躍動感のある文章を書きたい……
「俺は竈門炭治郎です。あなたは何者なんですか?」
少年、炭治郎にそう問われた狩人。
何者か、何者であるかと少し考え込む。
そして自分の名前を思い出せないことに気づく。
何故と思うが、特に問題がある訳でもない。名前など長い夜の中で弔ってしまったのだろう。
「そうだな……私はヴァルトールという。昔ヤーナムという地方で狩人をしていたが、つい先程まではただの旅人だったよ」
故に先代の長の名前を借りる。狩りの夜に蠢く汚物すべてを、根絶やしにする為の協約。
汚物の中に隠れ蠢く、人の淀みの根源をである“虫”を踏み潰し駆逐する為の連盟。
その長の名が、今のこの状況に相応しいだろう。
「“やあなむ”の“ばるとおる”さん……もしかして異人さんですか?」
顔が分からず、流暢な日本語を話しているが故に気づかなかったのか、異邦人であるということに少し驚いたようだ。
そして人は予想だにしない事態に遭遇すると、少し動転してしまうものである。
(異人さんに今の状況をどう説明すればいいんだ? 鬼って言って通じるのか?棍棒は持ってるけど、鬼には通じないんだ)
(大丈夫だ炭治郎! 異人さんでも話は通じている! 俺はできる!)
少し最初の考えとはズレた思考になっている炭治郎であるが、眼の前の人間が会話の通じるとわかって、少し安心した為でもある。
「今この汽車は鬼に襲われていて、とても危険なんです。 鬼っていうのはですね、特別な刀か日光でなければ殺す事ができない化物で……」
持てる知識をすべて動員して、ヴァルトールへと今の状況と、その元凶である鬼、それを殺す為の鬼殺隊についてまで説明する炭治郎。
「ですので、ここは俺たちに任せてここでじっとしていて下さい」
「できれば煉獄さん、伊之助、善逸。この人達を起こしてもらえると助かります」
「禰豆子は俺の妹です。鬼ですが決して人を襲ったりしないので安心して下さい」
「禰豆子もみんなを起こしてくれ。では!」
言うが早いか、客車から飛び出て行く炭治郎。
取り残されたヴァルトールは、取り敢えず言われた通りに、炭治郎の仲間三人を起こす手段を探すことにする。
先程の騒ぎでさえ起きなかったのだ。並大抵の事では起きるはずもなく、何らかの手順を踏む必要があるだろう。
「……ふむ、そこの男。 貴公は何か知らないだろうか?」
一つ一つ探していく時間は無いだろう。 既に襲撃を受けている最中なのだ。いつ何が起こるかはわからない。
だから、情報を知っていそうな存在へと問いかけた。
そう、襲撃犯の一人。先程から目に涙をたたえる青年である。
「すみません。 私はそういった事は何も知らされていないんです」
非常に申し訳なさそうに、返答する青年。
だが、何か思い当たるフシはあるのか。続けて言葉を紡ぐ。
「ですが私達は、鬼が作った縄を使って眠りに入りました。 そして他の人は、綱が燃えて切れたから目覚めた、んだと思います」
「私は彼が自力で目覚めたから引っ張り起こされただけなので……」
自信が無いようで、言葉に力は無い。だが、嘘偽りを言っている様子もない。
先の襲撃に加わらなかった事といい、襲撃犯の一人としては疑問も残る。
何か改心するようなことでもあったのだろうか?
「……たぶん眠りに入った原因。 切符をどうにかすれば、目が覚めるんだと思います」
そう、言葉を締めくくる。非常に有益な情報だ。
夢の原因となったあの切符。ヴァルトールがあの時感じた奇妙ななにかが、鬼の気配と言う物だったのだろう。
「ふむ。 ならばまずは切符を探す」
いそいそと、三人の体を弄り切符を探し出すヴァルトール。
術の発動条件に、切符を切って“鋏痕”をつける。ということがあるせいか、上着のポケットの中などわかりやすい所にしまわれていた為、簡単に見つけられた。
それをすぐに破り捨て、三人に声をかけてみる。しかし未だ起きる気配はない、破り捨てるだけでは駄目なようだ
「であれば燃やす、というのが正解か? さて、ヤスリは今持っていたか?」
青年の、綱が燃えて切れたから目覚めた。という言葉をヒントに切符の残骸を燃やすことにする。
その為に『発火ヤスリ』という、手にした武器に炎を纏わせることのできる、特殊なヤスリを持っていたかと探していると。
「……うー!!」
猿轡を噛まさた少女。禰豆子が手から血を滴らせて、切符に血を付けた。
すると血が爆ぜるように燃え始め、切符を焼き尽くす。
(ほう、まるで時計塔のマリアのようだな)
血と炎という組み合わせに既視感を覚え、炭治郎の妹であり鬼であるという禰豆子を改めて見る。
獣のように人を襲う様子は無く、虫がいる様子もない。
炭治郎が人を襲わないと言い切るのも理解できる、安全な存在のように感じられる。
禰豆子に意識を向けていたヴァルトールの視野の端で煉獄が覚醒する。
「どうやら鬼の術中に落ちてしまっていたようだな!柱として不甲斐なし!穴があったら入りたいとはこのことだ!」
「そこの桶頭! 状況を教えてくれないか!」
目覚め一番、溌剌とした調子で話し始める煉獄。
目立つ被り物をするヴァルトールが、今この状況において一番情報を持っていると判断したようだ。
その声につられて、伊之助、善逸も目を覚ます。いや、善逸は動いてはいるが未だ意識は無いようだ。
「なんだぁ!? なんでそんな変なもん被ってやがる!!」
やはりこの鉄兜は誰の目から見ても奇異に映るのか。
猪頭の伊之助にさえ、突っ込みを入れられてしまう。
閑話休題
ひとまず、炭治郎の仲間たちは一人を除き目覚めた。
除いた一人も戦力にはなるらしい為、鬼殺隊は戦力を完全に取り戻した事になる。
「皆起きたということにしておこうか。私はヴァルトール。貴公らに状況を説明させていただこう」
「簡単に言えば、鬼の術を破った炭治郎が単身で鬼を殺しに行った所だ」
「私は貴公らを起こすように頼まれてね。 四苦八苦してなんとか目覚めさせることに成功したというわけだ」
必要であろうことを簡単に伝える。
「いや、めっちゃ怪しいんだよお前!! なんっつーか、鬼じゃねぇけど気色悪い!! すげぇベタつく感じがする!」
伊之助は警戒心を隠すこと無くヴァルトールに食ってかかる。
「なるほど! 助かった! だがしかしあとは俺たちに任せてほしい! ここからは鬼殺隊の仕事だ!!」
「今は鬼を殺すのが先だ!! 竈門少年のあとに続くぞ!」
だがしかし、煉獄の鶴の一声により伊之助はそれ以上ヴァルトールに詰め寄れない。
行動方針も定まり、動き出そうとしたちょうどその時。
車両のいたる所から肉塊が現れ、膨張をし始める。
それは意志を持つがごとく、寝ている人に纏わりつこうとするが、それを許す煉獄たちでは無い。
即座に日輪刀を抜き放ち肉塊を切り捨て、ヴァルトールもまた、鎚鉾で肉塊を殴り潰す。
しかし、肉塊はそれで終わりでは無いようで、潰しても切り飛ばしてもなお湧き出てくる。
いや、もはや肉が車両の形を成しているようだ。 切り飛ばした椅子の断面がすでに肉塊のそれになっている。
「……ろ! みんな! 起きてくれー!! 禰豆子ー! 寝てる人を守るんだ!」
一瞬後、炭治郎の声が外から聞こえてくる。
声の位置から、どうやら屋根の上に居るようだ。
「ウンガアアァァァァアアアアア!!!!」
その声に答えるように、雄叫びを上げ、天井を突き破り上に飛び出る伊之助。
「勘九郎!! みんなもう起きてるぜ!」
どうやら、皆が既に覚醒していることを伝える為だったようだ。
「伊之助!! この汽車全体が鬼になってる! 安全な所が無いんだ!」
伊之助の姿を見つけた勘九郎、ではなく炭治郎は即座に現状を伝える。
「なるほどな! さっきの肉はそういうことだったのか!!」
「任せろ!親分である俺が全員助けてやるぜ!!」
《獣の呼吸》
《伍の牙・狂い裂き!!!》
天井を切り裂き、車両の中に飛び込む伊之助。
炭治郎もまた、別の車両の天井を破り車内へと戻る。
煉獄もまた、炭治郎の声を聞いた瞬間に行動を始めていた。
今いる車両をズタズタに、原型が分からない程にまでに切り裂く。
「よし! これならば鬼も再生に時間がかかるだろう!!」
狭い車両の中で、鬼となった車両のみを、瞬く間に、再生が間に合わないほどにまで切り刻むその腕。
人間離れしたそれは、柱と呼ばれる鬼殺隊の最高位に相応しいものである。
「ヴァルトールさん! その棍棒といい、先の動きといい、腕に覚えがある様子! すまないが自分の身は自分で守って頂きたい!」
「黄色い少年と竈門少女はこの車両から先三両を守れ! 俺は後ろ五両を守りつつ、猪頭少年と竈門少年に指示を出しに行く!」
一時的に安全になった車内で煉獄は素早く指示を出す。
未だ意識が眠っている善逸と、何処か幼子のようなたどたどしさがある禰豆子ではあるが、確かに指示を理解したらしい。
それを確認した煉獄は、落雷のような腹の底に響く轟音を立てて、その場よりかき消える。
(凄まじいな。まるで巨大な獣……いや上位者にも迫るほどの身体能力ではないか?)
(……伊之助、だったか。一跳びで屋根まで上がった少年と言い、鬼殺隊とはこのような者たちの巣窟なのだろうか)
鬼殺の剣士の身体能力を目の当たりにして、驚きの感情を覚えるヴァルトール。
ここまでの動きをするには、彼らに伝わる特殊な呼吸法。
それを極めた者だけが到れる極地であり、鬼殺隊の中でも一握りの存在なのだが、流石にそれを知るすべは今は無い。
「さて、ああは言われたが……身を守るだけでは面白く無いだろう? 私も少々協力させて貰おうか」
誰が聞いているという訳でもないのに、ヴァルトールはそう言い、移動を始める。
何ら迷いなく後方車両へと足を向ける。一人で五両を守ると豪語した煉獄の動きを見たい、という考えからである。
次の車両の中もかなり細かく刻まれており、肉塊が再生を続けるに留まっている。
その速度はかなりゆっくりであり、煉獄が相当の損傷を与えたということが伝わってくる。
その煉獄の姿は既に無く、既に後ろの車両へと向かった後らしい。
(することが残っていないな。 これでは先頭車両へと向かったほうが良かったか?)
そう思いつつも、煉獄を追い歩みを進めるヴァルトール。
その視野の後ろで、鎌首をもたげるように肉塊が肥大化する。
どうやら全体の再生速度が遅かったのは、一箇所の修復を優先した為でもあったらしい。
肉塊がヴァルトールへと音もなく迫る。
胴体を貫かんとする速さと鋭さを持ったそれは、正に致命の一撃となり得るだろう。
どうやら先んじて、動き回る邪魔者を排除する算段のようだ。
しかし、それは空を貫くに過ぎなかった。
紙一重でさえも厚いと感じられる程の距離まで迫った時、ヴァルトールが後ろへと飛び退く事で躱したのだ。
そう、後ろへである。 本来であればそのような方向へ跳んだとしても回避することなどできない筈なのだ。
だが、どのような不可思議な仕組みが働いたのだろうか? 実際にヴァルトールは無傷であり既に武器を大きく振りかぶっていた。
先程までただの鎚鉾でしかなかったソレは今、背負っていた物と組み合わさり、回転ノコギリの名に恥じない様相を呈している。
辺縁にノコギリの歯を配した円盤を、複数に重ねたソレは、機構によって高速で回転するのだ。
金属同士が擦れ合い、甲高い音と火花を撒き散らすソレが肉塊に叩きつけられる。
ヴァルトールの膂力と合わさり、壊滅的な威力を孕んだノコ刃部分が、その役割を正しく果たす。
ただの一撃で大きくひしゃげ、大部分を細切れに削り取られた肉塊は、もはや力なく萎び、崩れ落ちた。
「やはりこの程度か。 何とも面白くない」
鬼殺隊の下位の者であれば、気づくことさえ許されずに殺されていた一撃だった。
中位の者でさえ、一撃で斬り伏せるのは難しい大きさだった。
であるにも関わらず、何ら感慨を覚える事は無い。
しばらく入念に車内を見渡し、これ以上の再生は無いと判断して、次の車両へと進む。
中に入りしばらくすると、また轟音が響く。煉獄が移動する音だ。
どうやら最後尾までの刻み終わり、炭治郎の居る前方車両へ向かっているようだ。
ヴァルトールは、弾丸のような煉獄の邪魔にならぬよう跳び、道を開ける。
すれ違う際その姿をよく観察するが、傷一つどころか、汗の一滴さえ流していない。
煉獄にとっても驚異足り得ぬ状況らしい。
(流石に私はあそこまで速く駆けられぬからな。乗客を守り切る事などできんだろう)
(尤も、彼らが居なければ守ろうとさえ思わんだろうがな)
狩人であるヴァルトールと、鬼殺隊である彼らとの考えの大きな相違点だろう。
確かに、どちらも人を襲うモノを殺し、夜の驚異を排除する事を目的としている。
だが、狩人は究極的には狩りの成就、“獣狩の夜”を終わらせる事が重要なのである。
人は助けられたら助ける。ぐらいのものであり、事実終わらぬ夜の中で発狂し、息絶えていく人をいくらでも見た。
人を守る為に戦う鬼殺隊とは根本的に違うのだ。
閑話休題
炭治郎及び伊之助に指示を出し終えたのだろう、煉獄が戻ってくる。
「ヴァルトールさん! 先の車両見させてもらった! 協力して頂き感謝する!!」
その一言を言うとまた移動。 何とも忙しないものだが、状況が状況故に致し方ない。
肉塊の方はどうやら不意打ちは無意味と悟ったのか。
修復・膨張をできる限り早く、同時に複数箇所で行い、こちらの限界を越えようとしており、その速度は最初に煉獄が刻んだ時よりも確実に早くなっているのだから。
「しかし煉獄殿」
「何故彼らに」
「任せた?」
「貴公が赴けば」
「とっくに終わって」
「いるだろうに」
往復する煉獄の邪魔にならないように、自分の疑問を投げかけるヴァルトール。
その間も肉塊を削り、潰し、乗客に被害が出ないようにしている。
何とも単調な作業な為、話しでもしたい気持ちになったのだろう。
「確かに!」
「だがこれは!」
「彼ら! 特に!」
「竈門少年が!」
「やらねばならないし!」
「できねばならない!」
煉獄も答えはするが、流石にこの会話は少々煩わしいのだろう。
「詳しい理由は後ほど!!」と言うと、防衛に専念する。
そうして暫くの間、際限なく湧き続ける肉塊潰しをし続ける。
途中目玉が生えたりもしたが、煉獄にとっても、ヴァルトールにとっても驚異足り得るものでは無かった。
そんないたちごっこも、ついに終わりを迎えた。
汽車全体が大きくのたうち回り、そこかしこから肉塊が膨れ上がる。
首が刎ねられた鬼の、耳をつんざく断末魔が届く。
(最後の足掻き、という訳でも無い。 制御を失ったか)
(このままでは横転するな。 さて、どうしたものか)
ヴァルトールはもはや宙を舞って居る車両の中で他人事のように考える。
このまま地面に叩きつけられたとしても、肉塊が衝撃を吸収し、致命傷になることは無いとわかっている為だ。
その視界の端に、少しでも落下の衝撃を和らげる為に奮迅する煉獄の姿が映る。
(あれが鬼殺隊の持つ技か)
振るう刀身に炎の揺らめきを幻視するほどの技の冴え。
ただの日本刀で客車を押し戻すほどの膂力。
ただ純粋な修練だけで、これほどの強さを得られるという確かな証明。
それを人を救う為に、ひたすらに積み重ねてきた“淀み”なき人間。
(これは良いものを見られたな)
それを知ることができたヴァルトールは、そのまま地面へと落下する。
肉塊が衝撃を和らげたとはいえ、少なからず怪我をしたはずではある。
しかしそれを感じさせない軽やかさで立ち上がると、何かを探し始める。
程なく、目的のものを見つけることができた。
倒れた炭治郎の側にあったソレは、崩れ逝く鬼の頭だろうか。
《下壱》と刻まれた目が付いた肉塊である。
鬼の中に、確かに“虫”を見出したのだろう。
容赦無くそれを踏み潰す。
(それに比べて、何とも淀んだものだ)
執拗に踏みにじった後、そばに倒れる炭治郎に意識を回す。
どうやら腹を刺されたようだ。
致命傷とは言えないが、止血しなければいずれ失血死するだろう。
そう考えたヴァルトールは、懐から、細やかな装飾の施されたハンドベルを取り出す。
使用者が味方と認識した者に生きる力と、治癒の効果を及ぼす音色を響かせようと高く掲げるが。
「何をするかはわからんが、手助けは不要!!」
煉獄が止めに入る。
「竈門少年! 全集中の常中ができるようだな! 関心関心!!」
そのまま、炭治郎へと話しかけると何やら教えを施し始める。
どうやら、彼らの行う呼吸法を応用する事により、簡易的な止血ができるらしい
それを実際にやらせて感覚を掴ませる為に、ヴァルトールを止めたようだ。
「何とも騒がしい夜だったが……じきに日も昇る」
負傷者多数ではあるが、死者は無し。 あれ程の規模の襲撃から見れば素晴らしい成果と言えよう。
であれば、もはや何も憂う事は無く。 ヴァルトールは先の事を考えることにする。
「さて、夜が明けたらどうしたものかな?」
なんとか無限夢列車を越えることができました。
5000時前後目標だったんですけどねぇ……
文章の稚拙さは如何ともし難く、書いてるうちに上達できることを祈ります。