ドロドロのシンデレラナイン   作:カチュー

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#7 東雲龍の嫉妬

 東雲龍には目標がある。

 一つは女子でありながら、プロ野球選手になること。女だから通用しないなどという世間一般のくだらない一説を自身の実力で必ず覆して見せると日々努力を重ね、自身が女子であるという象徴の長髪を願掛けにして、逆境の中を戦い続けてきた。

 そして、もう一つの目標が――

「彼とプロの世界で戦うこと、だったのに」

 自宅の練習場で龍は一人で呟く。小さく漏れた声は自分でもわかるほど落胆していた。

 龍もまた彼の野球に魅了された者の一人であった。初めて彼のプレイを見た時、体中に電流が走った。

 正確無比な制球かつ恐るべき球速、球威のある速球。味方のエラーによりピンチになっても動じない精神力。類まれなバットコントロール。芯を外しても無理やりスタンドまで持っていくパワーと豪快なフルスイング。

 間違いなく彼は打撃も投球も世代ナンバーワンだった。数十年に一人の逸材である彼が将来プロに行けるのは、誰の目から見ても当たり前のことだ。

 同世代の誰もが彼に憧れた。憧れという感情とは無縁と思っていた自分も例外ではなかった。野球をしている彼は輝いていて、龍が出会ったどの男の子よりもかっこよかった。苦痛であり義務であったハードな練習も彼と対戦するためだと思えば、全然足りていないと思えた。

 練習後の空いた時間はお気に入り登録した彼の試合を何度も何度も視聴し、自分に取り入れようと熱を入れた。失いかけていた野球をする楽しさや意義を彼は思い出させてくれたのだ。

――参考にしすぎて調子が一時期下がったことは汚点ではあったが。

 

 そんな逸材である彼をプロの世界で自分が倒す。そして、彼とお互いが意識し合うライバル関係になる。彼と一緒にプロ野球を盛り上げていく、はずだったのだ。

「はあ……」

 今日のノルマである素振りを終えた龍は近くに置いてあった常温のスポーツドリンクを手に取って、休憩を取る。空を見ると満点の星空が龍を見下ろしていた。

 良好な天気とは違い、今日のトレーニングはいまいち集中し切れていなかった。原因はもちろん彼と――龍がライバル視している有原翼のせいである。

 翼を一方的にライバル視しているのは訳がある。翼が自分と同じ女子でありながらに自分以上に才能に恵まれた選手であることが理由の一つだが、それ以上に大きな要因がある。

 

「有原さんは私と彼の対決の機会を奪っていった……」

 

 リトルシニア準決勝。勝てば決勝であると同時に彼と対決できる絶好のチャンスだった。そこに立ちはだかったのは彼女だった。

 7回裏に龍のチームは3点リード。勝利まであと一歩だったが、味方の2連続エラーにより2アウト満塁。非常に重要な場面で翼に打席が回り、彼女は一振りで試合を決めた。

――逆転サヨナラ満塁ホームラン。彼女にとっては天国、龍にとっては地獄の結末を突き付けた。

 その後、決勝戦で彼と対決をした翼の満ち足りた幸せそうな表情を現地で見た龍は――口元から鮮血が出ているのにも気づかないほど、嫉妬した。

 

――そんな楽しそうな顔をしないで。本来なら、あの場所には私が立っていたはずなのに。

 

 その時は何とか激情を堪え、次の機会があると自分に言い聞かせて試合を観戦していた。しかし、龍に”次”はなかった。

 彼は翼に対して全力投球をした後に肩を壊して再起不能となり、翼が彼と対戦した最後の打者となった。龍は対戦の機会すら与えられないまま、目標の一つを失ってしまったのだ。

 

――どうして、こんな所で無理をしてしまったの? どうして、彼女にだけは全力だったの? 私が相手でも貴方は全力で戦ってくれたの?

 

 時が経っても心の棘は抜け落ちないまま野球漬けの日々を過ごした。目標を見失ってからモチベーションが上がりきらなかった中、彼と翼が自分と同じ高校に通っていることを知った時は驚きを隠せなかった。

 驚きの後に湧いてきた感情は彼に出会えた歓喜と落ちぶれた姿を見た悲しみ。そして、翼に対する業火のごとき怒りであった。満足に野球が出来なくなった彼とは違い、高みを目指せるはずの翼が素人のお遊びに付き合っているのを見ているとイライラが止まらなかった。

 いや、正確には違う。翼が彼を独占するためにお遊びの野球をしていたのが我慢ならなかったのだ。

 それが爆発したのが、今日である。彼に構ってもらうために無意識で媚びを売る彼女が目に付いて、居ても立っても居られなかった。

 その後の展開は龍の狙い通りに事が進んだまでは良かったが、あの時の彼女の執念に一瞬でも気圧されてしまった自分を恥じる。

「ずっと彼を追っていたのは貴女だけじゃないのよ……有原さん」

 多少、言い過ぎたのは認めよう。翼を煽るためとはいえ、度が過ぎることを言ってしまったのだから。彼に対しては本当に申し訳ないと思っている。勝負に勝った暁には誠意をもって彼に謝ろう。

 そう、勝ってから謝るのだ。腑抜けた翼に負けることは1ミリたりとも龍は考えていなかった。

 勝った後は少しずつ翼の立ち位置を自分のものにしていこう。じっくり、じっくりと。確かに実力者であった彼に練習を見てもらうのも悪くないだろう。

 彼と一緒に目指すプロ入りもなかなか魅力的ではないか。なるほど、翼が夢中になるのも頷ける。間違いなく毎日が充足感に溢れかえりそうだ。そのためなら素人たちに野球を教えるのもやぶさかではない。

 これからのことを想像すると、口角が独りでに斜めへと歪んでいった。

「……有原さん、貴女を解放してあげるわ。彼のいない世界へと」

 休憩を終えた龍は長髪を縛り直し、失った未来を別の形で取り戻すためにノルマを超えてバットを振り続ける。

――大事なものを奪われる絶望を有原翼に与えるためにも、絶対に負けられないから。




アニメ版舞子先輩すこ。舞子先輩をドロドロに依存させたい。
でも、やっぱり大正義椎名ちゃんをすこりたい。何故、アニメに出て来んのじゃあ……!
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