あいえす城御前試合   作:徳川さんちの忠長くん

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ISバトル回だからIS度は100%!
『魔剣』リスペクト。


常道不殺(杖道とは殺さないこと)

 織斑千冬を見て、女は思った。

 ──彼女は、私とは対極だ、と。

 

 

 

 剣術。

 それはただ、一つの目的(根源)にのみ向かって集約される。

 剣を振るって起こる結果なぞ──斬って殺す、それしかあるまい。

 故に、全ての剣技は、対象の殺戮に向けてのみ極められる。

 

 では、ここで、『魔剣の話をしよう』。

 そも、『魔剣』とはなんだろうか?

 

 それは星の息吹、輝命の奔流。尊き幻想を束ねし『勝利の聖剣』。────否。

 それは路を外れた非道の呪物。死狂いを束ねし『血吸いの妖剣』。────否。

 それは未来を司る銀の左手。皆の願いを束ねし『守護獣(ガーディアン)の大剣』。────否。

 それは蛇尾より生じた神の器。太陽の国を束ねし『叢雲(くさなぎ)の神剣』。────否!

 

 『魔剣』とは、聖剣に非ず。妖剣に非ず。光剣、大剣、小剣、絶剣、秘剣、神剣、魔剣──────『魔剣』とは、形ある一振りの剣に非ず。

 

 ──『魔剣とは、理論的に構築され、論理的に執行されなければならない』。

 

 『流れ星』、『無明逆流れ』、『昼の月』、『三段突き』、『雲耀の太刀』、『燕返し』────此れが、『魔剣』だ。剣術の極み、斬って殺す。殺傷理論、殺害論理。究極の一を極めし必殺絶死機構。

 

 さあ、『魔剣の話をしよう』。

 織斑千冬。織斑一夏。

 織斑の剣は、須らく『魔剣』だ。

 人と(IS)。人馬一体となった時に発現する単一仕様(ワンオフアビリティ)

 至った女と始まった男。

 彼らの『魔剣』こそ、斬った相手の防壁を、ただ斬って殺す零落白夜(一撃必殺)

 

 

 ──故にこそ、不殺(ころさず)が定められし、女の ()術は、例えその深奥まで極めたとしても、不殺(ころせず)が為に『魔剣』足り得ない。

 けれども、女は殺害ではなく、不殺(ころさず)を誓っていた。

 

 

 

 

 今回の大会において、日本という国は大変優位だった。

 織斑千冬という絶対王者を手持ちにし、王者は魑魅魍魎を乗り越えた優勝者とだけ闘うという、言ってしまえばスーパーシード。情報のアドバンテージも手にしたならば、彼女が敗北するなんて、誰一人として疑ってはいなかった。

 経済的においても、昏き伏魔殿に、徳川という怪婆が潜んでいる。ISが世界に広まるきっかけとなった、全世界によるミサイルの同時攻撃。その標的となった、IS時代始まりの地・日本こそが、この蠱毒を行うに相応しい、などと暴論をばら撒き、いかなる手管か、見事その権利と支援をもぎ取ってきた。議員、官僚といった政治屋共もそれに追従し、まさに温泉気分だった。

 その為、日本から出陣する二人目の(・・・・)代表は、究極的にはどうでもよく、周囲からあまり期待されていない。

 

「やはり、君が出るわけにはいかないのか?」

「すみませんが、大会のルールが、私の戦術と合っていないかと……。私が勝つのは難しいと思います」

 

 何処かの会議室で、官僚と女が話し合う。

 この官僚。実直な性格でのし上がった生真面目な男なだけに、必然性の薄い仕事であっても、最後にはやり遂げようとしていた。

 出場を期待された女は、緑髪眼鏡小身巨乳とどっ(・・)と要素が積み重ねられた女だった。性格も小動物然として、人畜無害そうな女。だが、侮るなかれ、この緑髪。日本の代表を期待されたこの女は、かの織斑千冬にも認められる銃士で、代表候補の小娘の一匹や二匹、纏めて平らげることのできる凄腕だった。その上、『魔剣』を思わせる絶技をも保持していた。

 

「愛用の武器が使えないとなると、君ほどの腕前でも難しいかね?」

「……ええ、そうですね。盾だけだと私の腕ではなんとも……」

 

 女の『魔剣』は絶殺空間の構築。

 鋼糸にて誘導した四枚の巨大盾で、敵の四方を囲んで、殺し間(キルゾーン)を作り上げ、そこに短機関銃をたらふく撃ち込むことで、跳弾と合わせて敵を確殺するという、顔に似合わぬ凶悪な『魔剣』だった。

 官僚が女の出場を求めたのは、偏にこの『魔剣』に魅せられたからだ。

 『魔剣』を振るった時、相手は既に死滅している。『魔剣』保持者は、見るものたちの一方に安心を、一方に恐怖を否応なしに与える。

 平たく言えば、これなら確実に勝てる、と思わせるのが『魔剣』の一要素だ。

 

「ムゥ。……代わりのIS乗りに、誰か心当たりはあるか?」

「──はい! 柊先輩なんてどうでしょう?」

「柊?」

 

 代案を求めた官僚に、緑髪は自らの先輩とやらを進めた。

 官僚は手元の資料を引っ掻き回し、女の名前を見つける。

 柊明日夢。

 さまざまな方式のIS戦闘演習に携われど、その勝率は五割から六割(・・・・・・)程の、取り立てて目立つ所のない女だった。強いて言えば、打鉄(うちがね)に乗っているのに専用ブレード『葵』を使わず、自前の棒を使っていることが多少目を引いた。

 

「──彼女か?」

 

 緑髪が勧めるにしては、なんとも凡庸な女だ。そう思い尋ね返すと、目の前の女はクスリと笑って、資料の一部にマーカーを引き始めた。

 

「先輩の凄いところは、一見わからないんですよね。──これならどうでしょうか?」

 

 女の差し出した資料を訝しげに見た官僚は、思わず「あっ」と口にした。

 

「こいつ、なんでこんな状況でも半々の勝率なんだ!?」

 

 遭遇戦。包囲戦。撤退戦。内通者戦。

 ありとあらゆる不利な環境下でも、天秤を揺らさない女がいた。

 

 

 

 建前でなんと言おうとも、ISには、スポーツの側面と、軍事力の側面があることは、今更否定できない。

 テロの時代において、ISが世に広まったことは、平穏を望む多くの人にとっては不幸なことだった。

 何しろ、ISは隠密性と破壊性の二つを兼ね備えた、人類史に類を見ない、最凶の兵器だからである。

 テロを行う際、賊徒が気を配る点の一つに、武器・兵器の調達がある。

 紛争地のように子供が榴弾を手に入れられるような環境ならいざ知らず、先進国でそれを行うことは非常に困難だ。銃の所持を許されたアメリカでさえ、真っ当なものは登録制になっていることからもそれは窺える。ましてや、かつての悲劇以降、空港等の国の玄関口では、それらの持ち込みが厳しく監視され、テロリストが武器を溜め込むことは難しくなっている。

 だが、ISは違う。たった500足らずの数で、世界を激変させたのは伊達ではない。

 IS乗り(ライダー)は、文字通り単騎で国と戦争が出来るのだ。

 ペンダントだか、装身具だかに偽装したそれを持って、何食わぬ顔で首都に入り込む。で、効果的な場所まで着いたらISを展開。

 後は爆発物でも毒ガスでもばら撒くといい。

 何しろISは、本来宇宙活動(・・・・)を目的としたものだ。極限環境において、装着者の身体の安全を保障したそれは、放射能だろうが、細菌だろうが、はたまた毒ガスだろうがものともしない。一当てすれば、都市機能、国家機能を麻痺させ、破壊し尽くすこともできる。自爆テロを安全に執行できるのだ。

 さらには、拡張領域(バススロット)を武器庫化しておけば、本来不可能なはずの、「テロリストの一人軍隊(ワンマンアーミー)」となることもできる。継戦能力においても、ISは狂気の産物だった。

 入手すれば、誰でも個人で国を落とせる。

 ISによるテロは、国家を殺せる『魔剣』だった。

 

 しかし、何処の政府も、手をこまねいているはずがない。

 目には目を。歯には歯を。ISにはISを。

 生身の人間には絶死の攻撃でも、同じISなら太刀打ちできる。

 日本も万が一、億が一に備えて、テロ対策の訓練を行っていた。

 柊の今日の訓練内容は、都市部の何処かに侵入したIS乗り(ライダー)を速やかに排除することだ。

 舞台は何処かの駐屯地に建設された架空都市。潜むは一人の反乱者。元同僚であることから、こちらの情報は筒抜けで、今日の鎮圧も把握されている。プレハブのビル街は、毒刃煌めく蜘蛛の巣へと変貌している。

 いつも通りの不利な状況。柊は戦場に降り立つや否や、付近のビルの物陰に隠れる。

 ISを初撃で確殺できる兵装は多くない。彼女の知る限りでは、彼女の対偶の女の剣だけだ。だが、それは絶対ではない。彼女が想定したのは──。

 

 ──狙撃無し。付近にも敵影無し。

 

 待ち伏せての、超長距離からの狙撃。

 2017年5月。現実(・・)において、カナダ軍の誇るスナイパーが、狙撃の世界記録を更新した。奇しくも「IS(イスラム国)」の兵士を撃ったそれは、その距離なんと3450メートル。

 生身でさえできるのだ。観測主要らずのハイパーセンサー、PICによる姿勢制御、パワーアシストによる反動の抑制。10キロ先、20キロ先。対物どころか、対IS銃級のゲテモノが出てくる可能性も零ではない。

 女は慎重に──いざとなれば、即時撤退も視野に入れて──辺りの探索を始めた。

 

 

 平地を舐めつけるようにゆったりと、しかして時には機敏に進む女。

 戦況が変わったのは、彼女のIS(相棒)がけたたましく警告を発したとき。

 上方より飛来したそれは、サブマシンガンから放たれた数発の銃弾。即座に杖を展開した女は、頭上に向かって円を描くように遮二無二それを振り回した。腕や脚、防御器官に数発は掠ったが、彼女の鎧は存外強靭だ。豆鉄砲の一つや二つ、物の数ではない。銃撃をやり過ごした女が、目的の潜むビル、その上層を見やれば、武器を持ったISが窓の奥へと引っ込むところだった。

 

 ──釣り、か。

 

 このまま入り口から駆け上がるのは愚の骨頂。然りとて、ただ漫然と飛ぶのも安牌ではない。PICによる飛行は、オートであれば粗雑に過ぎて、マニュアルであれば余計な意識を割かれる。本来人間に持ち得ない飛行という技能に、柊は自信を持たなかった。

 女はおもむろに杖をより長い物へ持ち替え、右手を引き絞って、消えた影の方へ思い切りぶん投げる。同時、息もつかせず女はビルの方へ疾駆し、ビルの壁を沿うように飛翔した──。

 

 もし相手が、窓辺付近に潜むような間抜けであれば、そのままそいつを突き穿つ一撃。

 窓ガラスを貫く槍と同時に女は内部へ侵入し、待ち伏せの敵を見越して杖を四方にぶん回しながら、素早く探査を走らせる。

 

 ──熱源無し、動体無し、機影無し。

 

 だが、まだだ。もしかしたら(・・・・・・)完璧な迷彩が施されているかも知れない。

 短い棒を装填した女は、人が潜むことが物理的に可能なスペースへ向けて、投げつけ、払い、突きを繰り出す。

 空を切る棒。無論、構わない。

 

 部屋の安全を確認した女は、10フィート程の棒を手に持ち、室外の探索に移る。

 言うまでもなく、ISに搭載されたハイパーセンサーの精度は極めて高い。だが(・・)、それを欺いたトラップがあるかもしれない。先進的(・・・)な技術が使われているかもしれない。赤外線、動作感知の爆発物、あるいは単純な落とし穴。棒を使って間接的に作動させるという古典的(・・・)な方法を、柊は未だに取り続けていた。

 たかたが三メートルの猶予。ただ、女にとっての安全域がそれだ。

 センサーを走らせる。センサー(10フィート棒)を走らせる。

 過剰なまでの執着こそ、柊の護身。

 

 それが身を結んだのは、階の調査を始めて少し。

 棒で叩いた床が、ぼろりと崩れ落ちると同時、上階から天井を突き破ってきた女が、剣を振りかぶって落ちてくる──。

 仮に落とし穴に脚を取られれば、墜落することは無くとも意識は割かれる。その瞬刻の揺らぎ(・・・)に斬りつければ、格上だろうと容赦なく殺せるだろう。テロリストの目指した『魔剣』は、理外の一撃に他ならなかった。

 だが、しかし、その程度の(なまくら)、警戒の雄たるこの女には通じない。

 三メートルの距離を使って、柊は探査棒を刀の刃に噛ませるように投げつけ、そのまま後方へ引き下がる。120センチほどの戦闘用の杖を取り出した女は、当てが外れてわずかに戸惑う敵手を確認するや否や、蛙のように地面を蹴りつけ飛びかかり、脳天へ向かってその手の太刀を振るった。

 ── 夢間神柊(むけんしんしゅう)流杖術“中段”にて、『雷打(らいうち)』。

 強かに側頭部を打ち据えた事で、襲撃者の防壁の強度は大きく下がる。が、これで終わりではない。生身なら昏倒するような一撃でも、シールドのエネルギーがある限り、IS乗り(ライダー)は亡霊のように闘い続ける。最早これまでと奇襲を諦めた敵手は、柊を構えた杖ごと断ち切らんと、自身の『葵』を振り切った──。

 

 ──勝った。

 剣士はそう思っただろう。たかが棒なぞ、刀で斬れぬわけがない。

 

 ……だが(・・)甘い(・・)

 

 これは、IS戦闘だ。

 通常なら、上下の関係にある武器種でも、IS用にチューニングされれば、全てが対等。

 なれば、こそ。

 ── 突けば槍、払えば薙刀、打てば太刀。杖はかくにも外れざりけり。

 あらゆる武器種に化ける(・・・)杖は、最強の一角に他ならないのではないか────?

 

 刀は杖に抑えられる。

 剣士の慢心を見た杖主は、彼女の剣を持つ手に向かって蹴りを放つ。それと同時、脚の先に短い棒を召喚した女は、勢いそのままにそれを蹴り飛ばすという小細工(・・・) を施した──。

 夢間神柊流杖術“赤枝”が崩し、『死超(しちょう)』。

 蹴りの速度に槍の質量が重なった攻撃。運動量の法則に則って、一撃の威力が導き出される。さらに、打点が小さくなったことから、その威力は女の手の甲ただ一点に集中した。

 つんざくような痛みに、思わず剣を手放す女。その後ろに素早く回り込むと、柊は杖の両端を握って、剣士の顎、首元にぐぃと引っ掛けた。

 ISの絶対防御は、操縦者の命に危険が迫った時に発動する。

 ならば────金属棒で首を絞められ、呼吸できないというのは、それ即ち発動条件に他ならない(・・・・・・・・・・)のでは……?

 

「夢間神柊流杖術・基本項『巻落(まきおとし)』」

 

 油断大敵を形にした女の口から出た、流派の名乗り。

 絶対防御が発動し、エネルギーが急速に減る。ジタバタと暴れる女だったが、杖術は警察組織にも用いられる捕縛術。同じ装備なら、行く末を決めるのは己が技量。

 杖を使うことに命を注ぐ女と、IS戦で首を絞められるという未知の状況に置かれた女。

 勝負は、決まっていた。

 

 

 

「なんで柊さんって、そんなに強いのに勝率があんまり高くないんですかー?」

 

 訓練後、敗者は問いかける。

 勝者は信念を口にした。

 

「──杖術は弱者の護身術。悪人を生かして捕らえる技。いたずらに自分から人を傷つけてはいけない。……私は『不殺(負けない事)』は得意だけれど、『殺害(勝つ事)』は性に合わないんだ──」

 

 

 

 彼女は不殺(殺さず)を誓っている。

 彼女の杖術理論は、殺しを含まないがために『魔剣』ではない。

 彼女はしかし、病的なまでに自分と誰かの安全を憂いている。

 彼女の天秤はそれ故に、『絶勝(100%)』を持たないが、『絶敗(0%)』をも持たず、ただひたすらに『中庸(50%)』を維持する。

 

 日本代表、夢間神柊流

 不殺(殺さず)の柊。

 

 




杖術に関して、元ネタの方を修めた方が万が一いらっしゃったら、申し訳ありません。
謹んでお詫び申し上げます。


……『魔剣』中毒患者かな?
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