ラブライブ!~アウトローと9人の女神~   作:弐式水戦

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第6話~アウトローと3人組~

「マジ疲れるってコレ………」

 

 あれから時間は流れ、今は昼休み。

 教室には、疲れきった表情で机に突っ伏す紅夜の姿があった。

 机の上には弁当箱があるが、中身には一切手をつけておらず、それどころか蓋を開けてもいなかった。

 

 1月に試験生になる事が決定してからずっと勉強していた甲斐もあり、授業には何の問題も無くついていけた紅夜。

 席も最後尾という、黒板から最も遠い場所であるものの、元々視力が良かったために、これも問題は無かった。

 だが休み時間になると、クラスメイト達が彼の元に殺到して話し掛けてくるため、その受け答えに疲れていたのだ。

 高身長で左目を黒い眼帯で隠しているのに加え、ほぼ無表情であまり喋らないために何と無く威圧感を感じさせる紅夜だが、授業で正解して褒められると面映ゆそうにしたり、英語の授業でネイティブの教師と英語で話したりする姿から、本当はそんなに怖い人間ではないのではないかと思った1人が話し掛けた際に答えたのが決定打となり、ならば私もと、他の生徒達も来るようになったのだ。

 しかもこの学校で唯一の男子生徒という事もあって、他のクラスの生徒も見に来るというおまけ付きだ。

 

 長い間、アメリカのホストファミリーや走り屋仲間、そして日本の家族や幼馴染みといった親しい者としか関わってこなかった彼にとって、赤の他人が大勢押し寄せてくる上に離れた場所からも見られるこの状況は、やはり精神的にも疲れるのだろう。

 

「(それに、今も現在進行形で見られてる訳だし………)」

 

 顔を上げて周りに目を向けると、生徒達が昼食を摂りながらチラチラと此方の様子を窺っているのが分かる。

 

「はぁ、昼休みくらいリラックスさせてくれねぇかなぁ………?」

 

 小さく溜め息をついてそう呟く紅夜だが、何時までもこの場に留まったところで状況は変わらない。

 そのため、一先ず人気の無い場所へ移動しようと席を立った、その時だった。

 

「ねぇねぇ!」

 

 突然、前の席に座っていた穂乃果が振り向いて声を掛けてきた。

 

「あ、ああ………何だ?」

「長門君、今1人だよね?一緒にお昼食べよ!」

 

 その言葉を受けた紅夜は、思わず目を丸くした。

 

「(おいおい、コイツ正気かよ?物怖じしないなんて言葉で片付けられるレベルじゃねぇぞ)」

 

 昨日店で会って少しだけ会話を交わしたとは言え、彼等は未だ会ったばかりだ。当然、互いの事など全く知らない。

 そんな相手をいきなり昼食に誘うなど、彼にとっては正気の沙汰を疑う行為だった。

 それに、今は1人になりたいと思っているのもあり、彼女の誘いに乗ろうという気も起こらなかった。

 

「……誘いはありがたいが、今日は遠慮しとこうかな」

 

 そのため、一先ずそう言って場をやり過ごそうとする紅夜。

 こうする事により、不快な思いをさせずに彼女を追い払って1人になろうという寸法だった。

 

「遠慮なんかしなくて良いよ!私、お話したい事いっぱいあるんだ!」

 

 だが、紅夜のそんな思惑も、穂乃果の一言によって呆気なく潰されてしまった。

 

「(……コレ、どう対応すりゃ良いんだ?)」

 

 あまりにも予想外の事態に、どうして良いか分からなくなる紅夜。

 人間不信になったばかりの頃なら、最初から無視するなり突っぱねるなりしていただろうが、今の自分はその時とは違う上に、親からはそういうぶっきらぼうな対応はなるべくしないように言われているのだ。

 それに加え、穂乃果からは悪意が全く感じられない。つまり彼女は、ただ純粋に紅夜を誘おうとしているだけなのだ。

 それが余計に、紅夜を困惑させていた。

 

「ホラホラ、そんな所でボーッとしてないで早く行こうよ!昼休み終わっちゃうよ?」

「(いや、誰のせいでこうなってると思ってんだよ!?)」

 

 何時の間にか掴んでいた制服の袖を引っ張り、早く行こうと急き立てる穂乃果に、紅夜は内心そう言い返す。

 そのまま彼女の勢いに負けて引き摺られそうになっていると、海未がことりを連れてやって来た。

 

「穂乃果、長門さんを困らせてはいけません!」

「そうだよ穂乃果ちゃん。止めてあげようよ~」

 

 そう言って間に割って入り、彼女等は2人を引き離す。

 解放された紅夜は安堵の溜め息をつき、2人の救世主へと目を向けた。

 

「悪いな、助かったよ」

「いえ、お気になさらないでください。それよりすみません、穂乃果がご迷惑お掛けして……」

 

 礼を言う紅夜に、海未は申し訳なさそうに返す。

 その口振りは、まるで母親だ。

 

「え~?でも、せっかく試験生の人と同じクラスになれたんだよ?親睦深めないと」

 

 その一方で、穂乃果は全く反省した素振りを見せず、そんな彼女に、ことりはただ苦笑を浮かべている。

 

「だとしてもです!試験生の方と仲良くなりたい気持ちは分かりますが、だからと言って無理矢理付き合わせようとするのは良くありません!」

 

 そう言う海未だが、彼女が大声を出しているためか、他の生徒達の視線が集まり始める。

 その内の数人が『またやってる……』と苦笑混じりに呟いている事から、どうやら海未が穂乃果に説教するのは、そんなに珍しい事ではないらしい。

 だが、このまま2人を騒がせていても時間が無駄になるだけだ。一刻も早く1人になりたい紅夜は、事態の収拾を図った。

 

「そこの青髪の人、もうその辺にしておいてやってくれ。本人も悪気があってやった訳じゃなさそうだしな」

 

 そう言うと、海未の説教が止む。そして再び頭を下げようとする彼女を制止して、紅夜は弁当箱を手に取った。

 

「じゃあ俺は行くから、後は3人でごゆっくり」

「え~~!?」

 

 立ち去ろうとする紅夜だが、穂乃果の不満そうな声に引き止められた。

 どうやら、未だ諦めていないらしい。

 

「(コイツ中々諦めないな………まるでガキの頃のレナみたいだ)」

 

 内心そう呟く紅夜が思い浮かべたのは、未だ彼がアメリカに渡って間も無い頃。

 

 元々アレクサンドラは、独りっ子であるが故に兄弟という存在に強い憧れを抱いており、また明るくて人懐っこい性格だった事もあって、ずっと紅夜の後をついてきたり、勝手に部屋にやって来る事もあった。

 勿論、当時人間不信真っ只中だった紅夜が彼女を受け入れる筈が無く、そうなるたびに何度も追い払っていたのだが、それでも彼女が諦める事は無かった。

 

「(まあ、結局そのしつこさに救われた訳だがな………)」

「ねぇねぇ、長門君」

 

 アレクサンドラとの馴れ初めを思い出していると、ことりが話し掛けてきた。

 

「やっぱり、お昼ご飯一緒に食べない?穂乃果ちゃん、1度やるって言い出したら聞かないし、ことりも、色々お話したいなぁ~って……」

 

 穂乃果とは違い、控えめに誘いを掛けてくることり。

 彼女のように強引に連れていこうとするなら『しつこい』と突っぱねる事も出来ただろうが、今のことりにその手段を使うのは得策とは言えない。ただ彼女を傷つけ、自分の立場を悪くするだけだ。

 

「(それに、こうも不安そうな顔されたらな……)」

 

 ずっと黙っているために不快にさせたと思っているのか、ことりは不安そうな表情で此方の様子を窺っており、何時の間にか穂乃果や海未も、同じような表情で此方を見ている。

 このような表情をされたら、流石の紅夜も敵わない。

 

 このまま突っぱねて彼女等を傷つけるか、誘いを受けるか。どちらが得策なのかは、最早考えるまでもなかった。

 

「……分かった」

 

 降参とばかりに両手を上げ、紅夜はそう言った。

 

「……!」

 

 その瞬間、穂乃果の表情は明るくなり、ことりもホッと胸を撫で下ろす。

 

「あの、本当に良いのですか……?」

「……ああ。空き教室でも屋上でも、好きな所に連れていってくれ」

 

 恐る恐る訊ねてきた海未に答えると、彼女は深々と頭を下げた。

 

 こうして、紅夜の1人ランチ計画は失敗に終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから一行は、互いに自己紹介を済ませて場所を変え、今は中庭に来ていた。

 

「学校が無くなるにしても、今居る生徒が全員卒業してからになるから、早くても3年後だね」

「何だ、なら良かった~」

 

 どうやら廃校の話を聞いた時、彼女の頭の中では『廃校になる=自分達は別の学校へ転校しなければならない』という等式が出来上がっていたらしく、そのための勉強を全くしていないとパニックになっていたのだが、少なくとも自分達が卒業するまでは無くならない事を聞かされ、安心したのだという。

 

「いやぁ~、今日もパンが美味いっ!」

 

 上機嫌でパンを頬張る穂乃果だが、残りの2人は浮かない顔だ。

 

「ですが、もし本当に廃校が決まれば……」

「今の1年生は、ずっと後輩が出来ないまま残りの生活を送る事になっちゃうね……」

 

 神妙な面持ちで、2人はそう呟いた。

 彼女等の言う通り、廃校が決定してしまえば、もう新入生の募集は行われなくなる。

 つまり、来年には新入生が入ってこなくなり、2年生と3年生だけになってしまうのだ。

 

「……そうだよね」

 

 それを聞いた穂乃果も、先程までの笑顔が引っ込んだ。

 

 今年の1月に雛から試験生の話を持ち掛けられた事で初めて音ノ木坂学院の存在を知った紅夜とは違い、彼女等はこの学校に、少なくとも1年間は通っているのだ。

 当然愛着も湧くだろうし、好きな学校が廃校になってしまうかもしれないと聞かされて、平気でいられる訳が無い。

 

「……………」

 

 そんな中、1人さっさと弁当を食べ終えた紅夜は、木に凭れて彼女等の話を聞いていた。

 

 正直に言うと、この学校が廃校になろうがなるまいが、紅夜にとってはどうでも良かった。

 今はこの学校の生徒として通っているが、所詮は1年間だけの短い試験生だ。

 そのため学校の処遇決まれば、後は残りの学校生活を無難に過ごせば良い。そして来年の4月にはアメリカへ戻り、またアレクサンドラの家の仕事を手伝いながらベンチュラ・ベイの仲間達と馬鹿騒ぎする生活に戻るだけだ。

 勿論、夏や冬になれば里帰りのために再び日本に来るのだが、少なくともこの学校を訪れる事は2度と無いだろう。

 一応、この学校は母親である深雪の母校なのだが、紅夜には関係無かった。

 

「……じゃあ、俺はそろそろ──」

 

 『教室に戻る』、そう続けようとしたところで、彼の言葉は遮られた。

 

「貴女達、ちょっと良いかしら?」

 

 近寄ってきた1人の女子生徒が、穂乃果達に話し掛ける。

 ポニーテールに纏められた金髪に、紅夜の左目と同じ青い瞳を持った少女だった。

 その後ろには、後頭部で2つに分けられた青紫の髪と緑色の瞳を持った少女も居る。

 それは、紅夜が昨日神社で会った巫女だった。

 

「ねぇ海未ちゃん、この人達は?」

「生徒会長の絢瀬絵里先輩と、副会長の東條希先輩ですよ」

 

 穂乃果と海未がそんなやり取りを交わしていると、紅夜が2人の姿を視界に捉えた。

 

「……絢瀬か」

 

 小さく呟く紅夜だが、彼女にはそれが聞こえていたらしく、顔を此方へ向けた。

 

「こんにちは長門君、今朝ぶりね」

「あっ………」

 

 紅夜に挨拶をする絵里の隣では、希が小さく声を漏らした。

 昨日の事を思い出したのか、その表情は気まずそうだった。

 

「ああ、今朝ぶりだな。それと……」

 

 そう言って希へと視線を向ける紅夜は、気まずそうにしている希へ声を掛けた。

 

「昨日の事ならもう気にしていないから、お前もそんなビクビクする必要は無い」

「えっ………あ、うん。おおきに」

 

 そのやり取りを見た絵里は、2人が知り合いだった事に軽く驚くが、それは一先ず後回しにしてことりへと目を向けた。

 

「ところで、南ことりさんって貴女よね?1つ聞きたい事があるのだけれど」

「は、はい!?」

 

 まさか生徒会長から指名されるとは思わなかったのか、ことりが勢い良く立ち上がる。

 

「確か貴女って、理事長の娘よね?それなら今回の事について、何か聞いていないかしら?」

 

 絵里が言う今回の事とは、廃校の件についてだ。恐らく理事長の娘である彼女なら、何か知っているのではないかと思ったのだろう。

 

「……………」

 

 だが、ことりは少しの沈黙の後、静かに首を横に振った。

 

「お母さんからは何も聞いていません。廃校の事は、私も今日初めて知りました」

 

 ことりはそう答えた。どうやら彼女も、廃校の事は何も知らなかったらしい。

 

「(理事長も、娘だからって何でもかんでも話す訳じゃないって事か……)」

 

 2人の話を聞いていた紅夜は、内心そう呟いた。

 勿論、それは当たり前の事だ。実の娘だからという理由で誰も知らない情報を教えるなど、身内贔屓も良いところである。

 

「そう……分かったわ。邪魔してごめんなさいね」

 

 頷いた絵里は、いきなり割り込んだ事を詫びると、希を連れて歩き出す。

 

「あの!本当に学校、無くなっちゃうんですか!?」

 

 すると、いきなり立ち上がった穂乃果が質問をぶつける。

 絵里は立ち止まると、顔だけを向けて口を開いた。

 

「……貴女達が気にする事ではないわ」

 

 そう答える絵里の声には、冷ややかさがあった。

 まるで、これ以上首を突っ込むなと言っているかのような態度に、穂乃果達は思うところがあるような表情を浮かべた。

 

 そんな3人を無視して今度こそ立ち去っていく絵里だが、その際、希だけが穂乃果達の方を向き、口元に人差し指を当ててウインクした。

 その仕草は、無言で『何も言うな』と語っていた。

 

「ほな~」

 

 そう言って軽く手を振り、少し先で待っている絵里の元へ走っていく希を見送ると、紅夜は先に戻る事を伝え、教室へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「希、長門君と知り合いだったの?」

 

 希が追い付いてくると、絵里が開口一番に訊ねる。

 

「うん、まあ………昨日神社でな」

 

 そう言って、希は紅夜と会った時の出来事を語る。

 

「それでウチ、あの黒い眼帯が気になって聞いてみたんやけど………聞き方が悪かったんかな、ちょっと怒らせてしもうたんよ」

「成る程ね」

 

 短く返事を返す絵里だが、彼女自身も、紅夜の左目を覆い隠すあの眼帯が気になっていた。

 案内している時にそれについて訊ねた際、彼は『怪我の痕を見られたくない』と答えていたが、彼女が訊ねた時の反応から、それだけの理由ではないと何と無く考えていた。

 

 自分達も高校生なのだから、他人の怪我の痕を見て馬鹿にする程幼稚ではないし、それは紅夜も知っている筈だ。

 それでも聞かれるのを拒むというのなら、やはり怪我の痕を見られたくないだけではなく、何か別の理由があるのだろうと、絵里は思った。

 

「………まあ、誰にでも聞かれたくない事の1つや2つはあるものよ。彼も一応許してくれているみたいだから、これからは気をつければ良いんじゃない?」

「せやね」

 

 そうして2人も教室へと向かい、午後からの授業に備えるのだった。

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