山の頂にあるものは   作:息抜き用ID

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ほのか視点

 私、黒崎ほのかは友だちがいなかった。

 

 誰かに歩調を合わせるのが苦手で、自分のペースで動いちゃう。そのくせ話すのも得意じゃないから、空気が読めない子って言われてクラスでも浮いてた。一人でいろんな景色を撮って回る趣味も、分かってくれる子はいなかった。

 

 そんな私が分かってくれる子――マヤと出会ったのは谷川岳だった。

 

 その日は曇り。曇り空を背景に天狗の留まり場を撮ろうとしたら、ファインダーの中にマヤがいた。

 

 岩の上で膝を抱えてぼうっとしてたけど、私に気づいたらすぐにカメラ目線。きりっとした顔でピースするから仕方なく撮った。

 

 そしたら天狗みたいに素早く下りてきた。

 

「きれいに撮れた?」

「う、うん。ちょっと待って」

 

 カメラを操作して確認。

 

 写真の中のマヤは目を閉じてた。ピースサインが空しく見えた。

 

「リテイクっ!」

 

 とりあえずもう一枚撮ってあげたら、笑顔で手のひらを出してきて。

 

「撮影料」

「……いくら?」

「百万円」

「ごめん、無理」

「あっ、君は同胞だな! 友だちになろう!」

「え、ええー……?」

 

 意味不明だったけど、同い年くらいの女の子と山で話すのは初めて。それにマヤの方がたくさん話してくれるから話下手の私にはうれしくて、山小屋までいっしょに歩いた。

 

「いやー、冗談を大真面目に返すあの話術! まさしくほのかは陰の者だ!」

「むっ、マヤが冗談下手なのが悪い」

「そんなことないよー」

「ある」

 

 マヤは山に来るとはしゃいでおしゃべりになる性格みたいで、山小屋だと終始話しっぱなしだった。でも変に踏み込んでこないし、私が眠くなってきたら声を潜めてくれたり、変なとこで気が利く子だった。

 

 だから私の方から一歩、踏み込んでみたくなった。

 

「ねえ。会ったとき、岩の上で何してたの?」

「んー? お父さん山頂にいるかなーって考えてた」

「山頂に? 待ち合わせ、してるの?」

「この山じゃしてないね。つーかお父さん死んでるし。でもワンチャンいるんじゃね、ってさ」

「??」

 

 マヤも寝ぼけてたんだと思う。私も眠くて、この日は言葉の意味も分からないまま寝た。

 

 意味が分かったのはつい最近だった。

 

 

 

---

 

 

 

 消灯後の山小屋。カメラの液晶から漏れるかすかな光だけを頼りに、私とあおいちゃんは話し合う。

 

 話題はずっとマヤのこと。初めて会う子でもマヤの友だちなら、共通の話題があるから仲良くなれる。そう開き直って今日を迎えたら、本当にそのとおりだった。飯能でもマヤらしく元気にやってて、そのことをとっかかりにたくさん話した。

 

 二人っきりがいい。マヤ以外の友だちなんていらない。そうやって拗ねる私を心配してれたんだ、とは分かってた。分かっててもつい心がざらついて、マヤと距離をとっちゃった。明日はたくさん話したい。

 

「そうなんだ。昔から変わらないんだね、あいつ」

「……うん」

 

 今はマヤと会ったときのことを話し終えたとこ。あおいちゃんは穏やかな笑みを浮かべてる。

 

「あのさ、ずっと言いたかった」

「なあに?」

「ありがとう」

「へ?」

 

 マヤのご両親がいないことは知ってたし、そのことで何か悩んでるのも察してた。でもマヤは弱みを見せたがらなくて、寂しそうにしててもすぐにふざけて誤魔化しちゃう。一歩踏み込めないまま時間だけが過ぎ、あの日がやってきた。

 

 マヤの故郷に遊びに行った車中のこと。何気ない口調で語られたマヤの近況報告で、悩みの正体を知った。

 

 友だちの力になれなかった悔しさ。何もできなかった罪悪感。いろんな気持ちが湧いたけど、一番はマヤを助けてくれた友だちへの感謝だった。

 

「困ってたマヤを助けてくれて、ありがとう。私じゃ何もできなかった」

「ううん、いいの」

「そうだよ。それに何も出来ないなんてことない」

 

 あおいちゃんの隣から、ひなたちゃんが急に顔を出す。あおいちゃんいわく一番うるさいやつ。にぎやかな面白い子だけど、なぜか本能的に警戒しちゃう不思議な子。

 

「知ってる? あいつがあんなにニコニコしてるの、ほのかちゃんの前だけなんだよ」

「え、そうなの?」

「うん。きっとほのかちゃんにだけ見せられる一面があるの。それはきっと、あいつの助けになってると思うな」

 

 そうなんだ。

 

 何もしてあげられないと思ってた。肝心なとき傍にいてあげられないって不安だった。でもマヤが私にだけ特別に見せてくれることがあるなら。友だちとして、うれしいな。

 

「ま、一番付き合い長いのは私だけどね!」

 

 あおいちゃんが急に付き合いの長さをアピール。なぜかイラっとした。

 

「付き合いの長さは関係ないじゃん。大切なのは距離感だよ。私みたいに近くで付き合うのがいいの」

 

 ひなたちゃんは距離感アピール。やっぱりイラっとした。

 

「何よ!」

「何!?」

 

 けれど仲良く頭を突き合わせてにらみ合う二人を見ているとおかしくて。その中心にマヤがいると思うとアタフタする姿が見えるみたいで、よけいおかしくて、つい笑いが漏れちゃった。

 

「ほら、ひなたが変なこと言うから。ほのかちゃんに笑われた!」

「はあ!? あおいが訳分かんないこと言うからでしょ!」

 

 小声でケンカを始める二人は息が合ってた。そういえば、二人が小さいころ交わした約束を果たすために谷川岳に来たんだっけ。こんなに楽しくて優しい二人に思われてるなんて、マヤの幸せ者め。

 

 当の本人はここなちゃんに抱き枕にされて寝ている。寝る前に、ザックと登山靴装備のむーまくんストラップをプレゼントにあげたら、感極まったここなちゃんが抱きつき、そのまま寝ちゃったんだ。大分強く抱かれているからか、「ううん、ドラゴンスリーパー……」ってうめいてる。

 

 いいなあ、ここなちゃん。私もマヤが欲しい。

 

 欲しいなあ。

 

「ねえ」

 

 言い合いを続けるあおいちゃんとひなたちゃんに、割って入る。

 

「渡さない。マヤは、私のものだから」

 

 同時にカメラの電源を落として真っ暗に。

 

 暗闇の中、雨音しか聞こえないけれど、二人が絶句しているのが目に見えるようで。

 

 私は変に高揚しちゃって、結局その日はよく眠れなかった。

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