多分2~3話くらいになるかな?
メイド喫茶での一件から、更に数日が経過した。
この頃になると、紅夜とことりの間に流れていた気まずい雰囲気はすっかり無くなり、何時もの調子を取り戻している。
そんなある日の昼休み、中庭には穂乃果達2年生と、何故かビデオカメラを携えた凛。そしてマイクを持った希の姿があり、穂乃果にはビデオカメラが向けられていた。
「はい、笑って~?」
「次は決めポーズね?」
「う、うん……!」
2人に言われるがまま、穂乃果は笑顔を向けたりポーズを決める。
その動きに合わせて、凛の傍に控えた希がナレーションを加えていく。
「コレが、音ノ木坂学院に新たに誕生したスクールアイドルグループ"μ's"のリーダー。高坂穂乃果、その人だ」
「はいオッケー!バッチリ撮れたにゃー!」
希のナレーションが終わると共に録画を止めた凛が、意気揚々と言った。
「あのぉ~、希先輩?ことり達は一体何をやってるんでしょうか……」
「何って、さっきも言ったやろ?各部活の取材動画やって」
「そ、それは覚えてるんですけど……」
正直な話、取材らしい事をしている実感がしない。
ことりは希から改めて説明を受けても、あまりピンと来ていない様子だ。
「じゃあ次は、海未先輩だねっ!」
そんな彼女を無視して、凛は次のターゲットへカメラを向ける。
「ちょ、ちょっと待ってください!いきなり失礼ですよっ!?」
撮影される事に慣れていないのか、海未の頬は僅かに赤く染まっている。
「おおっ、その恥ずかしそうな顔良いねぇ~」
何処かの変態親父のようにニヤニヤと笑みを浮かべながらカメラを回し続ける凛。
そんな彼女の隣で、希は苦笑混じりに言った。
「ゴメンゴメン。せやけど、コレも生徒会の仕事の1つでな。どうしても必要なんよ。この取材動画を学校のHPに載せたり、オープンキャンパスとか文化祭で来てくれた中学生の子や親御さん達に見せないといけないから」
「で、ですが……」
「それに、最近はスクールアイドルが流行ってるし、そもそもこういうのって見られてなんぼの世界やろ?君達にとっても悪い話じゃない筈やで?」
「そ、それはそうかもしれませんが、やはり私は嫌です!カメラに映るなんて!」
海未は断固拒否のようだ。元々人前に出るのが得意でないのもあり、こういうものにはかなり強い抵抗があるのだろう。
「取材……何てアイドルな響き……!」
その一方、穂乃果は『取材』という単語に酔いしれていた。
「ねぇねぇ海未ちゃん、やろうよ!紹介動画見てくれた人が、私達の事覚えてくれるかもしれないし!」
「そうね、断る理由は無いかも」
ことりも乗り気だった。
「こ、ことりまで……もう……」
海未も一応、これが必要な事で、今後活動していく際にプラスになるというのは頭では分かっているため、拒否の姿勢は取りつつも無理矢理止めさせようとはしなかった。
「取材に協力したらカメラ貸してくれるみたいだし、これでPVも撮れるよね!」
「PV?」
「ホラ、μ'sの動画って未だ3人だけだった頃のものだけでしょ?」
凛の言葉に、穂乃果達3人は頷いた。
「それに、あのライブの動画を撮ってくれた人が誰なのかも、未だ分かってないもんね……」
「ええ。一方は紅夜さんのご友人が撮ってブログに載せてくれたものですが、肝心のもう一方が未だ……」
「…………」
穂乃果達は未だ、あのライブを撮影した人物に辿り着けていない。
あの場で撮影が出来そうなのは、紅夜や瑠璃達を除けば花陽や凛、そして設営や音響を担当していたミカ達くらいだが、全員に聞いても撮影はしていないという。
念のため希にも聞いてみたが、彼女も首を横に振るだけだった。
「まぁ取り敢えず。映像撮ってくれた人に関しては、また何時か見つけたらお礼言うって事にすればええんやない?」
「そうそう。それより先ずは取材だよ!」
「おっと、そうだった!じゃあ早速花陽ちゃん達にも声掛けてくるよ!」
そう言って駆け出した穂乃果に、ことりや海未もついていく。
「……そうや。あの子にも声掛けとかな」
それを見送った希はスマホを取り出し、ある人物へと電話を掛けるのだった。
「ああ、もしもし?今ちょっと良いかな?……うん、ちょっとお願いがあって……予定空いてるかな?……そっか、じゃあお願い。時間とか決まったら連絡するわ」
~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日の放課後、アイドル研究部の部室には穂乃果達5人が集まっていた。
結局、あの後花陽達に声を掛けたのは良いものの、急すぎた上に希もやらなければならない事があるようで、次の日の放課後にする事で話が纏まったのである。
そして今、5人は他の面子に先駆けて部室に集まっているという訳だ。
そして今、テーブルの上にはビデオカメラが置かれており、そこに保存されていた映像が流れていた。
「スクールアイドルとは言え、学生である。プロのように時間外で授業を受けたり、早退や欠席が許されている訳ではない」
そんな希のナレーションと共に流れたのは、隠し撮りしたのであろう授業風景。
そこには穂乃果の姿が映っていた。
「昼食を摂ってから、再び熟睡。そしてクラスメイトから注意を受けるという1日であった」
希がそう言うと、映像の中の穂乃果は居眠りしているところを後ろに座る紅夜に小突かれ、驚きのあまり盛大に引っくり返っていた。
「……」
「これがスクールアイドルとは言え、未だ若干16歳。高坂穂乃果のありのままの姿で──」
「ありのまま過ぎるよ!て言うかコレ何時の間に撮ったの!?そもそも誰が撮ったのさ!?」
「えへへ……はいっ!」
悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべて手を挙げたのは、ことりだった。
「そ、そんな……ことりちゃんが!?」
「コッソリ撮るの、すっごいドキドキしちゃったよ~」
「ひ、酷いよぉ~」
「何が『酷い』ですか。そもそも普段だらけているからこういう事になるんですよ」
「穂乃果先輩らしいにゃ~」
次に流れたのは、海未の部活の風景だった。
当初は弓道の練習に取り組んでいた海未だったが、突然周囲に人が居ないのを確認すると、傍にあった鏡で笑顔の練習を始めていた。
「ぷ、プライバシーの侵害です!」
顔を真っ赤に染め、海未は叫んだ。
「じゃあ今度は、ことりちゃんのプライバシーを……ん?」
巻き添えにしてやるとばかりにことりの鞄を開けた穂乃果は、写真らしきものを見つける。
「ッ!」
すると、ことりが普段の彼女からは想像出来ない俊敏な動きで鞄を取り返し、後ろに隠して後退る。
「こ、ことりちゃんどうしたの?」
「ナンデモナイノヨ?」
「いや、何か片言になって……」
「ナンデモナイノヨ、ナンデモ!」
そんなやり取りを交わしていると、部屋のドアがノックされる。
「はーい……って紅夜君!」
「よお。ちょっと失礼させてもらうぞ」
穂乃果がドアを開けると、そこは紅夜が居た。
「おや、紅夜さんが来るとは珍しいですね。何かあったのですか?」
「もしかして、遂に私達のマネージャーになる決心が──」
「だからそのつもりは無いって前々から言ってるだろうが……」
期待の眼差しで見つめる穂乃果に溜め息混じりにそう言って、紅夜は目的を語った。
「実は昨日、東條に呼ばれてな。手伝ってほしい事があるとか何とか……」
「呼ばれたって……昨日の昼休み、紅夜君居なかったよね?」
「ああ、電話で呼んだんよ。ウチ等ちょっと前に連絡先交換したから」
「「「「え?」」」」
すると4人の声が重なり、希と紅夜を交互に見始める。
「ん?皆どうしたん?」
「い、いや。連絡先を交換したって……」
「そ、それに希先輩、紅夜君の事名前で……」
「別にええやん?君達だって名前で呼んでるんやし。ウチだってそれなりに関わってきたんや、仲間外れは寂しいで」
希はそう言った。
だが、穂乃果達からすれば、希が紅夜を名前で呼んでいる事は良いとしても、連絡先を交換しているのいうのは見逃せなかった。
「あ、あの。連絡先を交換したって……?」
「ん?そうやけど……」
不穏な空気を感じ取った希は、もしやと紅夜の方を向く。
「まさか紅夜君、穂乃果ちゃん達と連絡先交換してなかったん?」
「ああ。1年生はそもそもそんなに会う機会は無いと思ってたし、高坂達とは学校来たら毎日顔を合わせるからな。別に必要無いだろ」
「せやかて……はぁ~」
希は完全に呆れ返っていた。
確かに、紅夜の意見は全て間違っているとは言えない。
だが、こういうのは必要か不要かで片付く問題ではないだろう。
「むぅ~!」
現に、穂乃果は食料を詰め込んだハムスターのように頬を膨らませ、海未やことり、そして凛も何処と無く不満げだ。
そして……
「希先輩だけズルい!て言うか順番逆だよ!普通は私達と連絡先交換するのが先でしょ!?」
不満が爆発した。
実は、以前から連絡先を交換しようと何度か誘っていたのだが、紅夜は悉く断っていたのだ。それが今回、実は希と交換していたのが判明したのだから、彼女よりも一緒に居る時間が長い穂乃果からすれば面白くなかったのだろう。
「いや、連絡先の交換に順番もへったくれも無いと思うんだが……それに、だからって態々交換しなくても……」
「言い訳しない!ホラ、早くスマホ出して!連絡先交換するの!」
「凛もするにゃー!」
「では、私も」
「私も~!」
結局誰にも止めてもらえなかった紅夜のスマホには、新たに5人分の連絡先が追加された。
因みに、その後穂乃果からは花陽や真姫、にこの分も追加すると言われた紅夜が『勘弁してくれ』と肩を落としていたのは余談である。
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「……さて、そろそろ俺が何故呼ばれたのかを聞かせてもらいたいんだが?」
その後、気を取り直した紅夜が今回の呼び出しの目的を訊ねる。
「ああ、それなんやけどね……コレを見てほしいんよ」
希はビデオカメラのSDカードを入れ換え、とある映像を流す。
そこには、授業を受ける紅夜の姿があった。
どうやら彼の映像と別口で取っていたらしく、既にナレーションも加えられていた。
『彼の名は、長門紅夜。音ノ木坂学院共学化プロジェクトの試験生であり、μ'sの協力者だ』
場面は切り替わり、休み時間に1人で過ごしている風景が映し出される。
『普段は1人静かに過ごす事が多く、口数の少なさから未だ謎めいた人物として見られているが、一部のクラスメイトを始め、彼の人となりを知る者からは真面目で優しい人物だと高い評価を得ており、それはμ'sのメンバーも例外ではない。彼女等が今日まで活動を続けている影には、必ず彼の存在があるからだ』
そのナレーションと共に映し出されたのは、ノートの束を運ぼうとしている生徒を手伝っている様子だった。
そして次の場面では、紅夜が穂乃果と話をしているところだった。
『とある事情により、現在はマネージャーの任を離れている彼だが、これまで幾度となく起こったトラブルの解決に貢献していた事からグループ内での信頼は厚く、彼の復帰を望む声も上がっている』
そうして、映像は終了した。
「……色々と言いたい事はあるが、先ず何なんだコレは?」
「何って、紅夜君の紹介動画やで?」
「……コレ、要るのか?」
「そりゃ要るよ。こういうのはキチンも知らせないといけないし。えりちもそう言ってたからな」
「何?彼奴もそう言ってたのか?だとしたら、必要……なのか?」
半信半疑な紅夜だったが、絵里の名前を出されると態度が変わる。
「……何か、ウチよりえりちの方が信頼されてるみたいやな」
「まぁな。アイドル研究部とのいざこざがあった時は大分無理のある言い訳をしていたが、それ以外ではあまり言う事はないからな。お前みたいな狸女と比べれば未だ信じられる」
「誰が狸や!」
盛大にツッコミを入れる希だが、コホンと咳払いをして気を持ち直す。
「と、取り敢えず、紅夜君の紹介動画はこれでええかな?」
「……まぁ、そうだな。取り直すのも面倒だし、もうそのままやってくれ」
「そ、そっか……それじゃあ、後は本人取材をさせてもらって、その後の動画撮るのを手伝ってほしいんやけど──」
希がそう言いかけたところで、部室のドアが勢い良く開く。そこには、全速力で走ってきたのか息が上がり、髪も乱れているにこの姿があった。
「しゅ、取材が来るって本当なの!?」
「もう来てますよ、ホラ!」
ことりがテーブルに置かれたカメラを指差すと、にこは何時ものパフォーマンスを始めた。
「にっこにっこにー!皆のハートににこにこにーの、矢澤にこです!え~っとですねぇ、好きな食べ物は──」
「あぁ~、ゴメンにこっち。そういうのは今回求めてないから」
「……え、そうなの?」
出鼻を挫かれたにこが訊ねる。
「何か、部活動の生徒の素顔に迫るって感じでやりたいんだって!」
「素顔?………あぁ~、成る程成る程!そういうパターンだったのね!ちょっと待っててね~……」
すると、今度はリボンを外して髪を下ろす。
「普段、ですか?普段はこんな感じで髪は下ろしてるんです」
そして、また話を始めた。
「アイドルの時のにこは、もう1人の私。髪を結んだ時にスイッチが入る感じで……」
そうして自分語りに夢中になっている間に、希達は見ていられなくなったのかゾロゾロと出ていく。
そして最後には、何時かのように紅夜だけが残された。
「普段は自分の事を、『にこ』なんて呼ばないんです」
そして自分語りを終えたにこは、ここで漸く希達が居ない事に気づく。
「ちょっと!彼奴等何処行ったの!?」
「連中なら、お前が自分語りしてる間に中庭に出ていったよ」
そう言って、紅夜は外を指差す。
「……んで、アンタはなんで残った訳?」
「ん?こういうのは最後まで見なきゃ失礼だからな」
「アンタって変なところで真面目なのね」
にこは呆れたように言いながらも、最後まで見てもらえたのが嬉しかったのか、その口元は綻んでいた。
その後は紅夜達も移動し、先に出ていった希達に合流した。
「真姫ちゃんも、早く此方来てインタビュー受けるにゃ!」
「嫌よ。そういうの興味無いもの」
どうやら1年生にインタビューをしようとしているところで真姫が拒否しているらしく、撮影組とは少し離れた場所で髪を弄っていた。
「もう……」
「まぁまぁ、別にええよ。どうしても受けたくないから、無理強いはせぇへんから」
そう言って凛にウインクする希。それで彼女の意図を察したのか、凛は再びカメラを向けた。
「真姫だけは、インタビューに応じてくれなかった」
そのタイミングと合わせ、希がナレーションを始める。
「スクールアイドルから離れればただの多感な15歳の少女。これもまた自然な事で──」
「何勝手にナレーション被せてんのよ!」
すると、あっさり釣れる。
「(チョロ過ぎだろコイツ……)」
「紅夜先輩、何か言った?」
「何でもナッシ……失礼。何でもない」
「アンタ今噛んだわね」
「喧しい」
それからは本格的にインタビューを始めるものの、緊張した花陽を笑わせようとしたのか、穂乃果が変顔を披露したりことりがひょっとこのお面を持ち出してきたりして、最早インタビューどころではなくなっていた。
「おい、お前等。こんなんじゃμ'sが怠け者集団に見られるぞ」
「そうよ。もっと真剣に取り組むべきだわ!」
呆れたように言う紅夜に便乗する真姫。
「おおっ、真姫ちゃんが心配してくれてる!」
「ッ!?べ、別にそういう訳じゃ……って、トラナイデ!」
思わず赤面しているところを撮られた真姫は、そう声を上げるのだった。
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一通りのインタビューを終えた一行は、部室に戻って映像を見直していた。
「う~ん、何と言うか……」
「一応、インタビューではある筈ですが……」
「園田、コレが真面目なインタビューに見えるなら1回眼医者行ってきた方が良いぞ」
「……ですよね」
その評価は、受けた本人である彼女等から見ても散々なものだった。
インタビューらしい事も大して行っておらず、傍から見たら単なるおふざけ動画だ。
「流石に、コレをえりちに見せる訳にはいかへんなぁ……」
希も苦い顔をしている。
「でも、どうすれば……」
「……まぁ、その辺りは穂乃果ちゃん達で頑張ってもらうとして」
「えぇ~!?希先輩、何とかしてくれないんですか!?」
「お前他力本願かよ……」
紅夜が深く溜め息をつく。そんな彼に苦笑を浮かべつつ、希は言った。
「出来れば何とかしてあげたいんやけど、今のウチに出来るのは、誰かを支えてあげる事くらいやからなぁ……」
「まぁでも、インタビューは良くなくても、実際見られるのは練習でしょ?だったらそっちで挽回すれば良いんじゃない?」
すると、にこが口を挟む。
「おぉ~、珍しくにこ先輩がまともな事言ってるにゃ!」
「ちょっとそれどういう意味よ!?」
「まぁまぁ、にこっち」
希がにこを諌める。
その後は彼女の言う通りだと意見が纏まり、屋上で練習する事になった。
「じゃあ、ウチはカメラ回してナレーションするんやけど……紅夜君?」
「ん?どうした?」
「いや、『どうした?』じゃなくてやな……」
希は何度目かの溜め息をついた。
「せっかくなんやし、紅夜君が練習見てあげたらどうなん?」
「せっかくも何も、俺は単に巻き込まれただけなんだが?結局本人取材とやらもやってないし」
「そっちはこの子達の撮影が終わったら個別にやるつもりやから、大丈夫やで」
「いや、そういう問題じゃ……」
紅夜がそう言いかけたところで、穂乃果からの声が掛かる。
「紅夜く~ん!皆準備出来たよ~!」
そちらへ目を向けると、位置についた穂乃果が手を振っているのが見える。
その傍らでは、海未が頭を下げていた。
「ホラ、呼ばれてるで?もうここまで来たんやから、『やっぱなし』ってのは無しや」
「……分かったよ。今回だけだからな」
そう言うと、紅夜は彼女等の元へ歩いていく。
「紅夜君、これが振り付けだよ」
「ああ、分かった」
ことりから振り付けが書かれたノートを受け取った紅夜は、一通り眺める。
「……よし、大体分かった。早速始めよう」
「今ので!?」
「アンタ一体何者なのよ……」
直ぐ覚えてしまった紅夜に驚きつつも、一行は練習を始めるのだった。
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