魔法少女リリカルなのはBlack The MOVIE 1st 作:黒崎ハルナ
特別な力なんて、在るだけ無駄で、ロクなものじゃない。
そもそも特別な力を持つ者とは何か? 普通の人間とは違う能力や技能を持つ、『バケモノ』たちのことだ。人によっては超能力者だの、魔法使いだの、とコロコロ名称が変わるが、そんなことはぶっちゃけどうでもいい。
俺が言いたいのは、はっきりと異能の力を持っていることがわかった時点で、可及的速やかにそいつからは距離を置くべきだということだ。ましてや嬉々としてその力を目的の為に行使したり、意味もなく極めようとするやつなら、本気でそいつの人格を疑った方がいい。例外なく、そいつらは人としての大事な部分が何処かしら狂っている。
身近な例を上げておく。
その他にも人外を目指して一直線なやつや、俺みたいに生まれた時から人外側だったやつは大勢いる。
曰く、俺が住む海鳴市の街は、そういった人外を引き寄せやすい土地らしい。きっと俺が知らないだけで、探せば人間を辞めた馬鹿はもっと出でくるだろう。
今のところ理性や常識といった側面が強い連中ばかりなのが唯一の救いだが、逆に言えばその側面が無ければ、俺たちはただの人外であり、化け物であり、暴力を振るうことでしか問題を解決できないクズ野郎以外の何者でもない。
しかし、たとえ俺たちが人外で化け物のような存在だとしても、ささやかな良心すら失ったら、それこそ本当に『最低のクズ以下』の何かに成り下がってしまう。
いくら俺だってそれは嫌だ。
人外の化け物にだって、ルールや矜持はある。むしろ化け物だからこそ、自らが決めたルールや矜持にはとことん拘るものだ。俺たちは人外の化け物であっても、決して悪徳非道な外道ではない。
本当に必要な場面では力を使う事を躊躇わない。自分よりも弱いやつから助けを求められたら断らない。借りたものはなんだろうときっちり返す。
そういった人としての基本的な部分を守らなければ、そいつは本当に救いようのないクズ以下のクソ野郎だ。そういうクズ以下に成り下がったやつの末路は大抵決まっている。そうならない為に、俺も自らの決めたルールくらいは守ろうと決めていた。
思えばそれが良くなかった。そんなクソの役にも立たない拘りなんてドブにでも捨てるべきだったと、後になって心底反省した。
白い魔法少女と出会ったのは四月の初め頃だった。
その日の俺は夜の海鳴市の街を一人で歩いていた。都心ではないが、住宅街でもない、そんな中途半端な道。不思議なことに人通りはまるで無い。
だが、その時の俺はそんなことを気にもとめていなかった。とにかく機嫌が悪くて、いち早く帰宅したかったからだ。
その日はとにかく最低の一日だった。
朝から不愉快な夢を見た所為で目覚めは最悪だったし、せっかくやった宿題を全て自宅に忘れた所為で担任からめちゃくちゃ怒られ、とどめとばかりに放課後はこんな時間になるまで
そんな一日だったからか、その時の俺は信じてもいない神様に向かって中指を立てたくなるくらいにはイライラしていた。
こういうときはさっさと家に帰って、ポテチとコーラを片手に映画でも観るに限る。そうすれば多少は気も晴れるだろう、と、俺は謎の確信をしていた。
じーさん曰く、最低の一日の特効薬は、ちょっと古いイカした映画と旨い酒らしい。後者はともかく、前者はよくわかる。なんならそこにゲームと冷えたコーラを追加してもいい。
今日はとにかく最低の一日だった。だからこそ、俺は無理矢理にでも気分を上げようとしていた。なんなら人目がないのを良いことに、鼻歌でも歌っていた可能性はある。
──その少女は、よりにもよってそんな夜、俺の目の前に落下してきた。
悲鳴はあげていなかった。落下して、勢いよく地面に激突し、アスファルトを砕いた。そのままゴロゴロと四、五回転ほどしただろうか。
直後、少女が壁に激突して止まるまで、俺はその様子を黙って見ていた。
「……は?」
訂正しよう。黙って見ていたのではない。突然の出来事に頭が真っ白になっていただけだ。
これは俺の日頃の行いが悪いせいか、それとも単に俺が生まれつきツイてないだけか。困ったことになった。なぜ目の前に落ちてくるのか。確実に八つ当たりではあるが、俺は目の前にいる少女に向かって文句を言いたい衝動に駆られた。これだけ派手に登場されたら、流石に『気付かなかった』で押し通せない。
つまり、俺は否が応でもこの少女と関わる必要があるわけだ。
「──いや、待てよ」
そこまで考えて、ある一つの可能性が浮上する。まだ最悪の事態は回避できるかもしれない。俺は横たわる少女に近づいた。
「そもそも、こいつ、生きてるのか?」
正直なことを言えば、死んでいてくれた方が助かる。非人道的な考えだと理解はしていても、死者ならば見ないふりがまだ有効だ。
微かな期待をこめて、少女の顔を覗き込む。そいつは白い学生服らしき衣装に身を包んだ、幼い少女だった。
たぶん自分と同じで小学生くらいなのだろうが、少女の横顔はどこか不釣り合いなほど大人びて、それでいて年相応な幼さが残る。その顔を見た瞬間、初対面なのになぜか見覚えのあるような、奇妙な錯覚を受けた。
「げっ……」
だが、記憶をたどろうとした瞬間に、一気に憂鬱な気分になった。その細い眉が少し動いたからだ。顔色こそ死人のように青ざめてはいるが、唇も空気を求めて喘ぐように動いている。
これは良くない。
小学生くらいの女の子が、アスファルトを砕くほどの勢いで落ちてきて、まだ死んでいない。それどころか、腕も足も折れていない。とても人間とは思えない頑丈さだ。俺はそういう、異常な頑丈さを発揮できる連中を知っていた。
すなわち
問題は、目の前にいる少女が道徳心や理性を持っているかどうかだ。
持っていないのなら、瀕死の化け物にトドメを刺すだけで解決するが、正義の為に力を行使する馬鹿の類いだったら、高確率で厄介事に巻き込まれることになる。頭上から落下してきた瀕死の
こいつの場合は、どうか。俺は絶望的な気分で少女をすばやく観察し、彼女の左手で視線を止めた。
決定的な証拠に気づいたからだ。
赤い宝石が埋め込まれた杖。一言でそれを表すなら、これほど適した言葉はない。何処か機械的なそいつを、少女は気を失いながらも大事そうに握りしめていた。
注意深く観察してみれば、少女が着ている服の装飾も杖同様に機械的な印象を受ける。
そして、俺はそれら全てに不思議な親近感を覚えていた。
──つまり、こいつは、もはや間違いない。ほとんど無意識だったが、俺はため息をついていた。なんの因果でこんな少女が、こんな人外魔鏡な世界に手を染めて、しかも
「こいつ、魔導師かよ!」
直後、先程よりも大きな落下音が夜の街に響き渡る。
「今度はなんだよ……」
音の発生源は背後からだった。本気でお祓いにでも行くべきか、でも近くにある神社は自称妖狐の女狐がいるしなぁ、などとこの後の予定を変更することを決める。所詮は現実逃避だが、ぶっちゃけ逃避でもしないとやってられない。
俺はズボンのポケットに手を伸ばしながら、振り返る。暗闇の奥から歩いてくる、大柄な影がひとつ。こういうとき、心がけていることがある。まずは精神的な主導権を握ることだ。俺はそいつの姿を確認するよりも前に、喋りだしていた。
「誰だか知らんが、こいつの知り合いか? こんな夜遅くまで遊んでるなんて、感心しないな」
いい加減なことを喋りながら、暗闇から姿を見せる影を観察する。
一言で言うなら、そいつは見たとおりの怪物だった。先ず目を惹くのが、その容姿だ。ヘドロみたいにドロドロとした真っ黒な体に、獰猛な牙と鋭い目つき。おまけにやたらと臭そうな涎が、牙の隙間から零れ落ちている。
少なくとも、マトモな会話が成立するような相手には見えない。俺は即座にこの怪物に『人外の化け物』のラベルを貼った。『クズ以下』ではない。いきなり有無を言わせずに背後から襲ってこなかったポイントだけは評価できるからだ。それに、もしかしたら近所の
よって、俺はできるだけ友好的に、このロリコンの化身と対話をしようと試みた。言葉が喋れなくても、意味は理解できるかもしれない。コミュニケーションに大切なのは根気と笑顔だ。
「今日はお互いツイてないな。俺はこんな現場に出くわすし、あんたは俺に見られたしで、踏んだり蹴ったりだ。だからさ、ここは仕切り直しってことで、俺もあんたも何も見なかったことにして引き上げないか?」
更に俺は困った様な素ぶりを加えた。
「実を言うとな、俺もなるべく早く家に帰りたいんだ。これから家でトゥナイト・ショーを観る予定があるんでな」
だから、な。とジェスチャーで同意を求めてみる。これだけわかりやすく、友好的に接しているんだ。言語の壁なんて軽く乗り越えて──
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
駄目だった。それどころか、こっちに向けて鼓膜を破るような咆哮を上げながら威嚇している。しかも目が血走っていた。やはり怪物との対話は無理があったようだ。
「あの
神社に行くと偶に現れる自称妖狐を少しは見習ってほしい、とかどうでもいいことを考えつつ、俺は密かに心の中で、この怪物の分類ラベルを貼り直す。こいつは『クズ以下』だ。
人間ではないので分類が少し不適切な気もするが、俺の中でクズ以下=全力で打ちのめしてもいいやつの図式なので問題ないだろう。
「はぁ、最っ悪だ……」
無駄な労働とか、一番俺が嫌いな類いのことなのに。
ぶつくさと不平不満を言い続けていていたが、俺は途中でその文句を言うのを止めた。
不意に、横たわっていた少女が身じろぎをしたのがわかったからだ。目が開き、俺をまっすぐ見上げている。そして、唇がひきつるように震えて、言葉を発した。単純な三文字の言葉だった。
「逃げて」
こいつは生粋の馬鹿だ。俺は目の前で倒れている少女に『馬鹿』の分類ラベルを貼り付けた。本気で今日は厄日らしい。
少女は喉奥から、苦しそうに声を絞り出した。
「はやく、逃げてください。アレは──アレはわたしがなんとかしますから、はやく──」
なにかご立派な言葉を続けようとしたのかも知れないが、彼女は咳き込んで言葉を切った。それきり言葉は出なくなる。俺は多大なストレスによって、頭が痛くなるのを感じた。
こういうときはいつもそうだ。こんな満身創痍な相手から『逃げろ』なんて気を使われて、ハイそうですかと言えない自分が嫌になる。せめて、わたしの代わりにこいつを倒して、とか言ってくれたら、即断即決で見捨てて帰るのに。
「いや、まあ……おすすめされた通り、逃げたいところなんだが」
俺は少女を見下ろした。
「こっちにも、そうはいかない個人的な事情がある」
確かに俺は、これから暴力で物事を解決しようとしているクズ野郎だが、ここで逃げたらそれ以下だ。人外の化け物だって、自分で決めたルールの一つくらいは持っている。
例えば──俺が泣いている女の子を見捨てられないように。
「ところで、一つ訊きたいんだが」
俺はさりげなくズボンのポケットからある物を取り出す。掌に収まるくらいの小さなサイズのソレを、隠すように握り込む。
「あれは打ちのめしても問題ないやつか?」
目の前の怪物を指差して、俺は少女に尋ねた。
すると、少女は面白いくらいにテンパり出す。
「だ、駄目です。わたしがアレの相手をしますから、貴方ははやく安全な場所まで逃げてください」
何言ってんだ、こいつ。と、俺は思った。そんな状態で強がって何になるというのか。なので、少女のことは、徹底的に無視することにした。
「アクセス」
小声で呟きながら、俺は掌に握り込んでいたソレ──ヴァリアントコアと呼んでいる赤と黒の二色のメダルの様な機械の中心を親指で押す。瞬間、頭の中に膨大な量の情報が流れ込んでくる。
──声帯認証によるヴァリアントコアの起動を確認。
──魔導術式・ベルカ。及びフォーミュラの稼動を開始。
──体内ナノマシン、正常。
──ヴァリアントユニットの展開を開始。
──メインプログラムをフォーミュラからベルカ式へ変更完了。
──全システムオールグリーン。
──フォーミュラスーツType0、セット。
「リライズアップ」
そして俺の視界を、鈍色の光が埋めた。
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登場人物紹介
月村忍
吸血鬼で頭のイかれたマッドサイエンティストにして、ナイスバディなお姉さん。恋人は戦闘民族。
高町恭也
戦闘民族高町の長男。魔法とかではなく、単純な身体能力と技術で化け物になったラスト・サムライ。イケメンで女にモテる男の敵。
久遠
見た目は普通の小狐だが、その正体は三百年以上生きている妖狐。幼女から美女まで幅広く変身でき、電気や天候を自在に操るチートキャラ。尚、たぶんこれ以上の登場はない模様。
謎の白い少女
ダレナンダロウナー(棒読み