ナルト先生の新人下忍育成記   作:赤いUFO

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今回から、生徒3人がメインです。


木登りの行

 うずまきナルト。

 第四次忍界大戦を終わらせたと言われる忍界切っての英雄。

 歴代の火影の名前は知らなくてもうずまきナルトの名前は知っているという者も若い世代には少なくない。

 そのうずまきナルトの生徒となった火縄ヒヒは少なからず浮かれていた。

 里に自分の優秀さ。延いては将来性を期待されているようで。

 そして卒業試験のあの日、自分たちを圧倒しながらもどうにか下忍として認められたあの日に言われた言葉。

 

『忍者の世界じゃルールや掟を守れない奴はクズ呼ばわりされる。でもな、仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ』

 

 その言葉の重みこそまだ理解していくても、胸にくるものがあったのは、きっと先生自身がその言葉の実感しているから。

 

 だからこそ、ヒヒはこれからの忍者としての生活に強い緊張と期待を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 抱いていたのだが──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、お前らー。掘り返した野菜、こっちに持ってこいってばよ!」

 

 その忍界の英雄は今、首にタオルを巻いて両脇に大量の大根を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ナルト先生……」

 

「どうした、ヒヒ。早く収穫しねぇと、日が暮れちまうぞ」

 

「俺ら、忍者になったんだよな?」

 

「……その額当てはなんだってばよ」

 

「だったら!! 毎日毎日何でこんなショボい任務ばかりなんだよ! 最初は逃げた猫の捕縛! 次は留守番中の子守り! そして今日は野菜の収穫! 二ヶ月こんなんばっか! アカデミーのレクリレーションじゃねぇんだぞ!」

 

 首に巻いていたタオルを畑に叩きつけて自身の憤りを爆発させるヒヒ。

 そこでコムギからフォローが入る。

 

「でもボク、今回のお仕事楽しかったよ!」

 

「そりゃあ、お前の趣味は家庭菜園だもんな! っていうかアカデミーで習ったことが全く活用されてねぇ!!」

 

 ヒヒがトンガリ頭を掻き毟っていると依頼主であるお爺さんが笑いながら話しかけてきた。

 

「ほっほっ。元気があって良いですねぇ」

 

「悪いな、爺ちゃん。文句ばっかで」

 

「新人の忍者の方が手伝いにくると大体そうですよ。あなたも、そうだったのではないですか?」

 

 お爺さんに言われてナルトはバツが悪そうに苦笑して頬を掻いた。

 ヒヒの憤りはナルト自身も身に覚えがあるが、ここは先生として諭そうと振る舞う。

 

「いいか、ヒヒ。任務ってのは下忍、中忍、上忍に分けて、それぞれ任務の難易度や得意不得意を上が判断して振り分けられるんだ。お前たちはまだ下忍に成り立ての新米。精々Dランク任務を任されるぐらいだってばよ。それに、こうした小さな任務を積み重ねが、お前たちの信用、延いては木ノ葉の信用に繋がってだなぁ」

 

 柄ではないと思いつつもナルトは新人。特にヒヒへと説明した。

 ナルト自身、かつては三代目に駄々をこねまくってCランク任務(実際にはAランク任務)を受けたことがあるため、気持ちは分かるがそれはそれ、これはこれである。文句を言う教え子を諭すのも自分の仕事だ。

 

「つまり、こういう任務だって大切なもんで、文句言ってるようじゃまだまだだってことだな」

 

 今回の任務もナルトが多重影分身をすればすぐに終わる任務だが、それを敢えて使わずにいるのはメインがあくまでも新人下忍たちだからだ。

 

 ナルトの言葉をヒヒは理解はしたようだが、納得はしてない様子でう~と唸っている。

 そんな子供らしい反応にナルトは苦笑いを浮かべた。

 

「ま、でも、ヒヒの言いたいことも分かるってばよ。オレもガキの頃、散々駄々こねたしな!」

 

「ナルト先生が、ですか?」

 

 若干驚いた表情をするメイにナルトは恥ずかしそうにまぁなと返す。

 

「だからこの任務が終わったら、お前らに修業を課す」

 

「修業?」

 

「あぁ。とりあえず今は早く畑の収穫を終わらせんぞ。説明する時間が無くなっちまうからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? 修業ってなにすんだ! 先生!」

 

 目を輝かせて待ちきれない様子のヒヒにナルトは木に手を触れた。

 

「木登りだ。お前らにはこれからこの木の天辺まで登ってもらう」

 

「木登りーっ!?」

 

 今度は明らかに不満そうな顔をするヒヒにナルトはまぁ見てろとチャクラを足の裏に集め、手を使わずに歩いて登り始めた。

 それを唖然とした様子で見ている3人。

 一番低い位置の枝に移動し逆さのまま腕を組んでこの修行について悦明した。

 

「チャクラを使えばこんなことも出来る。これはチャクラのコントロールを身に付ける為の修行だ。足の裏は最もチャクラが集めにくい部位とされている。この修行でお前たちのチャクラコントロールはかなり上達するし、忍者がそのコントロールを維持しなきゃいけねぇのは絶えず動き回る戦闘中だ。この木登りでそれを維持する持続力(スタミナ)を身に付けてもらう」

 

 説明を終えるとナルトは木から落ち、そのまま着地した。

 

「これが出来りゃあ、とりあえず下忍としてはいっちょまえってことだ。それにこれが出来れば戦闘で壁を足を付けて戦うことも出来るし、もう少し難しくなると、水面なんかも走ることが出来る。この修行を3人がクリア出来たらオレから六代目にCランク任務を受けさせてもらえるように言っとくってばよ」

 

「ホントだな、ナルト先生!」

 

「あぁ。任務がない日や、終わったらここで木登りだ。登れた位置にクナイで線を付けて、次はもっと登れるようにしろ。お前たちは最初から歩いて登るなんて無理だろうから、走って天辺まで登れ。それと、危ない感じに落ちそうな奴がいたら、他の2人で助けてやれよ。それもチームワークだ!」

 

 言い終えて、ナルトは親指で木を指さし、とりあえず登ってみろと指示する。

 ホルダーからクナイを取ったヒヒがナルトを指さす。

 

「へへ! こんな修行、ちゃっちゃと終わらせて、すぐにCランク任務を受けてやるぜ!」

 

「ま、頑張れってばよ」

 

 3人はチャクラを練り、それぞれの木に向かって走る。

 

「だっりゃぁああああああああてぇっ!?」

 

 4歩ほど登ったところでチャクラの吸引力が乱れ、ヒヒは地に背中を打ち付けてのた打ち回る。

 

「んっ!?」

 

 もう少しで一番低い枝に届きそうなところで木に弾かれ、そのまま着地した。

 

 残ったコムギは────。

 

「へー。さすが柔拳使い。中々のモンだってばよ」

 

 下から2番目の枝に座っているコムギ。見た感じ、まだ余裕がありそうだ。

 日向の柔拳使い。チャクラの一定量を集め、維持は慣れたものなのだろう。

 

「こりゃ、1番初めにこの終業をクリアしそうなのはコムギか。メイも医療忍術を学ぶ気なら、もっと精密なチャクラコントロールを要求されっぞ。こんなんで躓いてられねぇな」

 

 ナルトの言葉にむ、とするヒヒとメイ。

 

「じゃ、程々に頑張れってばよ」

 

「ちょっ!? 先生!! せめてコツとか教えてくれよ!」

 

 まったく登れなかったヒヒが焦ったように頼むがナルトは敢えて突き放すことにした。

 

「あのな。こういうのは、自分で色々試しながら、コツを掴んでくモンなんだよ。お前もイッパシの忍者を気取るなら、ただ教わるんじゃなくて、自分で考えながらモノにしろよな」

 

 ナルトの言葉にヒヒは何か言いたそうにしていたが、自分の両頬を張った。

 

「分かったよ。見てろよ! 明日には木の天辺まで登りきってやっからな!」

 

 その強がりにナルトは小さく笑みを浮かべた。

 印を結び、頑張れよ、とだけ言って文字通り煙と共にその場から消えた。

 

「ホントに消えちまったよ……」

 

「帰ったんじゃないかな? ナルト先生、ご結婚なさってるし」

 

「そうなの?」

 

 メイの返しにコムギはうん、と頷く。

 

「先生の奥さん、日向宗家の方だから。最近、子供もお生まれになったって聞いた」

 

 へぇと、2人が感心しているがすぐにヒヒが首をブンブンと振るった。

 

「そんなことより! さっさと登っちまおうぜ!」

 

 木に指をさし、チャクラを練る。

 

「どりぁあああああっ!! あ、あ~っ!?」

 

 走って木に登るがすぐにまた落ちてしまった。

 

「コント?」

 

「ちげぇよ! くそっ! ゼッテェ登ってやるからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 

 

「なんで……俺だけ登れねぇんだよ……!」

 

 呼吸を乱しながら、仰向けに寝て悔しそうに木を見上げるヒヒ。

 コムギはスイスイと登り続け、メイも何度かやってコツを掴んだのか今はコムギを追い越さんばかりに徐々に高い位置へと印を刻んでいる。

 

 既に半分程登り終えたコムギが下りてくる。

 

「大丈夫、ヒヒ君」

 

 心配そうに訊いてくるコムギにヒヒは一瞬渋い顔をしたが、よし! と何かを決めたように話しかける。

 

「コムギ、ちょっとコツ教えてくれ……」

 

 自分から駄々を捏ねておいて足を引っ張る形になったことに多少の後ろめたさがあったことと、自分だけ進歩しない焦りからコムギにアドバイスを求めることにした。

 それに少し驚いた表情をしたが、コムギはすぐにうん、と説明を始める。

 

「チャクラは精神エネルギーを使うから、変に気を張り過ぎたらコントロールが乱れちゃうんだ。リラックスしてチャクラの一定量が足の裏集まるようにしながら木に集中しないと」

 

 説明が終わると立ち上がり、大きく深呼吸をした後に印を結んでチャクラを足の裏に集めた

 

「おりゃああああああああっ!!」

 

 木に駆け上がる。

 今までで一番安定して登っている。

 もう少しで一番最初の枝に手が届く。

 

(もう少し。もう少し!)

 

 その焦りからチャクラのコントロールが乱れ、木から弾かれそうになる。

 だが────。

 

「おっしゃあっ!!」

 

 木の枝を掴み、そのままぶら下がった。

 

 すれ違いで落ちてきたメイがパチパチと小さく拍手をしていた。

 

「こっから、すぐにお前たちにも追い付いてやるぜぇ!」

 

 ヒヒはクナイで印をつけ、勝気な笑みで枝から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おし! こんなもんか」

 

 木登りの行を課して数日。ナルトは自宅で長男であるボルトのおむつを取り替えていた。

 おむつを替え終わるとナルトは息子の感触を確かめるように頬を痛がらない程度に押したりひっぱたりする。

 そうしているとヒナタがやって来た。

 

「ごめんね、ナルト君。ボルトの世話を任せちゃって」

 

「なに言ってんだよ。オレだって父ちゃんとしてちゃんとボルトに構ってやりてぇんだ。それに謝るなら、ずっと任せっきりだったオレの方だろ」

 

 ニカッと笑うナルトにヒナタも笑みを返す。

 そうして夫婦でボルトの様子を見ていると、不意にナルトが話始めた。

 

「なんつーかさ。子供が成長ってのは早いもんなんだな」

 

 それは日に日に大きく、重くなるボルトのことででもあるし、自分が受けもった生徒たちのこともある。

 

「今日、木登りの行をさせたあいつらの様子を見に行ったら、もう3人とも半分も登ってた。それを見たら、なんか、凄く嬉しくなっちまって」

 

 子供の頃から火影になることを夢見て、多くの出会いと別れ、修業と経験を積んできたナルト。

 今では忍界で一目置かれ、彼と戦える者すら少ないまでに成長した。そしてかつて忌み嫌っていた里の者たちもナルトを慕うようになった。

 

「オレ、今まで自分が強くなることばっか考えてた。でもこれからは。本当に火影になるなら、後ろに居る奴らもしっかり見守ってやらなきゃいけねぇんだなって。そう思うんだ」

 

 ナルトの夢。その芯は子供の頃から変わっていない。

 だが、子供の頃のようにただ前だけを見て突っ走るだけではいけない。

 カカシがナルトを特別上忍として気付かせたかったのはそういうことなのではないかと今は思う。

 

「うん、そうだね」

 

 そんな、今でも成長しようとする夫にヒナタは微笑んで体を寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木登りももう少しでクリアできそうになった時に休憩がてらに3人は話をしていた。

 

「そういえばさ。お前らはなんで忍者になりたいんだ?」

 

 近年では、子供たちが忍者アカデミーに通うことは強制ではない。これも忍界が平和に向かっている証拠だろう。

 

 最初に答えたのはコムギだった。

 

「僕は、日向の家だから。忍者になるのは家の方針だからっていうのが大きいかな。僕自身、なにかしたいっていうのもないし」

 

 血継限界、白眼を持つ日向一族。

 その眼を狙う者たちは多く居る。

 だからこそ、忍者として力を付けさせるのは当然のことだった。

 

 次に話したのは、メイだった。

 

「私は、前の戦争でお父さんが亡くなったから。自立するのに忍者は都合が良かったから、かな」

 

 第四次忍界大戦で親を失い、孤児となった子供は大勢いる。メイもその1人だった。

 アカデミーにも親を亡くした子供はチラホラと居たが、実際本人から話されるとどう答えたら良いのか解らない。

 その空気を察したのかメイは首を横に振るった。

 

「気にしないで。珍しいことじゃない。それに孤児院の院長も良い人だから。顔が蛇みたいで怒らせると怖いけど」

 

「怖いの?」 

 

「怖い」

 

 顔は無表情なままなのに肩を小刻みに揺らしていることから本当に怖いのだろう。

 珍しい反応をしながらもでも、と付け加える。

 

「すごい医療忍者で、私は院長みたいな忍者になりたい。それが私の目標」

 

 何故かそれを本人に言うと、すごく微妙な表情で苦笑いされるのだが。

 

「俺は、強くなって里の外を旅するんだ! そしたら、今まで見た事のない、色んなモノを見てみてぇ! その為に忍者として力を付けてぇんだ!」

 

 里の外へと思いを馳せるヒヒ。そうして彼はある提案をした。

 

「なぁ。もっと3人で強くなったら、少しの間、3人で旅をしねぇか?」

 

「え?」

 

「そしたら、たくさん色んな景色を見て、美味いもん食って。悪い奴らがいたらブッ飛ばしてさ。そうやって世界を見て回ろうぜ! お前らとなら、きっと楽しいだろ!」

 

 にヒヒと笑うヒヒに2人は。

 

「悪くないかも……」

 

「うん。きっと楽しいね」

 

 そんな話をしていると、足音がした。

 

「なんか、面白れぇ話してるな」

 

「ナルト先生!?」

 

 現れたナルトは持っていた包みを掲げて生徒たちに見せる。

 

「休憩中なら丁度いいな。オレの嫁さんが、お前らに良かったらって、弁当を作ってくれたんだ。どうだ」

 

「ヒ、ヒナタ様がですかっ!?」

 

 分家であるコムギからすれば、宗家の者であるヒナタに弁当を貰うというのは戸惑う事態だった。

 それを察してかナルトは気にすんな、とコムギに言う。

 

「ヒナタもそういうことを気にされるのは嫌だろうし。せっかく作ったんだから食べてくれたほうが嬉しいってもんだ。味は保証するってばよ」

 

 言うと、コムギははい、と返事を返す。

 包みを広げて弁当を食べ始めると、ヒヒがナルトを箸で指さした

 

「ナルト先生! 俺たち、もうすぐ木登り終わっからな! 約束、忘れんなよ!!」

 

「そうか。頑張ったなお前ら」

 

 そう言って3人の頭を撫でてやると嬉しそうに笑う。

 生徒たちの成長を嬉しく思いながら、希望溢れる未来を信じて疑わない彼らを、守り、一人前の忍者に育てることを誓った。

 

 

 

 この時は光溢れ、暗い陰など誰にも見えはしなかった。

 ────そう、誰にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メイの暮らしている孤児院はカブトが院長をやっている孤児院です。

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