魔法少女リリカルなのはBlack The MOVIE 1st   作:黒崎ハルナ

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Act.13 Another magic girl/もう一人の魔法少女

 非日常側にいる者同士の出会いというのは、大抵の場合が殺伐としたものになる。

 異能者が断罪されるのが当たり前の現代社会で、大手を振って、自分は化け物です、と自己紹介する阿保はいない。そんな事をするのは、頭の何処かが焼き切れた真性の阿保だけだ。俺のように、何がなんでも自分の素性を秘密にしている奴が大半だろう。

 戦場か、或いはそれに類似した血生臭い臭いがする場所。俺たち非日常側同士の出会いはそれが基本で、平和的な場所での邂逅は奇跡でも起きなければ有り得ない。事実、じーさんとの出会いも、高町なのはとの出会いもそういう場所だった。同族を嫌う俺たちが殺し合いに発展しなかったのは奇跡的とも言える。

 それくらいに、俺たちは歪なのだ。

 

 そう言った意味では、あの日、彼女に出会ったのは紛れもなく奇跡だったのだろう。

 

 その日は俺にしては珍しく、暇な一日だった。

 学校の宿題もなく、休日なのに樋口からの誘いも、忍からの呼び出しもない。溜めていた映画も全て消化していたし、部屋の掃除も先日したばかり。これほどにやる事がなく、暇な日は久しぶりだ。

 ここ最近はジュエルシードの所為で俺の愛する平穏な一日が奪われがちだったのもあって、この日の俺はとても気分が良かった。

 こういう時は、普段とは違うことをしたくなるものだ。少なくとも、俺の場合はそうだった。

 予定が無くて時間を持て余していて、ついでに珍しく機嫌が良い。となれば、外に散歩でもしよう。

 そう思って昼前に家を出た。目的地は決まっている。これまた珍しく、普段は行かない海鳴臨海公園だ。選んだ理由は、なんとなくそういう気分だったから。

 忍曰く、海岸沿いにあるこの公園は、市内随一のデートスポットとして有名らしい。クリスマスの時期になると、海が見えるベンチで恋人たちが夜を過ごすそうだ。最初にその話を聞いた時、寒空の下でわざわざ肩を寄せ合うとか馬鹿じゃねェの、と俺は思った。

 と言っても、鳴海臨海公園はデートスポット以外にも散歩やジョギングをするのにも有名な場所なので、実は忍が適当な事を言っているだけの可能性もある。あの女は、意外といい加減なのだ。

 

「あれ?」

 

 臨海公園に設置されているベンチへと訪れた時、金髪の少女が蹲っているのが見えた。そいつは俺が知らないやつだった。

 よく見れば、少女は蹲っているのではなく、何かを探している様だ。その表情は必死そのもので、瞳には焦りの色がはっきりと見て取れる。俺にはその姿が、泣いている様にも見えた。

 周りにいる人間たちは誰一人として彼女に声を掛ける事をしていない。にも関わらず、周囲の視線の一部は彼女へと向けられている。

 おそらく、その容姿から少女が日本人ではないと思っているのだろう。日本人にとって、初対面の外国人を相手に、英語で自分から話し掛ける行為はかなりハードルが高い。相手が小さな子供なら尚更だ。中には不安そうに少女を見つめている人間もいたが、彼らも話しかける事はしなかった。英語力か、話し掛ける勇気か、或いはその両方が足りていないのだろう。

 

「ふむ……」

 

 俺はわざわざ他人と関わる事を嫌う性分だ。普段の俺なら、どんな理由があろうが絶対に目の前にいる女の子の事を無視している。しかし、今日の俺はとても機嫌が良い。少なくとも、偶には無償の人助けも悪くないと思えるくらいには。

 薄情な連中め、と俺は傍観している連中に向かって、内心で悪態を吐いた。

 

「ちょっといいか?」

 

 そう言って俺は金髪少女に近づくと、彼女は俯いていた顔を上げた。しかし、彼女の口から中々言葉が出でくる気配がない。

 突然現れた俺を警戒しているのか、それとも日本語が苦手なのかはわからないが、それならそれでどうにかなる。こう見えて、俺は英語が得意な方だ。

 俺は小さく喉を鳴らし、

 

「あー……Are you weak in Japanese? Then I talk in English(日本語は苦手か? それなら英語で喋るけど)」

 

()()()()に英語で会話をした。最後に喋ったのは、何年前だったか。ぶっちゃけ、学校とかで習うよりも先に覚えた英会話なので、発音や文法があっているかは知らない。それでも、外国人と会話するのには問題はない筈だ。

 

「えっと……日本語で大丈夫です。一通り、日本語の勉強はしてきましたから」

 

 目の前の少女は、少しだけ警戒気味に言葉を続けた。俺は少し驚く。日本人離れした見た目とは裏腹に、少女の日本語はとても流暢だった。

 俺は改めて、目の前にいる少女を見る。

 一言で纏めるなら、仕草一つ一つがとても様になる女だった。

 シャツからスカートまで黒一色で統一されたファッションは、一見すると地味で暗い印象を受けるが、彼女のツインテールに纏められた金色の髪がその暗さを吹き飛ばしている。むしろ、彼女の金色の髪を映えさせる為に、態と黒一色のファッションにしているのではないかと思えてくるくらいだ。天然物の金色の髪と赤い瞳に加えて、透き通るように白い肌。それを目立たせずに、さりとて隠さないような服のセンス。

 つまり、全体的に日本人離れした女だった。

 

「それは良かった。一応は喋れるといえ、やっぱり日本語の方が楽だからな」

 

 俺は笑った。釣られてなのか、少女も不器用に笑った。そのおかげか、彼女の警戒心が薄らいだ気がする。

 さて。

 そろそろ本題だ。

 

「何か困ってるみたいだけど、財布でも落としたのか?」

「どうしてそれを……!」

 

 少女は心底驚いた表情で俺を見た。

 

「いや、適当に言ってみただけなんだが……もしかして、本当(マジ)に財布を落としたのか?」

 

 無駄に広い公園敷地内を見渡してから、俺は少女に尋ねる。すると、少女は恥ずかしそうに首を縦に振った。

 

「この場所で落としたのは間違いない……とは思うんだけど」

 

 少女が自信なさげにそう言った。いくら入っているのかは知らないが、流石に財布を失くしたらマズいことは共感できる。俺だって、もしも同じ目にあったら半ベソをかく。それくらいに、お金とは大切なのだ。

 

「そうか──」

 

 言葉を紡ぎながら、俺は視線を少女へと向けた。視線に気づいた女の子も、同じ様に赤い瞳で此方を見つめ返してくる。

 

 ──まあ、暇だしいいか。

 

 自分でも何故そうしようと思ったのかわからない。

 彼女に対し、そうしてやる義理などないはずだ。おかしいとは思う。変だという自覚はある。だけど、何故かその時はそうしようと思った。

 

「なら、日が暮れる前に見つけないとな」

「え?」

 

 惚ける彼女に対し、口を開く。

 

「この辺りは地元なんだ。迷惑じゃないなら、俺にも手伝わせてくれ」

「でも、そんな……」

「いいんだよ。現地民としちゃあ、せっかく日本に来たのに嫌な思い出で終わる方が後味が悪い」

 

 一方的に会話の流れを断ち切り、多少強引に落とした財布を探し始めると、慌てて彼女も俺の背中を追いかけて来る。許可は取らない。人助けで大事なのは、即断即決な行動力だ。

 背後で彼女は数秒、「あうー」「ううん」「でもっ」と変に色っぽく悩んだ後に、

 

「──あ、ありがとう」

「どういたしまして。ああ、そうだ」

 

 大切なことを忘れていた。一度足を止めて、振り返る。キョトンとした少女と目が合った。

 

「自己紹介がまだだったな。俺はコクトー─―黒道(こくとう)リクトだ。君の名前は?」

 

 それに合わせて片手を差し出す。人間関係を良好にする為にも、自己紹介は大切だ。

 

「フェイト──フェイト・テスタロッサ」

 

 金髪の彼女──フェイト・テスタロッサはそう言って、俺の差し出した手を取ってくれたのだった。

 




タイトルでネタばらしをしていくスタイル。
外伝で戦記絶唱シンフォギアとのコラボ小説を別作品で公開していますので、よかったらそちらも読んでもらえたら嬉しいです。

登場人物紹介
黒道リクト
本人曰く、実は日本語よりも英語の方が話すのは楽。ただし勉学はまったく駄目で、英会話に全振り。感情が昂ると英語で喋る。機嫌が良い時は人助けもする。
フェイト・テスタロッサ
みんな大好きフェイトそん。一部性格が作者の趣味で改編されている事を除けば、他はほとんど原作と同じ。ため口なのは日本語が覚えたてだからなのと、コクトーが大人ではないから。余談だが、コクトー君の好みにどストライクな性格と容姿らしい。
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