魔法少女リリカルなのはBlack The MOVIE 1st   作:黒崎ハルナ

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Act.4 Melancholy after school/憂鬱な放課後

 帰りのホームルームが終わってすぐに教室を抜け出した俺は、憂鬱な気分で屋上にいた。話をしたいなら放課後まで待て、と俺が高町に言ったからである。場所は何処でもいいと言われたので、放課後に人があまり集まらない屋上を指定した。なにせ話す内容が内容だ。第三者にバレないようにするなら、屋上はそう悪くない場所だと思う。

 遠くから、校庭で遊んでいる生徒たちの笑い声が聞こえてくる。それが、日常と非日常の境界線のように感じてしまう。

 

「……」

 

 はあ、と長い溜息をついて、やはり助けるべきじゃなかったか、と今更ながら昨日の自分の行いを後悔してしまう。

 どう考えても、面倒な事に巻き込まれるのが目に見えている。

 

「にしても、遅い……」

 

 放課後の屋上。薄曇りの空から吹き付けてくる春風は、少し肌寒い。

 約束の時間にはまだ数分の余裕があるのに、俺は高町がまだ来ないことに腹を立てていた。どうやら自分で思っている以上に、俺は世の中の理不尽さに腹を立てているらしい。

 件の少女がやって来たのは、俺が指定した時間ギリギリになってからだった。勢いよく屋上の扉を開けた高町は、すぐに俺を見つけて近くに寄って来る。服装そのものは今朝に見た制服姿と変わっていないが、その肩には昨晩見た喋るフェレットがいた。

 

「お……遅くなりました」

 

 肩で息をしながら、高町は深々と頭を下げた。習うように、肩にいるフェレットも小さくお辞儀をする。

 俺は、いいさ、と言うかわりに、無言であらかじめ用意していた缶ジュースを高町に向かって投げた。突然のことで驚いた高町は、わわわ、と意味不明な擬音を口にしながら缶ジュースをお手玉する。そうして数回手の中で遊ばせた後に高町は、

 

「あっ……」

 

 と間抜けな声と一緒に缶ジュースを地面に転がした。コロコロと缶が転がる音と、なんとも言えない無言の空気が屋上に充満する。

 

「……ちッ」

 

 その様子を黙って見ていた俺は、小さく舌打ちを落とした。よりにもよって俺の足元まで転がすとは。

 無言で足元に転がった缶ジュースを拾い上げ、今度は手渡しで高町に渡す。中身が炭酸飲料じゃなくて、本当に良かったと思う。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 行儀よくお礼を言ったあと、高町は缶ジュースのプルタブを開けようとする。が、爪がうまく引っかからないのか、カツン、カツン、と虚しい音が屋上に響いた。このまま放っておくと缶ジュースと格闘するだけで時間が過ぎてしまうのではなかろうか。半分以上本気でそう危惧した俺は、不本意ながら話を切り出すことにした。

 

「それで、俺に何の用だ」

「はい?」

 

 人の平穏な日々を無断で犯しておいてその態度か。

 

「何の為にこんな場所に俺を呼び出したのかってことだ」

 

 高町から缶ジュースを引っ手繰るように奪い取り、プルタブを開けてやる。受け取ったあと、高町は中身のミルクティーを一啜りしてから、可愛らしく小首を傾げた。

 

「この場所を指定してきたのはそっちじゃあ……」

「よし、帰るか」

「にゃあーっ、待ってください!」

 

 慌てて手を伸ばし、制服の端を引っ張り、高町は涙目で懇願する。その姿にどうしようもない情けなさを感じた俺は、再び居住まいを正した。

 

「ってか、そもそもおまえらは何者なんだよ」

 

 本音を言うなら、こいつらの素性など一ミリも興味がない。だが、本題に入る為には必要なことだろう。

 

「それについては、ボクから話します」

 

 そう言ってきたのは、肩に乗っていたフェレットだ。今まで無言を貫いていたくせに、フェレットはやけに凛々しい表情で、こちらを睨むように見つめてきた。そして、ピシッと背筋を伸ばすように直立する。

 その真面目くさった表情と仕草で、何となく察した。やはり、そういうことか……。シリアスは苦手だが、俺は仕方なしに言った。

 

「ふん。話してみろよ」

「はい」

 

 それから、唾を飲むほどの間があいて、フェレットはゆっくりと話しはじめた。

 

「……信じてもらえるかわかりませんが……ボクはこの世界の外……別世界から来ました。昨晩あなたが戦ったのは、ボクたちの世界の危険な古代遺産──ロストロギア『ジュエルシード』と呼ばれるものです」

「古代遺産?」

「はい」

「いや待て待て、昨日俺が殺した怪物は明らかに生きてたぞ。古代遺産ってのは、生き物なのか?」

「いえ、ジュエルシードはちょっとしたきっかけで暴走して暴れ出すこともある……危険なエネルギー結晶体です。昨日は野生動物が誤って触れてしまったことが原因で暴走しました」

「ああ……それで昨日は頑なにトドメをさすなって言ってたのか」

 

 そう俺が言うと、二人は唇を固く結んだ。

 濁してはいるが、ジュエルシードとやらに触れた野生動物がどうなったのかは、それだけで察することができた。要するに、ジュエルシードとやらに取り込まれて、暴走して、俺に殺されたのだ。

 可哀想に、とは思う。運が悪かったと同情もするし、どんな理由であれ、命を奪ってしまったことを少しくらいは後悔している。

 しかし、それは今この場で議論すべき話じゃない。

 

「とりあえず、おまえが別世界から来たやつで、あのわけわからんやつの正体がジュエルシードとかいうのはわかったよ。だが、肝心なところがわからない。──どうしてそんなものが海鳴市(この街)にある?」

「それは……ボクのせいなんだ」

「おまえのせい?」

 

 聞き返すと、フェレットは沈痛な表情で頷いた。それが肯定の意味だとわかった俺は、その先を話すように促す。

 

「ボクは故郷で遺跡発掘を仕事にしていて……ジュエルシードは古い遺跡の中でボクが見つけたんです。発掘して直ぐにジュエルシードを調べたら、とても危険な代物だとわかったので、管理局に保護を依頼したんだけど……」

「だけど?」

「ボクが手配した次元船が……途中で事故にあったみたいで」

 

 話の雲行きが怪しくなってくる。いくら俺でも、フェレットがその先に何を言うのかは容易に想像ができた。

 

「その事故が原因で、二十一個のジュエルシードはこの世界に散らばってしまったんです」

 

 そこまで話して、フェレットは一旦話を切った。それは適切な判断だった。今の話があまりにも非日常過ぎて、全てを理解するのに時間が必要だったからだ。

 要約すると、フェレットは異世界からの来訪者で、トレジャーハンターだったフェレットが見つけたヤバいお宝がジュエルシードで、そいつが何かの手違いで海鳴市に散らばった、ということになる。荒唐無稽だが一応は話が通っていた。ほとんど妄想染みた内容である事さえ意識しなければ、だが。

 

「なんとも迷惑な話だ」

「ごめんなさい」

「謝罪を求めてるわけじゃねェよ」

 

 俺がありのままの感想を言うと、フェレットは本当に申し訳なさそうに俯いた。全てこいつが悪い、とまでは言わないが、それでも原住民の俺には、元を辿ればこのフェレットがジュエルシードとやらを見つけたのが原因じゃないか、という感想しか出てこない。

 

「……兎に角だ。今この街はどんなものでも容易く悪魔に変えちまう、小さくて危険な遺産(レガシー)で溢れかえってるってことだろ」

 

 納得はしないが、嘘を言っているようにも見えない。ならば、やはり本当のことなのだろう。

 だが、そんなことよりも、ものすごく素朴な疑問があった。

 

「んで、何故そんなことをわざわざ俺に話す必要がある?」

「それは──……」

 

 俺は先手を取って言ってやった。

 

「もしも、ジュエルシードを探すのを手伝ってください、とかいう話なら、俺は帰るからな」

「そんな……どうして!!」

 

 信じられない、と言った表情で高町が声を張り上げた。フェレットも言葉にこそ出さなかったが、似たような心境だろう。

 

「当たり前だろ。協力する理由がない」

 

 どうしてもなにも、いきなりこんな話をされた所で色々と困る。しかも知り合いでもないやつに特大の厄介ごと(ビッグトラブル)を頼まれたのなら尚更だ。

 唯一理解できたのは、この二人はなんとしてもこの街に散らばったジュエルシードを回収したいという目的を持っている事だった。そして、その助けに俺がなれるかもしれない、という事実も。

 その事に対しては正直、なめくさっている……としか言葉が出てこない。

 都合が良いというか、話の流れが綺麗すぎるというか。なんというか、都合のいい部分にしか目を向けていないというか。まぁ、それはそれでいいのだ。問題は俺がこいつらの与太話に付き合うかどうかということだけだし。

 ぶっちゃけそこらへん、義理も義務も自分には欠片も存在していないのだから。

 

「これはボクたちの……いや、ボクだけの問題ですから、お願いできる筋合いじゃないのはわかっています。だけど、ボクたちには貴方の力が必要なんです」

 

 そう熱弁したフェレットは高町の肩の上で深過ぎる礼をした。

 

「どうか、ボクたちに力を貸してくれませんか」

 

 俺は自分がしかめ面になるのを感じた。イライラが湯沸かし器みたいに沸いてくる。ひどく不愉快な気分になってきた。

 長々と話に付き合ってやった代償がこれか。夜の一族の説明をされたときには、あの月村忍でさえ、もう少しまともなことを喋ったぞ。

 

「断る」

 

 俺ははっきりと、明確な意思を持って断言した。

 しかし、それでもフェレットはしつこく食い下がってくる。

 

「お礼は必ずします! だから──」

「銭金の問題じゃない。どんな事情があろうと、そりゃ請け負えない話だって言ってるんだ」

 

 可能な限り、付け入る隙を与えないよう、ビシッとした調子で言ってやったつもりだった。これでわからないのなら、本当に暴力に頼ってしまいそうだ。

 

「見ず知らずの赤の他人がやらかした尻拭いに命をかけろ? 冗談じゃない。命は一つだけだ。それとも、俺が死んだら別世界の不思議な力で蘇らせてくれるのか」

「それは……」

「あと勘違いしてるみたいだから言っておくが、俺は傭兵でも正義の味方でもない。そこらへんにいる普通の小学生で、民間人だぞ。おまえらの世界だと、民間人に命をかけて戦わせるのが当たり前なのか」

 

 言葉は返ってこなかった。明確な意思を持っての拒絶は、フェレットの沈黙を誘った。

 俺は改めて目の前のフェレットを見る。その顔つきは嫌になるほど生真面目なものであり、俺に言わせてもらえば滑稽なほどの真剣さを感じた。直視していると、いたたまれないどころか、苛立ちで撃ち殺してしまいそうだった。

 なので、俺はもう黙って空でも見つめているしかなかった。

 

「──もういいよ、ユーノくん」

 

 不意に、静かな声が聞こえた。諦めと、少しばかりの怒りを押しとどめているような声だった。そういえば、この場にはフェレットの飼い主らしき少女がいた。

 

「無理強いは駄目だよ」

「なのは……でもッ──」

「大丈夫。わたし、もっとがんばるから」

 

 高町はグッと力強く握り拳をつくり、笑みを浮かべる。 そこには、はっきりとした覚悟が決まっていた。俺が断ったのだから、きっと彼女はこの先も一人でフェレットの手伝いをやるのだろう。

 

 ──何が彼女をそこまで動かしているのか。

 

 単純な興味が湧きかけたが、それを無視した。これ以上、厄介事はごめんだ。

 

「ああ、そりゃよかった。せいぜい俺の見えない範囲で好き勝手にやってくれ」

 

 なるべく嫌味ったらしい口調と仕草を選んだつもりだ。あとは向こうが勝手にキレて、勝手に去ってくれる。それでもう二度と会う事はない。長年の経験から、ほぼ間違いない筈だ。

 ところが、高町と名乗る少女は怒るでもなく、去るでもなく、こちらをじっと睨んでいた。一言文句を言ってやらなきゃいけない、と瞳が言葉以上に語っている。

 

「何だよ。言いたいことがあるなら言えよ」

「あなたは……」

 

 挑発にも負けずに、少女は意を決して口を開こうとした。

 その直後、

 

「なのはッ!」

 

 フェレットが叫んだ。その理由は直ぐにわかった。

 

「なんだ──!?」

 

 ズン、と鈍い振動が校舎を揺らした。一瞬遅れて、屋上に突風が舞う。ベンチが吹き飛び、植えられていた花々が散る。

 何が起きたのか、本気で理解できなかった。台風が近づいているなんて情報はなかったし、地震ならば突風は起きない。

 それでも、思い当たる節が一つだけある。これは、非日常側の現象だ。

 

「おいおい……」

 

 屋上よりも高い場所に何かがいる。

 そこにいたのは、巨大なワタリガラスに似た漆黒の妖鳥だった。

 翼長は十メートルは超えている。闇を固めたような巨体が羽ばたく度に、暴風が吹き荒ぶ。

 自然界に存在しない生物。間違いない。

 俺は無意識のうちに呟いていた。

 

「ジュエル……シード」

 

 正解だ、と言わんばかりに、巨大なワタリガラスが咆哮を上げた。




お互いがお互いに微妙な誤解やら勘違いをした結果、色々と拗れるの図。
次回はワタリガラスなジュエルシードとの戦闘。

登場人物紹介
コクトー
主人公。フェレットからの無茶振りに、割と本気でキレている。落し物を命がけで探してください、と頼むよりも、困っている女の子を助けてください、の方がこいつには効くことをフェレットが知らない所為で地雷を踏み抜いた。
フェレット
ある意味では被害者であり、ある意味では全ての原因。ぶっちゃけ要らない正義感を働かさないで、素直に管理局の到着を待てよ。とか思った人はたぶん作者だけじゃないはず。
高町
原作主人公。色々あった所為で正義感の塊みたいな性格。その為、考え方が微妙に違う主人公とは少しばかり相性が悪い。
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