ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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 悩んだ末、アニメ6話の前にこの話を入れる事にしました。

 元々はもう少し前に入れようと思ってた話ですが、話の流れ的に没となり、今回でそろそろ入れようかなと思いました。


 てか、前から書き進めてたとは言え何気に2話連続投稿してるな俺……


第39話~アウトローとメイド喫茶~

「よぉ~し、綺麗になったぞ。R」

 

 にこがμ'sに加わってから数日が経過した、ある土曜日の朝。紅夜は自宅のガレージで愛車の洗車を終えたところだった。

 

 元々、最後に洗ってからそれなりに日が経っていたのもあって車は思いの外汚れており、終わるまでには少々時間が掛かったものの、そんなものは苦にもならなかった。寧ろ車を愛する者の1人としては、洗車やオーバーホール等、他人なら面倒だと思うような作業であっても楽しいと思えるのである。

 

「うんうん、やっぱお前はこうでなくちゃな」

 

 日の光を浴びて輝く愛車を満足そうに眺める紅夜。その隣には父・豪希のFocusがあるのだが、今日は彼が仕事で使っているため出払っている。

 因みに彼の車も、ここ暫くは洗車出来ていないらしい。

 

「(今度は親父のFocusも洗ってやらないとな。それにSilviaも、一応レナや父さんが軽く乗ってくれてるとは思うが、流石に洗車までは頼んでないからな……絶対埃とかで汚れてる筈だ)」

 

 アメリカに置いてきたもう1台の愛車の姿を思い浮かべながら後片付けを始めようとする紅夜。だが、そこへ2台の黒いスポーツカーがやって来て家の前に止まった。

 

「チーッス!」

「こんにちは、紅夜」

 

 そのスポーツカー、Toyota Supra SZ-Rから出てきた青年、篝火大河は、相変わらずのハイテンションで声を掛けてきた。

 それに続き、Koenigsegg Agera RSからは瑠璃が降りてきた。

 

「よぉ、大河に瑠璃じゃねぇか。随分珍しい組み合わせだが、どうしたんだ?」

「どうしたって、誘いに来たんだよ。お前を」

 

 どうやら大河は、以前中途半端に終わったアキバ巡りのリベンジをしようと紅夜にメッセージを送っていたのだが、普段なら直ぐ返されていた返信が全く来ないばかりか既読も全く付かなかったため、出掛けるついでに様子を見に来たらしい。

 因みに瑠璃の方は、大河が車を走らせている時に偶然会い、彼が紅夜と遊ぶ計画を立てているのを聞いて便乗してきたようだ。

 

「そっか……悪いな、洗車してたしスマホも部屋に置いてたから気づかなかったぜ」

「ああ、どうやらそうらしいな」

 

 そう言う大河の隣では、瑠璃が洗車を終えたばかりのR34を見回していた。

 

「すっかり綺麗になったわね」

「そりゃあ、細かいところまでキッチリ洗ったからな」

 

 得意気にそう言って、紅夜は胸を張る。自分の愛車が綺麗になると、誰だって自慢したくなるものだ。

 

「おっと、それはそれとして……」

 

 ここで、話が大きく逸れている事に気づいた大河は話を戻す。

 

「そんでどうなんだよ、今日のご予定は?確か、あのスクールアイドルの子達のマネージャーは、もう終わりにしてるんだよな?」

「ああ、だから今日はフリーさ。洗車も終わったし宿題も特にねぇから、やる事無くて暇してたところさ」

「綾は?」

「彼奴は友達と出掛けてるよ」

 

 その返答に、大河の紫の瞳が輝いた。

 

「だったらちょうど良いや、アキバ行こうぜアキバ!未だ紹介してねぇ場所が山程あるんだよ!」

「そうだな……」

 

 そんなやり取りを交わしていると家のドアが開き、深雪が出てきた。彼女は大河を視界に捉えると、柔和な笑みを浮かべた。

 

「あら、大河君に瑠璃ちゃんじゃない。こんにちは」

「どうもッスお袋さん!」

「こんにちは、紅夜のお母様」

 

 紅夜の母親相手にも、大河は何時もの軽い調子で挨拶を返す。対する瑠璃は、柔らかな物腰で挨拶をする。

 そんな2人に微笑んだ深雪は、紅夜に視線を移した。

 

「こうちゃん、せっかく2人が来てくれたんだから遊んできなさいな」

「……聞いてたんだな、お袋」

「そりゃ、大河君ったら相変わらず声大きいんだもの。家の中に居たって聞こえるわ」

 

 『本当に昔と変わらないわね』と付け加え、クスクスと笑う深雪。

 

「へへっ、コレこそが俺なんでね!」

「何ふんぞり返ってんだよお前は……ちったァ落ち着きってヤツを持ちやがれっての」

「諦めなさい、大河は死んでもこのままよ」

 

 得意気な表情で言う大河の隣でヤレヤレと首を振る紅夜に、瑠璃が言った。

 

「……まぁ特にやる事も無かった訳だし、断る理由もねぇか」

「よっしゃ、そんじゃ決まりだな!車で待ってるぜ!」

「お先に、紅夜」

 

 そう言って、2人は各々の愛車へと乗り込む。紅夜もそそくさと後片付けや身支度を済ませ、車へ乗り込んだ。

 

「こうちゃん、お小遣い要る?」

「い、いや。流石に要らねぇよ。もう小遣い貰うようなガキじゃねぇんだから……」

「じゃあ、高速代とご飯代だけでも持っていきなさいな」

「……分かったよ、ありがとなお袋」

 

 そんなやり取りもありつつ、紅夜は2人と共に2度目のアキバ巡りへと赴いた。

 

 

 世田谷から高速に乗り、約30分。彼等は再び秋葉原へとやって来ていた。

 

「よぉ~し、時間は有限だ。早速行くぞ!」

「はいはい」

「さて、何処へ連れていってくれるのか見物ね」

 

 以前利用したコインパーキングに車を止めるや否や、紅夜と瑠璃はあちこち連れ回された。

 最早アニメショップだけでも数件廻っており、大河が購入した書籍やグッズを置くために2回程コインパーキングに戻っている。当然、何も買っていない紅夜や瑠璃は手ぶらだ。

 

「ホント、お前よくそんだけ買えるよな。流石は売れっ子のWEBデザイナー兼ブロガーだ」

 

 楽しそうに周囲を見回し、次はどの店に行こうかと候補を探す大河に、紅夜は言う。

 

「よく言うぜ、お前やレナ達だって宝くじ数回連続で1等当てなきゃ稼げんレベルで金持ってるくせによ。しかもそれがアメリカのマフィア潰して巻き上げた金ときたモンだから末恐ろしいぜ」

「ストリートレースで稼いだ金もあるからな。更に言えば、コレ給料じゃねぇから所得税とかも掛からん。全額纏めて俺等のモンって訳さ」

「あら、それは羨ましい話ね…………私も走り屋に転職しようかしら?」

「おっ、それ良いな。お前のAgeraも馬力はあるから良いところまで行けると思うぜ?俺等と一緒に、200MPHの世界を駆け抜けようじゃねぇか」

「瑠璃のAgeraは300㎞どころか400㎞出せるんですがそれは……」

 

 そんな軽口を叩き合いながら秋葉原を練り歩く3人だったが、腹が減ってきたものあり、大河の勧めるメイド喫茶で遅めの昼食を摂る事にした。

 

「メイド喫茶か。編入前にこの辺通った時チラッと見たが、こういう所で飯食うのは初めてだな」

「逆に初めてじゃなかったらビックリだよ……ホラ、入るぞ」

 

 そうして、やたら可愛らしい装飾が施された店へと足を踏み入れる3人。

 カランコロンとドアのベルを鳴らしながら入ると、近くにいたメイド姿の従業員が出迎えた。

 

「お帰りなさいませ、ご主人さ……えっ!?」

「ん?」

「おろっ?」

「あら」

 

 その瞬間、紅夜と従業員は時間が止まったかのように動きを止め、互いを見つめた。

 

 紅夜達を出迎えたのは、頭頂部付近でトサカのように纏められたグレーの髪をした少女。紛れもなく南ことりだった。

 

「こっ、紅夜……君……?」

「み、南……なのか……?」  

 

 両者共、まさかこんな所に居るとは思わなかったと言わんばかりに目を見開いている。

 

「何だ、誰かと思ったらあん時の子じゃねぇか。よっす!」

 

 そして、相変わらず陽気に挨拶をする大河。こんな状況でもペースを乱さないのは、ある意味尊敬出来る。

 

「な、何だ彼奴等?あんな所で固まって……」

「てか、ミナリンちゃんも居るぞ……もしかして知り合いなのか?」

「ま、まさか……彼氏?」

「いや待て。あの白髪の奴、隣にスゲー美人侍らせてるぞ」

「両手に花ってか?羨ましい……!」

「て言うか、あの3人の内の2人、どっかで見た事あると思ったらBLITZ BULLETじゃねぇか……?」

「うわ、マジだ」

「私、生で本物見たのは初めてだよ」

「でも、じゃあ白髪の人って誰?新メンバーが入ったなんて情報は出てないけど……」

 

 出入口で呆然としている一行を不審に思った客が、そんな事を囁き合う。

 

「ッ!?こ、コホンッ!」

 

 この状況はマズいと思ったことりは、一先ず従業員の顔に戻り、彼等を案内しようとした。

 

「そ、それではご主人様方、お席にご案内しますね?」

「え?……あ、ああ」

「あいよ。よろしく頼むぜ」

 

 そうして席へと案内された紅夜達は、ぎこちない動きで離れていくことりを見送り、メニューを開いた。

 

「いやぁ~、ビックリしたな」

「ああ、まさか彼奴が此所でバイトしていたとはな……」

 

 ページを捲りながら、紅夜と大河はそう言い合う。

 

「あら、紅夜も大河も知らなかったの?紅夜は同じクラスだし、大河はこの店の常連だって言ってたわよね?」

 

 そう訊ねる瑠璃だが、2人は首を横に振る。

 

「いや、俺はそういう話は全く聞かなかったな……お前はどうなんだ、大河?」

「俺も同じようなモンさ。確かに何回も来てるけど、あの子は1回も見た事無かったな………最近入ったばかりなんじゃねぇのか?」

 

 どうやら、常連である大河もことりがこのメイド喫茶で働いている事は知らなかったようだ。

 

 それから3人は、ことりから渡されたメニューに目を通していく。

 

「にしてもこのメニュー、何て言うかしつこいくらいに可愛さを押し出してきてるな。兎に角甘いものをごちゃ混ぜにしたデザートみてぇだ」

「メイド喫茶のメニューなんて何処もそんなモンだよ」

 

 メニューの内容だけで胸焼けしかけている紅夜に、大河は笑いながらそう言った。

 その後は無難な料理を注文し、メイド喫茶ならではの魔法の呪文に紅夜が首を傾げたりしながらも、3人は出された料理を食べ進めていく。

 

「(ど、どうしよう……まさかお店に紅夜君達が来るなんて……)」

 

 メニューを渡した後、彼等の様子を窺っていたことりは、ある種の焦りを感じていた。

 

 μ's結成直後にスカウトを受けて始めたこの仕事だが、紅夜は勿論、穂乃果や海未にすら自分がアルバイトを始めた事は伝えていない。

 と言うのも、彼女は穂乃果のようにどんどん前へ突き進んでいくタイプでもなければ、海未のようなブレーキ役でもない。言ってみれば、ただ誰かについていっているだけだ。

 その事に少なからず劣等感を抱いており、そんな自分を変えたいという気持ちから始めたのだから、穂乃果達に知られる訳にはいかなかったのである。

 しかし今日、紅夜にはバレてしまった。

 これまでの経験から、少なくとも彼が人の秘密を言いふらすような人間ではない事は分かっているつもりだが、それでも念のため、誰にも言わないように口封じをしておく必要がある。

 それに今回は、紅夜だけではなく彼の友人も一緒に来ているのだから、尚更だ。

 

「(……もうすぐ休憩だし、その間にことりの事を誰にも言わないようにお願いしなきゃ!)」

 

 そう決心し、残りの業務に取り組むことり。

 

「…………」

 

 そんな彼女を、とある男性客が見つめる。四角い黒縁の眼鏡を掛けたその小太りの男の顔は、醜悪な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「いやぁ~、食った食った!大満足だ!」

「ああ、結構美味かったな」

 

 昼食を終えると、大河は椅子に凭れ掛かって満足そうに腹を叩く。

 紅夜や瑠璃も料理に満足したのか、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「メイド喫茶だからって甘く見てたが、中々美味かったぜ」

「お店の雰囲気もかなり良いみたいだし、また来てみるのも良いかもしれないわね」

「おっ、瑠璃も気に入ったか!」

「ええ、今度は全員で来ましょうよ。達哉達も、きっと気に入るわ」

 

 その言葉に喜ぶ大河。紅夜も、此所がメイド喫茶である事は一先ず脇に置き、幼馴染み達と来れる場所がまた1つ増えた事に満更でもない表情を浮かべていた。

 そして会計を済ませようと立ち上がった、その時だった。

 

「や、止めてくださいッ……!」

 

 出口付近の席から聞こえてくる、弱々しく、されど拒絶の意思が感じられる女の声。何事かと目を向けると、そこには小太りの男に絡まれていることりの姿があった。

 

「ねえ、良いじゃ~ん。僕にご奉仕してよミナリンちゃん」

「そ、そんな。困ります。他のお仕事もありますから……!」

 

 余程困っているのが、その声からも感じられる。

 

「うわっ、マジかよ?彼奴また来やがったぞ……」

「ああいうのが居るから、メイド喫茶やその客が世間から白い目で見られるってのが分からないのかな……」

「私、この前友達に『もうメイド喫茶行くの止めたら?』とか言われたよ……」

「私なんて、あの男の事愚痴ったら『そもそもメイド喫茶行く奴なんてそういうキモい奴しか居ない』って言われたんだよ?もうホント最悪……これ以上メイド喫茶の品位下げないでよ……!」

 

 すると、他の客がヒソヒソと囁き合うのが聞こえる。

 どうやら、例の男はこのメイド喫茶の中でも迷惑客として有名らしい。

 

「(おいおい、この前のチンピラの次はあれか?全く、なんでμ'sの奴等はこうも変な男に絡まれるんだか)」

 

 その様子を見ながら、紅夜は深く溜め息をつく。

 その傍らでは、事情を知らないらしい大河が近くの席に座る他の客から情報を貰っていた。

 

 話によると、例の男は最近この店に来るようになった者で、店のオーナーの息子だと言う。

 それを鼻にかけており、過去に何度も従業員に絡んだり、それを諌めようとした他の客とトラブルを起こす事が多いそうだ。

 特にことりがお気に入りのようで、前からこうして絡んでいるらしい。

 

 ことりに留まった話ではないが、普通ならこのような行為を働けば待った無しで出禁処分を喰らうだろうが、オーナーの息子というのもあって店長達も強く出られないという。

 

「何ともまぁ、胸糞悪ぃ話だぜ……」

 

 大河の機嫌が悪くなる。

 瑠璃と同感とばかりに頷いた。

 

「全くね。せっかく料理も美味しくて雰囲気も良かったのに、あんなのが居るんじゃ台無しだわ」

「…………」

 

 そう言い合う2人を他所に、紅夜はことりと例の客の様子を窺う。

 どうやら例の男がことりの腕を掴んだようで、彼女は小さく悲鳴を上げる。

 流石に見かねた他の従業員が知らせたのか、奥から店長が出てきて彼女等の間に割って入るが、お約束というべきか、男は自らの肩書きを振りかざして脅迫めいた事を言ったようで、その店長も怯んでいる。

 

「…………」

 

 ことりも怯えているようで、店長の傍で小さくなっている。

 彼女の可愛らしい顔は、恐怖で歪んでいた。

 

「(ッ!あの野郎……!)」

 

 それを見た紅夜は、無性に腹が立った。

 

「クソが、もう見てられねぇ……おい、そこの店員さん」

 

 紅夜は苛つき混じりにそう呟くと、徐に立ち上がって近くに居た従業員を捕まえる。

 

「突然で悪いが、今から俺の言う通りに動いてくれ。悪いようにはしない」

 

 突然何を言い出すのかと困惑する従業員だったが、紅夜がことりの方を指差した事で理解したのか、彼の話に耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ですから、当店ではそのようなサービスはしておりません……!」

「だぁ~かぁ~らぁ~、僕はこの店のオーナーの息子なんだよ?君達がこうして営業してられるのも僕のパパのお陰なんだから、僕がこうしろって言ったら素直に従うのが義務なの。その辺をもう少し理解してほしいね」

「……ッ!幾らオーナーの息子さんだとしても、やって良い事と悪い事が!」

「おっと、そんな強気な態度取っちゃって良いのかな?僕がちょちょいと話せば、君も他の人達も……」

「くっ!」

「て、店長……」

 

 言い争う2人を、ことりは泣きそうな目で見ていた。

 

 『何も無い自分を変えたい』、そんな思いから始めたメイド喫茶のアルバイト。

 最初は色々と戸惑う事はあったし、ミスもあった。

 だが、そんな自分を励ましてくれたのが同僚や客達だった。

 そうしている内に、何時しか此所に来ると勇気が貰えるような気がするようになっていた。

 

 それが今ではどうだ。つい最近来るようになったオーナーの息子とやらに、滅茶苦茶にされている。

 他の客や同僚が諌めても、『自分はオーナーの息子だから逆らうな』と王様気取り。

 

 何処ぞのスカッとする話を纏めた動画やテレビ番組でも中々見ないようなこの男のせいで、この店に出勤するのも億劫になってしまっていた。

 中には、『あの男が今後も来るなら辞めて別の店に行きたい』と言い出した者も居る。

 

「(私、どうしたら良いの……)」

 

 涙が浮かぶ目をキュッと瞑ることり。だが、その目は再び開ける事になる。

 

「おい店員さん、何時までもソイツに構ってないでさっさと注文を取りに来てもらいたいんだが?」

「……ふぇ?」

 

 やや強めに肩をつつかれたことりが目を開けると、そこには不機嫌そうな紅夜が仁王立ちしていた。

 

「こ、紅夜く──」

「シッ!」

 

 声を出そうとしたことりをすかさず制する紅夜。

 

 『俺に合わせろ』と、その真っ直ぐ向けられた赤い目は語っていた。

 そして、彼は男が怪しまないようにすかさず役を演じる。

 

「何か知らんが、他の客共が急に追加注文を始めたり、チェキ……とか言ったか?そういうのをやり始めたみたいでな。中々注文を取りに来てくれないんだよ」

 

 そう言って後ろを指差す紅夜。そちらへ目を向けると、フロアに出ている従業員達が忙しなく動き回っていた。

 すると、ことりの代わりに店長が頭を下げる。

 

「も、申し訳ありません、お客様。後程、直ぐお伺いしますので……」

「おい、何だよお前?今は僕がミナリンちゃんからのご奉仕を受けてるんだ。引っ込んでろよ」

 

 邪魔をされたと思ったのか、男が絡む。

 

「あ?何か言ったかクソガキ?」

「ヒッ……!」

 

 紅夜はドスの効いた声と鋭い眼光で男を黙らせると、テーブルの上を睥睨する。

 そこには、ケチャップで可愛らしい猫の絵が描かれたオムライスがあった。

 

「……店員さん、コイツが注文したのはそのオムライスだけか?」

「えっ……?えっと、そうですが……」

 

 何故そんな事を聞くのかと首を傾げることりに、紅夜は訳を話す。

 

「あまりこういう店には詳しくないんだが……此所では料理を出された時に『魔法の呪文』とやらを唱えたり、注文の内容によっては店員さんと写真が撮れるサービスがあると聞いてな。コイツがそういうのを一緒に頼んだのか聞きたいだけさ……それで、どうなんだ?」

「は、はい。此方の方が注文したのは『ふわふわオムライスセット』のみで、特にチェキ等の追加注文をされた訳では……」

「ないんだな?」

 

 その問いに、ことりも店長とコクりと頷く。

 

「なら、『魔法の呪文』というのは?」

「それは全メニュー共通で、既に終わっている筈です……そうよね、ミナリンちゃん?」

「は、はい」

「なら、言ってみればもうソイツに用は無いだろう。後ろが慌ただしくなっていのに、何をやっている?」

 

 すると、答えようとした店長の代わりに男が口を開いた。

 

「あのねぇ、君。知らないようだから教えてあげるけど、僕はこの店のオーナーの息子なの。追加注文してようがしてなかろうが、そういうサービスを受けるのは当たり前なの」

 

 『分かったかい?』と、その男は嫌みったらしく訊ねる。

 

「ホラ、分かったらさっさと席に戻って、注文取りに来てもらえるのを待ってなよ。僕はサービスの続きをしてもらわなきゃいけないからね。今引き下がるなら、君の事もパパには言わないであげるよ」

 

 そう言って、再びことりに手を伸ばす男。だが店長が制止しようとした時、紅夜がことりの肩を掴んで引き寄せた。

 

「きゃっ!?こ、紅夜君!?」

 

 いきなり抱き寄せられたことりが、思わず顔を真っ赤に染めて声を上げる。

 店長や男も、そして遠巻きに見ていた他の従業員や客も、突然の事に驚いていた。

 

「おやおや、瑠璃。あの嬢ちゃん中々羨ましい事されてるぜ?」

「五月蝿いわよ、大河」

 

 平常運転なのは、大河と瑠璃の2人だけである。

 

「彼女が怖がってるだろうが。オーナーの息子だか知らんが、此所では等しく客だ。それ以上も以下も無い。それに、もう注文の品は届いたし『魔法の呪文』とやらも唱えてもらったんだろ?ならさっさと解放してやれ。業務の邪魔だ」

「ッ……な、何だよ。さっきから偉そうに」

 

 それでも諦めないようで、男は言葉を続ける。

 

「お前こそ、さっきからごちゃごちゃ言ってるけどミナリンちゃんの何なんだよ?どうせ最近来たばかりの客その1程度の存在でしかないんだろ?だったら──」

「俺はコイツの友人だ。大切な友人が困っているのを助けて何が悪い?」

 

 『ヒーロー気取りで入ってくるな』と続けようとした男だが、紅夜が声を被せた。

 

「なっ、ななっ……」

 

 まさか友人だとは思っていなかったのか、男は言葉が続かない。

 紅夜はそんな彼を捨て置き、ことりに目を向ける。

 

「紅夜君……」

「……悪かったな、南。取り敢えず奥行って涙拭いてこい」

 

 そう言うと、ことりは頷いて店の裏へ引っ込んでいく。

 

「さて……おい、ガキ」

 

 彼女を見送った紅夜は、改めて彼に視線を向ける。

 

「ヒッ!?」

 

 彼の真っ赤な瞳に睨まれ、男は小さく悲鳴を上げる。

 殴られると思っているのか、かなり怯えた様子だ。

 

「そのオムライス食ったらさっさと失せろ。そして、2度とこの店に近寄るな。次また来やがったらどうなるか………分かるよな?」

 

 そう言うと、男は首振り人形のように何度も首を縦に振る。

 

「……それで良い」

 

 紅夜は頷き、大河達の方を向いて手招きする。

 

「おい、行くぞ」

「あいよ」

「ふふっ、相変わらずねぇ。紅夜は」

 

 2人は頷くと、席を立って歩いてくる。

 

「あ、あの。お客様。ご注文は……?」

「……ああ、すまない。注文と言うのは嘘でな、実際は会計だ」

 

 注文しなくて良いのかと訊ねてくる店長に、紅夜は苦笑を浮かべながら言うのだった。

 

 

 その後、漸く我に返り、男が静かになったのを実感した他の客や従業員に取り囲まれて礼を言われたり、何時の間に用意したのか店長から感謝状を渡される等の騒ぎもあったが、彼等は無事に会計を済ませて店を出た。

 

 その際、今回の一番の被害者であることりもついてきた。

 此度の件でかなり精神的に参っているのもあり、早めに帰って気持ちを落ち着かせた方が良いと店長が考えたためだ。

 

「さてと……じゃあ、俺と瑠璃は先に帰るとするか。良いよな、瑠璃?」

 

 コインパーキングまで着くと、大河がそう言った。

 

「……そうね。今回は事情が事情だし、それで構わないわよ」

 

 瑠璃も大河の意見に頷き、2人は先に出庫して帰っていった。

 

「「…………」」

 

 後には、紅夜とことりが残される。

 

「……取り敢えず、帰るか。送ってやるよ」

「う、うん」

 

 そうして紅夜も出庫し、ことりと共に家路につく。

 

 その後は暫く無言だったが、遂にことりが沈黙を破る。

 

「そ、その……助けてくれて、ありがとう……後、ゴメンね?巻き込んじゃって」

「気にするな。それに俺こそ悪かったよ。演技とは言え、何も悪くないお前にキツい言い方をしてしまった」

 

 すまなそうに紅夜は言うが、ことりは首を横に振った。

 

「そんな、謝らないで。別に気にしてないし、ああやって紅夜君が来てくれたお陰で、私も店長さんも助かったんだから」

「そうか……そう言ってもらえると、俺も気が楽だよ」

 

 紅夜はそう言った。

 

「それにしても、まさかお前がメイド喫茶で働いてるとは思わなかったな。しかも、あのミナリンスキーだとは」

「う、うん……ねぇ紅夜君。この事、穂乃果ちゃん達には……」

「ああ、分かってる。人のプライベートを言いふらす趣味は無いから、安心しろ」

 

 その言葉を受けたことりの口からは、安堵の溜め息が漏れ出す。

 

「……それにしても、何故メイド喫茶でバイトを?」

「うん、実はね……」

 

 それからことりは、メイド喫茶で働き始めたきっかけを語った。

 

「実は、μ'sを結成したばかりの頃にスカウトされてね。あの時は衣装とかも自分達で用意しないといけなかったから、そのお金も欲しかったし」

「成る程……ん?ちょっと待て。という事は、彼奴等の衣装って……」

「うん。バイトのお給料を前借りしたり、少しだけ、お小遣いから出したりしてたの」

「そうだったのか……」

 

 意外な事実が判明し、紅夜は言葉を失う。

 

「(衣装を作ってるのは南だって事は聞いてたけど、まさか自分で金出してまで作ってたとはな……)」

「それにね、もう1つ理由があるんだ」

 

 すると、ことりが再び口を開く。

 

「その理由って?」

「……自分を、変えたかったの。私には穂乃果ちゃんや海未ちゃんとは違って、何も無いから」

「…………」

 

 そう言われた紅夜は、近くのコンビニの駐車場に車を停める。

 

「『何も無い』というのは、具体的にはどういうところが?」

「ホラ、例えば穂乃果ちゃんって、何時も周りをグイグイ引っ張ってくれるでしょ?」

「ああ、それでよく園田がブレーキ役になってるな。毎度ご苦労な事で」

 

 そう言うと、ことりも思わず苦笑を浮かべる。

 きっと今頃、噂されている2人は盛大にくしゃみをしていることだろう。

 

「でもね、私にはそれが無いの。穂乃果ちゃんみたいに周りを引っ張る訳でもないし、海未ちゃんみたいにブレーキ役が出来る訳でもない。それに、紅夜君みたいに誰かの支えになったり、ここぞって時に動けるような勇気も無い。ただ周りに流されて、ついていってるだけ……そんな自分が嫌で、変わりたかったの」

「…………」

 

 中々重い話を聞かされ、思わず押し黙る紅夜。

 

「ご、ゴメンね。こんなの紅夜君には関係無いのに……取り敢えず帰ろう?もう近くだから」

「……ああ」

 

 紅夜は、再び車を走らせる。そして暫くすると、彼女の家に着いた。

 

「それじゃ、今日は本当にありがとう。また月曜日に学校でね」

「………待ってくれ」

 

 そう言って車から降りようとすることりを、紅夜は引き留める。

 

「さっきお前は、『自分には何も無い』と言っていたが……それは、違うと思うんだ」

「え?」

「だって、そうだろ?本当に何も無い人間は、そもそも自分を変えようと行動を起こしたりしない。それに、お前は十分凄い奴だ」

「そ、そんな事……」

「あるんだよ」

 

 紅夜はことりの手を握って言った。

 

「確かに、お前は高坂や園田と比べれば目立たないかもしれない。だが、お前だって十分やる事はやってるし、俺も助けられてるんだ」

「……私が、紅夜君を?」

「ああ。特にライブで踊った"START:DASH"、あれがそうだ」

「…………」

「あの振り付け………俺も色々口を出していたが、お前がベースを考えてくれていたお陰で、俺もあの短時間で振り付けの修正を考えられたし、衣装もお前が頑張って作ったお陰で、全員がそれを着て踊れたんだ。それらは誰のお陰だ?お前だろ?他人を褒めたり自分を下に見る前に、先ずお前自身に胸を張ってくれ」

 

 そう言うと、紅夜はことりの頭に手を乗せた。

 

「南、お前は凄いよ。何も無いなんて事は無いんだ」

「紅夜君……!」

 

 ことりの目に涙が浮かぶ。

 だが、それはメイド喫茶の時のような恐怖や悔しさから来るものではない。

 自分を認めてもらえた、その嬉しさから来る涙だった。

 

「ありがとう……私のやってきた事、ちゃんと見てくれてたんだね…!」

「そりゃ、見てなかったらこんな事……言わ、ない……だろ……」

 

 すると、突然紅夜の言葉が勢いを失う。

 それに疑問を持ったことりが振り替えると、そこには1人の女性が立っていた。

 

 ことりの母・雛である。

 買い物から帰ったところのようで、両手には買い物袋を持っている。

 

「「理事長(お母さん)!?」」

 

 驚きのあまり同時に声を上げる2人に、雛はクスクスと笑った。

 

「こんばんは。どうやらお取り込み中だったみたいね?」

「い、いや。違っ……」

「ち、違うのお母さん!こ、コレはその、ちょっと悩みを聞いてもらってただけで……!」

「はいはい、分かったから」

 

 口ではそう言うが、雛はからかうような視線を向けるだけだ。

 

「と、兎に角そういう事だ。じゃあ月曜日に学校でな!」

「う、うん!」

 

 そうしてことりが降りると、紅夜は逃げるように車を発進させる。

 

「あらあら、コレはもう少し帰ってくるのを遅らせれば良かったかもね……」

 

 そう言いながら先に家に入る雛。

 それに対して、ことりは暫くの間、紅夜が去っていった方向を向いたまま立っていた。

 

「…………」

 

 その顔は、日に照らされた影響か赤く染まり、目には熱がこもっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、やっちまった……何だよあれ?あれじゃまるで口説いてるみたいじゃねぇか……」

 

 その頃、帰宅した紅夜は車の中で天を仰いでいた。

 

 脳裏に浮かぶのは、ことりに意見をぶつける自分の姿。

 彼女からすれば嬉しい言葉だったのかもしれないが、言った本人からすればかなり恥ずかしい言葉だった。

 

「おまけに、抱き寄せたり手ぇ握ったりなんかして……昔の俺でもあんな事しねぇよ……」

 

 開けられた窓に肘をつき、完全に自己嫌悪する紅夜。

 

「(取り敢えず、月曜に学校行ったら南に謝っておかないとな………てか、週明けに登校して最初にやるのが謝罪って何だよ?)」

 

 一先ず月曜日の予定を決めた紅夜は、車を降りて自宅に入った。

 

 

 そして迎えた月曜日、教室では謝罪し合う紅夜とことりの姿が見られ、後に事情を聴いたμ'sの面々は爆笑しつつ、少し羨ましそうな視線を向けていたという。




 思ったより長くなった……
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