山の頂にあるものは   作:息抜き用ID

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第17話

 あおいちゃんとひなたは仲が良い。

 

 あおいちゃんと一度別れてからも九年間ずっと想い続けてきたひなたは、常にあおいちゃんのことを思いやってる。富士山に登るときも息を切らしてるあおいちゃんを一番多く振り返ってたのはひなただし、今度の谷川岳の件でも、あおいちゃんの高所恐怖症をどうにかできないかと一生懸命頭を悩ませている。ノリと勢い任せに見えるけど実はどこまでもあおいちゃんファーストな一途の子、それがひなただ。

 

 一方、ひなたがボケとするとあおいちゃんはツッコミ役。ひなたの行動に遠慮なくつっこみ、文句を言って時に煽る。その無遠慮さはたまにうらやましくなるくらいだ。私もひなたとは仲が良いけど、あおいちゃんほどキレのあるツッコミはできないし、踏み込むこともできない。遠慮なくどつける信頼感は見ていて妬ましく、尊い。

 

 そう、尊いのだけど――

 

「それでね、ひなたのやつヤキモチ焼いて出て行っちゃったのよ。ああ見えてかわいいとこあるわよねー」

「う、うん、そだね」

 

 出てくる話題の九割以上ひなた関連はさすがに疲れる。しかも話題がノロケなんだか煽りなんだか分かんないし。

 

 谷川岳のロープウェーが怖い、と相談を受けたのが今朝のこと。お昼ちょっと過ぎにあおいちゃんの部屋にお邪魔して、そのことについて相談に乗ろうとした。

 

 まずは軽い話から、と雑談に付き合っていれば出るわ出るわひなたの話題。昔ひなたが引っ越したときはひなただけ大泣きしてたとか、ガサツな癖に達筆なところがむかつくとか。

 

 今は私がほのかとお泊り会した日のことを話している。ひなたは私とほのかが仲良くしてるのにヤキモチを焼いてゴキ語りをしたとかなんとか。

 

「照れ隠しにゴキブリの話出すってどーなん……?」

「ま、それだけ焦ってたんでしょ。ひなたたは私と違ってマヤちゃんと付き合い短いもんね。私と違って」

 

 なぜか二回言う上に得意顔なあおいちゃん。確かに付き合いはあおいちゃんのが長いけど、前髪降ろした私と山の私に気づかなかったよね? という反論は言わずにおいた。

 

 でもひなたがヤキモチか。私もひなたと初めて会ったときは、あおいちゃんがとられちゃうと思って寂しかった。それと同じ気持ちを私に向けてくれたとすると――

 

「うぇへへ」

 

 変な笑いが出ちゃう。

 

 陽キャは暗い嫉妬を抱かないと思ってたけど、違ったみたい。ひなたも私と同じなんだ。この前カチコミしたときのしおらしい様子といい、知らなかったひなたの一面を知られてうれしい。

 

 それと同時にあおいちゃんがヤバい。普通に雑談のノリで話してくれたけど、私に伝わったことひなたが知ったら、憤死するレベルの話だ。しれっと無慈悲になれるのがあおいちゃんなんだよね。

 

 そう考えたらあおいちゃんと部屋に二人きりな今の状況が怖くなってきた。

 

 確か遅れてひなたも来るって話だったけど、早く来ないかな――

 

「マヤちゃん?」

「ひえっ」

 

 気づくと、あおいちゃんの満面の笑みが迫っていた。目と鼻の先、息の触れ合うような近距離。

 

 とっさに座ったまま後ずさる。すぐにベッドとかち合って下がれなくなる。左右への退路は、迫ってきたあおいちゃんが両腕を突っ張って塞いだ。

 

「人の話聞いてる?」

「も、もちろん」

「今何のこと考えてた?」

「ひなたのこと、だけど」

「ふーん、私がここにいるのに、ひなたのこと考えてたんだ」

 

 いや、ひなたの話始めたのそっちじゃん! 終始その話題だったじゃん!

 

 理不尽なあおいちゃんだけど、気持ちは分かる。だって同胞だもん。あおいちゃんがひなたと再会したとき、私だって嫉妬して、裏切られた気持ちだった。

 

 だからきっとあおいちゃんも同じ。私と同じなんだ。

 

 そう考えればあおいちゃんの理不尽過ぎる物言いも、威圧的な笑顔も怖くない……怖く、ない――

 

「あわ、あわわ」

 

 怖いわ! 穂高連峰の核心部渡ったとき並みに怖いわ!

 

「そういえばこの間、ほのかちゃんだっけ。あの子と何してたの?」

「飯能を散歩したり、天覧山行ったり、ですかね……」

「楽しかった?」

「は、はい」

「ふうーん。よかったねぇー」

 

 あっ、デジャヴ。あおいちゃんの笑顔見てたら懐かしい感覚。

 

 これで分かったけど、あおいちゃんと私の抱いた感情は違うと思う。理屈じゃなくて本能的に。そうじゃなければ、山中でクマさん見かけたときのこの感覚がデジャヴるわけないもの。

 

 今のあおいちゃんはたぶん獣。話題を変えて、獣を追い払わなきゃいけない。

 

「とっ、ところで次、谷川岳行くでしょ。ロープウェーあるから、相談ってそのことだよね?」

「……そうなの。みんなは大丈夫って言ってくれたけど、やっぱり不安で……」

 

 ころっと態度を変えたあおいちゃんが距離をとった。威圧感も消える。よかった、あれ以上近づいてたらチューでもしてたかもしれない。そういうのは好きな人とやらないとね。

 

 さて、ロープウェーか。

 

 あおいちゃんが高いところ苦手なのは知ってたど、たぶんどうにかなると思うな。

 

 ずいっと今度は私からあおいちゃんに顔を近づける。

 

「大丈夫! 最近あおいちゃんが登った山は?」

「え? 霧ヶ峰、かな」

「あっ間違えた。ええと、登った中で一番高い山は?」

「富士山だね」

「その通り!」

 

 くそう、かっこよく励ますシーンだったのに間違えた。

 

 でもその通り、あおいちゃんは富士山に登ってる。

 

「日本一の山を制覇して、日本一高い場所に立ったことがある。だからあおいちゃんは日本一の女なんだ。今更ロープウェーなんて楽勝だよ!」

「……そっか。日本一の女か。ありがと、マヤちゃん。そう言われたらなんだか行ける気がしてきたよ」

「うん、いけるいける」

 

 不安で揺れていた瞳に、強い光が宿る。その光はたぶん、日本一を制した自信だ。

 

 この自信を本番でも思い出せるかどうかは分からない。でもそのときは私だけじゃなくてひなた、かえでさん、ここなちゃん、それにほのかだっている。きっとうまくいくはずだ。とりあえず、今の私にできるのはこのくらい。

 

 後はひなたの案だけど、あいつまだ来ないのかな。

 

「おおー、元気になったね」

「ひなた!?」

 

 来てた。テーブルに肘ついてせんべいかじってる。いつの間に。

 

「二人とも真面目な話で夢中になってたからさ。勝手に入ってきちゃった」

「もう、空き巣か!」

「うんうん、元気になったね。うちのあおいがお世話になりまして、マヤさん」

「いえいえ、こちらこそ」

「誰なのよ!」

 

 あおいちゃんの反駁をさらりと受け流し、ひなたはお茶でせんべいを流し込む。

 

「あおいの悩みも解決したことだし、たまには山以外のところに遊びにいこーよ!」

 

 そうしてひなたの提案にのった私たちは、いつものメンバーでお出かけすることになった。

 

 

 

---

 

 

 

 東飯能駅から電車と徒歩で一時間半ほどかけ、いつもの四人プラス私が着いたのは、武蔵森林丘陵公園。東京ドーム六十五個分もある広い国営公園で、いろいろなアスレチックが楽しめる。滑り台や吊橋など高度感のあるスポットもあるから、ここならあおいちゃんが楽しみながら高所に慣れることができる、というのがひなたの思惑。

 

 私の励ましだけじゃ足りないのは分かってる。今回はあおいちゃんを上手いことフォローしつつ高いとこに慣れてもらう。

 

「じゃじゃーん! 武蔵丘陵森林公園にようこそー!」

「楽しんでいってね!」

「二人とも朝から元気ねー」

 

 午前十時、西口から入園したところでひなたが言ったので、私も便乗。かえでさんが微笑ましげな視線を送ってきて、ここなちゃんは「楽しんでいきます!」と笑顔。あおいちゃんは物珍しそうに公園を見回している。

 

 道なりに進んでいくと広場が見えてきた。そこに帆船の遊具が設置されているのを見るや、ひなたが乗り込み「ヨーホーヨーホー!」とはしゃぎだす。パンフレットを見ると、わんぱく広場のげんきもりもり号と言うらしい。

 

「わんぱくでげんきもりもりて、ひなたそのものじゃん」

「ふふっ、たしかに」

「ひなたさん、お似合いです」

 

 海賊ごっこを始めるひなたに、しぶしぶ付き合うあおいちゃん。それを見ながらかえでさんとここなちゃんはクスクス笑った。

 

 しばらく船で遊んでから次の遊具へ。

 

 かえでさんとひなたはブランコに飛びついた。大はしゃぎでブランコを漕ぐ二人が靴飛ばしをするというので、さっと射線から逃れる。いつまでも同じような不運で痛い目見る私じゃないのだ。

 

 二人がどいたのを見て、私もブランコに座る。ブランコなんて何年ぶりだろう。確か最後にやったのは――

 

 あれ? やり方が分かんない。ブランコってどう動かすの?

 

 ま、まあ私には向いてないんだろう。たぶん。すごすご下りるよ。

 

 次にみんなが向かったのはピラミッドロープ。ピラミッド状に編まれたロープの上を飛び跳ねたり、頂点の部分までよじ登ったりしてる。楽しそう。

 

 お、ひなたとあおいちゃんが降りてきて新しい遊具にとりついた。ぶらさがりシーソー。二人同時にぶら下がって、重たい方が負けと。これなら遊び方も分かりやすいし、私の体重なら無敵だ。当然、勝負を挑みに行く。

 

「その勝負、私も混ぜてもらおうか」

 

 ふふん、やはり最強。 

 

 ひなた、あおいちゃん、かえでさんはもちろんのこと、ここなちゃんにまで勝った。女の子の体重は軽ければ軽いほど偉いらしいから、私はみんなよりも偉いことになる。

 

「不健康に軽くても偉くない! きちんと三食食べてる!?」

「た、たべてますよ」

「私の目を見て!」

 

 偉い、はずなのに。なぜかかえでさんが食生活のお説教を始めた。たしかに山道具やアウトドア雑誌を衝動買いしてその日の夕飯が抜きになることもたまにあるけど、基本的には三食食べてる。だから私は悪くない。

 

 かえでさんの剣幕に圧され、脱兎のごとく駆け出す。遊具の間をすり抜けて鬼ごっこしていると、

 

「捕まえました!」

 

 前から急に出てきたここなちゃんに捕まえられた。後ろからはかえでさんの手が両肩を掴む。鬼がこっそり一人増えるのはずるいと思う。

 

 後ろを振り返るのが怖くてここなちゃんと見つめ合う。すると、ここなちゃんは困ったように眉を八の字に。

 

「マヤさん、大丈夫ですか?」

「体重のこと? 発育の早さは人それぞれだよ」

「そうじゃなくて、いえそれもありますけど。今日はいつもより元気がないので」

「たしかに、あんまり遊具に触ってないわよね」

 

 バレてた。

 

 体調不良とかではないけど、先程衝撃の事実が判明したせいで、遊具に触りたくない。事実の内容は言いたくない。なので、黙秘権を行使します。

 

「マヤさん……」

「マヤちゃん?」

 

 ダメだった。純真な瞳でまっすぐ心配してくれるここなちゃんと、後ろから「吐きなさい」とプレッシャーをかけてくるかえでさんの挟み撃ち。晒すしかない、我が恥。

 

「じ、実はですね、公園で遊ぶのって初めてでして」

「え?」

「滑り台とかブランコとか、遊び方がよく……知らないの、バカにされるかなって……」

 

 晒してしまった、我が恥。

 

 さっきのブランコで気づいた。公園で遊ぶのは今日が人生で初めてだ。幼稚園は通ってないし、お父さんは仕事か山。お母さんはまったく構ってくれなかったから。

 

 遊び方は見てたら分かる。でもブランコは難しくて動かなかったし、すべり台はお尻をやけどしそうで怖い。私よりずっと年下の子どもたちが遊んでるものが出来ないなんて、言いたくなかった。

 

 ほら、私の無知っぷりにここなちゃんもかえでさんも絶句――

 

「そうだったんですね。じゃあいっしょに遊びましょう!」

「誰でも最初は初めてなのよ。分からなかったら聞いていいの」

 

 してなかった。

 

 それどころか、にっこり笑って私の手を引き、背中を押してくれる。

 

「まずはブランコにしましょう!」

「え、大丈夫? 落っこちたりしない?」

「大丈夫、だと、思います、たぶん!」

「マヤちゃんならもしかして……」

「めっちゃ不安なんですけど! ちょ、最初はもっと簡単なのから――」

 

 かつてないほど歯切れの悪いここなちゃんとかえでさんのつぶやきでまた怖くなったけども。

 

 私の公園デビューは、高一の夏にようやく果たされた。

 

 

 

---

 

 

 

 広場で遊び回っているとあっという間にお昼の時間。屋根付きの木のテーブルについた私たちは、持ち寄った手作り弁当を取り出すためかばんに手をかける。フリーズドライ禁止で各々お弁当を持ってくることになってたんだ。

 

 まず披露したのはあおいちゃん。ごはんとおかずで構成されたオーソドックススタイル。ケチャップで描かれた山っぽいキャラがかわいい。

 

 次にここなちゃん。フルーツサンドにうさぎさんりんご、手作りクッキー。妖精さんのお弁当がテーマらしい。かわいい。

 

 かえでさん、おにぎり五個。シンプルかつ腹持ちを重視した構成。かえでさんらしい。

 

 次、ひなた。

 

「次、マヤちゃん!」

 

 あ、私だった。

 

 この時を待っていた。もう体力と登山以外取り柄のないポンコツとは言わせない(誰も言ってないけど)。生まれ変わった私の女子力を見るがいい。

 

「おおー!」

 

 驚いてる、驚いてる。日の丸ごはん、きんぴらごぼう、ハンバーグ、唐揚げ、ほうれん草にたくあん。見た目は普通だけど、栄養まできちんと考えて作った自信作だ。

 

「で、誰に作ってもらったの?」

「私だよっ! 料理は師匠に教わったんだ!」

「あのマヤちゃんでさえこのレベル……私って一体……」

「かえでさんのおにぎりもとっても素敵ですよ!」

 

 かえでさんが地味に私まで傷つく落ち込み方をしてたり、替え玉を疑われたり、百パーセント思った通りの反応ではなかったけど高評価には違いない。

 

 料理はかえでさんのお母さんとひなたのお父さんに教わった。お泊り代として家事手伝いを申し出たらついでに教えてくれたんだ。包丁が怖くて料理は敬遠してたけど、やってみたら結構面白い。ほのかも嬉しそうに食べてくれたしね。

 

「でもこの傾き方、マヤさんらしいですね!」

「ここなちゃんそれは言わないで!」

「うんうん、この残念感こそマヤだよね」

「ひなたはお黙り!」

 

 かばんへの入れ方が悪かったのか、傾いたご飯がおかずを圧縮しているのを除けば完璧な出来だ。女子力アピールができたので満足。

 

 で、大トリのひなたの番になる。はたして私の女子力満載スペシャル弁当に勝るものは出てくるのか。答えは否。ひなたの女子力は高く見積もってもかえでさんより少し高い程度。私の完全勝利は決まったも同然――

 

「バカな、重箱だと!?」

 

 ひなたがドヤ顔で取り出したのは三段の重箱。中には色とりどりのおかずがぎっしり詰め込まれている。そのお弁当が発する女子力値はもはや計測不能だ。まさかひなたがこれほどの使い手だとは。

 

 私が戦慄していると「絶対ひなたが作ったんじゃないでしょ!」とあおいちゃん。

 

「お父さんが朝三時に起きて作ってくれたよ! すっごく張り切ってた!」

「ずるぅー!」

「朝三時って夜中ですよね……」

 

 そういえば師匠、ひなたにデレデレなんだった。ずるい。我が女子力のインパクト薄れちゃったよ。

 

 釈然としないうちにみんながハシを伸ばす。

 

 私はしばらくむくれていたけど、隣のここなちゃんがひたすらおかずを食べさせようとしてくるので、我に返って食事を楽しんだ。スキあらば私に何かを食べさせようとするのはここなちゃんの困った癖だ。

 

 女子力弁当のおかずは、みんなに「おいしい」と言ってもらえた。

 

 

 

---

 

 

 

 あおいちゃんが高所に慣れるお手伝いをするという目的を途中からすっかり忘れていたけど、そこはひなたがうまくやってくれたみたい。吊り橋のたもとで足の止まったあおいちゃんの手を引いて、いっしょに前へ進んでいた。手を取り合って歩む二人の間に割り込む隙間はなかった。あおいちゃんのことは、やっぱりひなたに任せるのが一番だ。

 

 というわけで私は開き直って公園のアスレチックを楽しむことにした。

 

 今は吊り橋の先にあったぽんぽこマウンテンでぽんぽん跳ねている。トランポリンみたいに弾むけど、この山何で出来てるんだろう、面白い。

 

 けど油断はできない。下手に高いところで跳びはねてバランスを崩せば滑落するからね。低いところで地味にぽんぽんしておこう。

 

「マヤさーん! こっちの方がよく跳ねますよー!」

「事故るからやめとくー!」

「えー!?」

 

 山頂の方で跳ね回るここなちゃんに断りを入れておく。

 

 私だっていつまでも同じレベルのドジは繰り返さない。せっかくアピールした女子力を変な失敗で帳消しにしたくないんだ。私はこのまま料理のできるお姉さんとして飯能に帰るんだ。

 

「ぐはぁっ!」

 

 帰るんだ、って言ったのに。

 

 横から強い衝撃。ぐるぐる回る視界の中、山頂の方から滑落してきたあおひなコンビに轢かれたことが分かった。

 

 ふもとまで三人で転げ落ちたかと思うと、二人はなぜか私を尻にしいたまま良い雰囲気で語りだす。

 

「いてて、調子に乗りすぎた」

「ごめんひなた……」

「それよりあおい、高いところ平気だったじゃん」

 

 そうだね。吊り橋も、ぽんぽこ山の山頂も平気だった。楽しんでたからか、夢中になってたからかは分からないけど、あおいちゃんは高いところで楽しく遊んでいた。それはきっと谷川岳での自信につながるはず。あおいちゃんを慣れさせるひなたの思惑は、うまくいったと思う。

 

「ひなた、ありがとう」

「ん、何が?」

「……ううん、いいの。そうだ、さっきマヤちゃんの声しなかった?」

「そういえば、富士山で足つったときみたいな声が……」

「二人ともー! 下、下!」

「うわっ、マヤ!?」

「大丈夫!?」

「あおひなに、はね飛ばされて、下敷きに……お尻の下で、我果てるなり……」

「辞世の句詠んでないで、しっかりしてよ!」

「マヤちゃん、傷は浅いわよ!」

 

 谷川岳でほのかと会う約束は果たせそうにない。あおいちゃんとひなたが二人の約束を果たすのも見届けたかったけど、私はもうここまで。なーに、友だちもできて女子力も習得して、私の人生は最高だったさ。

 

 みんな、私のことは忘れて、強く生きてね。

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