ドロドロのシンデレラナイン   作:カチュー

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メンバーの加入順は基本的にアニメ順守となります。


#2 野崎夕姫の初めてとなる異性の友人

 女子野球部部員の野崎(のざき)夕姫(ゆうき)は湯船に浸かり、一日の練習の疲れを癒していた。

 翼に突発的に誘われた野球部であったが、思いのほか楽しい。団体競技でありながら、個人競技でもある野球というスポーツは夕姫にとってこれ以上ないぐらいマッチしていた。

「早く明日になってほしいです……」

 明日は休日だが、監督である彼と個人レッスンの予定だ。翼も経験者であるが、コーチング能力は低い。彼女は感覚で全て行ってしまうため、表現がアバウトなのだ。

 夕姫も分かるように努力はするが、それでも完全に理解できないことがある。そういった時に翼の言いたいことをうまくまとめ、体の動かし方を教えてくれる彼。

 夕姫から見た彼の第一印象はとても優しげで大柄な男の子といった印象だった。168cmと女性にしては体格の良い夕姫を持ってしても、見上げる形となる高身長と服の上からでもわかるほど鍛えて上げられている肉体。

 そして、逞しい肉体とは裏腹な穏やかで優しい性格は男性ということで身構えていた夕姫の心を僅か数週間で解きほぐしていった。

 

 今日も彼が教えるために直接体に触れられることがあり、恥ずかしくて顔を赤らめてしまったが、彼が真剣な表情で教えてくれるのを間近で見て、不埒なことを考えているのは自分だけなのかとより一層恥ずかしくなった。

 また不埒なことを考えずに野球に対して真摯な彼に対する夕姫の評価はまた更に上がった。

 その後は一瞬だけ無表情になった翼に「私も教えて!」と催促され、すぐに離れていったが正直なところ、もう少しだけ教わりたかった。

 何よりも、だ。翼が嬉しそうに体をくっつけて彼に教わっている姿を見て、表現し難い感情が夕姫の胸の中をざわつかせた。

 鬱屈した感情を解消しようと部活帰りにSNSで個人レッスンを頼んだところ、快くOKをしてくれた。なので、夕姫は今から明日のことを考えてウキウキしていたのだ。

 

「明日は宇喜多(うきた)さんも誘うべきでしょうか……」

 翼たちは予定があるみたいなので、せっかくだし野球部のメンバーである同級生の女の子を誘うか思案するも、誘わない方向に考えを改めた。

「明日はせっかくの休みですし。宇喜多さんも疲れ切って、練習後にウトウトしていましたから明日はゆっくり休んでいた方がいいですよね」

 それがいいと夕姫はそれっぽい理由を並べて湯船の中で一人で頷いた。そして時間を忘れて、明日の構想の練ったせいで母親に声をかけられるまでぬるくなった湯船に浸かっていたのは内緒の話である。

 

※ ※

「おはようございます! ごめんなさい、遅れちゃって!」

 翌日。雲一つない快晴に朝9時前からグラウンドに集まった夕姫。9時半開始予定であったが、彼はそれ以上前に来てグラウンドの整備を行っていた。学校指定のジャージ姿の彼は夕姫を見かけると朗らかに口元を緩めた。

「おはよう、野崎さん。俺が早く来すぎちゃっただけだから、気にしないで」

(なんだかデートみたいなやり取りです……ふふ)

 言葉のやり取りがテンプレートなデートの待ち合わせみたいで夕姫はおかしくなって笑ってしまった。怪訝な顔をした彼であったが、すぐに気を取り直して、手をパンと叩いた。

「よし! 野崎さんも早く来てくれたことだし、準備運動してから早速練習を始めようか」

「はい!」

 

 二人はグラウンドを軽くランニングをして、準備体操及び柔軟体操を念入りに行う。

「あ、あの。そこは」

「ご、ごめん」

 その際にジャージ越しから背中を押されたのであったが、ブラジャーのホックの部分に手が当たり流石の彼も耳が赤くなっていた。ちょっとしたハプニングがあったものの、柔軟体操を続行した夕姫であったが、この柔軟体操がかなりきつかった。

 

「痛い! 痛いです!」

「駄目だよ。もっと足を広げて」

「や、やめてください。これ以上は、もう!」

「……野崎さんの声を聴いていたら、もっとやりたくなってきた」

「え、嘘ですよね? ……ああっ!」

 人に聞かれたら誤解を招くような発言と喘ぎ声を上げる。野球のことになるとちょっと意地悪になる彼を恨めしく思うも、彼のことがまた深く知れた気がした。

 何故だか、そのことに嬉しいという感情の他に優越感を感じる自分がいた。嬉しいのはわかるが、優越感に関しては何に対して、誰に対しての優越感なのかが夕姫にはわからなかった。

 しかしながら、彼との交流のおかげで夕姫の昨日のモヤモヤした感情はたった数十分でどこかに吹き飛んでいた。

 

 

「それでショートバウンドのゴロの捌き方は、こう態勢を低くしつつ……」

「こう、ですか?」

「そうそう。で、そのまま捕球したらすぐに送球に移れるように体を……」

 昨日の続き、そして新しい技術を彼から学ぶたびに自分が成長していることを感じる。今までやってきたスポーツよりもとんとん拍子で出来ることが増えていくことが練習の辛さ以上に楽しかった。

 

「よし、クールダウンも終わったし一旦お昼休憩にしよう」

「はい!」

 あっという間に3時間が過ぎ、もうお昼過ぎとなっていた。春先なので風が少し冷たく、運動が終えた体には肌寒いかもしれない。

 一度ドリンク補給をして、一息ついた夕姫は内心ドキドキしながらスポーツバッグからとある物を取り出す。

「あのっ! 良かったら、これ作ってきたんです!」

 今日の朝から早起きして母親にもからかわれつつも手伝ってもらい、作ったお弁当だ。不慣れだったもので悪戦苦闘したが、出かける前になんとか完成に辿り着いたのだ。

「もしかして、お弁当?」

「はい。その、上手に出来たかわからないんですけれど……食べてもらえますか?」

「よっしゃ! めちゃくちゃ嬉しいよ! ありがとう、野崎さん!」

 お弁当の中身は卵焼きとウインナーと小さいハンバーグ、そして色合わせにレタスとほうれん草のソテーと男の子が好みそうなレパートリーが盛りだくさんであった。

予想以上に効果覿面で弁当の中身を見た彼は子供のようにはしゃいでいた。暖かい目で見つめていると、照れくさそうに彼ははにかんだ。

「俺、ハンバーグとか卵焼きとか、あとカレーのような子供が好きな料理が大好きなんだ」

「そうなんですね」

「やっぱり子供っぽいかな?」

「いえ、背伸びして大人ぶっているより全然いいと思います」

 大人ぶってカッコつけているより、ありのままの裏表ないほうが夕姫にとって好感が持てる。それに自分が作った料理をこんなに喜んでもらえて、胸の奥が春の陽気にまで照らされているように暖かくなった。

「じゃあ、早速食べてもいいかな?」

「はい、どうぞ」

「それでは、いただきます!」

 緊張から心拍数が上がっている夕姫を横目に真っ先に卵焼きに被りついた彼であったが、箸を持ったまま硬直してしまった。そして、水筒を持ってきて、急ぎ早でスポーツドリンクを注ぐと一気に飲み込んでいった。

「ごめん、ちょっとしょっぱかったかも……」

「え? しょっぱい、ですか? 卵焼きは砂糖を入れたはず……ああっ! ごめんなさい!」

 砂糖と塩を間違えて入れるなんて、ありふれた漫画のキャラクターが行いそうなことではないか。どこか抜けていると夕姫はずっと言われ続けてきたが、今日この時ほど抜けている自分を呪ったことはなかった。

「大丈夫。米と一緒に食べればそんなことないし、甘口よりもちょっとしょっぱいぐらいのほうが味付けとしては好きなほうだから」

彼に気を遣わせてしまい、胸の奥は陽だまりから猛吹雪へと一瞬で天候変化した。氷点下にまで気分が落ち込みそうになった夕姫であったが、彼は笑みを絶やさないまま弁当にかぶりついていた。

「うん。卵焼きも柔らかいし、ハンバーグは煮込んでいて味が染みているしうまい! ウインナーも最高!」

「別に無理して食べなくても大丈夫ですよ……」

「いや、本当にうまいって。ただ、また機会があるなら塩分を控えめに入れてくれると嬉しいかな」

 野崎さんの手料理が食べられる機会なんて、そうそう無いと思うけどね。と冗談ぽく言った彼は美味しそうに夕姫が作った弁当を食べ進めていく。卵焼きを食べるときだけドリンクを用意しているが、嘘はついている様子はない。

(お弁当作ってきてよかったです。男性にお弁当を作る女性の気持ちがようやく実感できました)

奉仕する喜びとでも評したらいいのか。彼のために尽くすことが至上の幸福に感じる。

「ご馳走様でした」

「はい。お粗末様でした。それで……その、もしよろしければ次の個人レッスンのときにお弁当作ってきますね」

「よっし! でも、全員がフリーになることは無いから当分お預けだよなあ……残念」

「……そうですね。残念です」

 その言葉を聞いて、夕姫は心の中で彼以上に残念がった。土日も予定が無ければ基本的に部活参加。全員が全員用事があることなんてそうそうないのだから。

 

「いよっし。休憩したし、朝の復習から再開しようか」

「はい! お願いします!」

 

(だから、今だけは彼のことを独占していても罰は当たりませんよね?)

 

 彼との関係は野球部の監督であり、同級生であり、初めてとなる異性の友人だ。彼とはまだ出会ったばかりで彼に対する好意はあくまで友達の延長線であり、恋愛感情ではない。いくら何でも出会って数週間の人物に恋心は抱くことは難しいだろう。夕姫は彼に対する溢れそうになる感情を自分なりに分析していた。

 

 仲の良い友達であるならば独占欲を持っても仕方がない。

 他の子と話していると胸の奥がひりつくのも友人を取られた感覚に違いない。

 自分だけを見て欲しいなんて、仲が良ければ異性・同性関係なく当然の心理なのだ。

 

――野崎夕姫は友人(・・)として彼のことが好きである。

 

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