魔法少女リリカルなのはBlack The MOVIE 1st   作:黒崎ハルナ

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Act.15.5 Tangle of the girl/少女の葛藤

 高町なのはは焦っていた。

 原因はわかっている。最近知り合った自分よりも少しだけ年上の少年の存在だ。

 つい最近まで普通の小学三年生だったなのはにとって、魔法は未知の世界だった。

 特別を望みながらも、特別に恵まれなかったなのはがようやく見つけた特別。それが魔法だった。

 誰かの助けになりたくて。誰かに必要とされたくて。誰かに自分の存在を認めて欲しくて。願い続けた先で手に入れたのが魔法の力だった。

 初めて魔法に触れた時、恐怖心よりも好奇心によって自分の心が満たされたのを覚えている。ユーノに助けを求められて、そのユーノに自分は魔法の才能があると認められた。

 嬉しかった。

 自分にも誰かの為にできることがある。その事実が、高町なのはにとってこの上無い喜びだったのだ。

 だからこそ、なのははがむしゃらに頑張った。それこそ、生まれて初めてと断言してもいいくらいに魔法を、ジュエルシード集めを頑張ったのだ。

 苦手だった早起きをして、朝早くから魔法の練習をした。自信がなかった体力をつける為に走り込みを始めたりもした。

 頑張って、頑張って──頑張り続けた。

 しかし、そうして頑張ったからといって、必ずしも直ぐに結果が出るわけではない。

 上手くいっていたのは最初だけ。

 二回目は不意打ちにやられ。

 三回目は手も足も出ずに。

 四回目は自分の保身による躊躇いで、危うく大切な友人たちを失いかけた。

 高町なのはのジュエルシードとの戦績は散々な結果ばかりだ。

 その理由は至極単純。

 

 ──わたしが未熟だから。

 

 未熟だからこそ、なのはは生まれて初めて、他人に強く嫉妬した。

 黒道リクトは自分よりも強く、自分よりも()()()な魔導師だ。

 ジュエルシードとの二回目の戦闘の際に偶然巻き込んでしまった彼は、冷静に残酷に暴走したジュエルシードを無力化した。

 三回目の時には自分が手も足も出ずに負けた暴走体を、まるで赤子の手をひねるように倒してしまった。

 四回目のプールでの戦闘は、運悪く巻き込まれた友人たちを颯爽と助け出してみせた。

 圧倒的な強さを持っていて、いつも冷静に物事を考えることができ、最適な判断を瞬時に選ぶ事ができる魔導師。それが、黒道リクトだった。

 それでも、高町なのはは黒道リクトの事を素直に尊敬する事が出来ない。

 何故なら、黒道リクトは高町なのはにとって、最も嫌う部類の人柄の持ち主だったからだ。

 それだけの才能と力を持っていながら、黒道リクトは他人の為に動くことは決してしない。誰かに必要とされ、頼られて、それを容易く実行できるのに、彼はそれら全てをくだらないと吐き捨てる。

 

 ──わたしが欲しかったものを全部持っているのに、どうしてなの。

 

 黒道リクトの考えを高町なのはは否定したかった。でも、今の彼女にはそれができない。

 何故なら、高町なのはは呆れるくらいに弱いから。弱い人間の声は、決して届かないことをなのはは良く知っている。

 自分の様に強い意志も覚悟もないはずなのに、黒道リクト(嫉妬の対象)高町なのは(弱い自分)よりもずっと強い。だから、彼の言葉は弱い自分の心に強く響いてくる。

 その事実が、高町なのはの心に黒いシミを生み出していく。

 

 ──今度こそ上手くやれるはず。

 

 そんな思いが胸の奥底から湧き出てくる。

 あれから魔法の練習をユーノくんと一緒にいっぱい練習した。今日もレイジングハートと一緒にいる。

 

 ──だから、きっと大丈夫。

 

「レイジングハート……これから努力して経験積んでいくよ……! だから教えて! どうすればいいか!」

『If that is what you desire……and you are willing to put in the work(全力にて、承ります)』

 

 愛機からの頼もしい言葉に、なのはの心に火が灯る。

 

『Stand by Ready』

「レイジングハート! セーット アーップ!」

 

 眩い光がなのはとレイジングハートを包み込み、バリアジャケットを構築する。

 

 ──大丈夫。今度こそ。

 

 再度自らに言い聞かせ、なのはは未だ爆発音がする場所へと飛んだ。

 

「居た!」

 

 飛行すること数分。階段を登り切った先にある開けた広場で、ジュエルシードの暴走体が暴れていた。

 周囲の木々が力任せに薙ぎ倒されている。破壊痕こそ派手ではあるが、火の手が上がる気配は無い。その事に、なのはは小さく安堵する。

 幸いにも、山の中には人の気配はなかった。もともと人が通らない様な場所ではあるし、平日の夕方に好き好んで山登りをする人はそう居ない。

 なのはは大きく空を旋回しながら、ジュエルシードが暴れているであろう場所へと向かう。

 暴走体は、巨大な虎に似た漆黒の怪猫だった。

 全長は余裕でなのはの背丈の倍以上はある。闇を塗り固めたような巨体が、背中に生えた禍々しい翼を広げて、荒々しい咆哮を響かせていた。

 どうやらあの暴走体は、野生の猫が核になっている様だと、愛機のレイジングハートが教えてくれる。

 暴走体には飛行能力が備わっているようだが、いままで戦ってきた暴走体の様に、自然災害にも似た力を発する能力は持ってはいないらしい。それでも、あの巨体が街中で好き勝手に暴れ回れば、それだけで大災害級の被害が出てしまう。

 早く封印をしなければ、となのははレイジングハートを強く握った。

 その時だ──

 

「え?」

 

 ジュエルシードの暴走体に接近しようとしたなのはは、眼前に広がる光景を前に、飛行する速度を落とした。

 暴走体がナニカに向かって攻撃をしている。荒々しく獰猛な牙と爪を力任せに振り回して、絶えず攻撃を繰り返しているのにもかかわらず、一向に戦闘が終わる気配が無い。それどころかジュエルシードの方が苦悶の声を上げていた。凶暴な魔力の塊であるジュエルシードを取り込んだ暴走体が、何者かに圧倒されているのだ。

 

「あれって……」

 

 夕暮れの空を引き裂く様に疾る閃光に気づいたなのはが、困惑の声を零す。

 閃光の正体は漆黒のマントを翻しながら、夕暮れの空を駆ける少女の姿だった。

 明らかに普通の人間ではない。少なくとも、普通の人間は何の装置や補助も無しに空を自由自在に飛ぶ事はできないからだ。

 高速で飛行を続ける少女が、漆黒の怪猫と空中で接触する。

 そして次の瞬間、怪猫が苦悶の声を上げた。

 怪猫の翼が根本から引き裂かれて、泥の様な塊が周囲の木々に飛び散った。

 体勢を崩した怪猫の巨体に、謎の少女が追撃をかけていく。

 敵に向かって接近し、身の丈はあるであろう巨大な戦斧を少女は軽々と振るい続ける。そうして徐々に、しかし確実に少女はジュエルシードの暴走体を追い詰めていく。

 

「あれは……魔法、なの?」

 

 少女の闘い方を観戦していたなのはは戦慄した。自分やユーノが扱う魔法、或いは魔道と呼ばれるものは、遠距離からの攻撃方法やその為の補助に特化したものが大半だ──少なくともなのはが知る限り、こうして敵の懐に飛び込む様にして戦う魔道師はユーノからも聞いたことがない。

 そして、未知の魔道を操っている少女の姿を改めて見たなのはは、さらに動揺した。

 魔道士の少女は、なのはとほぼ同い年くらいだったからだ。ほぼ白一色のバリアジャケットを着るなのはとは対照的に、少女はほぼ黒一色のバリアジャケットを着ている。同い年の親友(アリサ)を彷彿とさせる金色の髪。宝石の様に美しい色合いをした紅い瞳。

 なによりも、なのはの視線を奪ったのはその瞳だ。

 たおやかな黄金の女の子の目には、感情という名の色が消えていた。

 

『Scythe form』

 

 呆然と立ち尽くすなのはの前で、金色の髪の少女が持つ戦斧が、その形状を大鎌へと変える。まるで死神の鎌を彷彿とさせるソレを、少女は天高く振り上げた。

 

「ジュエルシード……封印!」

 

 少女が大鎌を振り下ろすのに呼応し、空から雷撃が落ちた。怪猫が断末魔にも似た悲鳴を上げ、その直後に起きた巨大な爆発が、周辺の木々を大きく揺らす。

 立ち登る煙が晴れると、暴走体の怪猫は消滅していた。おそらくはジュエルシードが封印されたことで、核となって取り込まれていた猫と分離したのだろう。民間人に被害が及んだ形跡も無く、ジュエルシードの暴走はほぼ被害ゼロの完璧に近い形で終わったと言っていい。

 しかし、それを今のなのはは素直に喜ぶことができない。

 見慣れない少女が自分と同じ能力(ちから)を使って、暴走するジュエルシードを封印した。その予想外過ぎる出来事に、なのはの思考はフリーズしかけている。それでも、本来の目的を思い出したなのはは、謎の少女との対話を試みた。

 

「──あ、あの……ッ!」

 

 恐る恐る声をかけたなのはに気づいて、少女がハッと振り返った。

 空中で停止し、封印したジュエルシードを挟む様にして、お互いの視線が交差する。

 先に動いたのはなのはの方だった。

 

「ま、待って!」

 

 いの一番になのはは、自分が少女と争う意思が無いことを伝えようとする。

 少女は、そんななのはを睨みつけ、周囲に魔力の球体を出現させた。明確な敵意を前に、なのはは意を決して黒衣の少女に近づく。

 

「あの……あなたもそれ……ジュエルシードを捜してるの?」 

「それ以上近づかないで」

 

 はっきりとした拒絶の態度だった。黒衣の少女は、なのはと会話をするつもりが無いらしい。

 

「いや、あの……お話したいだけなの。あなたも魔法使いなの? とか、なんでジュエルシードをとか……」

「……ファイア」

 

 少女はなのはの言葉を切り捨てて、周囲に展開していた魔力の球体をなのはに向かって放った。

 

「……ッ!!」

 

 レイジングハートが指示を出すよりも早く、なのはは翔んだ。不意打ちに放たれた魔力の槍を、なのははぎりぎりで避ける。

 

『Scythe slash』

 

 背後から機械的な男性音が聞こえた。その声に反応したなのはが振り返ると、そこには大鎌を振り下ろそうとする少女の姿があった。

 

「……待っ!」

 

 躱せたのはほとんど運だった。紙一重と言っていいほどの距離感とタイミングで、なのはは少女の斬撃から逃れる。

 しかし、少女の攻撃はそれだけでは終わらない。振り下ろしてなのはの下を取った事を利用し、今度は下段からの斬撃を仕掛けていく。

 今度は避ける事はできない。そう判断してからのなのはの動きは早かった。レイジングハートを両手で構えたなのはは、少女が振り上げた大鎌を真正面から受け止める。

 

「待って! わたし、戦うつもりなんてないっ!」

「だったら、わたしとジュエルシードに関わらないで」

「だから、そのジュエルシードはユーノくんが見つけたもので……」

 

 少女はなのはと会話をする意思が欠けらも存在しない。それどころか、なのはを敵と認識し、排除しようとしている。

 それでも、なのはには戦うことが出来なかった。人間である黒衣の少女を攻撃することに、躊躇しているからだ。その一瞬の隙を、目の前の少女は見逃さなかった。

 鍔迫り合いの形から、強引に少女が背後へと下がる。

 

「バルディッシュ」

『Arc saber』

 

 少女の命令を受けて、彼女の持つ大鎌が光った。それを少女が力強く横一線に振るうと、なのはに向けて金色の円弧状の魔力刃が射出される。

 吹き飛ばされた反動で、その場で身構えているなのはにはこの攻撃を避ける事ができない。

 

『Protection』

 

 主の危機に、レイジングハートが自己の判断で魔法の障壁を展開する。強固に練られた魔法壁は、魔力の刃を容易く弾き飛ばす──筈だった。

 

『Saver explode』

 

 障壁と刃が激突する直前に、刃が爆ぜた。

 

「きゃあああぁ──っ!」

 

 爆発に呑み込まれたなのはが絶叫する。飛行魔法が維持出来ずに、力無く地面へと墜落していくなのは。

 

「あっ──」

 

 落下して行く中で薄めを開けたなのはの視界には、少女が複数の魔力の塊を生成しているのが見えた。止めを刺すつもりなのだと、瞬時にわかったなのはだったが、今のなのはにはそれをどうにかする手段が無い。

 落下していく速度にあの一撃を加えたら、いくらバリアジャケットで保護されていても大怪我をするかもしれない。最悪の場合、死ぬ可能性もある。

 その最悪の結末をなのはは瞬時に理解した。

 理解し、嫌だ、と頭が否定してもどうしようもできない現実に打ちのめされる。

 

 ──なんで。どうして。あんなに頑張ったのに。あんなに努力したのに。

 

 ──どうして自分は──こんなにも弱いの。

 

 不意に、なのはの頭の中に見知った少年の姿が脳裏をよぎる。ほんの数日前に知り合ったばかりの、苦手な少年の面影が。

 彼ならば、きっとこの状況でもどうにかしてしまうのだろう。

 悔しい、となのはは思った。その直後の事だ。

 

「──そこまでだ」

 

 夕暮れ時の空を引き裂く様な、一発の銃声が響いたのは。




主人公擬き、最後以外出番一切無し回。ちなみに二人が戦っている間、主人公擬きは呑気に歩きながら現場に向かっていた模様。

登場人物紹介
高町なのは
原作とは違い、味方サイドに自分以外の魔導師がいるせいで少々屈折した性格に。誰かに必要とされる自分でいたいという、承認欲求の持ち主。
黒衣の少女
スク水みたいな黒一色な衣装に、黒のマントとかいうハイセンス。何よりすごいのは、原作でそのハイセンスな衣装に当人含めて誰も突っ込んでいないこと。いったい、ナニ・テスタロッサなんだ……(棒
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