メイの父であるセイは三味線を弾きながら兄であるコウに報告していた。
「どうやらメイはこちらに向かっているようです」
「お前の娘、うずまきナルトを殺ったと思うか?」
「えぇ。あの子は、父親思いの良い子ですから。必ずやり遂げてくれますよ」
「なら、死体を持ってこさせて換金すりゃあ、かなりの儲けになるな。それに、下っぱどもにあの村を襲えば暫くは金に困ることもねぇだろ」
上機嫌に笑うコウにセイもまた笑みを深めた。
そうして雑談に興じていると、ザッと土を踏む音がした。
「お帰り、メイ」
普段感情を表さないメイが険しい表情で立っていた。
「なぁ、ナルト先生! ぐったりしてないで寝るんならベッドに入れよな!」
周りが宴会で出された食器などを片付けている中、テーブルにうつ伏せになっているナルトの体を揺さぶるヒヒ。
まったく動こうとしないナルトにヒヒはたくよっ! と悪態をつく。
そこでドタドタとコムギが入ってきた。
「ねぇ! メイちゃん見なかった! さっきからどこにも居ないんだけど!」
「部屋でもう寝てるんじゃね?」
呑気な態度のヒヒにコムギは焦った様子で首を横に振る。
「居ないんだよ! 部屋にも! 村の中も探したけど、全然!」
コムギの様子にメイに何か有ったのでは思い始めたヒヒがさらにナルトの体を激しく揺さぶった。
「ナルト先生! 酔い潰れてる場合じゃねぇぞ! 話、聞いてたん────!」
だろ! と、続けようとした時にナルトの体がテーブルから床に崩れ落ちた。
見ると苦しそうに胸を押さえている。
「先生……? 先生っ!?」
その様子もまた、普通ではないと気付き、ヒヒとコムギは顔を青ざめた。
ヒヒに支えられてナルトは座敷を出る。
「大丈夫かよ、先生」
「あぁ。とりあえず、死ぬことはねぇ筈だ……」
覇気に欠ける声で答えるナルトに生徒2人が心配そうにしている視線を置いておいて自身の状態を把握する。
身体が痺れるが、動けない訳ではない。ただ、チャクラコントロールを乱されていることの方が不味かった。
(これ。たぶん昔、綱手のバアちゃんがエロ仙人に使ったのと同じタイプの薬だ)
水を飲んだときに感じた僅かな苦味から綱手の物ほどの完成度は無いようだが。
酒が入っていたことと教え子から貰ったことで疑わずに飲んでしまった自分の迂闊さを呪う。
ナルトが生来から師である自来也程の警戒心が無いことも理由だろうが。
「でも、本当にメイちゃんが……」
「しか、考えられねぇな。自由行動の時になんかあったのは確実だと思う」
ナルトの言葉にヒヒとコムギが息を飲む。
(もしくは、初めからって可能性も考えとくか)
あまり考えたくはないが、メイが最初から木ノ葉へのスパイだった可能性も視野に入れる。
だとしても、このタイミングで行動を移す理由は不明だが。
ナルトはヒヒから体を離して禅を組んだ。
自然のエネルギーを取り込み、仙術を使用して広がる感知能力でメイのチャクラを探そうとする
しかし、その行為は彼の中に居る尾獣、九喇嘛によって止められる。
『止めておけ、ナルト』
「九喇嘛。わりいけど、今は話してる暇はねぇんだってばよ」
『バカが! 冷静になれと言っている! チャクラの流れを乱されたそんな状態で自然エネルギーを取り込めば、あっという間に石蛙だぞ!』
「……」
九喇嘛の忠告にナルトは無言で唇を噛む。
かつて、綱手を五代目火影として迎え入れに行った際に大蛇丸との戦いで何故彼が仙人モードに成らなかったのか。
自然エネルギーを取り込む時間や口寄せの行う隙もあったのだろうが、それ以前に綱手の薬でチャクラコントロールを乱された状態では、仙人になることが不可能だったからだ。
ナルトは既に師である自来也を越える仙人ではあるが、それでも薬の影響が有るいま、仙術チャクラを練れば蛙化は免れまい。
悔しそうに顔を歪めるナルトに九喇嘛が鬱陶しそうに助言する。
『だから冷静になれと言っている。あの小娘を探すなら、ここにもう1人感知タイプが居るだろう? 白眼の保有者がな』
九喇嘛の言葉にナルトはハッとなった。
自分で見つけなければならないと教え子の能力を失念していた。
(九喇嘛に指摘されるまで気づかねぇなんて、情けねぇってばよ)
どうやら本当に冷静さを欠いていたらしい。
立ち上がり、ナルトはコムギに指示を出す。
「コムギ。白眼で村にあるメイの足跡を探せ。そこからあいつを探すぞ」
「は、はい!」
指示を出され、コムギは白眼で辺りを見渡す。
広範囲に広がる視界からコムギは手掛かりを見落とさないように捜す。
「あ」
「何か見つけたのか、コムギ」
「うん。外に向かって行く足跡。草履の大きさからもたぶんメイちゃんのだと思う」
「よし! ならすぐにアイツを連れ戻しに────」
行くぞ! と続けようとするとコムギがなにあれ! と怯えるような声を出した。
「どうした!」
「外から、武装した人達が村に向かって来てるんです! 数は、50────ううん! 70はいるかも!」
「なっ!?」
驚きの声を上げると今回の依頼主が駆け寄って来る。
「木ノ葉の皆さん! 村の外に怪しい一団が!?」
「分かってる! 依頼のついでだ! オレらでなんとかしてみせるってばよ」
「でもよ! メイはどうするんだよ、ナルト先生!」
ヒヒの疑問に答えず、ナルトは親指を歯で噛みきり、術を発動させる。
「口寄せの術!」
現れたのは、人の肩に乗れそうな小さな蛙だった。
「久しぶりだな、ガマ竜」
「どうしたの? ナルト兄ちゃん。ガマ吉兄ちゃんじゃなくてボクに用?」
それは、ナルトの相棒ガマと言うべきガマ吉の弟であるガマ竜だった。兄と違い、未だに大きくならず、大人しい蛙だ。
「お前たちはガマ竜と一緒にメイを追え。ただし、危険だと感じたらすぐに戻って来い。ガマ竜はもし、こいつらじゃ逃げることも出来ない事態に陥ったらオレを口寄せして欲しいんだってばよ」
ガマ竜をヒヒの肩に乗せる。
相棒のガマ吉では身体が大きすぎて村に被害が出る可能性がある。
ナルトが外の敵を相手にしている間、影分身に村の人達を守らせたい。
チャクラコントロールを乱された今ではそう多くの影分身を長時間維持するのは難しい。
ナルトは生徒2人の頭に手を置いた。
「この事態はどう考えても普通じゃねぇ。オレは村の人達を守る。だからお前たちがメイを連れ戻すんだ。いいな?」
「ナルト先生……」
真っ直ぐ見つめてくるナルトにコムギは緊張から身体が強張る。逆にヒヒは強く頷いた。
「任せろ、ナルト先生! メイの奴をすぐに連れ戻して謝らせてやんぜ!」
「頼むな! ガマ竜もだ」
「うん! 任せてよ!」
「行け!」
ナルトの合図に生徒2人はその場から消えた。
そしてナルトも村に近づいてくる一団の方へと向き、十字の印を結ぶ。
チャクラを乱され、身体も痺れて動きが鈍っている。
若干視界もブレて動悸も激しい。
だが、言ってしまえばそれだけだ。
(このくらいの状況で音を上げるなら、オレはあの大戦を乗り越えられやしなかったぜ)
これくらい、任務を完了する障害にもなりはしない。さっさと片付けて、教え子を追うのだ。
パンッと、頬を張られてメイは地面に身体を倒した。
「まったく。ダメな子だよ、お前は。折角渡した毒薬を使わずに戻って来るなんて」
「……」
落胆する声にメイは張られた頬を押さえて顔 父の顔を見上げる。
そこには記憶にはない明らかな失望の表情をする父の顔があった。
メイは渡された毒薬を使わずに自身が調合し、持ってきていた薬をナルトの水に混ぜて飲ませた。
ナルトに全てを話せば、父は即座に捕らえられてしまうと思ったメイは、自身の言葉で父を説得するための時間を求めた。
「お父さん。こんなことは止めて、木ノ葉に帰ろう。訳が有るならきっと、里の人達は分かってくれる」
どうにか、父を説得使用とするメイにその兄であるコウがくつくつと嗤う。
「セイ。どうやら、木ノ葉に置いてきたお前の娘は失敗のようだぜ」
「その様ですね。岩隠れに仕込んでいた子は従順だったので上手くいくと思ったのですが。これからどうしますか?」
「オレは、村の方に行く。英雄、うすまきナルトの首だ。個人的に興味もある。下っぱを全滅させる訳にはいかねぇしな」
兄の言葉にセイはやれやれと頭を押さえた。
「それと、そのガキは失敗だ。ちゃんと始末を着けろよ」
「えぇ。分かってますよ」
言うや、コウはその場から煙と共に消えた。
「お父さん……」
メイには、もしかしたらあの男に父が操られているのではないかという疑惑があった。だから、離れた今なら、話を聞いてくれるのではないかという僅かな希望。
しかしそれはあまりにも儚い、妄想だった。
「本当に、お前は役に立たない駒だったよ。もう必要ないね」
セイの手にはクナイが握られ、殺気が向けられる。
それだけで、メイの身体が萎縮して動けなくなった。
握られたクナイが振り下ろされようとする。
恐怖で動けない筈なのに、頭は現実逃避か、余計なことが過る。
(ナルト先生やヒヒとコムギも、怒ってるよね)
理由はどうあれ、皆を裏切るような行動を取ってしまった。今更に後悔が沸き上がる。
(せめて、一言謝りたかったなぁ)
近づいてくる死に目蓋を下ろす。
もうすぐ、自分は実父の手で殺されようとしているのだ。
そこでカキンッと金属音が鳴った。
「え?」
地面に落ちたそれは、彼女の仲間が好んで使うコインだった。
それがセイのクナイに当たり、弾き落とす。
続いてメイの上を影が一瞬覆った。
「ハッ!」
メイを跳び越えたコムギが柔拳の掌打をセイに向ける。
だがその攻撃はあっさりと避けられた。
着地と同時にメイを守るように前に立ち、柔拳を構えるコムギ。
「メイちゃん大丈夫!?」
「たくっ! なにやってんだよお前は!」
後ろからやって来たヒヒも、忍具を手にして構えていた。
「どうして……?」
2人がここにいるのか、メイには理解出来なかった。
「ナルト先生がメイを連れ戻せって!」
「戻ったら拳骨じゃ済まねぇぞ、きっと!」
目前の敵への警戒を怠らずに簡潔に説明する。
それにセイは息を吐いた。
「やれやれ。久々の親子の会話に割って入るなんて、不躾な子達だよ」
「何が親子だ! 訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ、おっさん!」
「メイちゃんを、傷付けようとした癖に……」
敵意を剥き出しにする2人。
セイは小バカにするように三味線を構えた。
「口の悪い子達だ。これは、本格的にお仕置きが必要なようだね」
嗜虐的な笑みを浮かべてセイは三味線の弦を揺らした。
ガマ竜。第一部綱手編でナルトが口寄せした蛙です。
メイの父は上忍レベルだと思ってください。