俺は今、夢を見ているのだと気付いた。
かつての幸せだった頃の光景だ。
千冬姉と手を繋いで歩いている。
どこかの商店街を買い物のついでに立ち寄ったのだろうか。
あの頃の、千冬姉と一緒にいた頃の光景はひどく鮮やかだった。
今のように、何もかもが血と肉で表現出来てしまうような、単純な世界になる前は毎日が輝いていた。
楽しかったんだ。
千冬姉と一緒にいたあの頃のが幸せだった。
でも、千冬姉はいなくなり、俺は一人で生きていくようになった。
千冬姉を探そうとしたけど、いつしか諦めてしまった。
生きてる訳けない。
こんな世界になっているんだから、人間なんて俺以外は絶滅したと思った。
だから、なんとなくで生きてきた。
死にたくないから、自殺する勇気は持てないし、血と肉しかないから毎日が退屈だった。
暇潰しにあいつらを観察してたけど、何を言ってるのか理解できないからボーッと眺めている事に変わっていった。
そして、あいつらを食べた時は喜びの感情が湧いた。
とても美味しいんだ。
余すことなく血の一滴だって勿体ないと思うほどに、魅力的に見えていた。
そう考えながら、千冬姉と手を繋いで歩いていると千冬姉が笑った気がした。
頭を上げて千冬姉の顔を見ると確かに笑っていた。
何か良いことでもあったのだろうか。
俺の目の前には柔らかく、女性的で、包容力のある笑顔を浮かべた千冬姉が立っている。
それを見て、俺もなんだか嬉しくなって笑っていた。
二人して笑顔を浮かべながら歩くと家に着いた。
思い出のままの形で綺麗に、そこにあった。
俺は玄関を開けた。
そこにはいつも通りの俺と千冬姉の家が広がっていた。
しばらく、見ていると千冬姉が言った。
早く入れ、冷蔵庫にプリンがあるからおやつにしよう、と。
俺はまた嬉しくなって、うん、と頷いて家の中に入った。
千冬姉と一緒にプリンを食べた。
久し振りに食べるプリンは美味しくて、すぐに食べ終えてしまった。
千冬姉はまだ食べていた。
千冬姉と一緒に居るのが久し振りだから、食べている千冬姉の姿をじっと見ていた。
千冬姉は俺の視線に気付いた。
千冬姉は笑って食べるかと聞いてきた。
俺はまた嬉しくなって、うん、と頷いた。
夕御飯の準備をして、一緒にご飯を食べた。
美味しいと笑顔で言ってくれた千冬姉に、俺も笑顔を浮かべながら、ありがとう、と返事をした。
洗い物を済ませたら千冬姉から、明日は運動会だから早く寝ろ、と言ってきた。
え、と俺が返事をすると千冬姉は、明日は私も行くから準備は早い方がいいだろう、と。
うん、と頷いた。
俺の顔は笑顔だった。
翌朝、目が覚めると千冬姉が居なかった。
どこにも居なくて外に出てみた。
そこは真っ白な世界に包まれていた。
空の青さもなくコンクリートもない真っ白な世界。
後ろを振り向くと何もなかった。
千冬姉、と呼んでも誰も返事はしない。
そこで俺の肩を叩いた誰かがいた
誰だろうと振り返ろうとして、そこにいたのは―――。
次は久し振りの千冬視点です。
楯無や簪は本編中には書きません。
読みたいという人が居れば完結後書こうと思います。
あのキャラの視点、話を読みたいといった要望は可能な限り書きます。