ADEC ~アデック;狂気に塗れた世界最凶のReunion~ 作:暁葵
EPISODE4 智天使長・ゼルエル
……ということで、三人は「ソロモンの間」に到着し、ソロモンが扉を開ける。
二人の眼に映っていたのは、アニメキャラのタペストリーやフィギュア…様々なアニメグッズ、そして棚に並べられたエロゲやゲームソフトがあった。
ソロモンは、唖然する二人を見て、溜息を吐く。
一応ソロモンは世界最凶の組織ADECのボス…こんな姿を見られれば、当然矜持がズタボロに崩れ落ちる――。
そんな場面なのに、ソロモンは焦りの表情一つ表さない。
そして、ソロモンが執った行動はというと…………。
「……
静かにそう宣言し、直後時空が歪曲する。
――――。――――。―――――。
「よし、入ってくれ」
ソロモンは何事もなかったかのように振る舞い、部屋に入るよう促す。
部屋の中は、如何にも厨二臭い武具が飾られており、全体的に禍々しい雰囲気を醸し出していた。
「えーっと……じゃあ、悪いがアーシャ。お前の「絶望の宣告」で、椅子を生成してくれ」
「え? あ、はい!」
少し戸惑いながらもアスタロトは返事をする。
アスタロトの持つ「絶望の宣告」は、魔力を持つ細胞保持物質にのみ発動し、細胞の思考を改変したり、支配したり出来るのだ。
ソロモンはそこら辺にあった武具を三つ床に投げ捨て、アスタロトが詠唱する。
「……アスタロトの名を以て命ずる――椅子と成れ!」
途端に、武具が闇黒に包まれ段々と形が変形していく。
そして闇黒が消え失せ、気が付くと武具が全てアンティークな椅子に変化していた。
「……よし、でだ。作戦なんだがな……キアーの性格からするに『天使』を片っ端から殺していくだろう」
キアーはソロモンから見ても頭のネジが外れている狂人のような存在なのだ。そんな彼女が『天使』を逃さないはずがない。
だからこそ、ソロモンはここに視点を置く。
誰しもが考える発想ではあるが、サタナキアがその『天使』を片っ端から殺している間に、ゼルエルに奇襲攻撃を仕掛ける…と言ったものだ。
短調ではあるが、あの狂気的なサタナキアだ。すぐに引っ掛ってくれるだろう。
「……ということだ。ちなみに、俺はこの作戦には当然参加しない。するのは、お前たちのサポートだ」
ソロモンは話にもう一つ付け加える。
流石にボスが動くほどの任務でもない。過去にも【大天使】殺戮任務でもボスは動かなかった。
ゆえに、今回はサポートのみである。
……しかし、実のところボスはサポートすらしないのだ。――本来なら。
実際の目的はというと…………。
「俺の目的は――キアーの殲滅だ」
「「………‼」」
二人は呆気を取られた表情で、口をぽっかりと空ける。
そんな大したことだっただろうか? この如何にも「サタナキアを殺しますよ」と言わんばかりの作戦、気づかないはずがないと思っていたのだが………。
「…そんな驚くことだったか?」
ソロモンは未だ唖然としている二人に問いかける。
「いえ……一応予想はしてましたが………」
「ド直球に言うとは……思わなくてですねぇ……」
――そっちか。まぁ流石にあんな言い回しをしていれば当然気づくだろう。
「具体的な方法としては――――」
ソロモンは二人に具体的な奇襲作戦の内容を説明し、そのままアスタロトとアモンが解散する。
「……キアー、お前の忠誠は有難い。だが、同時に俺はお前のような存在が大嫌いだよ」
ただ、そう呟いた――――。
▲ ▼
時刻は午前四時四十分――あともう少しで『智天使長ゼルエル殲滅計画』が実行される。
サタナキアはドレスに皴が出来ていないか、肌に傷やシミが無いかを鏡を前に確かめる。どうやら戦闘の準備は万端のようだ。
「ヒヒヒヒ……そろそろですわね。あぁ! もう、身体の疼きが止まらないですわぁぁ‼」
少し意味深げな言葉と艶美の声色を発しながら、部屋を出ていく。
「フハハハ‼ そろそろだな、あぁ、嗤いが止まらないぜ……フハハハ‼」
ソロモンもまた、同じようなことを考え、今頃ゼルエルの殺戮に向かっているであろうサタナキアに嘲笑する。
▲ ▼
『おい、彼奴等の情報操作はうまくいったか?』
とある廃墟の教会の中、玉座に座る人間の男が傍にいる翼で体を包む『天使』に向かい問いかける。
『はい、現在もあのADECとやらは我らの虚構の盤上に囚われ彷徨っている最中でしょう……』
『そうかそうか……! クハハハ、所詮は『悪魔』…我が聖なる僕を以て――』
男は顔面を手で押さえながら悪魔のような笑みを浮かべ、享楽に浸りながら立ち上がる。そして――――。
『粛清だ』
次の瞬間、午前五時を示す金が鳴り響き――同時に教会の扉が爆発したかのような轟音を立てて破壊される。
埃が舞い上がり扉の前がその影響で見えない。…そして数秒後、埃が消えたその奥には、鮮血のドレスを身に纏い、黄金の槍『ブリューナク』を振るう少女の姿があった。
「おはようございます、【智天使長】さま? わたくし、ADECの幹部が一人サタナキアと申します……それで、早速ですが――」
サタナキアは『ブリューナク』を男の傍にいた天使――【智天使長】ゼルエルに向け、先端に魔力を込め、突貫。
ゼルエルは閉じていた翼を大きく広げ、白蛇の鱗が纏わりついたような右腕を伸ばし、『ブリューナク』に翳す。
『覚醒せよッ‼ 我が全能なる腕よ――』
刹那、サタナキアの込めた『ブリューナク』の魔力が一瞬にして霧散し、そしてゼルエルは容赦なくサタナキアの鳩尾に一発入れる。
「グハッ――!?」
完璧にクリーンヒット。『ブリューナク』を床に刺し、悶え苦しむ。ゼルエルは「神の腕」の渾身の一撃をサタナキアの再び腹に打ち込もうとしたその時――――。
グシャァッ‼
何かがゼルエルの手を思い切り噛む。獅子のように。
『ナッ――!? 貴様、この私に何の小細工を……ッ』
「これを見ていただければ一目瞭然ですわァ」
と、サタナキアは腹の部分の布を大胆に破り、中身を魅せる。するとそこには、首だけの人のような頭が蠢動していた。
これは――カマエルだ。あの時サタナキアが『憤怒の一滴』によって従えたカマエルの首を捻じって凝血を利用して接着したというわけだ。
実に凄惨で、流石『悪魔』の名を背負うだけはある。…だが、ここまで残酷かつ凄惨なサイコパスのような悪魔はADECの中でもサタナキアだけだろう。
『こんな残虐的なことをして、貴様は何も思わないのか!?!?』
「何言ってるんですの? わたくしの”人形”をどう扱おうとも、わたくしの勝手でしょう? それに、見てみてくださいまし! これほどまでに美しく悶える姿を。実に美しいでしょぉ?」
完璧なサイコパスだ。『天使』を殺し、ゾンビにして、弄ぶ。殺人鬼の思想だ。これはソロモンが嫌悪するのも納得だ。
そしてサタナキアは再び立ち上がり、その残虐的な思想を聞いたゼルエルは怯え竦んでいた。
『ヒッ! こちらへ来るな――来るなぁーーーーー‼‼』
ゼルエルは狂気的な笑みを浮かべ、コツコツとヒールの音を鳴らしながら歩み寄ってくるサタナキアに慄いた。
しかし、サタナキアはそんな薄っぺらい『天使』ごときの戯言に耳を貸すはずもなく、『ブリューナク』を心臓に撃ち込もうとする――。
しかし、ゼルエルにはまだ”奥の手”が存在する――――。
『我が左腕よ、神々の福音経て奇蹟を築き、邪を祓いたまえ――解放せよッ‼』
次の瞬間、肉が抉れ貫かれる音が教会中に響き渡る。サタナキアはふと自分の心臓部や腹の部分を見つめるが、何の異常もなかった。
すると突然、サタナキアがバタッ! と倒れ込む。口からは大量の血が吐かれ、惨状だった。
これぞ、【智天使長】ゼルエルのもう一つの『天権』――「奇蹟の福音」である。一部の記憶を代償にこの世の全てを操ることが出来る。
この『天権』によってサタナキアは心臓と脳が同時に潰され、完全に死んだ。呆気ない死だった。
サタナキアはゼルエルがもう一つの『天権』を保持していることは知らなかった――否、知らされていなかったのだ。
ソロモンは当然、「奇蹟の福音」のことを言えば対策される――そう考えていた。即ち、ここまでは思惑通りなのである。
『片付きました。いくらADECの幹部とは言え、この程度の実力とは……』
若干ブーメランな発言をするゼルエルに、男は笑った。
『そうだなぁ。所詮は『悪魔』、我ら天の使徒には敵わぬ存在だったのだよ』
と、『悪魔』をADECを蔑むような会話をしていると、また誰かが教会内に侵入する。
『何者だッ‼』
ゼルエルが叫ぶと、そこには二人の少女が立ち尽くしていた。桃色の少女と青色の少女が満面の笑みで近寄っていく。
……その正体は、ADECの幹部であるアスタロト・ディスヴィアとアモン・ル・ノーレッジであった。
「お邪魔しま~す」
「お邪魔しますねー」
二人は気楽な挨拶で堂々と敵地にずかずかと踏み入っていく。アスタロトは吐血し死んでいるサタナキアの姿を見て口を押えてしまう。
想像以上の殺され方に驚愕しているアスタロトに対し、アモンは「うひゃー」と何か悦んでいるような声を洩らし、死体にスマホを翳して死因を調べる。
「智欲の夜」はスマホ一つで何でも調べられるハイテクな『魔権』で、当然死体の死因ぐらい即座に判明するのだ。
「死因は脳と心臓の機能停止……潰したのかな? 流石「奇蹟の福音」だけあるね」
『…ほう、私の『天権』をご存じでしたか。それで、今宵この教会に来た目的はいかに?』
普通であれば「敵を討ちに来た」とでも言うのだろうが、二人はそうではなかった。
「実はですね~、私たちこのキアーの死体回収をしに来まして。キアーは私たちにとって邪魔な存在だったので、殺してくれたのは非常に嬉しいんですよ」
「ですから、私たちが貴方がたに一つ”贈り物”を授けたくてですね……」
しかし、当然【智天使長】であるゼルエルにそれは通用しない。『悪魔』の対応に長けた【智天使長】は、そう簡単に”贈り物”を鵜呑みにするはずがない。
『ふざけるな、私たちが『悪魔』の贈呈品を簡単に受け取るとでも? 何かもっと巧妙なトリックでも――』
「あ! あとこういったものも持ってきました~」
アモンがわざとらしい演技をしつつポケットから折りたたまれた一枚の書類を取り出し、ゼルエルに見せつける。
そこには「ADECと天使協会の一時的和解条約」と記述されていた。その説明をアスタロトがする。
「えっと、簡単に言いますと”ADEC側もそちらに攻撃しないから、こっちにも攻撃は仕掛けないでくださいね”という書類なんですよ。分かりましたか?」
『ふむ……これは良い取引だな。ちなみにだが、このことはそちらのボスは知っておいでで?』
「はいっ! ボス直々に進言しておりました!」
ゼルエルはアスタロトの純粋無垢な表情を見て油断を魅せる。
『……分かりました。早速その贈呈品とやらを――』
アモンは外に待機させてある贈呈品を教会内に持ち込み、ゼルエルと男に曝露する。それは、純白の指コーンであった。
きちんと懐いており、ゼルエルの方へと近寄り、頬を擦ってくる。やはりユニコーンは神獣、それゆえ天使に好意を示しているのだろう。
「こんな感じですね! どうですかこの毛並みと性格、良質でしょう?!」
『確かに、天界や最近の天使協会でも飼育されていない稀少な種だ。良いユニコーンだ、ご主人様、いかがでしょうか?』
ゼルエルはここでやっと主人である男に最後の選択を委ねる。男は正直ゼルエルが完璧と思い込んでいるから、適当に頷く。
『では、貰い受けましょう』
ゼルエルは一つ返事で承諾し、アモンとアスタロトは深いお辞儀をする。
「「ありがとうございます!」」
そして二人はサタナキアの死体を回収し、そのまま教会から霧のように消え去っていく。