ADEC ~アデック;狂気に塗れた世界最凶のReunion~ 作:暁葵
EPISODE1 アスタロト
そんな世界の闇の奥深く…深淵にいる狂気的な組織ADECは、今もなお手を休めることなく『天使』を片っ端から滅ぼしている。
このADECの殲滅対象は『天使』とその『天使』に縋る愚か者のみ……つまり通常の人間は殺しはしないのだ。
だがやはり、人間と人類の希望である『天使』を殺すだけあってか、人類からは忌み嫌われている。
しかし、一部の人間からは評価されており、現在もADECに入社したいという志願者も多くいる。
神に嫌われ、人類に嫌われてもなお、ADECはその歩みを止めない。
そして、また《殲滅》する――――。
「…ちょっといいか? アーシャ」
そこは、全てが無機質な黒に包まれた要塞のような空間であった。
周辺には髑髏が飾られており、甲冑を装備したスケルトンやファントムが徘徊している。
そんな禍々しい要塞の廊下で、一人の青年と一人の美少女が話をしている。
「どうしたのですか? ボス」
「いやなに、明日実行される【智天使】の殺戮計画についてなんだが……」
「はい?」
青年は、彼女に話があるといって誘導をする。
そして青年が連れてきた場所は、最奥に玉座があり、その横には骸で構成された篝火が陳列された禍々しい空間であった。
ここは……ADECの本拠地『ゲヘナの漆黒魔城』の最上階に位置する部屋…「王の間」である。
この「王の間」は、ADECのボスが坐している最大の場なのだ。
青年は、レッドカーペットが敷かれた道を歩き、そのまま奥にある玉座に坐する。そして彼女は玉座の前で跪く。
「それで……明日実行される計画が、何でしょうか?」
「実は……急遽【智天使】殺戮計画から、お前を降ろすことにしようと思うんだ」
少女は、青年の言葉を聞いた瞬間、面を上げて焦燥感とショックのような表情をしている。
「! 何故ですか!? 私なら【智天使】ごとき一瞬で蹴散らせますッ‼ ですから……」
少女は無念の表情で必死に弁明する。
その弁明を聞いて、青年は重苦しい息を吐く。
「いや、お前が優秀で幹部だということは分かっているんだ。ただな、俺新しい情報を手に入れたんだが……その情報が――な?」
そう言って青年は玉座から離れ、少女の目の前にスマホを向ける。
スマホの画面には、こう記述されていた。
”天使詳細:【智天使】ゼルエル…天権「神の腕」。その能力は物理に特化した天権で、触れた者の能力を封じ、血液に関することなら何でもできる”――と。
そもそも『天権』というのは、天使のみ持つ唯一無二の能力である。
この能力は”神話で云われたその名の意味”に因んでいるらしい。
対して『悪魔』は『魔権』と呼ばれる、『天権』と全く同じ原理の能力を持つ。
何故、青年はこの少女――アスタロト・ディスヴィアをこの殺戮計画から降板させたのか、その理由は至って単純。
――この娘に死んでほしくないからである。
アスタロトの『魔権』は「絶望の宣告」…その能力は所謂「言霊」である。
この「絶望の宣告」は敵対する存在の神聖なる力の強さによって効果が分かれ、強ければ強いほどその効果が強まり、逆に神聖力が弱い、または物理や魔術・魔法に耐性を持つ者には効果が薄いのだ。
そして、今回殲滅するゼルエルの持つ「神の腕」は物理に特化し、それだけでなく魔術・魔法の耐性を一般の【智天使】以上に保持している。
つまり、アスタロトの『魔権』とは相性が悪いのだ。
だから青年は、アスタロトを今回の計画から降ろすことを決意したのだ。
「……というわけだ。悪いが今回の作戦はサタナキアに渡そうと思うんだ」
「お願いです! ボス、どうか…今回の標的だけは…私にっっ‼」
アスタロトは涙をこぼしながら、青年の腕を掴んで必死に懇願する。
しかし、青年は首を横に振る。
「――そうですか。分かりました……失礼しました」
青年の真剣な表情を見て、アスタロトは青年の腕から手を離して諦念の言葉を呟いて「王の間」から出る。
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アスタロトは、悔しそうな表情で拳をいっぱいに握り締める。
「何で……何で………ッッ!」
当然、こうなるのも無理はない。
今まで、このADECで4年やってきたアスタロトはまともな仕事をやれなかったのだ。
基本的にアスタロトは他の人間たちが取りこぼした殺戮対象の後処理する…所謂闇仕事である。
ADECは元から闇仕事を主としているとはいえ、アスタロトはその中でも下級な仕事しか任されなかったのだ。
故に、この今回の「ゼルエル殺戮計画」は一騎当千の大仕事だったのだ。
しかし、そんな大仕事をたった今降板させられてしまったのだ。
「どうしたんだい? アーシャ。らしくない顔じゃないか」
アスタロトが落ち込んでいると、柱の上から声がする。
「……アモちゃん?」
柱の上に視線を送ると、そこには青髪の角の生えたショートカットの少女が足をぶらぶらさせていた。
この少女はアモン・ル・ノーレッジ。アスタロト同じくADECの幹部の一人である。
どうやらさっきのボスの青年とアスタロトの会話の一部始終を全て聞いていたらしく、声をかけたらしい。
「まぁまぁ、アーシャ。確かにアーシャは幹部の中でも陰的存在だから、大仕事を降板させられたらそりゃ落ち込むよ」
「……ぐずっ……アモちゃぁん……」
アスタロトは肩から翼を生やしてアモンに泣き縋る。
アモンは抱きついてきたアスタロトを慰めるように頭を撫でる。
…と、同時にスマホでゼルエルについて検索する。
(ゼルエル……か。智天使長で、物理攻撃に特化した『天使』…しかもボスはこの任務をあのお調子者のサタナキアに一任している。……”突破”するには簡単かな?)
「ま、元気だしなってアーシャ。私も意外と仕事貰ってないし、そんなもんだよ。いつかまたアーシャが活躍する仕事が出てくるでしょ」
アモンはすすり泣いているアスタロトに慰撫の言葉をかける。
アスタロトはアモンから離れ、感謝の言葉を告げる。
「ありがと…アモちゃん。私、これからも頑張るからっ!」
「そっか、なら良かった。……ところで、アーシャ、ちょっといいかな?」
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「……はぁ~、俺何やってんだか。ボスっつう肩書きも楽なもんじゃねーな」
ここは『ゲヘナの漆黒魔城』の最上階の一階下…「ソロモンの間」のベッドの上。
青年は溜息を吐く。
アスタロトを強制的に降板させたことに関して後悔しているのだ。
確かにアスタロトの『魔権』は強力なものだ。
…「絶望の宣告」。
神聖なる力を多く持つ大天使、熾天使に絶大な効果を及ぼす対天使の『魔権』。正直あの娘一人だけでも良かったのだ。
――が、やはり組織から「駒」もとい「メンバー」が居なくなるのは相当な致命傷である。
そして新しく『ADEC特異情報部』が掴んだこのゼルエルの『天権』…これが非常に厄介で仕方がない。
青年がふとスマホの情報を見直すと――――。
「……ん? あれ、この情報………」
情報源の記述を見てみると、そこには謎の暗号が示されていた。
これは……ルーン文字? だろうか。何でこんなところにルーン文字が記されているんだ? 何かがありそうだ………。