この素晴らしい冒険者たちに祝福を!   作:ナマクラ

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今回のお話はサンキューカッス先生からいただいた前回のエイリースのお話の続きのようなものです。
前回の話をいただいた後すぐに書き上げてこちらに送ってくれました。本当にありがとうございます。…………頂いてから半年以上経ってる事は、その……ごめんなさい。


外伝 このエリス教徒に神託を! 2話(byサンキューカッス)

「あー、全くこれだから。クリスは実にポンコツですね、同じエリス教徒として恥ずかしいですよ」

「……そ、そうかなぁ」

 

 某日。俺は以前一緒にダンジョンに潜った事のある知り合いの盗賊が、実に面倒くさい絡み方をしているところに遭遇した。

 

 人の良さそうな銀髪の盗賊相手に因縁をつけ迫る彼女は、傍目に見ると模範的アクシズ教徒だった。

 

「ダメです。クリスはダメダメです、エリス様の教えを欠片も理解していない」

「え、えぇ……?」

「良いですか、エリス様は慈悲深くもあり厳しくもあるお方です。ですので─────」

 

 そんなエリス狂信者たるエイリースが、何を騒いでいるかと言えば……。

 

 

「アクシズ教徒なんていくら昏倒させても、何の罪にも問われないんですってば」

「いや、普通に犯罪だから……」

 

 彼女は軽快な歌を謡い、気を失ったアクシズ教徒の上でコサックダンスらしき踊りを踊っている真っ最中だった。

 

 つまりは、冒険者ギルドの華。単なる喧嘩騒ぎだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もとはと言えばこのアクシズ教徒が悪いんですよ。私の崇拝するエリス様を侮辱したあげく、文句を言えば『お詫びに芸をしよう』と言って下らない宴会芸を始めたのです」

「いや、あはは。宴会芸くらいは別に良くないかい?」

「ダメです。奴らは芸と称してエリス様の肖像画の胸を萎ませて飾り、『貧乳音頭』なる謎の舞踊を始めました。判決は当然処刑です」

「うぐっ……。む、む。でもさ、エリス様は心が広いからそんな誹謗中傷は気にしないと思うな。信徒である私達が違うよって否定してあげればそれで─────」

「念のためエリス様に神託を頂いたところ、『磨り潰して川へ投げ捨てなさい』との仰せでしたよ。やはりクリスは、エリス様の事を何も理解していませんね」

「ん!? そんな事言った覚えないよ!?」

 

 頭に血を上らせた実質アクシズ教徒のエイリースは、同じくエリス教の盗賊に諫められている真っ最中だった。是が非でもあの場に関わり合いになりたくない、ここは傍観の一手だな。

 

「それより見てくださいクリス。このアクシズ教徒、かなり金持ってますよ。この金は全額、エリス教会に寄付する事にしましょう」

「だからダメだって! この人たちにも生活が有るんだからさ」

「これから死ぬ人間に、生活費など必要は無いでしょう?」

「殺す気だったの!? そんなことしたら冒険者ギルドに居られなくなるよ!」

「我が敬愛するエリス様を侮蔑した罪は死以外で償うことは出来ません。喜びなさいアクシズ教徒、死後はエリス様が優しく導いてくださいましょう」

「武器に毒塗るのやめてよ! 本気、本気なの!? ねぇ、なんでみんな見て見ぬふりしてるの、何で誰も私と一緒にエイリースを止めようとしてくれないの!? 誰か、ねぇちょっと!」

 

 殺意満々のエイリースを、クリスと呼ばれた盗賊が半泣きで抱きすくめている。

 

 だってどうみても、エイリースは本気だ。本気であのアクシズ教徒を屠る気だ。

 

 あの半泣きの盗賊が可哀想ではあるが、下手に介入したら逆にエイリースに殺されるかもしれない。誰があんな危険地帯に割って入るものか。

 

「おいノア。お前が何とかしろよ、お前の姉貴分だろ」

「あーなったエイリースは手が付けられないから無理。アンタこそエイリースに気に入られてたじゃない、仲裁してひき肉になってきなさいよ」

「ひき肉ですかー、いいですね。でも、毒殺されたら食べられなくないですか?」

「サラは俺は殺されて食用になる前提で話すのやめてくれる!?」

 

 ナチュラルに怖いよこの女! 物凄く自然に、俺を食用の肉として見たんだけど!?

 

「……はぁ。こうなれば、全員で仲裁に行かないか?」

「らいらいに賛成。あの娘を押さえるには人手がいる」

 

 一方で冷静ならいらいは、その場でローブをはためかせて立ち上がると。

 

「気乗りしないけど」

「本音出さないで」

 

 げんなりした声で、ポツリとそう声を漏らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと! 可愛い私の信者たちに何してくれてるわけ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達がエイリースを仲裁すべく立ち上がろうとした刹那。

 

 青髪のプリーストが、エイリース相手に突然食って掛かったのだ。

 

「え?」

「あ」

「あっ……」

 

 そのプリーストは、どうやら見るからに─────。

 

「この私の目が黒いうちは、水の女神アクアを崇拝する可愛い信者に指一本触れさせないんだから!」

「くせぇぇ!! 鼻が曲がりそうな匂いがするかと思ったら、ド腐れアクシズ教の気色悪いプリーストじゃないですか! よくそんな腐ったヘドロみたいな気持ち悪い体臭でこの場に姿を見せられましたね、汚物と区別がつかないアクシズ教徒め!!」

 

 アクシズ教の女神、アクアその人なのでした。

 

 ……えっ?

 

「なんですって! 私に体臭とか有る訳ないんですけど!! 私、水の女神だから汗とか分泌の分泌液は真水のはずなんですけど」

「め が み ! ! あーっはっはっは気持ち悪いですね、自分の事を女神と思い込んでるなんてかわいそう!! これは、救済するには死しかありませんかね!?」

「やってみなさいよ! このアクセル最強のアークプリースト、本物の水の女神たるアクア様に勝てると思ってんの!? ぶっ殺すわよ!」

 

 (頭のおかしい)エイリースと(頭のおかしい)アクシズ教徒の親分が絡み合って、頭のおかしい状況になって来た。ああ、介入する意欲が失せてい置く。

 

「あ、ああ。お願いだから二人とも落ち着いてよ! ちょっと冷静に……」

「「外野は黙ってて!!」」

「……えぇー?」

 

 凄いな、あのエリス教の盗賊。たった一人で、良くあの二人の相手をしていられるよ。 

 

 俺にはとても真似できない。

 

「ねぇ、ボク達行かないのかい?」

「頭おかしそうなのが出てきたし、今介入するのはちょっと……」

「ですよねー」

 

 よし。シュワシュワを飲んで心を落ち着かせよう。おいしいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴッドブロォォォッ!!」

「痛ああああっ!!?」

 

 あ、エイリースが負けた。

 

「プークスクス、全く口程にも無いわね! 所詮は口ばかりの無能盗賊!! エリス教徒らしいわ!!」

「な、何で私の毒がっ!? 確かに当たったはずなのに!」

「私の身体ってね、触れると液状のものはみんな真水になっちゃうの。これが、女神の力ってもんよ!」

「く、解毒スキル持ち……、相性最悪ですねっ、糞ったれ!」

「貴女は気絶させた後ひん剥いてその辺に放置してあげるわ! 私の可愛い信者を酷い目に合わせた罰よ!!」

 

 あー、女神には毒とか効かないのか。で、どーしようかな。

 

 あの場に介入するのは嫌だけど、流石にエイリースが可哀想か。それになんか糞女神本人があそこにいるみたいだし、今この呪いのアイテムを回収して貰おう。

 

 このままだとエイリ-ス、ひん剥かれてポイされるしな。

 

 そう覚悟を決めた俺は、その場でひっそりと立ち上がった。

 

「……おい、行くのかあの場に」

「ああ」

「へぇ、意外に君は度胸がある男だったんだね。骨は拾ってあげるさ」

 

 ……やる気をそぐようなことは言わないでくれるかなぁ。

 

「もう、少し待ってくださいアクシズ教徒! 私にも奥の手が有るんですよ!」

「面白い、やってみなさいよ! 何かする暇があるならね!」

「祈るだけですよ! 我らが偉大なる死と破壊の神エリス神に祈れば、きっとお前みたいな邪悪なプリーストは滅殺されるでしょう!」

「……そんな神様を名乗ったこと無いんだけどなぁ。幸運の女神なのに……」

 

 隣で棒立ちしている盗賊クリスは、諦めたような目でその場を見守っていた。流石に疲れたらしい。

 

「女神様女神様、私に救いをっ!」

「こんな状況で祈られても……」

「あーっはっはっは、何も起こらないわね! 女神アクアを信じる者は救われるけど、エリスみたいな偽乳を信じる者のは不幸に─────」

 

 高笑いしたアクアが拳を振り上げ、エイリースに殴り掛かろうとしたその時。

 

「ん、神託? 全く誰よ、こんな忙しい時に……。女神の慈悲よエリス教徒、ちょっとだけ貴方の女神に祈る時間を上げるわ」

 

 ……水の女神は何かの電波を受信して、そっぽを向いてしまった。

 

 

 

「お助けください我が敬愛する女神様。私は今まさに、邪悪なる異教徒に蹂躙され、酷い辱めを受けようとしているのです。貴女の叡智をお授けください」

「なんですって! 全く、あの娘は信徒のしつけがなってないんだから! 今どういう状況なの!?」

「抵抗するも力及ばず、私は地に伏しています。何故か今敵はそっぽを向いていますが、じきに私は女性として辱めを……」

「許せないわ! なんたる悪辣非道! ……貴女、その異教徒は何人?」

「一人ですが、私の得意とするスキルを無効にする手段を持っています。きっと、ズルをしてるんです」

「へぇ。あの娘の信徒らしいわ、全く小狡いったら」

 

 

 

 ……。

 

 神託? と言うか、普通に聞こえる距離で話し合ってねぇかお前ら。

 

 それ以前に、やっぱりアクアじゃねーか。やっぱりアクアと交信してんじゃねーかエイリースっ!!

 

「……え? あれぇ、これどういう事? エ、エイリースさんー?」

 

 その様子を見たクリスは、物凄く混乱した顔をしていた。まぁ、普通に考えて意味分からん状況だよな。

 

「よし、私の可愛い信徒、よく聞きなさい。私の完璧な作戦を伝えるわ」

「ありがとうございます、麗しの女神様。貴方の教えを信じていて、本当に良かった……」

「今そっぽを向いているだろうその異教徒は、きっとあなたをどう辱めるかで頭の中がいっぱいのはずよ。つまり、これは絶好のチャンス!!」

「おお、成程」

「とはいえ、貴女が起き上がったら感づかれるわね。やられた格好のまま、不意を突いて貴女の武器を後頭部目掛けて投擲しなさい。ありとあらゆる生物は、それこそ女神だって後頭部を強打されると失神するのよ」

「な、成程。死んだふりをして不意打ち、見事な作戦です。我が女神様は頭も良いのですね」

「あーっはっは! でしょう、でしょう!? これからも困ったことがあれば、いつでも相談して良いからね。それじゃあ─────っ!! あ痛ぁっ!?」

 

 あ。アクアが自分の立てた作戦で自爆してる。

 

「あ、当たった!! 流石は女神様の作戦だ……」

「脳が、女神の高貴な脳が揺れる……。この腐れエリス教徒め、よくもこんな卑怯な手を……」

「勝てばよかろうなんですよ、これがエリス教!!」

「貴方には道徳心ってものがないのかしら! ぐ、ぐ、覚えてなさいよ……」

 

 ……。

 

 成程なぁ。アクシズ教徒に関わりたくないって人の考え、非常によく理解できる。

 

 こいつは、関わりたくないや。

 

「勝った! 勝ちましたよエリス様!! 貴女の教えの通りです!!」

「ち、違うと思うよエイリース。エリス様はこんな卑怯なことを指示しないと思うなぁ?」

「かーっぺっぺ!! これだからクリスは、エリス様の事を欠片も理解していない!! もっと精進して、エリス様を理解する事ね!」

「え、えええぇ?」

 

 その後、アクアの衣装を剥ぎ取ろうとしたエイリースはクリスに不意打ちで昏倒させられ、速やかに馬小屋に収容された。

 

 一方で後頭部を強打され気を失っている水の女神は、緑のジャージっぽい服を着た冒険者が回収していった。

 

 つまり。アクセルの町は、いつも通りだった。


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