鬼滅の刃とBloodborne   作:がるがんてぃ

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戦後の一幕・蝶屋敷にて。

「ばるとおるさん。あなたは一体……?」

 

 降り注ぐ陽光の中に、炭治郎の疑問が溶けていった。

 

「ちょっ!? ちょっと待って!! 何があったの!! 鬼!?」

 

 黄色い頭髪が特徴的な少年、善逸が慌ただしくこちらにやって来たからだ。

 善逸は煉獄を見つけると、そのボロボロの姿に大きく驚く。

 

「汽車の鬼とは別だよね!? なんで煉獄さんそんな大怪我してるの!! っていうか、何その人! 恐っ! なんでバケツ被ってるの!?」

 

 捲し立てるよう騒ぎ立てる善逸は、ヴァルトールの姿を見ると怯えたように伊之助の後ろに隠れてしまう。

 

「なに!? 本当に人間!? なんか湿った水音が聞こえる気がするんですけどおおぉぉぉぉ!?」

 

「ほら! なんかしとり、しとり聞こえるんだって!!」とひたすらにヴァルトールへの恐怖感を隠さぬその姿に、場の空気が何処かふやけたようになってしまった。

 これにより自分の後ろで騒がれている伊之助も、ようやく自分の空気を取り戻したのか。 ヴァルトールへと食って掛かる。

 

「てめぇ! この桶頭! なんでそんな平気な顔してんだテメェ! さっき腹ぶち抜かれてただろうが!!」

 

 そう言って、ズンズンとヴァルトールへと歩いて行く伊之助。

 ここでようやく炭治郎も我に返る。が、しかし。聞きたい事、気になる事、怪しい事が多すぎて、何を言って良いのか判断がつかないのか。

 

「二人共! ばるとおるさんに失礼な事言うな! 見た目も何もかもが凄い怪しいけど、助けてくれた恩人なんだぞ!!」

 

 取り敢えず騒ぐ二人を静かにさせようとするが、自分もまたかなり失礼な事を言っているのに気づいていないようだ。

 

 そんな賑やかな少年三人組を見て、クツクツと笑い声を上げるヴァルトール。

 

「テメェ! 桶頭! 何がおかしい!!」

 

 笑われた、と言うことが癇に障ったのか。伊之助の声が更に大きくなる。

 

「いやなに。貴公らの賑やかさ、見てて飽きぬものだと思ってな」

 

「何とも仲が良いものだ」と面白がっている事を隠そうとしない。

 

「誰が仲良しだ! 余裕かましやがって!! 俺と戦え! その言葉取り消させてやる!」

 

 その言葉、その様子にもはや伊之助は、先の上弦との戦いも忘れたかのようにヴァルトールに向かっていこうとするが。

 

「ちょっと何考えてるの!? 絶対ヤバイ人じゃん! あの人! 殺されるって! っていうか巻き込まないで! お願い!!」

 

 慌てて善逸が伊之助を羽交い締めにして止める。

 

「待て待て待て! 伊之助! それは不味い!!」

 

 遅れて炭治郎も止めに入るが、腹の傷が開かないようにしているため善逸ほど実力行使ができない。

 何とも和やかな空気。 日が差すまでの死闘が嘘のようである。

 

(ふむ、何とも平和なものだ)

 

 放って置けば、そのままずっと騒ぎ続けていそうな三人組ではあったが、流石に煉獄が止めに入る。

 

「全員整列!!」

 

 有無を言わせぬ覇気に満ちたその一言で、騒ぎをピタリと止めて言われた通り整列する三人。

 

「いやはや済まない! ヴァルトールさん! 俺の後輩が失礼した!!」

 

 煉獄はまず三人の非礼を詫びるとヴァルトールに対して頭を下げる。

 

「そして感謝する! 助力して頂き、本当に助かった! ヴァルトールさんが居なければ、俺は殺されていただろう!!」

 

 その言葉で浮ついていた伊之助と炭治郎は気を引き締めなおす。

 鬼殺隊の頂点である柱が、自分たちの遥か上に座する実力者が死を覚悟する程の強敵。

 現実離れした戦いではあったが、ヴァルトールはそんな鬼と渡り合っていたのだ。

 

「え!? 何!! そんなヤバイ鬼が来たの!? っていうかあの人そんな鬼と戦ったの!? そんな人に喧嘩売るなよ伊之助! 死ぬ気!?」

 

 ただ一人、善逸だけは先の戦闘を目撃していなかったのだが、煉獄の言葉に恐れおののく。

 

「煉獄殿。貴公が居なければ私も殺されていた。 

 と言うよりも、貴公が私に合わせてくれたから、皆生き残る事ができたのだ。礼を言うのはこちらの方だろうよ」

 

 少々騒がしい善逸を背景にしつつ、ヴァルトールもまた感謝の意を示し、右手を差し出す。

 その言葉に煉獄は頭を上げると、その右手をしっかりと握り返す事で答える。

 

「そう言ってもらえると助かる! ヴァルトールさん! しかし俺が助けられたのも事実! お礼をしたい! 我が家へ来ていただけないだろうか!?」

 

 手を握りながら煉獄は、溢れんばかりの熱意を込めてヴァルトールを家へと誘う。

 その後ろで善逸が明らかにホッとした表情を浮かべる。どうやら自分たちはここで解散になると考えたようだ。

 

「ふむ……構わんよ。私としても、落ち着いたところで話をしたかった所だ」

 

 その言葉を聞いた煉獄は、「ならば早速! 皆も付いてこい!」並ばせた三人に言い、ヴァルトールと後輩三人衆を連れて自宅へと向かおうとする。

 しかしそれを聞いた善逸は、顔を真っ青にして首を振る。

 

「ちょちょちょちょちょっ!!! 俺たちも行くんですか!? そうだ! 怪我!! 炭治郎の怪我が酷いんで! 俺たちは蝶屋敷に炭治郎を送ります!! 送らせて下さい!」

 

 ヴァルトールがよっぽど恐ろしいのか、炭治郎を言い訳にして同行を避けようとする始末である。

 その言葉に煉獄は、合点がいったと言うような顔をして頷く。

 

「そうだったな! 竈門少年も静かにしていれば大丈夫だろうが、軽症では無かった! 先に治療をするべきだった!」

 

 今度こそヴァルトールと離れられると良いな、と祈る善逸。

 煉獄も怪我をしているが、致命傷と言える傷は無いようなので、自宅で療養すればすぐに良くなるだろう。

 ヴァルトールはさっき伊之助が腹をぶち抜かれた云々を言っていたが、血まみれとは言え今も平然としているしきっと見間違いだろう。

 そう自分に言い聞かせて、煉獄の次の言葉を待つ。

 

「ヴァルトールさんも一緒に来ていただけないか!? 大丈夫なのであろうが、やはり目の前で腹を貫かれたのを見てはな!!」

 

 だがしかし、現実は無情であった。

「俺も治療をしなければいかんしな!」と、快活に笑いながら言う煉獄に、ヴァルトールも同意する。

 

「何処でも構わんよ、煉獄殿。 そういうことだ。まぁ、諦めたまえよ。善逸」

 

 最後の方はくつくつと笑いながらであり、明らかに怯える善逸をからかっている。

 そして望みを断たれた善逸は、「イ゛ヤ゛ア゛────────ッ」と高らかに叫び声を上げるのであった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 “蝶屋敷” 柱の一人である胡蝶しのぶの持つ邸宅であり、負傷した鬼殺隊員の治療所として開放されている。

 そこまでたどり着いた一行は、まず炭治郎と煉獄が治療を受けることになった。

 炭治郎は傷が深くはあるが、止血も済んでいるため屋敷に在中しているアオイ達の治療を受ける。

 ヴァルトールもまた、軽い診断を受けたのだが。目立った外傷が無かったため、別室で待機してもらうという流れになった。

 伊之助と炭治郎は、特に酷い怪我もないため、少しの休息の後に鎹烏の指示を受けて、近場の鬼を狩りに向かうことになった。

 そうして、煉獄の治療のためにわざわざ戻ってきたしのぶは、傷だらけの煉獄に質問を投げかける。

 

「あのヴァルトールと言う人、本当に腹部を貫かれたんですよね? 煉獄さん。 傷どころか、服も破れていなかったんですが」

 

 煉獄ほどの実力者であれば、わざわざ柱の治療を受ける必要など無く、炭治郎と一緒にアオイ達の治療を受けるだけで良い。

 それなのに戻ってきた理由は、煉獄と話し合う事と、ヴァルトールを調べる為である。

 

「なんと! いや、確かに腕で腹を貫かれていたのだがな! よもや服まで無傷とは! 何とも不思議な!!」

 

 眼の前で腹を貫かれた筈の人間が、既に無傷であるという事実に驚いている、のだろうか。

 普段とあまり変わらぬ様子で、自分の目で見た事実を伝え、しのぶの疑問へ答える。

 

「煉獄さんが嘘をつく理由も無いですし…… 人間なんですか? あの人」

 

 貫かれていたと断言されてしまえば、傷が治ったと考えるしか無いのだが。

 腕で腹を貫かれた人間が本来生きていられる筈もなく。万が一、命を繋いだのだとしても。

 細い錐で腹を刺された炭治郎が未だ治療中なのだ。 既に完治している事など有り得ない。

 ……人間であるのならば。

 

「鬼で無い事は確かだな!! 日光の中でも何とも無かったのだから!! だが、人間かと言われれば! どうなのだろうな!!」

 

 鬼殺隊の宿敵である鬼ではないと断言をする煉獄であるが、人間だと言い切ることはしなかった。

 理由としては、異様な回復力や奇妙な異能を使いこなして戦う姿を見た、というのもある。

 しかし、それだけでは無い。炭治郎達、特に善逸のヴァルトールに対しての反応が煉獄の頭にあった。

 

「竈門少年達がな! 人とは何処か違うと言うのだ!! 黄色い少年なんて、怯えてマトモに近づけない始末だ!!」

 

 蝶屋敷までの道中。炭治郎達から、ヴァルトールへの違和感の原因を聞いていた煉獄。

 匂いが、触覚が、音が。 彼らの特化した感覚器が、ヴァルトールが何処か人間からズレていると告げているらしい。

 その報告を受けてなお、ヴァルトールが人間であると断言をする事が、煉獄にはできなかった。

 

「……そう、ですか。 それで、煉獄さんは彼をどう思っているんですか?」

 

 あっけらかんとした様子で、人間か怪しいと答えられてしまったしのぶ。

 鬼でないからよし。などとはしのぶには言えず、煉獄がヴァルトールをどう考えているのかを問う。

 

「そうだな! 彼は命をかけて鬼と戦い、人を守った! 故に俺はヴァルトールさんを信じるし、協力してもらいたいと考えている!!!」

 

 信じると言い切った煉獄。 その言葉の中に、いつものよりも遥かに強い力を感じたしのぶ。

 いつも何処を見ているのか、イマイチわかりにくい煉獄の眼も、今回はしっかりとしのぶを見つめているのだ。

 

「分かりました。 それでは私も、その方向で彼と接しますね。そうは言っても、私は煉獄さんほど彼のことを信じられませんけど」

 

 その強い意志に屈した。という訳では無いが、煉獄に合わせることにするしのぶ。

 実際、隠や鎹烏からの報告でも、ヴァルトールが敵対的な存在では無さそうだ。と結論付けられている。

 だがしかし、実際に自分の目で見た訳でもなく。 あまりにも怪しいその立ち姿に警戒しないというのは、不可能な話だろう。

 

「胡蝶はそれで良い!! それで、次の緊急柱合会議についてなのだが!!」

 

 一先ず、この場においてのヴァルトールの扱いが決まった。

 しかし柱二人の話が終わる訳でもなく。 上弦の参との遭遇と、その戦い方。そして、上弦の鬼と渡り合える異邦人。

 鬼殺隊の柱として共有し、話し合わなければならない重要な案件である。

 そのため、緊急で柱合会議が行われる事になったのだ。

 

「4日後に決まりました。 お館様はできればヴァルトールさんにも来てほしいそうですが」

 

 傷の手当をしながらしのぶと煉獄の話し合いは続く。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 一方、話の中心となっているヴァルトールであるが。

 通された別室の中で、壁に寄り掛かり眠りに落ち、夢を見る。

 夢の中で目覚めた狩人は、獣狩の夜の時のように、作業台にて工房仕事に勤しむ事にした。

 先の戦闘で使った回転ノコギリと月光の聖剣。これらの武器の消耗具合の確認をするのは、狩人として当然のことなのだ。

 

「……狩人様、ゲールマン様が大樹の下でお待ちです」

 

 そんな狩人の背に、人形が声を掛ける。

 ゲールマン老が、狩人の事を呼んでいるとのことだ。

 

「……そうか。ならば向かわねばな」

 

 一通りの整備が終わった後に狩人は呼ばれた場所へと向かう。

 そう。ゲールマン老の介錯を受け入れ、目覚める事になった場所へ。

 大樹の下にて車椅子に座っている片足の老人は、やって来た狩人を見つけると。

 

「……君、使ったのだろう? 三本の三本目を」

 

 静かな、しかし重厚な圧力を放ちそう問いかける。

 いや、問いでは無く確認である。ゲールマン老は既に確信しているのだ。

 狩人が、三本目のへその緒と呼ばれる遺物を三本使い、人として上位者と伍する存在に成りかけている事に。

 でなければ、説明がつかない。

 東の果てに住まう鬼という存在の術程度で、只人がこの夢に辿り着く事など有り得ない。

 たとえ道標になる物があろうとも、だ。

 

「……好奇心に負けた。 だが、最後の最後で恐ろしくなったのだ」

 

 ゲールマン老に見抜かれているのであれば、もはや取り繕う必要など無い。

 故に狩人は正直に話す。上位者という超常の存在に惹かれ、しかし人を失う事を恐れた事を。

 

「……良い。“我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う 知らぬ者よ かねて血を恐れたまえ” 君は、最後の最後に踏みとどまったのだから」

 

 狩人の言葉で、放っていた圧力を収めるゲールマン老。

 

「だが、気をつけたまえよ。 君は人を失ってはいないが、既に人を超えてしまっているようだ」

 

 そして優しく狩人にそう忠告をする。

 

「君はまだ狩りを続けるのだろう? 極東の島国で。 であるならば、決して飲まれぬようにしたまえ」

 

 狩人はその言葉に頷くと、踵を返して自らの墓石へと向かう。

 飲まれぬように、とゲールマン老は言ったが、狩人は早々飲まれないだろうと言う確信があった。

 炭治郎達や煉獄と言った、歴とした人間がいるのだから。

 彼らと共にあれば、大切な物を見失うことは無いだろう。

 

「……それに、虫を潰さねばならんからな。 飲まれてなどいられまい」

 

 連盟員として重要なことである。あの淀みきった鬼どもを殺し、汚物の中に住まう虫を潰す。

 虫の根絶させるために、この狩人は鬼を狩るのだ。

 そうして狩人は目覚める。

 ヴァルトールとして、鬼を狩る為に。

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