「まさか、お前がこんなに早く部下を持つことになるなんてな」
「なーんでみんな似たようなことばっかり言うんだってばよ……」
試験の集合場所に向かう際に偶然出くわしたシカマルと同じ方角を歩きながら話す。
拗ねるナルトにシカマルはわるいわるいと手をひらひらさせた。
「シカマルには、担当上忍の話、来なかったのか?」
「来たは来たが、今回は辞退させてもらったよ。オレが最初の弟子にする子は決まってるんでな」
「そっか……」
シカマルの担当上忍であった猿飛アスマ。亡き彼が残した子供は自分が師として育てると決めていた。
だからナルトもそのことについて深く訊くことはしなかった。
「覚えてるかナルト。自来也様が亡くなった時に、お前に言ったこと」
「あぁ、覚えてるってばよ。オレたちもいつか先生って呼ばれる時が来るし、ラーメンを奢る側になるって話だろ?」
「そうだ。意外に早かったが、オレたちもただ自分の夢だけを追いかけて行くわけにはいかねぇ立場だ。めんどくせぇことにな。だけどアスマや自来也様が教えてくれたことを無駄にしない為にも、オレたちもしっかりと後ろの奴らに木ノ葉の忍の背中を見せてやらなきゃならねぇ。そうだろ?」
「……そうだな」
ナルトもシカマルももう、自分のことだけを考えていられる年齢ではない。
後ろに続く火の意志を継ぐ者たちを育てなければならない。
忍界大戦より続いた平和がずっと続いて行くように。
分かれ道になってシカマルがナルトの胸を小突く。
「とにかく頑張れよ。子供たちにくだらねぇエロ忍術なんて教えんじゃねぇぞ!」
「余計なお世話だってばよ!」
(さーて。上手く隠れられてるみてぇだな)
気配を消して隠れる子供たちにナルトは辺りを見渡して確認した。
ゆっくりと歩いていると自分の中の九喇嘛が話しかけてきた。
『ナルト。手伝ってやろうか?』
「バカ言ってんじゃねぇよ。下忍にもなってねぇガキ相手に、お前の力なんて借りられっか!」
今回の試験では九喇嘛の力はもちろん、仙人モードも使うつもりはない。
そんなことをしたら脱落率66%ではなく99%になってしまう。
ナルトの言葉に九喇嘛は鼻を鳴らした。
『ふん。なら精々ガキども相手に恥をかかないようにするんだな』
「へっ。オレだっていつまでもいたずら小僧じゃねぇんだ。あいつらがこの試験の合格条件に気付かねぇなら、鈴をくれてやるわけにはいかねぇってばよ」
九喇嘛との話を終えて、ナルトは自分が今回使える術を確認する。
先程も言ったように仙人モードや九喇嘛の力を借りるのは無し。
螺旋丸も威力が高いため使うにしてもかなり手加減して使わなければならない。
影分身は偵察用か様子見に程度に使う。
通常の変化はともかく、おいろけの術は使用不可。流石に妻子持ちになってあんな術を子供たちの前で披露するほどナルトも面の皮は厚くない。
(考えてみっと、オレってばあんまり格下相手に仕える術ってないんだよな。それにガキの頃のオレってば、ホントに無謀だったんだなぁ)
なんせ、上忍であるカカシに真っ向勝負を挑んだのだ。向こうが本気なら速攻で試験終了まで体を動けなくされていただろう。そういう意味でも手心を加えられていたんだなと今更ながらしみじみと思う
と考えていると、パンッと音が届き、地面に金属音が響く。
「コイン?」
バウンドしたのは玩具のコインだった。
それに気づき、警戒しているとバンバンという音と共にコインが何発もかなりの速度で飛んできて、自分の体を貫こうとするが、全て避けた。
「なんかの術だな。中々、いい術持ってるってばよ。でもな!」
飛来してくる方角から相手の位置を割り出したナルトは笑みを浮かべながら地を蹴った。
「クソッ!?なんで一発も当たんねぇんだよ!?」
コインを飛ばしていた火縄ヒヒはこっちに近づいてくるナルトに対して愚痴を言う。
口鉄砲の術。
ヒヒがコインを飛ばしていた術の名前だ。
体内で作った火薬の爆発で口にはさんだコインを押し出す忍術。
長所は手で投げるより速度と射程が段違いに上がること。
短所は口に挟む関係上、連射に難があり、手裏剣と違って真っ直ぐにしか飛ばないこと。音が鳴ること。そして現状では命中精度に難あり、といったところだ。
今回は鈴の紐をピンポイントで狙っていたのだが、ナルト自身の体か、本体からやや逸れてしまっている。
「中々、おもしれぇ術じゃねぇか」
「!?いつの間に!」
木の枝に立っていた筈のヒヒよりさらに高い木の枝に立っているナルト。
「で、こっからどうすんだ?さっきの術の特性上、ここまで接近すると使い辛いはずだってばよ」
「ナメんな!こちとら、体術の成績だって悪かねぇ!!」
その場から跳躍し、跳び蹴りをするが、ナルトはそのまま木から降りて避ける、丁度真上から落ちてくるヒヒの拳を受け止める。
弾かれて少し間合いが離れた位置に着地したヒヒはそのままナルトに襲いかかった。
体術で応戦するヒヒの攻撃を受け止め続けて、同時に足払いをかけた。
「どわっ!?」
転ばなかったものの大きくバランスを崩したヒヒを攻撃せずにナルトは腰に手を当てる。
「ほらどうした!そんなんじゃあ、忍者になんて成れねぇぞ!」
「うっせぇ!そんな鈴、すぐに取って俺の力を認めさせてやるよ!!」
「ハハッ!威勢だけは良いってばよ」
笑っている上忍に再び立ち向かおうとするとナルトの後ろから日向コムギが向かってきた。
「ハァッ!」
日向家の体術である柔拳。白眼を発動させた眼でチャクラを纏わせた掌をナルトに向けて突き出す。
ドンと、確かに手応えを感じてコムギはやった!と喜んでいる。
しかし――――。
そこにはナルトではなく、ヒヒの胸に柔拳を喰らわせていた。
「えっ!?」
一瞬何が起こったのか分からず混乱しているとすぐに何をされたのか理解する。
(変わり身の術!?)
気付いた時には遅く、ヒヒは柔拳を胸に喰らって蹲る。
「ご、ゴメン、ヒヒくん!?」
「てっめ、コムギ……!後で覚えてろよ……!」
睨みつけるヒヒにオドオドしていると、木にもたれかかっていたナルトが苦笑していた。
「今の奇襲、結構いい線いってたけど。まだまだだな」
これがもし、初めから段取りを組んで行われた作戦なら、ちょっと危なかったな、と思いながら余裕の表情で肩を竦めた。
「で、どうする。今度は2人がかりか?」
「だれがッ!そんな鈴取るくれぇ、俺ひとりで充分だぜ!!」
「そういうことは、ちゃんと鈴取ってから言えってばよ」
「いますぐ、取ってやらぁ!?」
そう言ってまたも直進してくるヒヒにナルトは呆れて息を吐いた。
(ちょっとヒントやったんだけどな)
すると今度は別方向から10を超える苦無と手裏剣が飛んできた。
「おっと」
それを軽々と躱しながら隠れて飛んできた細長い飛来物を苦無で弾く。
飛んできた千本に液体によるテカリをみてナルトは感心した。
「手裏剣や苦無に隠れて毒付きの千本で攻撃か。考えてんな、メイ!」
空中から現れたメイがワイヤーを巻きつけた苦無を幾つも投擲する。
ワイヤー部分には多数の起爆札が張られていた。
ナルトを囲うように落ち、一本が腕に巻き付いたそれが一斉に爆発する。
「メイの奴やりすぎだろ!?」
「せ、先生大丈夫かな!」
爆煙で塞がった視界。
ナルトを挟んで反対側に着地したメイが淡々とした表情で呟く。
「動かなくなってから鈴を取ればいい……」
煙が晴れるとそこには爆発でボロボロになったナルトがいた。
が、パンッとナルトが煙になって消えてしまった。
「分身!?いや、影分身!?」
「正解だ!」
メイの後ろに回っていたその身体をヒヒとコムギの下まで蹴り飛ばした。
「で、3人揃ったわけだが、どうすんだ?」
相変わらず余裕の状態のナルトにヒヒが苦無を取り出す。
「決まってんだろ!すぐにその鈴を奪って――――」
そう言って懲りずに向かって来ようとするヒヒ。だが、そこでコムギが煙玉を取り出して投げつけてきた。
また煙が晴れると、そこに、3人の姿はなかった。
「作戦会議ってか。さ~てあいつらはこの試験の合否に気付けっかねぇ」
密かな期待を胸にナルトは3人の捜索に入った。
ナルトから離れて2人を退避させたコムギ。真っ先に噛みついて来たのはヒヒだった。
「おっまえぇ!?いきなり何すんだ!!」
普段大人しいコムギのいきなりの行動に驚きつつも怒声を上げるヒヒにメイが口を塞いだ。
「騒がないで。ナルト先生に気付かれる」
言われてバツが悪そうに舌打ちした。
そこでコムギがいつものオドオドとした表情で自分の意見を述べた。
「うん。その……たぶん、僕たち1人1人で鈴を取るのは無理、だと思うんだ。ナルト先生も全然本気でやってないし……だから3人で協力しない、かな……」
コムギの発言にヒヒが吐き捨てる。
「バッカじゃねぇの、お前!例えそれで鈴2つ取れても、1人我慢しなくちゃいけねぇだろうが!それとも、お前が引いてくれんのかよ!」
「それは……」
「私もヒヒに同意。私たちは仲間じゃなくてライバル同士。いつ自分の得の為に裏切られるか分からないのに組めない」
メイも同意見のようで、自分の装備を確認し始めた。
ここでまた別々に行動になろうとなった時に尚もコムギが言葉を続ける。
「で、でも!もう時間もそうないんだよ!」
その言葉に流石に2人も顔を強張らせた。
残り時間既に30分を切っている。
単独で動いてナルトから鈴を1つでも奪えるとは思わなかった。
「……」
それは2人とも感じていることだった。だから焦り、言動がピリピリしてしまう。
同じ手が通じる相手でもなく、このまま行けば自分たち全員が失格になってしまうのは誰の目にも明らかだった。
そこでヒヒがガシガシと頭を掻いた。
「だぁっ!しっかたねぇなぁ!!」
観念したように深呼吸をした。
「合格云々もそうだけど。あの先生に一泡吹かせてやらなきゃ気がすまねぇ!どっちにしろ次が最後御チャンスだろ。だったら、3人で挑めば鈴の1個くらい取れるかもしんねぇしな!メイ!お前はどうする!!」
ヒヒの問いにメイも若干渋い顔をしたが、仕方ないと呟いた。
「どっちみち、手持ちの装備も少ない。それに2人が組んで私が単独で動いても勝率は低い。協力するしかない」
メイの言葉にコムギはホッと胸を撫で下ろす。
「さっきも言ったが次が最後だ!出し惜しみなしで行くぜ!」
「うん!」
「負けっぱなしじゃいられない……」
森の中で捜索をしていたナルトは歩いていた足を止める。
「居るのは分かってんぜ。出て来いよ!それとも、こっちから行った方が良いか?」
気配を感じてナルトがそう言うと、また遠距離からコインが高速で飛んできた。
一拍ごとに飛来してくるコインに避け、森の中をジグザグに動く。
「良い術だとは思うが、そう何度も驚かねぇってばよ!」
言っていると、ナルトの頭上から糸が切れる音がした。
「あん?」
すると、頭上から大量の煙玉が落ちて、破裂し、視界を覆う。
「さっきの術はワイヤーを切るためか。ってことは……」
ナルトは背後から感じる気配を察して回避する。
「っ!?」
「白眼のあるお前なら、この覆われた視界でも関係ねぇもんな!白眼のことはオレもちょっと詳しいんだってばよ!」
初手を躱されてもコムギは逃げずにナルトの相手を続けた。
しかし一撃も当てられず、全て受け流される。
煙玉の範囲から脱出したと同時にコムギが一度ナルトから離れた。
それと同時に下がったコムギの後ろに居たメイが再び両手の苦無と手裏剣を投げると同時に手にし、咥えていたワイヤーを引っ張る。
予め仕掛けていたのだろう。大量の苦無と手裏剣。千本が襲いかかってきた。
「おらぁ!!」
それを回避し、または苦無で弾きながら安全圏まで移動する。
(本気で俺の命狙って来たってばよ!!)
これくらいやってもナルトを殺せないと確信してのことだろうが。生徒たちが自分の力を認めたことに対して少なからず喜びもある。
(さて、ここからどうすっか)
トラップをやり過ごすギリギリの間を狙ってコムギが今度はナルトの脚にしがみ付いて来た。
「メイちゃん!」
「コムギナイス……!」
折り畳まれた大きな手裏剣を広げる。
それはナルトにも見覚えがあった。
「風魔手裏剣・影風車」
メイがその名を言うと、ナルトへと投げつけた。
狙うは腰にぶら下がった2つの鈴。
回転しながら進むそれをナルトは体を低くして躱した。
「残念だったな。お前ら」
ちょっと冷や汗を掻いたナルト。
しかし足にしがみついていたコムギが首を振る。
「いえ、作戦通りです」
ナルトが躱した影風車がボンッと音を立て、別の変化。いや、戻った。
それは、手裏剣に変化していたヒヒだった。
「これでぇ!!」
咥えているコインを高速で撃ち出す。
不安定な体勢だったナルトは反応が遅れてしまう。
ヒヒのコインは確かにナルトの鈴の紐を1つ切り落とした。
「やっとぅああああああああああああっ!?」
しかし、ヒヒも崖のギリギリで変化を解いてしまい、そのまま踏ん張りが利かず、足を踏み外してしまった。
「やべっ!?」
ナルトが即座に助けに入ろうとするが、その前にコムギとメイが飛び出して落ちるヒヒの腕を掴んだ。
「大丈夫、ヒヒくん!?」
「世話、焼かせる」
「わ、わりぃ!」
仲間を引っ張り上げる2人。
そこで――――
ジリジリジリジリジリッ!!!?
『あ』
時間が訪れ、試験終了を告げるアラームが鳴り響いた。
最初の集合場所に戻って来た4人。
生徒3人は気落ちした様子で地面に視線を向けていた。
「鈴、取れなかったな」
ナルトの言葉に3人は悔しそうに唇を噛んで睨んできた。
「それじゃあ、試験の結果を発表するぞ」
どうせ落ちたんだろと思っている3人は暗い表情のまま耳を傾けていた。
そんな3人にナルトはニッと笑って結果を発表した。
「火縄ヒヒ。日向コムギ。ながれメイの3人はうずまきナルトの名を持ってこれより、下忍卒業試験を合格とするってばよ!」
『えっ!?』
コムギとヒヒが驚きの声をハモらせ、メイも不思議そうに首を傾げていた。
最初に質問したのはヒヒだった。
「でもさ!俺たち鈴、取れなかったじゃん!紐から落としただけで」
「お前たちがこの試験に合格する本当の条件を満たした。だから、オレはお前たちを合格を決めた」
「本当の合格条件?」
「そうだ。この試験を突破する正解。それは――――チームワークだ」
ナルトが笑顔で答えると納得できないようにメイが質問する。
「でも、鈴は2つしかない。それじゃあ、仲間割れだって……」
「これは、そうなるように仕組んで行われる試験なんだよ。この状況下の中で、自分の利害に関係なく、チームワークが出来る奴らの合否を判断するためのモンだ。忍者は、裏の裏を読めってな」
ナルトの説明にメイがなるほどと頷く。
それから嬉しそうにナルトは説明を続ける。
「オレがお前たちの合格を決めたのは、最後のヒヒが落ちそうになった時、お前たちは鈴を無視して仲間を助けたことだ」
あの時、メイかコムギのどちらかが鈴を取ろうとすれば、ナルトはそれこそ九喇嘛の手を借りてでも阻止していた。
だが、2人はヒヒを迷わず助けることを選んだ。
そして3人でナルトから鈴を取りに来た。
合格にする理由はそれで充分だ。
「これは、オレがカカシ先生――――六代目から最初に教わった忍者の心構えだ。確かに忍者には卓越した技量は必要だ。だけど、それ以上に重要なのはチームワーク。そして忍者の世界じゃルールや掟を守れない奴はクズ呼ばわりされる。でもな、仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ」
それはナルトの中で未だに息づいている大切な言葉。
忍者になって。色んな戦いや任務。そして戦争を潜り抜けられたのは皆の協力があったからだ。
そんな仲間をナルト自身が絆として大切にしてきたから。
だから、後ろに続く木ノ葉の忍者たちに最初に教えて置かなければならない教えだった。
ナルトの言葉を下忍たちがどう受け止めたのかは分からないが、この教えの意味に気付く、立派な忍になってほしい。今はまだ、ぼんやりとした意味でしか感じ取れなくても。
「これを持って第七班の演習を終了とする。おいお前ら。合格祝いにオレがラーメン奢ってやるってばよ!行くぞ!」
「え!マジ!!」
「い、いいのかなぁ」
「でも、お腹は空いた……」
ナルトの言葉に三者三様のリアクションをすると善いからいいからと促した。
翌日火影室の前に通された4人の前で六代目火影が笑みを浮かべた。
「それでは第七班の初任務を命じる」
任務内容は当然Dランク任務。子供のお使い程度の任務にどこか気の抜けた表情をする3人。
そんな生徒たちの反応にナルトは喝を入れる。
「ほら、そんな顔すんじゃねぇ!里を潤す大事な任務だ。それじゃあ六代目!第七うずまきナルト班、初任務出動するってばよ!!」
こうして、ナルトの担当上忍としての任務が始まった。