしたかったら話つけてこい』とか言われて来たんでしょ?」
「……何とも話の早い事で」
「まっ、アンタ等が活動を始めたって情報が入ってきた時点で、何時かそうなるんじゃないかって思ってたからね」
そう溜め息混じりに言うにこを見ながら、紅夜はある事を考えていた。
「(この口ぶりからすると、矢澤と東條は知り合いと見て間違いなさそうだな。さっきもコイツの名前言いかけてたし)」
だがそうすると、1つの疑問が浮き上がる。
それは、『何故彼女は生徒会を動かさず、穂乃果達や紅夜を向かわせたのか』というものだ。
幾ら校則で決められているとは言え、創部してから僅か半年も経たずに部員が殆んど辞めた挙げ句、その後2年間も活動していない部活動なんて訳ありもいいところだ。本来なら、何かしらの対処を行うべきだろう。
仮にも生徒会という、部活動の管理も担っている組織に身を置いている上にその副会長なのだから、自らは動かずこの問題の解決を当事者同士に丸投げするのは如何なものか……
「(もしかしたら東條の奴、今回の件について何か知ってるのか?知ってて俺等をけしかけたっていうのか?)」
だが、その理由が分からない。そもそも自分達をけしかけたところで解決出来るとも言い切れないのだ。
「(……まぁ、取り敢えずこの成り行きを見るとするか)」
ここで一旦考えを中断し、紅夜は穂乃果達へと意識を向ける。
「そ、それじゃあ──」
「お断りよ」
何かを言いかけた穂乃果だったが、にこは最後まで聞く事無く切り捨てる。
「あ、あの。にこ先輩。私達はμ'sとして活動する環境を整えたいだけで、決してこの部を廃部にさせようとしている訳では──」
「だから、お断りだって言ってんの!」
どうにか糸口を見つけようとする海未だが、取りつく島も無い。
「言ったでしょ?アンタ達はアイドルを汚しているのよ!プロ意識ってモンがなってない、単なるアイドルへの冒涜よ!そんなの私が認める訳無いでしょう!」
「(また随分と上から目線な言い方だな……)」
たかが1人のアイドル好き風情が一体何の権限があってこんな大口を叩いているのかと、紅夜は呆れ返っていた。
「で、でも。私達だって一生懸命練習してます!結果はあまり良くなかったけど、この前のライブだって最後までやりきって──」
「そういう事を言ってるんじゃないわ」
すかさず穂乃果が反論するものの、またまたにこに否定される。
「じゃあ、一体何が駄目だって言うの?さっきから黙って聞いていれば『認めない』だの『アイドルへの冒涜』だの……そこまで言うなら具体的に何がどう駄目なのか言ってみなさいよ」
「ま、真姫ちゃん……」
流石に彼女の態度に業を煮やしたのか、真姫が苛立ちを隠す事無く言い放つ。
花陽が何とか宥めようとするが、鋭い視線を向けたままだった。
「そう、分からないなら教えてあげるわ…………アンタ達、ちゃんとキャラ作りしてるの?」
「「「「「「「……は?」」」」」」」
紅夜達7人の、間の抜けた声が重なった。
「きゃ、キャラ作り……?」
「そうよ!お客さんがアイドルに対して求めているのは、楽しい夢のような時間でしょ?なら、それに相応しいキャラってものがあるじゃない」
そう熱弁するにこだが、歌やダンス等、クオリティ面で批判されていると思っていた穂乃果達はただ戸惑うだけだった。
「……ま、まぁ。お客さんが求めているものに関しては私も同意ですが……」
「でも、いきなりキャラがどうとか言われても困るにゃ~……」
「そういうの、ことり考えた事も無かったよ…」
そんな彼女等の様子に溜め息をつくにこ。
「仕っ方無いわね~。じゃあ手本見せてあげるから、よく見ておきなさい」
にこはそう言うと、ステージに居るのをイメージするためか徐に背を向ける。
そして満面の笑みを浮かべて振り返ると、彼女の『キャラ』を披露した。
「にっこにっこにー!あなたのハートににこにこにー!笑顔を届ける矢澤にこにこ!にこにー、って覚えてらぶにこっ!」
そして、部屋の空気が凍りついた。
まさかパフォーマンスを見せてくるとは予想外だったのだ。
「う"……」
穂乃果は言葉を詰まらせ、
「こ、コレは……」
「キャラと言うよりは……」
海未やことりは何とも言えない表情を浮かべ、
「私こういうの無理」
「メモメモ……」
拒否する真姫の隣では花陽がやたら熱心にメモに書き込んでいる。
「ちょっと寒くないかにゃ~?」
そして、凛がトドメを刺した。
「そこのアンタ、今『寒い』って言った?」
「ひぃっ!?」
凛としてはかなりの小声で言ったつもりなのだろうが、この部室という狭い空間では十分に聞こえる声量だ。
「で、でも!こういうのも悪くないかも!」
「そうだよね!元々アイドルってそういう役目だったと思うし!」
「た、確かに、お客様を楽しませる努力は大切ですからね!」
フォローしているつもりなのか、無理矢理言葉を捻り出す穂乃果達。
だが……
「……出てって」
「え?」
「出ていけって言ってんのよ!」
どうやらにこにとっては火に油だったらしく、穂乃果達を追い出そうとする。
「………」
そんな彼女等を他所に暫く考えていた紅夜は、その後コクりと頷いて言った。
「……良いんじゃないのか?」
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
その言葉に驚くμ'sの面々。にこも彼のあっけらかんとした態度から本心でそう言っているのだと確信し、驚いた表情で彼を見ている。
「紅夜先輩、それ本気で言ってるの……?」
「?ああ、そもそも矢澤の言う事は強ち間違いでもないからな」
まるで信じられないものを見るような目で訊ねてくる真姫に、紅夜はそう返す。
「コイツの言う通り、アイドルの役目は客に楽しい夢のような時間を与える事。それを理解した上でさっきのようなキャラ作りをしていたなら、それも1つのアイドルとしてのあり方だ。それをどう思おうがお前等の勝手だし、恥ずかしがったり戸惑ったりするのはこの際仕方無いが、だからと言って、決して笑ったり馬鹿にしたりして良いものではない。それは矢澤に対して失礼ってモンだ」
そう言うと、先程まで酷評していた凛や真姫もバツの悪そうな表情を浮かべる。
「~~~ッ!ええい、兎に角この話は終わり!ホラとっとと出ていきなさい!」
本心から認めてもらえたのは嬉しいものの、1度『出ていけ』と言ってしまった手前退くに退けなくなったのか、にこは瞬く間に穂乃果達6人を追い出してしまった。
「………」
後には紅夜が1人残される。
紅夜だけ追い出されなかったのは、恐らく体格の勝る彼に小柄な彼女では勝てないと思ったからだろう。
「(成る程、『自分から出ていってくれ』って事か………まぁ別に構わんが)」
そうして荷物を持って立ち上がろうとした紅夜だったが、にこはそれを引き留めるように、彼の肩に手を乗せる。
「アンタは未だ話あるからちょっと残りなさい」
「え?」
……どうやら、未だ終われないようである。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「あ~ん、にこ先輩~~!」
その頃、追い出された穂乃果達は部室の前に居た。
「穂乃果。気持ちは分かりますが、そうやってドアにへばりついても何も始まりませんよ」
閉ざされたドアに縋りついて開けてくれとせがむ穂乃果を、海未が引き剥がして宥める。
「でも、どうしよっか?これじゃあ話し合いの続きも出来そうにないし……」
「う~ん……」
追い出されて話し合いどころではなくなり、これからどうすれば良いのかと頭を悩ませるμ's。
「……やっぱり追い出されたみたいやね」
そこへ、彼女等を此処へ向かわせた張本人がやって来る。
「の、希先輩!?どうして此処に……」
「別に大した意味は無いで?ちょっと気晴らしに歩き回ってただけなんよ」
驚く穂乃果にそう返した希は、1人抜けている事に気づく。
「ところで、長門君が居らんけどどうしたん?もう帰っちゃった?」
その問いに、彼女等はアイドル研究部の部室へ視線を向ける事で答えを返す。それだけで理解したのか、希は『成る程な……』と小さく呟いた。
「あの、希先輩」
「ん?」
そこへ、海未が声を掛ける。
「先程『やっぱり』と仰有っていましたが、先輩は知っているのですか?」
「にこっちの事?」
それに海未が頷くと、希は暫くの間を空けた後……
「うん、知ってるよ」
そう答えた。
「で、では──」
「分かってる。でも此処やったら邪魔になっちゃうし、ちょっと場所変えよっか」
そう言って歩き出した希に、穂乃果達も追随する。
「……頼むで、長門君」
希はチラリとアイドル研究部の部室へ視線を向け、中でにこと話をしているであろう紅夜に向けて呟いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「「………………」」
視点は戻って、アイドル研究部の部室では未だに沈黙が流れていた。
「(コイツ、何が目的なんだ?俺だけ残らせたのにさっきからずっと黙り込んでやがる。用が無いならもう帰りてぇんだがなぁ……)」
「……ねぇ」
すると、漸くにこが沈黙を破る。
「ん?」
「一応確認なんだけど、さっきアンタが言ってたのって本当の事?」
「……さっき、とは?」
「私のパフォーマンスよ。他の奴等が白けたような反応してるのに、アンタこう言ったでしょ?『良いんじゃないのか?』って」
「……ああ、その事か。それなら答えはYESだ。生憎、こういう状況で相手に気を使ったりおべっかを言うのは苦手でね」
「そう……」
頷いたにこは、何処と無く安心しているように見えた。
「では、此方からも良いか?」
「?何よ。言っておくけど、部室を明け渡せとかμ'sに入れって言うならお断りよ」
「……前者は兎も角、何故後者も嫌なんだ?」
「さっきも言ったでしょ?あの子達はアイドルの何たるかをまるで理解してない、プロ意識ってモンがなってないのよ」
「お前が言ってたキャラ作りの事か……まぁ、それに関しては確かにその通りだな。パフォーマンス面では悪くないと思うが、そっち方面の事は全く考えが及んでなかった。俺自身もな」
「あら、アンタ中々分かってるじゃない」
機嫌が良くなるにこ。
「まぁ、そういう訳だから。アンタには気の毒だけど、あの子達のために私を説得しようって考えてたなら、さっさと諦めた方が良いわよ」
「…………」
その言葉を受けて暫く黙っている紅夜。だが、次に放った言葉で、にこの余裕そうな顔は崩れる事になる。
「本当にそれで良いのか?下手をすれば、お前の居場所とも言えるこの部を失う事になるぞ」
「……何ですって?」
『部を失う事になる』。それは、にこの表情を強張らせるには十分な威力を持っていた。
「部を失うって、どういう意味よ?ハッタリにしたってもう少しマシな──」
「俺がハッタリでこんな事を言うと思うか?」
「ッ…………」
少し威圧感を込めて言うと、にこは押し黙る。そんな彼女に、紅夜は言葉を続けた。
「矢澤、今までこう考えた事は無かったか?『何故この部が今日まで残り続けてこられたのか』、と」
「何故って、そんなのこの学校の決まりで──」
「『部として認められたらその後の人数は問わない』、というヤツか?まぁ、それもそうだが……答えとしては満点とは言えないな」
「……じゃあ、アンタの言う満点の答えってのは一体何なのよ?」
「簡単な事だ、この学校の校則や生徒会の部活動の管理が杜撰だからだ」
「は?」
『コイツは何を言ってるんだ』と、にこは思った。
「ず、杜撰って……」
「だってそうだろ?このアイドル研究部は、2年前に発足したものの、半年もしない内にお前以外の全員が辞めた。ただそれだけでも十分おかしいのに、それから今日に至るまで何の活動実績も無いどころか、そもそも何かをしている様子も無い。幾ら校則で人数は問わないと決められているとは言え、何の活動もしない部活を放置しているんだ。それを杜撰と評価して何が間違っていると言うんだ?」
「そ、それは……」
にこは言い返せなかった。
これで現状を変えようと何かしらのアクションを起こしていたのなら未だしも、彼女は何もしていない。何なら新入生歓迎会の際にも、アイドル研究部の存在を明かさないように言ったりもしていたのだ。
よくよく考えれば、今までそこにツッコミを入れられなかった事の方がおかしいのだ。
「で、でも!アンタ別に生徒会役員でもないんでしょ?たかが一生徒に何が──」
「お前、俺が試験生だって事を忘れたのか?」
「……あっ」
そう、紅夜は試験生としてこの学校に来ているのだ。にこや穂乃果達のような一般の生徒ではない。
「一応はこの学校が共学化するかもしれないから、それを想定してのテストとしてこの学校に通っている訳だが、同時にこの学校のどういうところが良くて、逆にどういうところが駄目なのかを生徒会や理事長に報告する役目も任されている」
「…………」
「そして此方に来る前、絢瀬や東條に部活動の管理の仕方が杜撰である事を指摘したばかり……ここまで言えば、流石に分かるよな?」
にこは息を呑んだ。
つまり、彼が今回の出来事を生徒会に報告すれば、このアイドル研究部の立場が危うくなる可能性があるという事だ。
流石に彼の意見1つで即座に学校や生徒会を動かす事は出来ないだろう。だが試験生という立場に置いている以上、意見を無視する事は出来ないというのも、また事実なのである。
ロクに活動していないような名ばかりの部活と、未だ正式に部として認められた訳ではないものの、日々精力的に活動し、既に実績を作っている集団。どちらか選べと言われた時、果たして前者を選ぶ者は何人居るだろうか…………
「まぁ、そういう事だ」
そう言うと、紅夜は鞄を持って立ち上がる。
「それに、プロ意識が足りない事が気に入らないなら教えてやれば良い。こんなにアイドルについて熱心に調べたり自分のパフォーマンスを考えたりしているんだ、それくらい出来るだろう?」
「…………」
「お前も少し頭を冷やして、落としどころを探ってみろ。それで彼奴等がまた来た時に改めて話せば良い」
「……来るの?」
「恐らくな。何せ、以前のライブで結果はあまり良くなかったのに今でも活動を続けてるし、俺が何度断っても勧誘を止めないくらいだから。連中の熱意に関しては保証するよ。お前がちょっと厳しくしたくらいで折れる程、彼奴等は弱くないさ」
そう言って、紅夜は苦笑を浮かべた。
「さて。良い具合に時間も潰せたし、そろそろお暇させてもらうよ。邪魔したな」
「ッ!ちょ、ちょっと待ちなさい!」
ドアノブに手を伸ばす紅夜の腕を掴み、再び引き留めるにこ。
『未だ何かあるのか』と内心呟きながら振り向くと、先程までの勢いは何処へやら、不安そうに此方を見るにこの姿があった。
「えっと、その……」
やけに歯切れの悪いにこだが、紅夜には彼女が何を言おうとしているのか分かっていた。
「(さっきの脅し、かなり効いたみたいだな)」
そう、彼女は今回の事を生徒会や学校に報告される事を恐れているのだ。
流石にいきなり廃部にされるような事にはならないだろうし、そもそも本当に廃部になるのかも定かではない。だが、それでも自分の居場所が無くなってしまうかもしれないのだから、不安になるのは当然である。
「……あぁ~、そうだな」
紅夜は態とらしく独り言を呟いた。
「まぁ、彼奴等がまた話し合いに来るかもしれない訳だし、その時まで取り敢えず様子見としようかな。うん、その時まで手を出さなくても、別に遅すぎるなんて事はあるまい」
そう言うと、彼は掴まれた手を優しく解き、今度こそ部屋を出る。
「誰も居ない、もう皆帰ったか……東條辺りが聞き耳立ててると思ってたが、考えすぎだったか」
紅夜は靴箱へ向かい、下履きに履き替えると駐車場へ向かう。
愛車のR34が見えるのと同時に、その傍で佇む希の姿も視界に入った。
生徒会の仕事を終わらせて帰ろうとしているところなのか、鞄を持っている。
「いや、東條居ったわ。普通に待ち伏せしてるやん……」
思わず関西弁で呟く紅夜。それが聞こえたのか、希が顔を向けた。
「おや、長門君。結構話し込んでたみたいやね」
「……何だ、知ってたのか」
「うん。さっき穂乃果ちゃん達に会って、長門君だけ追い出されなくて部室に残ってるって聞いたから、ちょっと待ってたんよ」
「成る程な……」
本音を言えばそのまま帰ってくれた方が楽で良かったのだが、
「てか、そんな風に言うって事は、矢澤の事情とかも?」
「知ってるよ。知っててあの子達や長門君に行ってもらったんや」
「(やっぱり知った上で行かせてやがったのか、この女……まぁだからって怒っても仕方無いし、そもそも聞くつもりもねぇけど)」
そう心の中で呟いて溜め息をつく彼を他所に、希は助手席のドアの前に立った。
「……何の真似だ?」
「ちょっと話さへん?部室でにこっちと何話してたのか聞きたいし、ウチからも話したい事あるから」
「………俺がお前の言う話したい事とやらを聞くメリットは?」
「無いよ。だからコレは、そうやな……一言で言い表すとすれば……」
──ウチの我が儘や。
「…………」
そうはっきり言い切った希に、紅夜は思わず言葉を失う。
「長門君からすれば心底どうでも良い話やと思うし、これからウチが語る事も、信じられんと思う。せやけど……!」
段々と語気が強くなっていく希。普段からは想像出来ない真面目な姿に驚きつつも、紅夜は静かに話を聞いていた。
すると、彼女は懐から取り出した1枚のタロットカードを見せる。
「カードが言ってるんや。君が……紅夜君が必要やって。せやからお願い、話を聞いて」
そう言って、希は深々と頭を下げる。
「……そんな占い、到底信じられんのだがな」
面倒臭そうに頭を掻きながらそう言いかけた紅夜は、小さく溜め息をついた。
「まぁ良いだろ、乗れ。ドライブついでに今回の話くらいは聞いてやる」
取り出した鍵のボタンを押してR34のロックを解除した紅夜は、助手席に乗るよう促す。
「……ありがとう、紅夜君」
希は柔らかな笑みを浮かべ、車に乗り込んだ。
「ああ、分かってるとは思うがシートベルトはちゃんと閉めろよ?サツに見つかったら面倒だからな」
「フフッ……はいはい」
そうして彼女の準備が整うと、紅夜は車を発進させ、ゆっくりと校門を出る。
そのまま下道を走り回りながら、にこと交わしたやり取りを伝えた。
「……彼奴とのやり取りは大体こんな感じだ。一応絢瀬の時よりは言葉を選んだつもりだが」
「うん、そうやね。ちゃんと前の反省を活かせてるやん。偉い偉~い」
そう言って紅夜の頭を撫で回す希。
「(あっ、結構撫で心地良いなぁ)」
「おい、ガキ扱いするな」
だが、その手も紅夜にあっさり払い除けられてしまう。
「あぁ~ん、振り払わんといてよ~。撫で心地良かったのに……」
頬を膨らませながら抗議するも、紅夜は『知るか』の一言で封殺する。
「そんな事より、お前の話だ。大方矢澤に関する事なんだろ?」
「……うん」
紅夜が話題を振ると、希は先程までのおちゃらけた雰囲気は引っ込み、真面目な顔で頷く。
「実はね……」
そして、今回の本題に入るのだった。