あいえす城御前試合   作:徳川さんちの忠長くん

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評価並びに推薦、誠にありがとうございます。感無量です。
IS度は高いけど文がとっ散らかってるかも。
ラファール回。


蜃気楼の錬装士

 織斑千冬を見て、女は思った。

 ──剣一本で空を飛ぶ? そんなに単純じゃない、と。

 

 

 

 ISがこの世に現れた時、被害を被ったものは何だろうか?

 世の半分の男性たち? それもある、が一般の人々の日常とISという超科学との間には、そこまで関連性はない。

 体制の変化に飲まれた政治家? 無くはない、が時流に対応できた者もいる以上、それは甘えだろう。

 最も被害を受けた者の一つ──それは、戦闘機乗り(パイロット)だ。

 

 ──大昔、砲兵は戦場の神と呼ばれた。

 陣地攻略、陣地防衛。海上から陸地へ、陸地から海上へ。

 運用次第で戦場の旗色をガラリと変えるそれを、いつの世の権力者も重視した。

 古代は兵隊の陣形を蹴散らすのに使われ、将軍は『お台場』などと嘯き、北の国は畑産のもの(自国の兵士)よりもこれを崇める。

 ──少し前まで、戦闘機乗り(パイロット)は戦場の神と讃えられていた。

 空から一方的に殴りつける。敵の生産拠点を、防衛陣地を無視して叩く。

 高所を取った方が優位という新常識。

 航空支援という戦術は、それまでの二次元的な戦場観に、新しい一本の軸を加えた。

 ……以上のことを深く実感したければ、映画『プライベート・ライアン』でも観ればいいんじゃないかな?(ダイレクト・マーケティング)

 

 軽い冗談はさておき。

 現代の神、その熾天の座は、ISのものである。

 使える武器はナイフから銃、果ては未来兵器まで多種多様。

 絶対防御の壁を踏破した人類は、未だ存在せず。

 未確認飛行物体さながらの機動性は、かつての空の王を地に叩き墜とした。

 ISという兵種は、攻防速の三種全てにおいて完璧な、矛盾なき武器種である──無論、量産性と選民性を除いて。

 時代は次代の神による王権神授へと移ったのだ。

 

 

 ……だが彼らは、戦闘機乗り(パイロット)達はそれに納得したのだろうか?

 管制は工房は整備士は設計者は、本当に天の位を譲り渡したのだろうか?

 

 天災(太陽)に蝋を焼かれ、土に塗れたイカロス達。

 彼らが再び蒼空を目指した、そんなお話。

 

 

 

「デュノア社長。我々の悲願を、貴方に託しますよ」

「此方こそ、長年のあなたがたのご協力に感謝いたします」

 

 ヨーロッパ、フランス。

 今をときめく、デュノア本社ビルの会議室にて。

 時代の寵児たる男と、敗残兵たる中年の男が、同じ円卓を囲んでいた。

 

 世界に選ばれた男の名をアルベール・デュノアという。

 女性優位が叫ばれる昨今の情勢。

 その中枢たるIS業界において、世界屈指の成功を収めた益荒男。フランス政府の覚えもよろしく、国の行く末をその双肩で背負って立つ男。

 IS業界最大手、世界シェア第三位を誇るデュノア社を一代にて築き上げた立役者。

 この男は紛れも無い成功者だ。

 

 一方、ここにいる名代の中年と、会社で帰りを待つその仲間達。落ちぶれた男達である彼らの間には、共通点が一つある。

 それは、彼らが航空軍事産業に携わっていて、とある一つの会社に勤めているということだ。

 IS全盛期の現代、予算配分は大きく変化している。

 元来金食い虫たる戦闘機に費やすよりも、IS開発とパイロット養成に金を注いだ方が、ローコスト・ハイリターンであると世論も政府も考えている。

 軍縮されたことにより、航空関係者は一様におらはい箱となりつつあった。

 助成金の額も日に日に削られていくばかりの残り香達。

 彼らは皆紛れも無い敗北者だ。

 

 成功者と敗北者。天に翔んだ男と地に堕ちた男。

 本来交わることのない男達。

 とある旧世代(新世代)遺物(傑物)が、そんな彼らを結びつけた。

 

 ──鎖の名をラファール(疾風)という。

 

 ラファール。

 この名を聞いて、世の中の多くの少女達が頭に描くのは、第二世代型デュノア社製IS、ラファール・リヴァイブだろう。

 少しばかり年嵩の、妙齢の女性達ならば、同じくデュノア社製第一世代型IS、ラファールを思い描くかもしれない。

 いずれにせよ、現代におけるラファールとは、 拡張性に優れた(・・・・・・・) デュノア社の誇るIS、という意見が主流だ。

 だが白騎士以前の有識者の間──あるいは軍事オタクの間では今でも──において、その名は別の意味を指す。

 ラファールとはISではない、戦闘機の名だ。

 

 フランス・ダッソー社製戦闘機、ラファール。

 ネイビーの色をした機体が生まれたのは、激動の世紀の最期の年。

 西暦二千年の年の瀬という、まさに一つの時代が終わるその時に、疾風は雲を切り裂いた。

 ヨーロッパの共同軍事開発的動乱──今で言うところのイグニッション・プランに相当する──に振り回された一翼の鳥。

 かの戦闘機の分類はマルチロール機。

 多種多様な装備を換装する(・・・・・・・・・・・・)事で真価を発揮する、拡張性に優れた(・・・・・・・)多用途戦闘機である。

 しばしの間、この銀翼の鳥は欧州の空を楽しんだ後、日の本より来たる白翼の騎士に狩り捕られることとなる。

 政府より無事御役御免を言い渡された疾風だが、関係者達はそう容易く納得しなかった。

 

 ──もっと、こいつに空を飛ばしてやりたいッ!

 

 プロペラの時代から空に拘ってきた渡り鳥。欧州共同体から単独抜け出て、疾風を創り上げた技術集団。

 彼らにとって、空は誇りである。人生である。

 極東から突然やってきた天災に、フランスの空を好き勝手にさせるわけにはいかない。

 勿論、彼らとて世界有数の科学・技術者だ。

 ISと戦闘機。二つの間の数字の差は、天文学的過ぎて埋めることはできない。

 

 ──だから彼らは、飛び立つ時を待つ、一匹の鳳雛に渡りをつけた。

 

 アルベールは類稀な幸運の持ち主だった。

 偶然か運命かはたまた世界の意思か、ISのコアに関わる事が出来た彼は、そのままIS産業の一角に携わることとなる。

 しかして困った事に。

 アルベールには足りないものがわんさかあった。

 まず金がない。ISといえど、類型は兵器だ。とかく金がかかる。まだ(・・)なんの成果もなく、成功者ではない男では、十分な資金が捻出できない。

 次に人脈だ。彼の元には、優秀な技術者も、突飛な開発者も、剛毅な工場主もいない。つまるところ、従順な手足が無く、頭だけしか動かせない。

 そして、ノウハウだ。人型兵器といっても、そこらの少年兵に銃を持たせるそれとはわけが違う。ISとは、既存技術と未来科学のハイブリッドからなっている。未来は勿論、今の(・・)アルベール達では既存知識でさえもやすやすとは使いこなせない。

 最も重要なコアはある。コアだけはある。コアだけしかない。

 彼独力での開発事業は困難だった。

 

 ──だから彼は、かつて空を飛んでいた、燕の群れに手を伸ばした。

 

「──本当に手を貸してくれるのか!」

「無論です、アルベール社長。やりましょう!」

 

 成層圏下の地の底、フランスの下町での同盟だった。

 

 このような経緯で作られ、発展を遂げたのが、ライト兄弟からなる文明の積み重ね、航空産業という巨人の肩に立つIS。

 かつての戦闘機・ラファール(疾風)の流れをくむ名機。

 デュノア社製マルチロールファイター。

 ラファール・リヴァイブ(疾風の再誕)である。

 

 

 

「ところで、社長。うちから出向しております彼女(・・)についてなのですが……」

「ああ、彼女はよくやってくれてますよ」

 

 定例会を終え、簡素な雑談に励む男達。

 その日の話題に上がったのは、某社からデュノア社へと出向している一人の女性についてだった。

 デュノアの躍進の陰には、来客の男の会社が行った様々な投資があった。

 株式や銀行への口利きによる直接、間接を問わない資本投下、自社の技術者や工廠の貸し出し。その中の一つに、お抱えのテストパイロットの人材派遣があった。

 ISは高価なドレスでは無く、人型の戦闘機に近似した存在である。絶対防御を含む搭乗者保護機能こそあるものの、ズブの素人が乗りこなせるものではない。

 高いスペックを十全に活かすには、高G、気圧差、三次元環境といった、地上とは異なる特殊環境に適応できる人間でなければならない。

 IS黎明期における、女性戦闘機乗りの人数は数える程で、民間含めても、全体の一割にも満たない。当時そういった人材は、干草の針、砂漠の金だった。

 パトリシア・ロジェは渡り鳥の会社が保持していた、まさしく貴重な戦闘機乗り(パイロット)にして、潜在的IS乗り(パイロット)である。

 

「そうですね。もうすぐ演習の始まる頃合いです。よろしければ……?」

「是非、顔を出させていただきます」

 

 

 控室の扉が開いた。

 中にいた管制、観戦の女達は、少し緊張した面持ちで二人の男を見やる。自社の社長たるアルベールと、持株会社の男。雲上人の二人が突然来たともなれば、その反応も当然か。

 

「──様。アルベール社長。どうぞ」

 

 と、幾分か肝の座った一人の女が話しかけた。

 ショコラデ・ショコラータと呼ばれる奇矯な女は、演習場を見下ろす一枚ガラスの中央ど真ん中の席に、男達を誘導した。

 ああ、すまない、ありがとう。と言葉を掛け、男達は腰を下ろす。彼らが席に着いたのを確認したのち、小間使いに給仕を頼んだ女は、男達の横の席に座った。アルベールとショコラデは、雇用者・被雇用者の関係ではあるものの、替えが効くか否かという点を踏まえれば、ある意味で対等である。

 男達が実務的な人間を好むというのも相まって、解説を務める際には、席横に陣取ることが普通だった。

 いつものように、来客の男がショコラデに問いかける。

 

「それで、だ。ショコラデ嬢。パトリシア嬢は例の御前試合で、勝ち抜けると思うかね? 空を飛べず、銃も撃てないというのは、我々にとっては辛い条件と思うのだが」

「そうですね……」

 

 女は口を濁した。実際問題、勝てるかどうかを女は保証できなかった。デュノア社の設計思想は、中距離での銃撃戦が主体だ。航空力学をベースとしたマニューバ等も、このレギュレーションでは使えない。

 なんと答えたものか……、そう悩む女をよそに、ガラス越しに眼下を見つめたアルベールは、静かに口を挟んだ。

 

「──勝てますよ、彼女は」

 

 目下では、向かい合う女がふたり。

 女達の間に広がるは、僅かに三十間程の隔たり。

 片方の女の手には、アサルトライフル『ヴェント』が握られており、敵手を喰いちぎるのを今か今かと待ち望んでいる。

 もう一方の眼鏡の女は、全くの無手。無為無策の羊のように、棒立ちになっていた。

 赤い眼鏡は、どこかパイロットゴーグルのように見えた。

 観戦者の要望を受け、管制の女がブザーを鳴らす。

 開始の号令が施設内を走った。

 

 

 

 女達の潰し合いは、銃手が主導権を握る形でスタートした。

 数発の銀弾が、パトリシアを襲う。

 第一の掃射を終えて、局面が落ち着いてから、来客の男は「ショコラデ嬢。やはり銃を持っている方が有利なのかな?」と解説を求める。

 ショコラデは、軽く咳払いをした後、頭の中で説明を纏めた。一見すれば、距離というアドバンテージを活かした銃手の圧倒的優位。しかし、それは表面上の優位に他ならない。デュノアの女は解説を始めた。

 

「必ずしも、そうとは言い切れません」

「ふむ。それはあの盾で防げるからかね?」

「それも理由の一つですね。『ガーデン・カーテン』の防御力は折り紙つきです。『ガルム』ならともかく『ヴェント』では有効打は与えられないでしょう」

「それでは、先程までの一連の流れは失着だったと?」

「……恐らくは。勿論、高速切替(ラピッド・スイッチ)による攻撃の誤認を狙っている可能性も捨てきれませんが」

「一つ、と言ったが、他の理由とはなんだね?」

「やはり、距離を詰められたのが致命的かと」

 

 言葉につられて、男は計器を見やる。

 確かに、六十メートル程の距離が、半分近く縮まっていた。

 

「少しのダメージとの交換で、距離を詰められてしまっています。中距離を保つために引き撃ちすることも可能ですが、地上戦では限度があるかと」

「なるほど。だが、彼女は武器を持っていない。徒手格闘の使い手だったか……?」

「それは──」

 

 クスリと笑って女は説明しようとしたが、不意に「仕掛けます」と呟いた。言葉につられた男が目を凝らすと、無手の女が姿勢を落として疾駆した。反射で銃手は引き金を引く。

 銃弾をけしかけられたゴーグル女は、右手を前に軽く払う。その手にはいつの間にか、銀剣が握られていた。

 

「ああ、そうか、高速切替(ラピッド・スイッチ)か」

 

 男が言葉を漏らす。眼下では、既に銃を持つ者なぞ消えて、両者ともに『ブレッド・スライサー』なる近接剣を示しあっていた。

 女達は剣をぶつけ合せ、鍔迫り合う。金属火花が、女達を彩った。

 同じラファール。同じ武装。完全なるミラーマッチ。

 彼我を分けるのは、やはり技量だ。

 敵手の女が、相手の剣を叩き折らんと脳が筋肉に伝達したその瞬間。

 パトリシアの剣が霞のごとく(・・・・・)掻き消えた。

 

「なっ──────ッ!」

 

 絶句する男をよそに、ゴーグル女は再出現させた剣で敵手を薙ぐ。力が暴発した女はたたらを踏んでおり、姿勢が崩れてしまっていて、剣陣は丁度眼球付近を閃いた。

 たまらず男は問いかける。

 

「あれは一体どういうことかね!?」

「── あれも、高速切替(ラピッド・スイッチ)によるものです」

 

 答えを返したのは、逆隣に座るアルベール。

 闘いに目を凝らしながら、男は続けた。

 

「剣がぶつかる瞬間に武装を拡張領域(バススロット)に差し戻し、隙を作り出して高速切替(ラピッド・スイッチ)で再展開。すると、相手から見れば蜃気楼のように武器がすり抜けたように見えるわけです」

「──。確かに有効な戦術でしょうが、机上の空論めいていやしませんか?」

「ですが、彼女はできる。それが全てです」

 

 そうアルベールは断言する。

 ガラス越しでは、先の一撃がターニングポイントとなったのか、一方的な展開になりつつあった。

 距離を取りつつ引き撃ちを重ねた銃手は、ごつり、と嫌な感触を背中で浴びる。

 演習場の端の端。壁にまで下がりきってしまっていた。目前に迫るはゴーグル女。

 

「ラファールを最も活かす方法は、高速切替(ラピッド・スイッチ)を仔細なく運用すること。これが我が社の導き出した結論で、彼女の取っている方策です」

 

 胸を張ったデュノア社社長の眼下で、一機の疾風が瞬いた。

 銃弾を機体付属盾で逸らし、防ぎ、受け流す。敵手の銃撃を掻い潜る女の左手には、一本のナイフが逆手に握られている。そして懐まで潜り込んだ女は、小さなナイフを両手で振るった。

 ゆらり。

 ナイフが揺らめく、と同時、既に銀刃はそこにはなく。代わりに見えるは死神の大鎌。

 ゴーグルよろしく赤黒く塗られたそれは、銃手の胸元にあてがわれる。掬い上げるように脇下で壁と噛み合わされた鎌先は、深く壁中に差し込まれた。

 最早脱出不可能。

 銃手を捕らえた女は、相手の腹にピンと伸ばした五本の右指を向ける。

 手首を回転させながら、弓のように引き絞られる右腕。それは東洋に伝わる貫手の構え。ただし、女に空手の経験はない。あるのはただ一つ────

 

「──────疾ッ!」

 

 ──── ラファール(疾風)を乗りこなす技量のみ!

 解き放たれ、疾走する女の右腕に、無骨な鱗の殻が蜃気楼のように纏わりつく。灰の鱗から伸びて手の甲の上に添えられたのは、一本揃えの盾殺し(シールド・ピアース)。女の指先が柔らかな肉を貫くと同時、杭打ち機がガコリとノッキングする。古くより風と共にある女は、肉体を添え物に、ただ十全に機体を使いこなすだけ。

 

 敵手の腑を食い破らんと突き出されたのは、これぞまさしく人を越えた捻り貫手(ISによるパイルバンカー)────ッ!

 最後の一撃は、酷く重い。

 

 

 

 数日後。

 パトリシアは社長室を訪れていた。手には先の戦闘の報告書と、用いた戦術考察が纏められている。

 彼女の最近の仕事はそれだ。ラファール・リヴァイブでの戦闘におけるマニューバ構築と、高速切替(ラピッド・スイッチ)を用いた戦闘術理の発展。

 遠い未来ならいざ知らず、今この瞬間において、ラファール・リヴァイブを最も使いこなせるのはこの女である。

 

「────報告は以上です」

「そうか。御苦労だった」

 

 男は報告を聞き終えると、手元の書き物に舞い戻る。

 

 

 部屋を出たパトリシアの網膜に焼き付いていたのは、社長の記していた可愛らしい一枚の便箋とどこかの家族の写真立て。

 それから、机の上の花瓶に飾られた、一輪の秋桜(コスモス)だった。

 

 

 

 彼女は、かつてラファール(疾風)のパイロットだった。

 彼女は、その資質をISで活かしている。

 彼女は、ラファール・リヴァイブ(疾風の再誕)の第一人者である。

 彼女は、IS企業・デュノア社の礎となる女だ。

 

 フランス代表、錬装士。

 蜃気楼のパトリシア。

 

 

 

 




「速報です。本日未明、仏国・デュノア社が『IS学園の男性操縦者はラファールを使え。さもなくばシャルロット・デュノアを強制送還する』との声明を発表しました」
※ネタです。
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