魔法少女リリカルなのはBlack The MOVIE 1st   作:黒崎ハルナ

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Act.9 The trouble suddenly/トラブルは突然に

 世間というやつは、自分が思っている以上に狭い。

 それは最近起きた様々な出来事や、過去の実体験から十二分に理解しているつもりだった。だが、いくらなんでもこのオチはないだろう、と思ってしまう。

 

「なんだよそれ……マジでただのピエロじゃねぇかョ」

 

 プールサイドの端っこで、俺は過去最高と言っていいくらいに落ち込んでいた。穴があったたら入りたい。そんなくだらない事を本気で考えるくらいには重傷だった。

 なんだそれ、と俺は頭を抱える。

 高町恭也という人物について、俺はよく知っているつもりだった。

 世話になっている恩人の恋人で、俺にとっては兄貴分のような人。もちろん家族構成も知っていたし、恭也さんの家族とも忍経由でだが、何回か顔を合わせてもいた。

 ……ただ一人の例外を除いて。

 

「にゃはは……」

 

 隣に座っている高町なのは(たた一人の例外)が、困ったように笑う。それが無性に俺の弱り切った神経を逆撫でした。

 つまるところ俺は、知らなかったとはいえ自分にとって恩人とも言うべき人の妹に対して、相当な無礼を働いていたということになる。マジで穴があったら入りたい。

 ちなみにこの場に恭也さんの姿はない。これからボイラー室の見回りに行くと言って、俺と高町を置いて行ってしまった。兄貴分、カムバック。

 

「っていうか」

 

 微妙な空気に耐えきれなくなった俺は、率直な気持ちを語ることにした。

 

「なんで恭也さんの妹が魔導師なんてやってるんだよ。しかも恭也さんはおまえが魔導師なの知らないっぽいし」

「それはその、なんといいますか……色々ありまして」

「何が色々だよ。大方、バレたら魔導師を辞めるように言われるから、とかだろ」

 

 誰にだって、他人様に知られたくない秘密の一つや二つはあるものだ。

 高町は家族に自分が魔導師になったことを知られたくないのだろう。

 それは仕方のないことだ。

 ジュエルシードという、下手をしなくても命に関わる戦いを強いられている現状を恭也さんや美由紀さんが知ったら、まず間違いなく高町に魔導師を辞めるように説得するに決まっている。家族ならば、それは至極当たり前だ。最悪、実力行使に出る可能性も否定できない。

 

「まあ、俺には関係ない話だからいいけどよ」

 

 だが、高町の気持ちもそれなりに理解はできる。

 俺だって、世話になっている月村の人たちに自分が魔導師であることを隠している。『人外の化け物やってます』なんて、笑顔で言えるやつは正気じゃないだろう。俺はそういう人間も知ってはいるが、そういうやつらは基本的に正気じゃない。頭の中にある大切な部分の何処かが焼け落ちてる。

 つまりはそういうことだ。

 俺たちは所謂一般人と呼ばれる人種とは遠く掛け離れた存在で、必要に応じて躊躇いなく暴力を振るったりもするクズ野郎だが、それは決して望んでやっているわけではない。他に方法かないからやむを得ずに力を使っている──という言い訳を、どこの誰が真面目に聞いてくれるものか。ましてや同情や哀れみ、或いは共感をしてくれるわけもない。

 突き詰めれば、俺たちはどう転んでも人外の化け物なのだから。

 考えるだけで辛気臭い気分になってくる。俺は辛気臭いのが嫌いだ。

 だから俺はあえて軽薄に、高町の真面目さを茶化してやることにした。

 

「ところで、あれからジュエルシードは集まったのか? 俺はそればっかり気になって、授業中におちおち昼寝もできないんだが」

「いや、そもそも授業中に寝たら駄目だと思うんですけど……」

 

 高町は引きつった笑みを浮かべながら、俺の小粋なジョークを正論で返してきた。どうやら高町は見た目通りにクソ真面目な性格らしい。

 

「まさかとは思うけど……」

 

 ちょっとからかってやりたくなった。俺は軽い冗談のつもりで、高町に訊く。

 

「あれから、()()()()()()()()()()()()ってわけはないよな?」

「…………」

「ちょっとマテや」

「ナ、ナンノコトカナ?」

「顔を見て言えや、おい」

 

 先程とは別の意味で目眩がした。

 異世界の遺跡で発掘され、何かの手違いでこの街にばら撒かれた古代遺産ことジュエルシード。その数は二十一個。それら全てを回収することが、高町たちの目的の筈だ。

 だというのにあの出会いから数日が経ってた現在に至るまで、未だに追加のジュエルシードを見つけられていないとか、流石に笑えない話だった。やる気あるのか、こいつら。

 

「なあ」

 

 俺はちょっとだけ高町と話を続けてみたい気分になった。単純に高町が()()恭也さんの妹だから、という興味もある。

 

「そもそもな話で、ジュエルシードってなんだ? おまえのとこのフェレットが言うには、何でも願いを叶えてくれる不思議系アイテムってわけじゃないんだろ」

「ふぇ?」

「いや、ふぇ、じゃなくて。おまえも多少は知ってるんだろ?」

「うっ」

 

 俺の素朴な問いかけに、ピタッと高町の動きが止まる。しかもふるふると体を震わせながら、俺から逃げるように視線を逸らし出した。

 

「……知らない」

「はあ?」

「いや、その、なのはもジュエルシードのことはよくわかっていないと言いますか、まだ勉強中と言いますか」

「えぇ……」

 

 俺は本日三度目の目眩がした。

 いくらなんでも探しているブツの詳細くらいは知ってろよ、と高町を罵倒したくなる。俺だってあの喋るフェレットから散々危険な代物だと説明されたのだ。必然的に、高町は俺以上にジュエルシードについて詳しいと思っていた。

 

「フェレットから何も訊いてないのかよ」

「ユーノくんから?」

 

 そうそう確かそんな名前だった、と俺は現在進行形でプールの中で泳いでいるフェレットことユーノを指差した。どうでもいいが、公共のプールにペットを連れてきて大丈夫なのか。

 

「ユーノくんは持ち主の願い事を叶えてくれる代わりに、本人の意思を無視して暴走したり暴れたりする危険な石だって」

「なんだその欠陥品。安いシャブじゃあるまいし。異世界の古代遺産ってのは、アホの集まりが作ったのか」

 

 高町は『わたしにそんなことを言われても』とでも言いたげに、困った様な表情を浮かべて俺を見てきた。

 気持ちはよくわかる。俺も同じ立場だったら、たぶん似たような表情を浮かべている筈だ。

 

「ってか、高町はなんであのフェレットを手伝ってるんだ? おまえはジュエルシードの紛失とは無関係だったんだろ」

「それは……」

 

 高町は考え込む様に黙った。実際、真剣に考え込んでいるのだろう。首にぶら下げてある紅い宝石を握り締めて、目蓋を閉じている。

 やがて、少しの間の後に高町が口を開く。

 

「自分にできることだから……かな」

「はあ?」

 

 反射的に俺はそう訊き返していた。なんだそのアホみたいな理由は。

 自分にできることだから手伝っている。それは理屈としては正しいとは思う。だが、命を賭ける理由としてはあまりにも脆い。

 

「変……かな?」

「いや、変と言うか……」

 

 損得を考えて無さ過ぎる。欲がない、とか言うレベルではない。偽善にも程がある。

 呆気に取られる俺に高町は言う。

 

「お父さんからの教えなの」

「士郎さんの?」

 

 高町が小さく頷いた。

 

「困っている人がいて、助けてあげる力が自分にあるなら、その時は迷っちゃいけないって……」

「だから、ジュエルシードを集めるのを手伝っているのか」

 

 父の教え。

 それは俺にとって、一番共感できることだった。なにせ俺自身がそうなのだから。

 彼女がどんな経歴で魔導の才に目覚めたのかは知らない。だが、高町なのはという少女がジュエルシードを集めている理由はわかった。

 つまるところ、高町は自分の意思でジュエルシードを集めている。決してフェレットことユーノに強制されているわけではなく、あくまで自らの意思で。

 それでも、だ。

 

「なんつーか……」

 

 本音を言うなら、俺は高町の事をコケにしてやりたかった。高町は正義の為だとか、赤の他人を守る為だとか、そんなくだらない理由で戦いに身を置いているものだと決めつけていたのだ。しかし、彼女の理由は俺の想像以上に単純で、どこか()()()()()()()

 どうするべきか、俺は悩んだ。

 諭してやる義理も理由も無いのだが、これはあまりにも──

 だが、そんなふうに珍しく考え込んだのがいけなかったようだ。

 

 

 

「──うわああああぁぁ!!」

 

 最初は、何が起きたかわからなかった。

 遠くから、恭也さんの悲鳴じみた声が聞こえて来た。

 それとほぼ同時に周りの景色が変わる。その現象には見覚えかあった。以前、屋上でユーノが使っていた世界を切り離す魔法『広域結界』。

 ぐにゃりと歪む世界と、溢れ出る魔力の気配が、俺に警告を告げてくる。

 マジかよ、と俺は思った。

 ジュエルシードが現れたのだ。

 突然の結界の発動に、恭也さんの悲鳴、極め付けはこの魔力反応。間違いない。おそらくは、何かしらの要因がきっかけで発動したジュエルシードが暴走したのだろう。

 それにしても、どうして今なんだよ。

 確かに俺は高町たちが未だ新しいジュエルシードを見つけていないことに呆れてはいた。なんならさっさと姿を見せろよ、とジュエルシードに対して無茶な注文をしたくもなった。

 しかし、だからといって別に今すぐ現れろとは言ってない。フラグ回収には早過ぎる。せめて、俺が居ない時に出て来てくれたらよかったのに。

 そんなどうでもいいことを考えていたので、俺もすっかり対応が遅れた。

 

「高町!」

 

 気づけば高町が走り出していた。おそらくはプールのある方向だ。

 恭也さんの安否も気になるが、妹の高町がそちらに向かわないということは、問題のジュエルシードはプール側にあるのだろう。

 プールには知り合いが大勢いる。どいつもこいつも殺しても死ななそうな気もするが、それとこれとは話が別だ。

 俺は最低最悪な気分になっていくのを感じていた。きっと側から見たら、もっのすごく不機嫌な表情になっているに違いない。

 

「きゃあああああ!!」

 

 プールから、今度は女性の悲鳴が聞こえた。すずかとその友達のバニングスの声だ。

 なんてこった。現在進行形で最悪のケースが起きている。

 俺は高町の後を追いかけるように、プールに向かって走り出した。

 そして──

 

「──は?」

 

 プールに辿り着いた俺は、目の前の光景に言葉を失った。

 プールにやたらとデカい水の化け物がいる。たぶんアレがジュエルシードの暴走体だろう。

 その暴走体がすずかたちを捕まえていた。……何故か水の触手で。しかも触手は彼女たちの水着を脱がそうとしている。

 

「……いや、なんでだよ!」

 

 状況説明を求める俺の叫びが、プールサイドに反響した。




あけましておめでとうございます。
2020年も黒崎ハルナをよろしくお願いします。

登場人物紹介
高町なのは
原作主人公。まだ他人行儀な態度。尚、兄たちが知り合いだったことは本人も知らなかった模様。
黒道リクト
本作オリジナル主人公の様なもの。たぶん作中内で一早く高町なのはの異常性に気づいた人物。だけど直してやるつもりも、教えてやるつもりもないので、現状放置。
ジュエルシード暴走体
エロ漫画に出てきそうなスライム。女の子達から水着と下着を掻っさらう紳士。忍や美由希を狙わずに、すずかやアリサを狙ったあたり、ロリコンの疑惑有り。
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