魔法少女リリカルなのはBlack The MOVIE 1st 作:黒崎ハルナ
翌日の午後は晴れていた。
今朝のニュースで見た天気予報では、午後に雨が降る予定はないらしい。これから行く場所的に天候はあまり関係ないのだが、やはり雨が降っているよりは晴れている方がいいだろう。
いつもよりも早い下校時刻。俺は水着が入ったバッグを肩に引っ掛けて、校門前へと向かっていた。
月に一度あるかないかの回数だが、俺が通っている聖祥大学付属小学校は午前中で授業が終わる日がある。そういう日はクラスメイトの樋口と出掛けてるか、家でゴロゴロしながら映画を観ているかの二択なのだが、今日は少し違う。
「ったく、樋口のやつ……」
ボヤきながら歩く速度を上げる。
放課後に温水プールに行くと、樋口にうっかり教えてしまったのがいけなかった。俺も行くと駄々をこねた樋口は、どうにかしてついて来ようとしたのだ。当然のように俺はそれを拒否した。
月村家に興味津々な樋口を連れて行けば、それだけで俺の気が休まらないことが確定する。そんなことは絶対に阻止するべきだ。なんなら足の骨でもへし折って、物理的に行かせない方法も考えた。
だが、いくら俺でも友人の足をへし折るのは心苦しい。
最終的に樋口の分のチケットが無いから無理だと説得し、それで漸く樋口は引き下がったのだが、そのせいで予定時間ギリギリになってしまった。
「あ、コクトーくん!」
ようやく待ち合わせ場所の校門前にたどり着いた俺に、元気よく手を振ってくる少女がいた。月村忍の妹で、三年の月村すずかだ。
すずかは姉と同じ紫色の髪を揺らしながら、こっちこっち、と跳ねるような仕草をしていた。よく見れば、まるで忠犬みたいに表情を綻ばせている。一瞬、彼女に尻尾が生えたのかと錯覚したほどだ。
「よう」
片手を上げてぶっきらぼうに言うと、すずかは本気で嬉しそうに笑い、
「久しぶりだね。お姉ちゃんからコクトーくんも来るって聞いて、びっくりしちゃった」
行くつもりは微塵もなかったけどな、と俺は小声で呟いた。
それにしても、どうしてここまで懐かれたのだろうか。
今でこそ疎遠になりがちな関係だが、少し前までのすずかは事あるごとに俺の後ろを金魚のフンみたいに着いてくるようなやつだった。しかも、そこまで彼女に懐かれるようになった理由が全くと言っていいくらいに思い出せないときてる。
正直に言えば、年下の女の子に懐かれ、頼られることは嫌ではない。
嫌ではないのだが、実際に四六時中引っ付かれたり、事あるごとに呼び出されて、単純に喜べるほどお気楽な性格でもない。なにせすずかはあの月村忍の妹で、姉と同じで夜の一族なのだ。あまり深入りする関係ではないことも、薄々だがわかっている。
すずか以外の面々も、既に全員集合していた。すずかと同じ聖祥大学付属の制服を着て、プールバックを大事そうに抱えている女子生徒二人と、紺色を基準としたメイド服を着た二人。
すずかを含む女子五人に対して、男子が俺一人だけ。明らかにアンバランスだった。
「お久しぶりです、リクト様」
メイドの一人が無表情なままそう言って、深々と頭を下げた。その畏まった話し方と仕草に背中が痒くなった俺は苦笑して、
「ノエル。前にも言ったが、小学生のガキ相手に様呼びはやめてくれ」
「……では、以前のようにリクトお坊ちゃまと?」
「頼むからやめてくれ、いやほんとに」
外でそんな風に呼ばれているところを知り合いに目撃されたら、恥ずかしさから不登校になる自信がある。
そんな俺の悩みを察してないのか、メイドことノエル・K・エーアリヒカイトは真剣な表情で考え込んでいた。おそらくは、月村家のメイド長を務めているプライドから、適切な対応を模索しているのだろう。やがて名案を思いついたとばかりに、
「でしたら、若様はどうでしょうか?」
「……俺は月村家の子になった覚えがないんだが」
「いずれはそうなるのでは?」
ノエルは俺の隣にいるすずかを見て、そんな冗談を言った。唐突に話を振られて、しかもやたらと洒落にならない内容に、すずかは困ったように顔を赤く染める。あの、とか、いやでも、とわけがわからない単語を口にするすずかの姿を見た俺は、疲れたようにため息を吐いた。
真顔で笑えないギャグを飛ばさないでほしい。ただでさえノエルは表情の変化が乏しいのだ。変な誤解が生まれたら、すずかも困ってしまうというのに。
「ファリン、なんとかしろよ。アレ、一応はおまえの姉だろ?」
「あはは……」
ノエルの妹のファリン・K・エーアリヒカイトに助けを求めてみるが、彼女は愛想笑いを浮かべているだけだった。こうなった姉を止めることは不可能です、と目が語っている。
それでいいのか、専属メイド。
月村すずかのお世話係がこんな態度なのだから、もしかしなくてもノエルの冗談には、若干のマジが入っているのかもしれない。
「まあ、いいか」
「言質を取りましたよ。お嬢様」
「そういう意味じゃねェよ」
それにしても、さっきから視線が気になって仕方ない。
後ろにいるすずかの友人らしい二人と俺は初対面の筈だ。話を逸らす為にも、俺は後ろを振り返った。そして、
「──はっ!?」
ぶは、と思いっきり吹き出してむせた。思考が本気で固まった。
信じられないことが目の前で起きている。
女の子が二人。それはいい。
片や金髪に翡翠色の瞳という組み合わせ、片や茶髪に黒の瞳。それもいい。
彼女たちはまだ幼いながらも顔立ちが非常に整っていて、非常に将来が期待できそうな容姿をしていた。しかし、今はそのことが重要ではない。
そのうちの一人を、俺はよく知っている。
忘れもしない。つい先日、厄介な非日常に巻き込んでくれた女。魔導師見習いの女だ。
「おまっ……」
反射的に身体が反応していた。俺は間抜けな表情で大口を開けて、茶髪の女の子──高町なのはを指差していた。
「えっ……」
高町もこちらに気づいたらしく、大口を開けていた。どうやらここに俺がいたことは、こいつにとっても予想外の出来事だったらしい。
二人仲良く大口を開けて、お互いを指差し合う構図は、側から見なくても間抜けな光景だろう。
「どうかしたの?」
不思議そうに首を傾げて、すずかが聞いてきた。
俺は返答に困った。面倒なことになったなあと、心底思う。魔導師の知り合い、などと説明できるわけがない。
「もしかして、なのはちゃんのこと知ってるの」
すずかが俺を見上げながら聞いてくる。どうしたものか、と俺は言葉を詰まらせる。どう考えても共通点が見えない俺と高町の関係を、他人に上手く説明できる方法が見つからなかった。下手なことを話して、自分の正体がバレるのだけは避けたい。
「あー……前に俺が彼女の落し物を拾ってやったことがあってな」
嘘は言っていない。ただ、本当のことを話していないだけだ。
「落し物?」
ちらり、とすずかは高町に視線を向けた。高町はブンブンと首を縦に振っている。この馬鹿、と俺は内心で高町のことを罵った。少しは演技をしろ。どう見てもわざとらしい。
「ふーん」
案の定、納得がいってなさそうな表情のすずか。だが、根が純情な彼女はそれ以上の追求はしてこなかった。
「それじゃあ、そろそろ出発しましょうか。お互い挨拶は車の中で、ということで」
パンッ、と手を叩いて、ファリンが気持ちの良い笑顔でそう言った。
続いて、手慣れた手つきでノエルが後ろに停めてある車のドアを開ける。その車を見て、俺は目眩がした。
ただの車ではない。黒塗りの高級車。それも、日常生活ではまず見ないであろう高級車の代表格として名高いリムジンである。
近場の温水プールに遊びに行くだけなのに、どうしてこんな車を用意したのやら。小学校の校門前に黒塗りのリムジン。アンバランス過ぎて笑えない。
今だって、通り過ぎていく生徒の何人かがひそひそと話す声が聞こえてくる。
「コクトーくん?」
固まっている俺を心配してか、すずかが近寄って来る。
高町ともう一人のすずかの友人は、気後れすることもなくリムジンに乗り込んでいた。もしかして、高町はいいところのお嬢様なのだろうか。
「すまん、なんでもない」
「そっか、よかった」
にこりと笑うすずかと、頬を引きつらせる俺。
出発する前に言うのもアレだが、早くも家に帰りたくなった。
Q 更新が遅れた理由は?
A FGOのぐだぐだとルルハワやってたから。
そんな感じで、一息ついたので更新を再会します。待っていた皆さん、本当にすいませんでした。
登場人物紹介
ノエル・K・エーアリヒカイト
月村家のメイド長。普段は月村忍のお世話係もしてるらしい。
ちなみに正体は高性能ロボットで、必殺技はロケットパンチ。
ファリン・K・エーアリヒカイト
ノエルの妹。十五歳のJKで、こっちは生身の人間。捏造設定でノエルの義理の妹。ちなみにすずかのお世話係担当。
月村すずか
月村家のカースト最強ポジション。夜の一族の超人的な身体能力を引き継いでいる。こちらも捏造設定で、彼女の白いヘアバンドは小さい時にコクトーがプレゼントしたもの、という裏設定がある。尚、ヒロインポジションではない。
金髪の女の子
すずかの友人その二。くぎゅうな人。自己紹介シーンが丸々なのはとすずかによってカットされた。カナヅチ。
高町なのは
すずかの友人。知り合いが来るとは聞いていたが、それがコクトーだとは知らなかった為、かなり驚いている。