魔法少女リリカルなのはBlack The MOVIE 1st 作:黒崎ハルナ
今更な話だが、そもそもジュエルシードとは何を目的として作られた物なのだろう。それを知る為にユーノは遺跡からジュエルシードを発掘したのかもしれないが、肝心のジュエルシードが行方不明になっている現状では調べる方法が存在しない。だからといって、俺自身が躍起になってまで全てのジュエルシードを集めて調べたいのかと問われたら、別にそんなことはないと断言できる。なんなら、最近まで興味の欠片すら持たなかったくらいだ。
それでも、これだけジュエルシード絡みのトラブルに関わっていると嫌でも興味くらいは湧く。
意思のある人間や動物、もしくはそれらの強い思念が残っている場所に反応して起動する古代遺産。言葉にするならこれだけだが、実際は所有者の願いを無理矢理にでも叶えようとする傍迷惑な舞台装置。しかもその叶え方は、かなり屈折した形となって現れる。
少なくとも俺は、ジュエルシードのことをそう認識していた。要するに、俺にとってのジュエルシードはファンタジー世界産の爆弾だ。迷惑かつ危険な、可能な限り早急に排除すべき厄介な代物。ジュエルシードに対する考え方は概ねそれで間違ってはいないと思う。
だからこそ俺は、ジュエルシードの存在を知った時に
あり得ない。特にならない。リスクが高い。そんな、一般常識的な考え方をしていた。
馬鹿な話だ。俺が海鳴に来る前に居た場所は、一般常識が間違いで、外道な思考こそが正常だったというのに。
「──そこまでだ」
空高く打ち上げた空砲が、空中と地上で対峙する二人の魔導師の動きを止める。
特に何か深い考えがあっての行動ではない。ただ、偶々知り合い同士が戦闘をしていたから、とりあえず割って入ってみただけだった。
「コクトー……さん?」
無様に地面へと墜落していた高町が、震える声で此方を見てくる。高町の真っ白な防護服は煤で汚れ、プロテクターの一部は派手に破損していた。誰の目から見ても、高町が敗北したことは明らかだ。
わざとらしいため息を一つ溢して、俺は高町に言ってやった。
「世話が焼かすな。この馬鹿」
「ば、馬鹿!?」
「どうして俺かユーノが合流するのを待たなかった。単独行動ができるほど、おまえは魔法が達者だったのか?」
「そ、それは──」
「これに懲りたら、もう少し賢くなることだ」
うー、と高町が物言いたそうに口籠もる。俺自身、詳しく事情を理解しているわけではないが、高町本人にも予想外なイレギュラーが色々とあったのだろう、ということは想像ができた。
高町が勢いよく飛び出して直ぐに聞こえた爆発音と魔力の反応。それは、いつも通りにジュエルシードが暴走を始めた事を意味していた。
正直、どうしようか悩んだ。ジュエルシードが暴走したからといって、俺がわざわざ鼻息荒くして出しゃばる必要は欠けらもない。とはいえ、そのまま無視して帰るのは座りが悪いのも事実。
そんなことを考え、渋々ながらも高町に追いついた時には、最初に暴れていたであろうジュエルシードは既に倒されて、高町はもう一人の魔導師と戦闘の真っ最中だったわけである。
「で……何でこんな事になってるんだ?」
「それは、あの子がいきなり襲ってきて……」
上空で此方を見下ろすもう一人の知り合いこと、フェイトを見上げて高町が答える。混乱気味な高町の様子と、周りの状況から瞬時に判断した俺は、左手で頭を軽く掻いた。
「ああ、もういい。大体わかったから。とりあえず、おまえは暫く黙ってろ」
「黙ってろって、そんなこと言われても。それにあの子は、まだ……」
高町からの抗議の声が終わるよりも先に、背後から稲妻が疾った。その正体は魔力によって生成された槍の形状をした弾丸だ。雷を纏ったソレは、高町がジュエルシードとの戦闘で使っている誘導弾よりも鋭利で殺傷能力が高く、明らかに攻撃をすることのみに特化している。
「慌てるなって、せっかちな奴は嫌われるぜ?」
不意打ちに放たれた攻撃を、俺はほぼノールックの背面撃ちで撃ち落とした。既に
振り返った先にいるフェイトからは動揺が見て取れた。一層に険しくなった瞳が俺たちを──正確には俺だけを射抜く。
「縁があるな。元気そうで何よりだ」
「……バルディッシュ」
『Get set』
左手を上げて話しかける俺を無視して、フェイトは自らの足元に魔力を廻らせた。ばっ、と、周囲の落ち葉が踊る様に舞い、勢いよく散る。それは彼女が攻撃動作に移ったことを意味していた。その速度は、一般的な人間が出せる限界の領域を超えている。まともに視認することも困難なレベルだ。
「危ない!」
後ろで倒れていた高町が叫んだ。
だが、高町が叫ぶよりもフェイトが戦斧を振るう方が遥かに早い。ほぼゼロ距離まで急接近したフェイトと俺の視線が交差した。直後、甲高い金属音が辺りに鳴り響く。
確かに速い。だけど……遅い。
「ハグにしてはちょっと過激過ぎないか。まあ、あんたみたいな美少女に近づかれるのは嬉しいが……」
右手に持っていたヴァリアントで戦斧を受け止めながら、俺は冗談混じりに言った。リボルバーと戦斧。質量的に明らかに不利な状況ではあったが、コンマ数秒のタイミングを上手く合わせれば、質量の差を無視して相手側の攻撃の速度と威力を完璧に殺すことは不可能では無い。
受け止めて、即座にフェイトの魔法のカラクリを解析する。
「瞬間移動……ではないな。となると、単純な素早さか。その手にある馬鹿でかい斧はデバイスか?」
防がれた事に驚愕の表情を浮かべたフェイトが再び距離を空けた。その間も彼女の口からは言葉が一切出てこない。おそらくは意図的に無言を貫いているのだろう。賢い判断だ。戦いの場においては余計な情報を漏らすことが命取りになるのだから、なるべく無言で戦った方がいい。
中には俺の様にわざと戦いとは関係の無い話をして自分のペースを保とうとする奴や、威嚇の意味も込めて雄叫びや奇声を上げながら戦う奴もいるにはいるが、そんなものは例外もいいとこだ。
「なあ」
俺は右手に持っていたヴァリアントアームズを地面へと下げた。此方に戦う意思が無いという意思表示だ。
「前に話してくれた探し物ってのは、ジュエルシードのことだったんだな」
フェイトからの返事は無かった。低く腰を落とした構えで、俺のことを睨んでいる。紅い瞳からは敵意と警戒が読み取れた。
「そんなに身構えるなって。俺は確かにこの馬鹿とは知り合いだが、別に仲間ってわけじゃない」
それでも、俺は会話することを諦めなかった。
「だから、お前が今すぐ帰るなら俺から襲ったりはしないと約束する。ジュエルシードはそっちが回収したんだろ?」
高町が一人でジュエルシードを封印なんて芸当は、今のところ不可能だ。消去法ではあるが、暴走したジュエルシードはフェイトが封印したものと考えるのが妥当だろう。事情は知らないが、この場での勝者は間違いなくフェイトだ。ならば、それを咎める権利は俺には無い。
「やめとこうぜ。こんなところで戦っても、お互い一文の得にもならない」
実際、この状況はフェイトにとっても面倒なはずだった。どんな戦闘があったかはわからないが、大なり小なり体力も魔力も消耗している筈だ。
俺の読み通りなら、フェイトの目的はジュエルシードの回収。その目的が完遂された現状、彼女がこの場に居座る理由は無い。俺以外の仲間の出現まで考慮するなら、撤退が一番賢い選択だろう。
「俺は、お前の敵じゃない」
「……」
暫しの無言の中で、俺は目の前にいるフェイトを観察する。
俺のフォーミュラスーツと同じ黒を基準とした防護服。肌にピッタリと張り付いたワンピースタイプの水着に似たデザインとそれを包む様な身の丈くらいありそうな黒マント。白をメインにしたカラーリングに重装甲みたいな防護服──バリアジャケットを着る高町とは、色々と正反対な姿だった。
しかし、なんと言うか……
「エロいな……」
フェイトの事を上から下まで観察した後に、心の声が思わず漏れてしまった。
自分よりも歳下な筈なのに、その人形みたいな整った容姿と身体のラインがはっきりとわかるバリアジャケットの所為で、色気が半端ない。しかもそれを大胆に露出することはせず、逆に隠す様な黒マントが魅力を更に引き立てている。
日本に来る前に娼婦やらの類いは飽きるほど見てきたが、そういった連中とは別ベクトルなエロさが今のフェイトにはあった。正直、この場に高町がいなかったら戦場である事を忘れて、全力で口説いていたかもしれない。
「エ、エロいって……!」
顔を真っ赤にしてフェイトがマントで自らの身体を隠した。どうやら、聞こえていたらしい。
「ああ、すまん。つい」
「つ、ついって」
戦斧を抱きしめる力が、心なしか強くなった気がした。
「いや、てっきり好きでそんな格好をしてるもんだと」
「ち、違……くないけど、違うから! これはリニスが用意してくれたもので、私がデザインしたとかじゃなくて──」
「ああ、はいはい。心配しなくても普通に可愛いし、良く似合ってるぞ」
「あ、ありがとう……じゃなくて!」
段々と面白くなってきた。顔を真っ赤にしたり、褒められて照れたり、喜んだりと、フェイトは喜怒哀楽が割と激しい性格みたいで、一々リアクションが面白く、見ていて飽きない。
「あの……コクトーさん?」
後ろからジト目で此方を睨む視線に気づいて振り向く。視線の主の高町は、軽蔑と侮蔑が入り混じった表情をしていた。
「なんだ、まだ居たのか」
「扱い酷くないですか!」
本気で存在を忘れかけていた高町と俺のやり取りを見ていたフェイトが、プルプルと頭を振っていた。気持ちを落ち着かせたのか、再び低い構えのまま、此方に敵意を向けてくる。
ふざけた会話をしながら、どさくさに紛れて解散する予定だったが、中々上手くはいかないものだ。
さて、どうしよう。俺が新しい会話の掴みを考え始めた時だ。
「一つだけ」
と、フェイトの躊躇いが混じった呟きが、はっきりと聞こえた。
「一つだけ約束して欲しい」
「内容によるな。金を貸してくれ、とかは無理だ」
「もう、私とジュエルシードには関わらないで」
今度は冗談すらも通じない空気だった。次に会ったら、間違いなく殺し合いに発展する。そんな意味を含めた、彼女なりの警告だろう。
「悪いが、それは無理だ。ジュエルシードには興味がないが、この街に住んでる以上は街の異常を無視するわけにはいかないんでな」
だけど、と俺は更に言葉を続けた。
「偶々現場で会ったとしても、俺からジュエルシードの回収を邪魔しないってことだけは約束する。まあ、後ろにいる馬鹿は知らないが」
「……そう」
構えを解き、俺たちに背中を向けるフェイト。それを見た俺も、ヴァリアントアームズを待機状態のコアへと戻した。それが解散の意味を示しているのは、お互いに理解している。
去り際、フェイトは背中越しに倒れている高町を見た。その瞳は酷く悲しそうだ。
「今度は手加減できないかもしれない。ジュエルシードは……諦めて」
そう言い残して、フェイトは上空へと消えて行った。段々と小さくなっていく後ろ姿を見送った後に、もう一度周囲を見渡す。
一部の木々が薙ぎ倒されている事を除いて、被害らしきものはない。視界の端っこには一匹の傷だらけの子猫と、心配する様に取り囲む二匹の子猫がいた。おそらくは、あの子猫が今回のジュエルシードの被害者なのだろう。
俺は展開していたフォーミュラスーツを解除して、倒れている高町のもとへと歩いていく。近くまで行くと高町は緊張の糸が切れたのか、力尽きた表情で意識を手放していた。
「……面倒くさいことになってきたな」
遠くから聞こえるユーノの声と高町の寝顔を眺めて、俺は弱々しく溜息をついた。
本当に──特別な力なんて、在るだけ無駄で、ロクなものじゃない。
ただいま。
ドン・キホーテでコラボするらしいので復活。王様のタペストリーが買えたら、また投稿します。
登場人物紹介
コクトー
シリアスブレイカー。頭の中は意外と煩悩塗れ。金髪ロングな美少女がタイプらしい。
フェイト・テスタロッサ
コクトーの被害者その一。エロい。だけど原作では誰もそのバリアジャケットにツッコミを入れていない。あのバリアジャケットにハイニーソは反則とは、コクトーの談。
高町なのは
コクトーの被害者そのニ。好き勝手に暴言を吐かれ、挙句に存在を忘れられそうになる。今回はずっと寝てただけ。ちなみに原作主人公。