ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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 漸くにこ襲来編が片付いた~。

 それにしても、未だアニメ1期の5話なのに本作の話数が40って……
 劇場版まで終わらせて完結する頃には何話になっているのやら?


第38話~アウトローとアイドル研究部・後編~

「ただいま~。今日も今日とて疲れましたよ~っと」

 

 午後8時過ぎ。希を送り届けてから帰宅し、夕食を終えた紅夜は、自室のベッドに身を投げ出した。

 

「にしても彼奴、運転してる間殆んど喋ってたな……まぁ喋るように言ったのは俺なんだが」

 

 ドライブの間、希から聞かされたのはにこの過去に関する話だった。

 

 どうやら1年生の頃、当時の同級生数人と共にスクールアイドルグループを結成し、活動していたのだが、彼女のスクールアイドルに対する理想が高過ぎるあまり、それに伴って厳しくなっていく練習についていけなくなった部員が次々と辞めていってしまったというのだ。

 それ以来、彼女はスクールアイドルとしての活動を止め、部室に引きこもって1人過ごす日々を送っていたらしい。

 一切の勧誘を行わなかった事や部活紹介でアイドル研究部の名を出させなかったのも、スクールアイドルに対して半端な覚悟しか持っていないような連中を入れたくなかったからだという。

 

 そして穂乃果達に絡んでいたのは、恐らくは嫉妬だろうと希は語っていた。

 初ライブすら出来ずにグループが崩壊した自分を差し置いて、日々楽しそうに活動している穂乃果達が、羨ましかったのだろうと。

 

「…………」

 

 ぶっちゃけ、何れも紅夜には関係の無い話だ。

 

 これまで絵里や希、そしてにこに対してあれこれと口を出したとは言え、結局は部外者である事に変わりは無い。

 そもそも自分が口を開く必要すら無かったのだ。

 

 だが、彼は口を開いた。

 絵里や希を言葉責めにして、更には希に言われるがままアイドル研究部へ赴き、にこと対峙した。

 穂乃果達のμ's結成時から始まり、花陽達1年生の加入時と言い今回の一件と言い、元々試験生としての仕事と関係の無い事には関わらないつもりだったのが、悉く巻き込まれ、当事者達と関わりを持っている。

 本来の予定とは真逆の事をしてしまっている。

 

 おまけに、絵里が穂乃果達の申請を突っぱねた際には怒りすら感じていた。

 赤の他人の申請が却下された、ただそれだけの話だというのに、まるで自分の事のように怒りの感情が湧いていたのだ。

 

「俺、一体どうしちまったんだ……?」

 

 そう自問自答していると、紅夜のスマホがメッセージの着信を知らせる。

 画面を見ると、希の名前が表示されていた。

 

 実は、彼女を送り届けた際、『今後のため』という名目で連絡先を交換させられたのだ。

 何気に、この音ノ木坂学院で彼と連絡先を交換した生徒の第1号である。

 

「『今日は話聞いてくれてありがとう』か……」

 

 送られてきたメッセージを読み上げた紅夜は、短く『ああ』とだけ返事を返した。

 

「…………」

 

 枕元にスマホを放り出し、再び考えに耽る。

 

 

 何故こんな事をしているのか?

 何故こうも他人の事情に首を突っ込んでいるのか?

 何故他人に感情移入しているのか?

 

 

 そんな答えの出ない悩みが、頭の中をグルグル巡っている。

 そうして暫く悩んだ末、彼は頭を振った。

 

「……もう止めよう。何時までもこんな事考えたところで時間の無駄ってモンだ」

 

 紅夜は起き上がり、風呂と就寝の支度を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「紅夜君、おっはよー!」

 

 翌朝、何時ものように朝早くから登校した紅夜が教室で過ごしていると、朝練を終えてやって来た穂乃果達が駆け寄ってくる。

 やけに機嫌が良く、まるで昨日の一件が嘘のような明るい顔だ。

……何故か海未だけ浮かない顔をしているが。

 

「ああ、おはよう………随分ご機嫌なようだが、何か良い事でもあったのか?」

「うん!実は昨日、凄く良いアイデアが浮かんだの!ねっ、ことりちゃん!」

「ね~、穂乃果ちゃん!」

 

 語尾に『♪』が付きそうな笑顔で顔を見合わせる2人に、紅夜は首を傾げる。

 

「アイデア?何のアイデアだ?」

「そんなの決まってるでしょ?にこ先輩に、μ'sに入ってもらうためのアイデアだよ!」

 

 そう言って、穂乃果はアイデアの内容を説明し始める。

 

 曰く、希との話を終えて帰っている途中、遠くから羨ましそうに彼女等の様子を窺うにこの姿があり、それが、幼少期に遊んでいる穂乃果やことり達を木の影から羨ましそうに眺める海未の姿と似ているのだという。

 

「あの時は、穂乃果ちゃんが強引に連れ出してきたんだよね?」

「うんうん!その時からよく遊ぶようになったんだ!」

「私はあまり記憶が無いのですが……」

「それは、海未ちゃんが忘れてるだけなの!」

 

 そのやり取りから、海未が浮かない顔をしていたのはそれが原因だと紅夜は悟る。

 

 本当に忘れているのか、忘れているフリをしているのかは海未本人でないと分からないが、敢えて触れなかった。

 理由を問わず、誰しもが触れられたくない事の1つや2つは持っているものである。自分と同じように。

 

「まぁ、お前等の馴れ初めについては取り敢えず分かったよ……で?それをどうやって矢澤の勧誘に繋げるつもりなんだ?」

「うん!それはね……」

 

 それから穂乃果が語ったのは、最早ゴリ押しとしか言えないものの、にこのような人間には効果覿面な計画だった。

 

 彼女は遠くから羨ましそうに見たりちょっかいを出したりするものの、此方が気づいたり近づこうとすると逃げてしまう。それに先日の件もあるため、今の自分達のパフォーマンスでは到底納得してくれないし、説得に耳を傾けてくれる様子も無い。

 なら、此方が先に待ち伏せて強引に仲間に入れるという強硬手段に出るというのだ。

 

「にこ先輩はスクールアイドルに憧れてて、昔はやろうとしてたんでしょ?もし、未だ心の何処かにスクールアイドルをやりたいって気持ちがあるなら……」

「……チャンスはあるな」

 

 紅夜は頷いた。

 

「でしょ?だから早速、今日の放課後にやろうと思ってるの!紅夜君も来てくれる?」

「…………」

 

 そんな誘いを受けた彼は、暫くの間を置いて首を横に振った。

 

「悪いが、今回はパスだ。お前等が追い出された後に色々言ったからな」

「……もしかして、生徒会長達に言った事を?」

 

 その問いに紅夜が出した答えは、YESだった。

 

「あ~、あの事言っちゃったんだね……」

「……念のため言い訳しておくが、本当にやるとは言ってない。ただ、『このままだとそうなる可能性があるぞ』と忠告しただけだ」

「それ、最早忠告ではなくて脅迫では……?」

「……まぁ、そういう事だ」

「あっ、誤魔化した!」

 

 穂乃果がツッコミを入れる。

 

「と、兎に角だ。俺は参加しないから、後はお前等で何とかしろ」

 

 紅夜は、そう言って強引に話を締め括った。

 

「……一応、お膳立てはしておいたからな」

 

 席に戻っていく穂乃果達に聞こえないようにそう言って、彼は窓の外へ視線を向ける。

 今日も相変わらず、天気は雨模様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、教材を詰め込んだ鞄を引っ提げて教室を出たにこは、1人で部室へ向かっていた。

 廊下を歩いていると、他の生徒達の楽しそうな話し声が聞こえてくる。

 

 帰りに何処か寄っていこうと話す者、今日の部活では何をしようかと予定を決める者……そんな賑やかな廊下を無言で抜けていくと、何時ものように部室へ辿り着く。

 そしてドアノブへ手を伸ばした時……

 

「ん?」

 

 ふと気づいた。ドアの小窓から、中で明かりがついているのが見える。

 今、このアイドル研究部に在籍しているのはにこ1人だけ。本来なら明かりがついている事など有り得ないのだ。

 

「もしかして……」

 

 辞めていった部員が戻ってきたのか?はたまたμ'sの連中がまたやって来たのか?

 

「……いや、まさかね」

 

 きっと、今朝此所で過ごした時に明かりを消し忘れたんだろうと、強引に自分を納得させ、ドアを開ける。

 

「「「「「「お疲れ様でーす!」」」」」」

 

 すると、6つの声が彼女を出迎えた。そこにはμ'sの面々が座っていたのだ。

 

「あ、アンタ達。なんで此所に──」

「はい、お茶です。部長!」

「ぶ、部長!?」

 

 動揺するにこに湯飲みを差し出す穂乃果。

 

「部長、此方が今年の予算表になります!」

 

 次にやって来たのはことりだった。

 

 その後、次々に声が上がる。

 

 やれ『テーブルの上のグッズが邪魔だから棚に移動させた』、やれ『今後の参考にするからお勧めの曲を貸せ』、やれ『伝伝伝のDVDを見よう』等々……

 

「……こんな事したところで、押し切れるとでも思ってるの?」

 

 1周回って冷静さを取り戻したにこがそう言うと、穂乃果が答えた。

 

「そんなつもりはありません、ただ相談しているだけです」

「相談?何の相談よ?」

「勿論、曲の相談ですよ。この7人で歌う、最初の曲の!」

「7人……?」

 

 にこは室内を見回す。

 この部屋には、自分とμ'sの6人しか居ない。昨日遅れてやって来た紅夜の姿も、今日は見ていない。

 

 そこで漸く実感した。自分が、7人目である事を。

 

「ッ……!」

 

 2年前、最初のグループが崩壊してから、こんな日はもう来ないと思っていた。このまま何もない日々を過ごし、卒業するのだと諦めていた。

 だが心の何処かでは、自分の熱意に答え、ついてきてくれる仲間の存在を欲していたのだ。

 そして今、ずっと無意識の内に求めていたものが目の前にある。

 

「……厳しいわよ」

「はい、勿論分かってます!アイドルの道が厳しい事くらい」

「分かってない!皆甘々なのよ!アンタも、そこのアンタ達も!」

 

 1人1人指差しながら、にこははっきりそう言った。

 

「良い?耳の穴かっぽじってよ~く聞きなさい!アイドルというのは、ただ笑顔を振り撒いていれば良いってモンじゃないわ!見に来てくれるお客さんを笑顔にするのが仕事なの!それをキッチリ自覚しなさい!」

 

 そう熱弁するにこに、穂乃果達は微笑んだ。

 

「やっぱりこの作戦、正解だったみたいだね」

「そうだね、穂乃果ちゃん」

「ホラ、そこ!何ヒソヒソ喋ってんのよ!」

「「何でもありません、部長!」」

 

 ビシッと指を差すにこに、穂乃果達はそう返した。

 

 

 その後、彼女等はアイドル研究部の入部届けに記入を済ませ、生徒会に提出する。

 絵里は苦い顔をしながらも、昨日の件もあってか特に何も言わずに受け取った。

 

「さて。ちょうど雨も上がってるみたいだし、早速練習するわよ!」

 

 そうして屋上へと上がった7人は、練習を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おっ、雨止んだみたいだな」

 

 その頃、紅夜は愛車の中で昼寝から目覚めたところだった。

 雨が上がったのを確認した彼は車から出て、大きく体を伸ばす。

 

 すると……

 

「「「「「「にっこにっこにー!」」」」」」

「……ん?」

 

 何処からともなく、昨日聞いたにこの掛け声が聞こえてくる。それも彼女ではなく、穂乃果達の声で。

 耳を澄ませると、それが屋上から聞こえてきているのが分かる。

 

「……どうやら、上手くいったみたいだな」

 

 一瞬頬を緩めた紅夜は、『あっ』と何かを思い出したように歩き出す。彼が向かったのは、彼女等の居る屋上だった。

 少し大きめにノックをすると、直ぐにドアが開けられ、穂乃果が出迎える。

 

「紅夜君!来てくれたんだね!」

「ああ、ちょっと思い出した事があってな」

 

 そう答えた紅夜は、屋上を見渡した。

 

「あの作戦、上手くいったんだな」

「うん!今はにこ先輩に、練習見てもらってるんだ!」

「そうか、それは良かったな。じゃあ……」

「あっ。言っておくけど、だからって紅夜君への勧誘を諦めた訳じゃないからね!」

「……ああ、そうですか」

 

 溜め息混じりにそう言うと、今度はにこが近寄ってくる。

 

「……よお、矢澤。μ'sに入ったのか」

「ええ。どうしてもって言われてね!」

 

 すっかり自信を取り戻したのか、得意気に胸を張るにこ。後ろで凛達がクスクスと笑っているが、当然それに気づいている様子は無い。

 だが、声が聞こえなくなった事には流石に気づいたようで、穂乃果を追い返して練習を続けさせる。

 

「どうなんだ?彼奴等は」

「まだまだね。だから、今後は私がキッチリ指導してあげるつもりよ」

「成る程な」

 

 クスッと笑みを溢し、紅夜は練習を続ける穂乃果達へ視線を向ける。

 

「それと……ありがとね」

 

 すると、不意ににこがそう言った。

 

「……?」

「昨日の事よ。アンタの言った通り、また来たわよ。まさか部屋の中で待ち伏せされるとはね」

「…………」

「それに、あの子達が本気だってのも伝わった。アンタがあれこれ言ってこなかったら、多分また追い出してたと思うわ」

「そうなったら、今度こそ生徒会や学校に報告かな」

「あら。アンタの事だから、また何かと理由つけて猶予をくれるんじゃないの?昨日の事を生徒会に言わなかったように」

「……さあ、どうだろうな」

 

 実際、希には話したが絵里には話さなかった。何せ、彼の予定を伝える前に彼女の方から頼まれたのだ。

 『穂乃果達がまた話をしに行くだろうから、その結果が出るまで待ってほしい』と。

 

「と、兎に角!またやり直そうって思えたのはアンタのお陰でもあるって事よ!それだけ!」

「……ああ、そうか。まぁ、取り敢えずその言葉は受け取っておくとしよう」

 

 頷いた紅夜は、ふと空を見上げる。

 そこには、まるで新たなスタートを切った彼女等を祝福するかのように晴れ間が見え、虹が掛かっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうそう。矢澤に用があるのを忘れてたよ」

「私に?」

 

 それから暫く様子を見ていた紅夜は帰ろうとしたのだが、そこでこの屋上を訪れた目的を思い出し、にこを呼び寄せる。

 

「お前に渡すものがあってな」

「あら、入部届けかしら?」

「いや、そうじゃなくて……あったあった。コレだよ」

 

 そう言って紅夜が取り出したのは……

 

「……レシート?」

「そうだ。お前この間高坂と園田のポテト盗み食いしただろ?」

「「「……あっ」」」

 

 今思い出したように声を発するにこ。練習しながら彼等のやり取りを聞いていた穂乃果や海未も、動きが止まる。

 

「あの時はお前が逃げたから、取り敢えず俺が買い直しておいた。だが本来なら、お前が弁償しなきゃいけないものだからな………という訳で、ホレ」

「えっとぉ~……その手は?」

 

 にこは冷や汗を滲ませながら、差し出された手を指差して訊ねる。

 

「代金に決まってるだろ。お前等のゴタゴタは解決した訳だし、良い機会だ。さっさと耳揃えて払え」

「いや、それ今のタイミングで言う!?仮にも和解した直後よね!?アニメとかだったらちょっと感動するシーンの直後よコレ!?」

「そんなモン関係無い。このタイミングを逃したら何時回収出来るか分からんし、忘れられでもしたら元も子もないからな。さあ、無駄口叩いてないでちゃっちゃと全額払ってもらおうか?」

 

 そう言って迫る紅夜。様子を見ている穂乃果達6人は、自業自得ではあるものの迫られるにこに同情の視線を向け、凛に至っては『先輩容赦無いにゃ……』とドン引きしている。

 

「さぁ、矢澤。過去の悪戯を清算する時が来たぞ」

「こ、この鬼!悪魔!守銭奴野郎!さっきの感謝の言葉返せぇぇぇえええええ!!!」

 

 晴れた空に、にこの断末魔のような叫びが響き渡り、回収を終えた紅夜がホクホクと屋上を出た後には、ガックリと項垂れるにこと、そんな彼女に憐れみの視線を向ける穂乃果達の姿があったという。




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