魔法少女リリカルなのはBlack The MOVIE 1st 作:黒崎ハルナ
──有り体に言えば、何処かで俺は間違えたのだろう。
人の一生。その中には無数の選択肢が存在する。
これ以上踏み込んではいけない。或いは逆に、更に一歩踏み込んで進まないといけない。触れてはいけない過去や、知る必要のある真実。他者と関わる必要があるか無いか。
いつだって俺たちは、見えない天秤の上で選択を迫られている。
人間はそうした無数の選択肢を、自分の意思で選びながら生きている。そうして選んでいった過程と結果を、『人生』と呼ぶ。そこに正解は無いし、間違いもない。少なくとも、俺は『彼女』にそう教えた。
だから、この結末は俺が選択を間違えた結果なのだろう。
灰色の空の下。乾いた大地の感触を肌で味わいながら、場違いなことを考えている自分に対して、呆れにも似た感情が芽生える。
全身に力が入らず、手先の感覚はすでにない。
ただ、喉をかきむしりたくなるほどの熱が体の真ん中を支配している。
──成る程……これが死ぬほど痛いってやつか。
腹部を抉るように開いた大きな穴。そこから止めどなく溢れ出ていく自分の血が、乾いた大地を真っ赤に染めていった。
何を間違えて、何を失敗したのか。確認できる術がない今となっては、それ自体は些細なことだ。
大事なのは、俺が神様に与えられた選択肢を見事に間違えたという事実。
親友を裏切り、大切な仲間を見殺しにし、最愛を自らの意思で手放した。
何故? 簡単だ。
──助けたかった。この手が触れる全てを。
その結果がこのザマだ。
咳き込んで、口元から溢れる血の塊。身体中を焼き尽くすような熱。薄れていく視界。
つまるところ、どうやらここが自分という人生の終着点らしい。
その結果を理解した瞬間、急激に意識が遠のいていく。
聴こえてくる銃声と足音が、やけに他人事のように感じた。
死を運ぶ者がいる。その進軍は確実に、真っ直ぐに、此方へと向かっていた。
なのに、不思議と恐怖を覚えなかった。そんなことはどうでもいいとばかりに。
──ただ願ったのは、『彼女』が無事でありますようにということだけだった。
「──クト」
不意に、聞こえるはずのない声を聞いた気がした。
きっと、それはただの幻聴だったのだろう。
──ああ、よかった。
それでも、たとえ幻聴だったとしても、最期の瞬間にその声を聞くことができたのは、俺にとって何よりも救いだった。だから──
「よう……御苦労さん」
見下ろされ、銃口を突きつけられている今でも、俺は不敵に笑っていられた。
向けられている冷たい眼差しを流して、無機質な声に皮肉で答えてやる。
「ブルってんのか? ヤレよ、タマ無し」
直後、耳をつんざくようなマシンガンの音が灰色の空に響いた。
一発だけなんて生温い。容赦ない死の雨が、身体中に突き刺さる。
かすかに跳ねる自分の身体。意識を丸ごと刈り取る激痛。叫びたくても、声を出す事すら許されない。
血と硝煙の中で、またあの声が聞こえた気がした。
──だから、泣くなって。
忘れるな。
この痛みを。無力さを。過ちを。
決して忘れるな。
──ったく……本当におまえは泣き虫だよな。
「……──」
それが、今際の言葉となった。
なんともしまらねぇ話だと、俺は他人事のように──小さく笑った。
原点回帰。