鬼滅の刃とBloodborne   作:がるがんてぃ

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【夢列車の切符】

 魘夢による夢へと誘う血鬼術が仕組まれた切符。
 これを強く思い眠ることにより、狩人の夢へと辿り着く事が可能である。

 切符はただの道標に過ぎず、見せられた夢は本人の作り出したまやかしに過ぎない。
 だがしかし狩人の夢は本人に依るものでは無く、故に狩人の夢が実在することの証左に他ならない。


上弦の鬼との戦い

「さて、夜が明けたらどうしたものかな?」

 

 その言葉を待っていたかのように、煉獄の踏み込みよりも大きな音が響き渡る。

 突然のことではあるが、即座に音の発生元を確認すれば。

 衝撃によりもうもうと土煙が上がる中心に、人の姿がある。

 全身に施された紋様に似た入れ墨とが特徴的な男は、瞳に《上弦》《参》と刻まれている。

 

 上弦の鬼は間髪を入れず、未だ動くことの出来ぬ炭治郎へと襲いかかる。

 

《炎の呼吸》

《弐ノ型・昇り炎天》

 

 炭治郎の頭を潰さんとする鬼の拳を、真下から斬り上げる事によって防ぐ煉獄。

 拳から、肘の辺りまでを裂かれた鬼は、後ろに二・三跳び距離を離した。

 一瞬にも満たぬ攻防。 その小休止の隙を突くようにヴァルトールは動く。

 

(速い!)

 

 炭治郎が驚嘆する、それほどまでの速さ。

 鬼に迫るほどの速度で大きく飛び込み、火花を散らすノコ刃を叩きつける。

 並大抵の鬼であれば為す術もなく叩き伏せられ、血肉を撒き散らす事になる一撃のはずであったのだが。

 流石は上弦を冠しているだけの事はある。 切られた腕を盾にして防ぐ。

 

《炎の呼吸》

《壱ノ型・不知火》 

 

 押し切らんとするヴァルトールと、振り払おうとする鬼。

 その一瞬の膠着を縫うように煉獄が刃を振るう。

 純粋な踏み込みからの袈裟斬り一閃ではあるが、それゆえに速く、鋭い。

 

「話さえさせてもらえないとはな!」

 

 それらの攻撃に対して、流石に不利を悟ったのか。

 鬼は大きく飛び上がり、仕切り直しを図る鬼。

 

《破壊殺》

《空式》

 

 空中で虚空を殴ったかと思えば、その衝撃が違わず煉獄達に襲いかかる。

 

《炎の呼吸》

《肆ノ型・盛炎のうねり》

 

 煉獄はその一つ一つを、渦のような太刀筋で切り払い、撃ち落とす。

 ヴァルトールは、飛び退き、隙間を縫うように移動をすることで回避試みるが、流石に数発貰ってしまう。

 

「ぐっ」

 

 足を止めたヴァルトールに対し、さらなる追撃が重なる。

 遠当てとはいえ、鬼の膂力の乱打には流石に耐えきれず、その場に倒れるヴァルトール。

 こうなると、不利になるのは煉獄だ。

 遠間から攻撃できるとなれば、煉獄は打つ手が少ない。

 

(ならば近づくまで!)

 

 着地の一瞬を狙い、また距離を詰める煉獄。

 そのまま至近距離での剣戟へと持ち込む算段だ。

 

「そっちのノコギリ野郎と違って、お前は素晴らしい!」

 

 幾重にも打ち合わされる、拳と刃。 

 互角に思えるその競合いだが、煉獄は決死であり、鬼には余裕が見える。

 無尽蔵の体力を持つ鬼に、夜明けまで粘れるはずもなく、致命傷以外はまたたく間に治癒してしまう。

 煉獄にできる勝ち筋は、乾坤一擲の大技を繰り出して、早期に決着を着けるしか無い。

 しかしそれは成功してようやく、凌がれた時点で負けが確定する、危険な賭けである。

 それでも、賭けに挑むしか無い。

 

 ……ヴァルトールが居なければ。

 

 打ちのめされ、倒れ伏して居たはずであるのに。

 まるで無傷のように飛び起きるヴァルトール。

 そう。死んでさえ居なければ、狩人はいくらでも戦えるのだ。

 

(死んでしまえば、流石にそれで終わりだろう。 獣狩の夜はもう明けたのだから)

 

 太ももから輸血液を体内に流し込み、体力の回復を行う。

 その様子を見ていた炭治郎が、傷の癒える様を見て驚愕をしたのはまた別のお話。

 

「いくら削っても意味がないとは。厄介なものだな」

 

 ヴァルトールの目には、何が見えているか。 

 ノコギリの一撃が、煉獄の猛攻が、鬼の命が全くと行ってよいほど削れていないという事が、視覚的に分かっているようだ。

 そんなヴァルトールの手に、先程まで振るっていた回転ノコギリは影も形もない。

 如何な奇術を使ったのか、大振りな西洋剣がその手中にあった。

 

「ならば、これならばどうだ?」

 

 その言葉とともに、西洋剣が耳慣れぬ奇怪な高音を響かせ、燐光を纏う。

 元の幅の数倍の刀身を成形した輝きは、青き月光を思わせる。

 始まりの狩人が導きと信じた聖剣。

 その内に宿す宇宙の深淵は、正に神秘であり、世の理を大きく歪める。

 これならばあるいは、鬼にも癒えぬ爪痕を刻めるだろうか。

 

 遥か宇宙の神秘を湛えた月光。

 それを掲げたヴァルトールは鬼へと飛びかかると、煉獄は示し合わせたように身をひねり、ヴァルトールと入れ替わる。

 鬼はその一撃を無視して、隙を見せた煉獄へと追撃しようとするが。

 

(なんだ!? この異様な感覚は!?)

 

 それは鬼になって久しく感じることのなかった恐怖心である。

 生命としての本能が、あれは危険だ。と警鐘を鳴らしているのだ。

 死なぬゆえに鈍麻になった危機感が、ようやくそれに気づいた時には、月光は既に目前であった。

 

(何かがまずい!!)

 

 紙一重のところで飛び退き、回避を試みる。

 その跳躍で刃の圏外へと、辛くも逃れた筈で有るのに。

 切っ先が届いていないのに、鬼の身体は見事に切り裂かれた。

 これこそがこの聖剣の秘めたる神秘の一端。

 月光が暗い光波を刃として迸らせたのだ。

 

「ぐあああああああぁぁっ!!!??????」

 

 大きく吹き飛ばされる鬼。だがその勢いを利用し、距離を離して再び仕切り直す。

 傷も見る見る内に癒えて行くが、その速度は先程までよりは遅い。

 確かに月光の一撃は、鬼の生命力を大きく削ったようだ。

 

「鶴瓶頭……貴様一体何者だ!?」

 

 顔に筋が浮き出るほどの怒気と焦燥を隠さぬままに、鬼は問う。

 傷は未だ治りきらず、消耗も激しい。鬼殺隊ですら無い人間にここまでしてやられるとは露程にも思っていなかっただろう。 

 だからこその疑問。 これ程までの強さを持つものの正体、気にならぬほうがおかしい。

 

「ふむ、そうさな。 私はヴァルトール。 ヤーナムという地方で狩人をしていた、しがない旅人だ」 

 

 対してヴァルトールは淡々と答える。

 鉄兜により表情は見えぬが、見えていたとしてもそこから汲み取れる物は皆無であろう。

 

「ばるとおる……いや、ヴァルトールか。 覚えたぞ! 貴様の名前!」

 

 鬼は足を開き腰を落とすと、右手のひらを前に出し、左拳を腰当たりに構える。

 何らかの格闘術の構えなのだろうか。 鬼であるというのに、そのような技を修めているのは珍しい。

 基本的に鬼は血鬼術と身体能力による強さに重きを置く。

 あるいは、そのような技量を高めていったからこそ、上弦にまでなったのだろうか。

 

《術式展開》

《破壊殺・羅針》

 

 雪の結晶のような紋様が鬼の足元に展開される。

 その様相にヴァルトールは特に接近を躊躇う。 足元が炸裂して吹き飛ばされる、などの経験が頭をよぎったからだ。

 煉獄もまた近寄れない。 身震いするほどの鬼気が、先程までの死闘の疲労がそれを許さない。

 煉獄がチラリと炭治郎達の方を見やれば。この凄まじいまでの圧力の中で呼吸を維持するので精一杯のようだ。

 音を聞きつけて戻ってきた伊之助もまた、入り込む隙を見つけられずにいる。

 

 しばしの硬直。 始めに動いたのはヴァルトールだった。

 懐より虫の湧いた、柔らかな人の眼球を取り出したかと思えばそれを擦る。

 見る人が見れば、精霊によって祝福された物らしいその瞳は、その奥に吹き荒れる隕石を一つ放出する。

 

「無駄だ! そんな手品、俺には通用しない!」

 

 高速で迫る神秘の隕石だったが、鬼は先の空式で触れること無く叩き落とす。

 

「ヴァルトール! 貴様はたしかに強いだろう! だがそれは鍛錬によって練られたものでは無い!」

 

 お返しとばかりに、鬼はヴァルトールに高速で迫る。

 それに対し前に飛び、交差するように後ろに回る事で攻撃を回避しようとするが。

 

「だから技量が足りない! 力と異能による戦いしかできない!」

 

 先読みされたのか、移動を知覚されたのか。

 身体にかかる慣性を強引に無視して反転した鬼は、跳んだ先に重ねるように拳を叩き込む。

 

 これはヴァルトールが、これまで戦ってきた獣が弱いという訳では全く無い。

 確かに既に人型を超越した獣、もはや人ですら無いモノ。人を遥かに超えた上位者達との戦いが主だったが、人の姿をした者も十分に狩っている。

 千景の狩人、時計塔のマリアなどの強者さえも撃破しているのだ。

 只々、鬼の戦い方がヴァルトールと相性の悪いモノであっただけである。

 

 吹き飛ばされるヴァルトール。そして鬼に肉薄する煉獄。

 まるで先程の焼き増しのようであったが、そこからの流れはまるで違う。

 

《炎の呼吸》

《伍ノ型・炎虎》

 

《破壊殺》

《乱式》

 

 もはや燃え上がる虎さえも幻視させる、煉獄の袈裟斬りと、機銃の如き速度の鬼の連打。

 その2つがぶつかり会う瞬間、銃声が響き渡る。

 転がり起きたヴァルトールの銃撃である。

 放たれた散弾は鬼の体勢を僅かに崩しただけに留まったが、その僅かな崩れこそが分水嶺となった。

 

「卑怯者がぁ!!」

 

 決して浅くはないものの、上弦との戦いの中では軽症と言い切ってしまえる怪我を負っただけの煉獄。

 対して、なんとか繋ぎ止めたものの、頸に大きな切り込みを入れられた鬼。

 しかも傷の治癒も遅々として進んでいない。急所の回復に充てるだけの力も不足しているのだ。

 既に日の出まで一刻の猶予もなく、鬼の敗北は明白な事実である。

 

「貴様! この卑怯者が!!」

 

 しかし鬼は、そんな事よりも。 後ろから撃たれた、という事実に怒り狂う。

 

「ヴァルトール! お前だけは絶対に殺す!」

 

 しかしそんな怒り狂った獣の相手こそ、ヴァルトールの真骨頂である。

 吹雪のような鬼の猛攻をすり抜けるように跳び、回避して行く。

 

(なるほど。 卑劣な行為を嫌悪しているようだな。 であれば、そこを煽ればより冷静さを失うか?)

 

 回避の最中に鬼の怒りの原因を推察し、冷静な判断をさせぬよう、より激昂させようと考える。

 

「……卑怯とは。心外だな、鬼よ。 貴様らなぞ、人よりも遥かに高い身体能力で、弱者を嬲り殺し、喰らう。 そんな獣の如き下劣さなのだろう?」

「同じステージにすら立たず、一方的な貴様らこそ。 よっぽど卑怯と言うべきではあるまいか」

 

 一度大きく離れ、輸血の時間を稼ぐと共に言葉を投げかける。

 ヴァルトールの放つ言葉の刃。それは正に火に油を注ぐが如くであった。

 自分が卑怯と罵られた事が、そこまで我慢ならなかったのか。 

 鬼はもはや残る力すべてを注ぎ込むかのごとく力を溜める。

 

「俺が卑怯だと!? 鍛錬を続け! 正面から戦い! そして勝利する俺が卑怯だと!?」

 

《術式展開》

 

 力を溜めている僅かな時間。

 ヴァルトールが月光を放つには短すぎ、散弾さえ意に介さない剛体。

 動き始めの僅かな隙に銃弾を叩き込み、大きく体勢を崩させる銃パリィと呼ばれる狩人の技術でもって迎撃を試みるが。

 

「巫山戯るなよ!! 貴様のハラワタ全て引きずり出してやる!」

 

《破壊殺》

《滅式》

 

 音さえも置き去りにする、強力な右拳。

 初動さえ知覚できぬそれは、二発目の散弾が放たれる前に終わってしまう。

 只々殺られる前に殺るという事を突き詰めたその一撃は、宣言通りヴァルトールの腹を貫通した。

 

「ヴァルトールさん!」「ばるとおるさん!?」「桶頭!!」

 

 そのまま腕が引き抜かれ、ヴァルトールは倒れ伏す。

 吹き出る血によって赤く染まった鬼は、大きく息を荒らげている。

 

「ハァーッ! ハァーッ! 思い知ったか! 卑怯者!」

 

 しかし、怒りの原因を排除したことによりだいぶ落ち着いたのか。

 流石にヴァルトールを貪るだけの時間も余裕もないが、返り血を舐めて失われた力の回復を図る。

 ……ヴァルトールの血に、どれほどの力があったのか。 それだけで頸がまたたく間に繋がってしまった。

 

「残るはお前たちだ。 日が昇る前に皆殺してやる」

 

 炭治郎、伊之助を庇うように前に出る煉獄。

 

 だがしかし先のヴァルトールへの一撃は、煉獄をもってしても防ぎきれるか怪しい。

 それでも、後輩の盾になることに一切の躊躇なく。 炎の呼吸の奥義をもって迎撃の構えとする。

 

「本当に、殺すのが惜しいな、柱。 一分の隙さえないその構え、鬼となれば更に高みに辿り着くだろうに」

 

 その言葉とともに、先と同じように力を溜める鬼。

 その後ろでヴァルトールがまたも立ち上がる。 

 流石に狩人をもってしても危うい一撃ではあったが、生きているのならば風穴程度は問題ではない。

 

 流石に風穴が空いてなお立ち上がるとは思っていなかったのか。

 幾度目かの驚愕と共に振り返る鬼。そんな鬼の目に、何かを握りしめたヴァルトールの右手から、よく分からない触手のようなものが召喚された瞬間が映る。

 

「うおおおおおおっ!?」

 

 喚び出されるがままにのたうつ触手。 何ら感情も、意志もこもらぬそれに、為す術もなく吹き飛ばされる鬼。

 もはや誰も、何も言うことができない。幾度と無く立ち上がる不死性にも似た耐久力と、繰り出される異能に誰も彼も疑問が尽きない。

 ようやく姿を見せ始めた太陽から逃げる鬼を咄嗟に阻止しようとする煉獄ではあったが、圧倒的跳躍により辛くも森の中へと入られてしまう。

 

「ばるとおるさん。あなたは一体……?」

 

 炭治郎の疑問が優しく降り注ぐ陽光の中に溶けていった。

 




なんとかなった……?
取り敢えずもう不定期更新です。
次回、早く書けると良いなぁ……
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