織斑一夏は理解できない   作:五番目

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織斑一夏の見た夢

俺は今、夢を見ているのだと気付いた。

 

かつての幸せだった頃の光景だ。

 

千冬姉と手を繋いで歩いている。

 

どこかの商店街を買い物のついでに立ち寄ったのだろうか。

 

あの頃の、千冬姉と一緒にいた頃の光景はひどく鮮やかだった。

 

今のように、何もかもが血と肉で表現出来てしまうような、単純な世界になる前は毎日が輝いていた。

 

楽しかったんだ。

 

千冬姉と一緒にいたあの頃のが幸せだった。

 

でも、千冬姉はいなくなり、俺は一人で生きていくようになった。

 

千冬姉を探そうとしたけど、いつしか諦めてしまった。

 

生きてる訳けない。

 

こんな世界になっているんだから、人間なんて俺以外は絶滅したと思った。

 

だから、なんとなくで生きてきた。

 

死にたくないから、自殺する勇気は持てないし、血と肉しかないから毎日が退屈だった。

 

暇潰しにあいつらを観察してたけど、何を言ってるのか理解できないからボーッと眺めている事に変わっていった。

 

そして、あいつらを食べた時は喜びの感情が湧いた。

 

とても美味しいんだ。

 

余すことなく血の一滴だって勿体ないと思うほどに、魅力的に見えていた。

 

そう考えながら、千冬姉と手を繋いで歩いていると千冬姉が笑った気がした。

 

頭を上げて千冬姉の顔を見ると確かに笑っていた。

 

何か良いことでもあったのだろうか。

 

俺の目の前には柔らかく、女性的で、包容力のある笑顔を浮かべた千冬姉が立っている。

 

それを見て、俺もなんだか嬉しくなって笑っていた。

 

二人して笑顔を浮かべながら歩くと家に着いた。

 

思い出のままの形で綺麗に、そこにあった。

 

俺は玄関を開けた。

 

そこにはいつも通りの俺と千冬姉の家が広がっていた。

 

しばらく、見ていると千冬姉が言った。

 

早く入れ、冷蔵庫にプリンがあるからおやつにしよう、と。

 

俺はまた嬉しくなって、うん、と頷いて家の中に入った。

 

千冬姉と一緒にプリンを食べた。

 

久し振りに食べるプリンは美味しくて、すぐに食べ終えてしまった。

 

千冬姉はまだ食べていた。

 

千冬姉と一緒に居るのが久し振りだから、食べている千冬姉の姿をじっと見ていた。

 

千冬姉は俺の視線に気付いた。

 

千冬姉は笑って食べるかと聞いてきた。

 

俺はまた嬉しくなって、うん、と頷いた。

 

夕御飯の準備をして、一緒にご飯を食べた。

 

美味しいと笑顔で言ってくれた千冬姉に、俺も笑顔を浮かべながら、ありがとう、と返事をした。

 

洗い物を済ませたら千冬姉から、明日は運動会だから早く寝ろ、と言ってきた。

 

え、と俺が返事をすると千冬姉は、明日は私も行くから準備は早い方がいいだろう、と。

 

うん、と頷いた。

 

俺の顔は笑顔だった。

 

翌朝、目が覚めると千冬姉が居なかった。

 

どこにも居なくて外に出てみた。

 

そこは真っ白な世界に包まれていた。

 

空の青さもなくコンクリートもない真っ白な世界。

 

後ろを振り向くと何もなかった。

 

千冬姉、と呼んでも誰も返事はしない。

 

そこで俺の肩を叩いた誰かがいた

 

誰だろうと振り返ろうとして、そこにいたのは―――。




次は久し振りの千冬視点です。

楯無や簪は本編中には書きません。

読みたいという人が居れば完結後書こうと思います。

あのキャラの視点、話を読みたいといった要望は可能な限り書きます。

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