あいえす城御前試合   作:徳川さんちの忠長くん

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原作キャラ回。改変多数です。


閑話・ヒロイン願望

 

 『自反而縮。雖千万人。吾往矣』

 孟子曰く、「自らの行いを省みて正しいと思うならば、たとえ大勢の他者に否定されようとも、己が道を行くべし」と。

 好漢、英傑、修羅、外道。中国四千年に燦然と連なる綺羅星、 その多くがかの思想に沿った生き様を見せている。

 織斑一夏という男は齢十歳にして、隠しきれない英雄性、武侠たる片鱗を見せていた。

 

 

 

 お日様がろくに顔を出す前の明朝。

 少女は庭先で一人、身体をいじめ抜いていた。

 両脚を軽く広げて腰を落とし、両腕を肩の高さまで引き上げて正面に構える。馬歩站樁と呼ばれるこの姿勢は、文字通り馬に乗っているかのような様相だ。神槍・李書文より長らく伝わる、李氏八極拳の系譜。その末席に連なる彼女もまた、基礎基本より武術体系に入門する。

 深く地面に根を張って、微動だにしない。腕はいつでも前につき出せるように、脚はいつでも前に踏み出せるように。正面に浮かぶ敵を睨んで、少女は理合を究める。

 丹田に意識を集中させて立つ女。彼女はこれを、かれこれ数十分は続けている。身体中にじんわりと汗が浮かび、構えられた拳と、体重を支える下肢はぷるぷると限界を伝える。

 一度でも気を抜いてしまえば、あっという間に膝から崩れ落ちるだろう。少女は意識的に腰を深く落とし、心身の鍛錬を重ねる。筋肉は既に根を上げている。重心は骨だ。深く大地と一体化し、少女は仙骨でもって立った。

 天才肌の少女にとって、小手先の技術、「技」はすぐに身につけられるものだった。だからこそ求むるは「心」と「体」。一朝一夕では身につかぬそれらを、彼女も彼女の師も重要視した。

 

「──よいか、鈴よ。李氏八極拳の術理とは、一に敵を確実に仕留める力を養うこと。二にその一撃を絶対に相手に当てることだ」

 

 鈴は姿勢を保ちながら、師の言葉を脳髄で反復する。

 

「お主は身体が小さい。男のみならず、並みの女でさえ、単純な力比べでは叶わんだろう」

 

 だが、問題ない。呵呵と師は笑って続けた。

 

「大地と合一するのだ、鈴よ。地球の重力をものにすれば、人一人の力なぞ所詮は誤差に過ぎん。お主も神槍や老虎の域に達すれば、そのちんちくりんな身体でも巨漢に勝ることができるやもしれん」

 

 じんわりとした夏の陽気が、鈴の体を締め上げる。鈴の鼻先から、背骨から、肘から、玉のような汗が滴り落ちる。土の地面は、彼女の身体から流れ落ちた雫でほのかに湿っていた。

 だが、激痛の淵にあってなお、その眼は涙に濡れぬことなく、爛々と前を見据えていた。

 

「道半ばで戦うならば、お主ではまだ誰にも勝てぬだろう。お主の境遇では、重力から離れて戦うこともあろう。その時は、技を使ってよい。必倒の為に、剣で補強してもよい。必中の為に、目に見えぬ弾丸を放ってもよい」

「──だが、忘れるなよ、鈴。たかが小手先だけの薄い武術なんぞに溺れてくれるな。

 功夫だ。功夫を積み上げるのだ、鈴よ──」

 

 

 

 凰鈴音という少女が日本に来て初めて受けたのは、無自覚な悪意だった。

 自分たちが思っているよりも遥かに、日本人は外国人に対して厳しい。単一民族、単一言語、島国と三拍子揃った、極めて内向的な国民性。外国人、稀人との接触に乏しい彼らは、自分たちと違うそれらを、度々異物として捉える。

 郷に入っては郷に従え。観光客程度ならまだしも、自分たちのテリトリーに移住してくるならば、それ相応の態度があろうと皆で嘯く。

 小五の時、転校してきたばかりの鈴は、緩やかな排斥を受けていた。

 揶揄い、中傷、嘲笑。足りない知識を繋ぎ合わせて、ようやっと聞き取った日本語の内容がそれでは、つくづく救えない。鈴の耳に入ってくる雑音は、その殆どが彼女の存在を否定するものだった。人種、言語、名前と言った鈴を鈴たらしめるパーソナルなデータを冒涜されることは、鈴の人間性が貶められているのと同義だった。

 鈴の脳髄を、心胆を、精神を、遅効性の毒が回っていく。するすると真綿で首を締め付けられる。彼女自身にはどうすることもできず、蜘蛛の糸に絡め取られる感覚を覚えた。

 鈴を緩慢に殺そうとしていたのは、学校社会というコミュニティに巣食った、一匹の集団心理(化蜘蛛)だった。

 誰か一人、鈴を嫌う悪役がいるわけではない。鈴の持つ致命的な何かが、鈴を虐める要因となっているわけではない。学校という狭い社会の風土そのものが、鈴を追い詰めていた。

 いよいよもって彼女の心身を、いじめという病が冒し尽くすまであとわずかという時──

 

「────やめろッ!」

 

 ──織斑一夏という剣客は、元凶となる集団心理(化蜘蛛)に、ずんばらりんと大上段に斬りかかった。

 今まさに鈴をからかっていた、いじめの元凶の一翼たる少年たち。彼らに対し、ニー・アタックを手土産に颯爽と躍りかかる織斑少年。

 野良犬相手に表道具なぞ使ってたまるか、と自身の納めた剣術理法、戦闘術理を用いず、ステゴロで乱闘に挑む少年。殴り殴られ、机椅子を蹴り散らかして暴れまわる子供達。すぐさま駆けつけた教員に取り押さえられ、両成敗を受けたことでその日は一件落着、と相成った。

 

 翌日、鬱々としながら鈴が登校すると、

 

「おはよう!」

 

 と名も知れぬクラスメイトが挨拶をしてきた。これに鈴は驚いた。つい昨日まで、彼女はクラスにおける中庸派、積極的に虐めてはこないものの、関わりを持とうともしないタイプだったからだ。

 それからも、昨日まで遠巻きに見つめていた学友たちが、自分から続々と話しかけてくる。しかもそれは罵詈雑言などではなく、なんてことない日常の──彼女が欲して止まなかった──会話だった。

 形容しがたい、「鈴を受け入れる空気」がそこには漂っていた。

 

「よぉ、鈴。おはよう」

 

 遅れてしばらく、織斑一夏という男がやってくる。鈴にとって、昨日までで明確に味方と呼べる者は彼だけだった為に、思わず口から問いが溢れた。

 

「アンタ、何かやったの?」

「──? 何が?」

 

 クラスメートに手を回したのか、と言外に問いかける言葉に対し、織斑少年は不思議そうに小首を傾げて問い返す。その言葉は、心が顔に出やすい少年だからこそ、何より信じられた。

 事実、織斑少年は昨日の乱闘以外、一切何もしていない。だがその一気呵成な暴れっぷりは、煮え切らなかった少年少女の心に火を灯した。

 いつものように「なんとなく」鈴を揶揄おうとしたガキ大将を、どっちつかずを気取っていた少年が諭す。

 

「──もう、やめないか?」

「やめるって何をだよ?」

「何って……、凰へのあれやこれやだよ。

 ……別に、あいつそんなにムカつく奴でもないじゃん?」

「………」

 

 クラスのあちこちで、このような光景が見られた。

 元々、別に誰も鈴を嫌ってなんていない。別に誰も鈴を虐めたいわけじゃない。ただ周りの皆がやっていたから何となくやらなきゃまずいかな? という漠然とした空気に従っていただけだった。

 そんな異端者をなじって遊ぶ流行り病(ブーム)は、織斑一夏という特効薬を処方され、快調へと向かっていた。

 過激派を穏健派が宥め、どっちつかずの人間は、一方的な雰囲気が弱まったことで鈴に歩み寄る。

 鈴という個人が、コミュニティの一員として、確かに受け入れられた瞬間だった。

 

 立役者の少年が、少女に笑いかける。

 その時の少女の心は、九割の恋心と、一割の混沌が占めていた。

 

 

 

 それから数年が経ち。

 異邦人たる少女は日本という国土に適応しきっていた。

 未成熟だった身体は僅かながらも成長し、あどけない笑みから煌めく八重歯は、独特の愛くるしさを演出した。子供から大人への成長──身長やスタイルは別として──途中の溌剌な少女は、今この瞬間を楽しんでいた。

 彼女の隣には、築き上げた人の輪がある。さばさばとした剛毅な性格は、女子生徒のみならず、男子生徒にも概ね受け入れられ、コミュニティの中心に鈴はいつのまにか居座っていた。彼女本来の明るい気質が、燦然と発揮されていた。

 朝、登校時間にて。

 

「──一夏! 早く行くわよ!」

 

 制服を身につけた少女が、少年を置いて駆け出す。声をかけられた少年は、苦笑して少女を追いかけた。

 陽光に照らされたアスファルトを蹴りつけて走る少年。

 はなたれ小僧の腕白小僧だった少年は、発展途上の甘いマスクを身につけて、世の少女たちを魅了する。その身体こそ細身だが、一皮むけばぎゅうぎゅうとした筋肉鎧が見て取れて、凛々しく精悍な機能美がそこにはあった。

 ただ雑然と肉体を鍛えるのではなく、幼童の頃に叩き込まれた鍛錬を無意識的にこなした少年。彼の全身は多少錆びついてはいるものの、一つの完成形への道のりを歩んでいた。それは、華美な装丁などを省いて人を斬ることに特化し尽くした、一本の刀であった。

 

 学校に着いた少年達、時計を見れば、朝礼の時間まではまだまだ時間がある。

 「なぜ急いだのか」と少年が問えば、「え? なんとなく?」と少女は返す。少女は脊椎で動いている。考える前に、手を出すタイプだ。今回の行動にも、特に意味はなかった。

 無駄に体力を浪費させられた少年は、がっくりと項垂れて、額から溢れる汗を拭った。

 自らの席に腰を下ろした少年の元に、件の少女が駆け寄ってくる。そのまま近くの席を占領した少女は、少年と膝突き詰めて話し始めた。

 

「────」

「────」

「────?」

「────!」

 

 少年少女は、ぺちゃくちゃと駄弁る。

 今日の朝ごはん、昨今の政治情勢、歴史の宿題なんだったっけ、たまには剣でも振りてぇな……、IS/VSってキャラ差酷くない? 中国一弱なんだけど? 日本イタリアと露骨に格闘機優遇なのは俺もどうかと思う、射撃機なんてどうせ使いこなせないでしょアンタ。

 取り留めのない雑談は、無闇矢鱈にあちこちへ流転する。転がり続けた話題は、昨今話題のとある大会へとむけられた。

 

「──千冬さん、今回の大会も出るんでしょ?」

「ああ、そうだな」

「あれ、一周回って卑怯じゃない? 強すぎて誰も勝てないでしょあんなの。禁止カードじゃない。出禁よ、出禁!」

 

 少女の咆哮は、ある種の真理を突いていた。

 少年の姉である剣豪は、人類の到達点へと辿り着いている。素人目でも、誰が勝つかなんて明らかだ。海外のブックメーカーでは、単勝のオッズが低すぎて場が流れるという珍事が頻発していた。

 控えめに言って、ドッグレースにティラノサウルスをぶち込むような暴挙だった。

 少年はあははと苦笑いを漏らしながら、でもさ、と続ける。

 

「でもさ────千冬姉の剣舞、見たいだろ?」

 

 結局のところ、世論が望んだのは、そういうところだった。織斑千冬という名のプリマドンナが美しく踊るための舞台劇場。大衆の抱くモンド・グロッソとは、そういうものだ。

 

「それにさ、知らない奴が勝つよりも、身内が勝つほうが楽しいじゃん?」

「──それもそうね。アタシ中国代表の顔も知らないし」

 

 そういうものだ。

 

 

 数ヶ月後、織斑姉弟は、モンド・グロッソの舞台へと旅立っていく。鈴も付いて行きたかったが、関係者でもない以上それはできなかった。

 少年少女が喚き合っているうちに、出立の時間と相成った。鈴は、馴染みの国家代表に、大声で声援を送る。

 

「──千冬さん! 頑張ってください!」

 

 剣客は、後ろ手に手を振って、軽く答えた。

 なんの気負いもない後ろ姿だった。

 

 あっという間に試合当日。

 むしゃくしゃしながら、お茶の間のテレビを占領して、少女はポテチ片手に観戦する。たった一枚スクリーン越しというだけで、どうにも熱狂が薄く感じる。

 行きたかったなぁと未練がましく呟きながら、鈴は何処とも知れぬ代表の潰しあいを、胡乱げに見つめる。

 いろんな人がいた。剣、短銃、槍、狙撃、格闘。確かに強い、自分にはできない。でも、千冬さんには勝てない。少女はそう直感した。織斑千冬という頂点捕食者に喰われるための上質な餌の品評会。すごいなぁとは思っても、優勝しろ、と熱意を上げて応援する気にはなれない。

 

「──勝者、日本代表、織斑千冬」

 

 事実、彼女の前に敵は無かった。どんなに武器に自信を持とうと、どんなに距離を離そうと。全てが無意味だ。

 疾風怒濤、一刀両断。現代に蘇った人斬りの前に、全ての競技者達はなすすべも無く斬り捨てられた。

 大会初日が終わって二日目。

 対戦相手はより厳選され、洗練されていた。国家代表たる維持と尊厳をかけて、自国の科学と技量の極値を、全世界にまざまざと見せつけていた。が、織斑千冬という神域にとっては、その徒労は無意味だ。

 直剣使いと対峙しては、斬撃に合わせて霊刀を振るい、剣腹を叩いてたたらを踏ませ、懐へと潜り込む。相手が蹴りや掴みと言った対応を取る前に、右上段から雪片を斬りおろし、流れるように袈裟、逆袈裟斬り。呆然とする相手の脇を、するりと抜けた女は、しゃんと刀を払って納刀する。

 後に残るは、胸元にVの字を晒して倒れる骸のみ。

 銃器使いはなお一層相手にならない。銃口を向けた時、剣客の姿は既にそこにはない。多くの武術家が摺り足等の技術を用いて行く先を誤認させるように、彼女の動きには、前兆、起点、おこりが存在しない。移動、停止、方向転換の合間が読めない彼女に対し、偏差射撃を決めるのは、ともすれば世界征服よりも難しい。やけっぱちの銃弾ばらまきも、斬鉄剣よろしく斬って捨てる。必死に立ち向かう銃手の姿も、側から見れば駄々っ子のようで。

 剣聖が手を伸ばして三尺少しは、彼女の領土だ。

 人も、剣も、銃弾も。王の許可なしに立ち入ることは許されない。

 まさしく暴君の振る舞い。その姿に、鈴は、ファンは、世界は、織斑千冬が優勝トロフィーを掴み取るという予定調和を、幻視した。

 

 

「────────!?」

 

 決勝戦。

 織斑千冬が現れない。蛮声の響くスタジアムは、一言で言えば狂乱だ。

 観客は今や爆発寸前の暴徒と化して。実況解説は役目を放棄し、うわごとたわごとを口にするばかり。アリーナを見れば、イタリア代表の暴風がスタッフに掴みかかって罵声を浴びせている。

 誰もかれもが平静を装うことすらできていなかった。

 テレビの中継が途絶え、しばらくお待ちくださいという無機質な文字列が画面上に浮かぶ。誰かが音声を切り忘れたのか、報道室の混乱が、公共の電波に乗せられていた。

 しかし、恐らくこの番組を見ていた誰もが、そんなことを気にする余裕はなかっただろう。

 それは、凰鈴音も同様だった。

 彼女がブリュンヒルデの座から降りるということに、正直言って実感がわかない。織斑千冬という異常性は、ISという異常性と一緒くたに受け入れられていたのだ。寝て、起きて、朝食を食べて、ISは女性にしか乗れず、織斑千冬はブリュンヒルデ。

 林檎が木から落ちるように、水が下流へ流れるように、ISは超科学の産物で、織斑千冬は世界最強。そんな時代が、始まりの日からずっとずっと、続いてきたのだ。

 世界は、織斑千冬がブリュンヒルデでない世界に、全くの無知だった。

 

 鈴の漂白された頭には、誰とも知れぬ男女の声が、電波を通して聞こえてきた。

 その手に握ったコップからは、飲み残しのコーラがだらだらと床に漏れていた。

 

 

 数日が経って、彼女達がブリュンヒルデ失墜という幻想をようやく肌で感じた頃。

 彼女の想い人が西の地より帰国した。

 織斑姉は、そこにはいなかった。

 織斑弟は、そこにはいなかった。

 そこにいたのは、自信に満ちた面構えをライヒの地に置き忘れて帰ってきた、うらぶれた一匹の痩せ犬だけだった。

 何があったのか問い詰めてやろうとか、優しく励ましてやろうとか、そう言った考えは、鈴の頭から吹き飛んでいった。

 無言のまま、二人は織斑少年の家に向かう。

 荷物を床に置いて、鈴がソファーに腰掛けた時、立ちっぱなしだった少年は、唐突に懺悔を始めた。

 

「────聞けよ」

 

 それは、かつての少年には似つかわしくない金切り声だった。

 

「あの日何があったのか、なんで千冬姉が負けたのか、聞けよッ!」

 

「……どうしたの(・・・・・)?」

 

 少女が面倒くさそうに胡乱げに問うと、少年は堰を切ったように話し始めた。

 

「あの負けは、俺のせいなんだッ! 俺が変な奴らに拉致られて、それを助けるために千冬姉は試合を捨てて助けに来たんだ。俺を、俺なんかを……。

 ──無価値だったッ! 付け焼き刃の技術なんかじゃ、銃には、大勢には、ISには勝てないッ!

 千冬姉が駆けつけるまで、俺は部屋の隅で、震えて待つことしかできなかったんだ……。俺なんかじゃ! ……俺なんかじゃ千冬姉みたいに強くなんてなれない──」

 

 少年が心情を吐露する。

 それを聞いた少女は、いつの間にか用意していたお茶を口に含むと、淡々と切り返した。

 

でしょうね(・・・・・)

「………は?」

「当然じゃない。そんなこと、聞く前からわかってたわよ」

 

 一服した鈴は、きゃんきゃん喚く負け犬に目を見やって話し始める。

 

「千冬さんが負けるはずなんてない。ましてや、大事な試合をサボるような人なんかじゃない。試合よりもっとずっと、大事なことがあったんでしょ。

 ──あの場所にあった千冬さんの大事なものなんて、一夏。アンタしかいないわ。

 ブリュンヒルデなんてチャチな肩書きなんかより、家族を大切にするのは当たり前よ」

 

 それにさ、と鈴は一夏の目を見つめて叱りつけた。

 

「アンタが誘拐されるのなんて、ある意味当然じゃない。将を射んと欲すればまず馬を射よ。弱点を狙う方が楽だなんて、猿でもわかるわよ。

 自分が、弱かった? 無価値だった? ハッ、アンタ新聞もテレビも見ないの?

 ── だから(・・・) ISは世界最強で、女の方が強いのよ。

 アンタがどんなに鍛えても、ISに乗れない限り(・・・・・・・・・)、アンタは弱いまんまよ」

 

 少年を罵倒した少女は立ち上がって、ツカツカと相手に歩み寄り、そのまま少年の目の前に立つ。

 精一杯背伸びをして顔と顔とを近づけて、女は男に啖呵を切った。

 

「──だから(・・・)

だから(・・・)、あたしが、ISに乗れないアンタの代わりに、仇を取って、最強になってあげるわよッ!」

 

 その時の少女の心は、六割の心配と、二割の呆れ、一割ずつの苛立ちと混沌が占めていた。

 

 

 『自反而縮。雖千万人。吾往矣』

 孟子曰く、「自らの行いを省みて正しいと思うならば、たとえ大勢の他者に否定されようとも、己が道を行くべし」と。

 好漢、英傑、修羅、外道。中国四千年に燦然と連なる綺羅星、 その多くがかの思想に沿った生き様を見せている。

 凰鈴音という女は齢十二にして、武の神域、機械乗り達の頂点、ブリュンヒルデ(世界最強)への果てなき道を、今まさに歩み始めたのだ。

 

 

 

 一割の混沌。その正体はヒロイン願望。

 それは王子様の助けを求めるお姫様(ヒロイン)なんかじゃなく。

 それは主人公の寵愛を求める攻略対象(ヒロイン)なんかじゃなく。

 それは両雄並び立つもの。比翼の鳥、連理の枝のように。

 織斑一夏(ヒーロー)に背中を預け、共に戦う凰鈴音(ヒロイン)こそを、彼女は目指すのだ。

 

 

 

 

 




師って誰だよ(困惑)

一夏君ISについて全くの無知だった説は、流石に情報社会では難しいので破棄しました。

李書文で『拳児』がよぎったあなたは僕と握手!
『Fate』が頭をよぎったあなたも僕と握手!
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