pipipi と携帯と形態のアラームが鳴り、朝だと告げていた。
俺は、目も開けずにアラームを止める。
アラームを設定したのはAM.5:30。
健全な学生としては二度寝につきたいところだが、俺は毎朝 千冬姉の弁当を作る事を厳命されているのである。
よって、真に残念ではあるがこのぬくもりを放棄しなくてはならない。
あぁ、でも手放しがたいぞ……このぬくさと柔らかさ。
そして手のひらからこぼれるぐらいの程よい大きさ、それでいながら、しっとりとして肌になじみ、少し押してみれば戻ってくるこの弾力………あれ?
掌に感じる明らかにベッドや枕とは異なる感触に違和感を覚え、うっすらと目を開けてみる。
そして、そこには―――――
「……ぁ…んっ……」
「………oh」
千冬姉がいた。
ここは千冬姉の部屋でもあるから、千冬姉がいること自体は間違いじゃない。
問題はなんで千冬姉が俺のベッドで寝てるかってことだ……!
昨日ちゃんと山田先生に頼んで簡易ベッドを調達してもらって、俺はそこで寝た。
これは俺のベッドだから、夜中に起きて間違えて入り込んだとかもない。
千冬姉だって隣のベッドに入ったハズだぞ?!
というか、千冬姉寝巻きはどうした!? なにゆえ下着姿!?
俺が混乱していると千冬姉が目を覚ました。
「……ふぁ……ん? なんだ、一夏……起きていたのか?」
「起きてたのか、じゃねーよ!? なんで俺のベッドで寝てるんだ!?」
「そこに一夏がいたからだ」
「なんだよ、その「そこに山があるからだ(キリッ」とか言う登山家みたいな言い訳は!?」
「なんだ、こんな美人な姉に添い寝してもらって嬉しくなかったのか? アレだけ好き勝手に触っておいて……」
「起きてたのかよ!?」
「ほう、やはり触っていたか……お前とはいえども勝手にお触りは許さん(※)」 ※自分から誘う分には問題なし
千冬姉の誘導尋問に踊らされた俺にドスッと、でこピンのものとは思えぬ音と共に素晴らしい衝撃が突き刺さるのであった。
勝手に潜り込んで来ておいて理不尽じゃね!?
「というか、脳みそに直接衝撃ががががッ!!」
「まぁ、それで許してやろう。私は寮内の見回りがあるからここを離れるが、気安く生徒を招き入れるんじゃないぞ」
「了、解……」
それだけ言うと千冬姉は脱ぎ捨ててあったジャージを纏い、身だしなみを整える……かと思いきや、そこで、ふと何か思い付いたようにこちらを見てきた。
「なぁ、一夏」
「ん、どうかした?」
「久しぶりに、アレをやってくれないか?」
アレって、何を……… あぁ、そういうことか。
そういえば、ここんとこ千冬姉が帰ってこなかったからしばらくやってなかったな。
帰ってきても弁当だけ受け取ってすぐ戻るし。
「……ダメか?」
「別にダメなんかじゃないさ。じゃあ先にシャワーでも浴びてきてくれよ」
「あぁ、分かった」
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「……んっ、い、ちか……少し、強い………」
「あ、ごめん………痛かったか?」
「いや、そこまでじゃない………ふふっ……」
「ん? どうしたんだ?」
「あぁ、なに、一夏も上手くなったなと思ってな。……最初なん
て、力加減が全くできてなくてあちこち痛かったが……」
「いつの話だよ……。アレから何回やったって事もないのに……」
「そうだな……。久しぶりだが、やはり心地いいものだな……」
「そっか……それじゃ、仕上げといきますか」
「ん、頼んだ」
少し、熱っぽい千冬姉の吐息。赤くなっている首筋。普段は感じない色香を感じる。
俺は手に持ったソレを上から下へとスライドさせる。
その先端が少し触れてしまい、千冬姉が身動(みじろ)ぐ。
千冬姉の艶のある黒髪が靡いて、シャンプーのいい香りと……千冬姉自身のどことなく甘いような香りが鼻をくすぐった。
無防備に俺に身体を預ける千冬姉の暖かさを間近で感じながら、俺は――――
―――丁寧に手櫛で整えて、最後に髪を結う。
これでよし。
「千冬姉、できたぞ」
「あぁ、すまないな。では、今度こそ行ってくる」
「ん、いってらっしゃい……っていうのも何か変だな。またすぐ会うんだし……」
「ふふ、そうだな」
そう微笑んでから、千冬姉は部屋から出ていった。
いやー、久しぶりだったからうまくできるか心配だったけど、どうにかなるもんだな。
千冬姉がISの操縦者になる前、つまりは、今みたいに忙しくなる前はこうやって俺が千冬姉の髪を梳かしていた。
何でも、自分でやるよりも上手く整ってるんだそうな。
俺も小さい時だったから、千冬姉に褒められたのが嬉しくて、ついつい頑張っちゃったんだっけか。
これが好評で束さんや箒にもねだられたんだよなぁ……。懐かしい。
なんて遠い日の事に思いを馳せつつ、顔を洗って制服に袖を通す。
そういや、俺の入学って突然決まった割りにIS学園にも男子の制服ってあるんだよな。男女共学でもないのに。
まあ、女子の制服を着ろと言われても全力で断るけどな。
どうでもいい事を考えつつ、今日の授業の用意をし終えてから、自前のエプロンを着けて弁当の準備に取りかかる。
現在6時……丁度ご飯が炊き上がったところだ。
さて、今日は何を作ろうかなっと。オーソドックスに玉子焼きと……
頭の中でメニューを考えながら備え付けの冷蔵庫を開け中身を確認したところ。
●ビール ×6缶
●つまみ
●ミネラルウォーター ×2本
……終わり。
………ゑ?
食材と呼べるモノが、ない……だと?
……まあ、物臭の千冬姉に期待した俺が間違っていた。うん、そうに違いない。
下手したらフライパンすらない気がしないでもない。
……あ、さすがにあった。使った形跡はまるでないけど。
それにしても、どうするかなぁ。
IS学園の購買にも一応食材を売ってるらしいけど、この時間帯に開いてるはずないよな、さすがに。
仕方ない、今日の昼は学食で食べるように言っておくか……。
しかし、となると時間が空いちまったな。
このまま二度寝でもするか……?
いや、千冬姉が起きてしまってるんだからそんな事が許されるわけがない。
見つかったら、文字通り“叩き”起こされるに決まってる。
……大人しく勉強しておこう。主に俺の脳細胞達のために。
またぞろ叩かれるのは勘弁願いたい。
そういえば、結局なんで千冬姉が俺のベッドにもぐり込んでたか分からなかったなぁ。
後で箒にでも訊いてみるか。
なんだかんだで、箒も千冬姉との付き合いも長いし何かわかるかもしれない。
くるりと、シャーペンを回しながらそんなことを思う俺なのであった。
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朝食の時間が近づき、復習を切りのいいところでやめて学食に向かっていると、廊下でばったりと箒と出くわした。
何かひどく狼狽してたが、自称 空気を読むのに定評のある俺は華麗にスルーして一緒に学食に向かうことに。
んで、日替わり和定食を持って席についたところで、さっきの千冬姉の行動について訊いてみる事にした。
「―――ってことなんだ……なんでか分かるか?」
「~~~~~ッ!! この変態がッ!!」
「ぶべっ!!」
問答無用に竹刀でぶん殴られた。
どうやら、俺は相談相手を間違えたらしい。あと、暴力はいけないと思うぞ。
というかその竹刀をどっから出したんだよ、お前は。
「先ほどまで朝練だったのだ」
「いやいや、理由になってないだろ」
「そんなことはどうでもいいっ! お前は分かってるのか、お前と織斑先生は姉弟なのだぞ! さらに教師と生徒でもあるのだぞ!!」
「は? 何を今更……」
「そんなお前等が一緒のふ、布団で寝るなどと「ばっ、声がでかい!!」~~~ッ!?」
余計な事を口走ろうとした箒の口を慌てて塞ぐが、時既に遅し。
Q.ここは?
A.学生食堂。
Q.今は?
A.朝食の時間。
Q.そんなときに大声を出せば?
A.皆に聞こえる。
「やっぱり千冬様と織斑君ってそういう関係なのね」
「あぁ~、私の千冬さまがぁ……」
「あなたのじゃないでしょ!」
「うふふ、姉弟愛。近親相姦。生徒と教師。禁断の……薄い本が厚くなるわね」
こうなるのである。
……また俺を見ながらのひそひそ話が急増するんだろうなぁ。
どう考えても、高校デビューを失敗した気がするぜ。
「んむ~~~っ!!(い、一夏が、顔が近い! 匂いが! 息が耳にぃ……!)」
「おっ、スマン。塞ぎっぱなしだった」
「ば、ば、馬鹿者ぉ……わ、私を(悶え)殺す気かっ」
「や、だからごめんって。大丈夫か? 顔が真っ赤だぞ?」
「そ、それは一夏が……」
真っ赤な顔のまま、うつむいて何かごにょごにょと呟いている箒。
よっぽど苦しかったらしい。反省。
箒もようやく息をを整え終えて、朝食を再開したところで―――
「ね、ねぇ織斑君っ。ここいいかなっ?」
「おりむー、一緒にご飯食べよー」
「あぁ、大丈夫。空いてるぞ」
女の子が三人、声をかけてきた。
確かみんな同じクラス……のハズ。
のほほ~んとした声が特徴的な のほほんさん こと、布仏本音《のほとけ ほんね》さん以外の子は正直自信がない。
というか、のほほんさんのその着ぐるみは何だ。寝巻き……?
あ、でも一人は俺の隣の席の子だ。名前は……なんだったけか。
セシリアの事があってから一応覚えようと努力はしてるんだが、休み時間の度に一年生だけじゃなくて、上級生からも人が会いに来るせいで誰が誰なんだかさっぱりだ。
そのくせ、急に顔色を悪くして帰ってくんだもんな。体調が悪いなら無理する必要もあるまいに。
「うわぁ、織斑君って朝すごく食べるんだぁ……」
「おりむーは男の子だねー」
「夜はあんまり食べないようにしてるからな。朝はこれぐらい食べないときついんだよ」
「……大丈夫だったの、夜の方は(性的な意味で)」
「? あぁ、慣れればたいした事はないさ」
何か含みがあるような言い方だな……まぁ、いいか。
「それよか、女子の方こそ朝それだけで足りるのか?」
「えっ? あ、これはそのぉ~……ね?」
「んふふ~ かなりんはねー、おりむーの前だから見栄を張っちゃって「本音ちゃーんっ?!」むぐむぐ」
のほほんさんが最後まで言い切る前に、かなりんさんが慌てて口を塞いでいる。
別に見栄なんて張る必要なんてないと思うんだけどなぁ……。
食べなくて、授業中に腹でも鳴ったらそれこそ恥ずかしいだろうに。
ま、男の俺とは考え方が違うのかもな。
「ちなみに私は小食なのさ」
「ふーん、のほほんさんは?」
「私? 私はほら、お菓子とかよく食べるしー」
そう言って、嬉しそうに着ぐるみからポッキーを取り出すのほほんさん。
そういう問題じゃないと思うが……ていうか、耳がピコピコ動いてるんだけど!?
のほほんさんの動く耳に釘付けになっていると、さっきから黙っていた箒が声をかけてきた。
「……一夏」
「ん? どした 箒?」
「こほんっ……どうやら少し量が多かったみたいだ。……食べてくれないか?」
「え、さっきはちょっと量が少ないとかぼやいて「ないっ!!」わ、分かったよ……」
ご飯が半分ほど残った茶碗を突き出され、仕方なく受け取る。
なんで対抗意識燃やしてるんだ、コイツは。
そんな箒を見て、かなりんさんは何故か顔を真っ赤にしている。
「あぅあぅ、篠ノ之さん大胆だよぅ」
「……どこが?」
「そんな、口移しでなんて……」
「ぶふぅ!?」
「うおッ!?」
「おぉ~、かなりんは想像力豊かだねー」
想像というかそれは妄想の域だよ、のほほんさん。
口移しとか、いったい何手先の妄想をしてるんだこの子は。
半ば呆れる俺。
そして、箒はというと、その発言で勢いよく味噌汁を噴出し、咳き込んでいる。
「げほげほっ、な、何を言ってるんだ! わたしがそんな事をするハズが……ハズが……ぅぁ……」
「なんでお前まで真っ赤になってるんだよ……」
「う、うるさいっ」
「ほら、顔拭いてやるから動くなよ」
「なっ!?」
『『『<●><●>』』』
味噌汁を噴出したせいで汚れてしまってる顔を布巾で拭いてやる。
……なんか小さい頃を思いだすなぁ。箒を“男女”とか呼んだ奴等を箒が木刀でボコボコにした時に、ついた返り血をこうやって(ry
などと、昔の出来事に思いを馳せていると――――
「何をやっている、馬鹿者」
スパーン!
また俺の脳細胞五千個が快音と共に天国へと旅立った。
後ろには振り向くまでもなく、千冬姉が立っていた。
部屋を出て行くときの機嫌のよさはどこへやら、憤怒の様相である。ハハハ、詰んだ。
「食事は迅速に効率よく取れ。そこで妙な目つきで見ているお前等もだ! 遅刻なんぞしてみろ、グラウンド10周ほど走らせてやる!!」
その言葉を聞くや否や、隣ののほほんさん達もすごい勢いで飯を食べ始める。
あはは、走るのが嫌なのは分かるけど、ちゃんと噛んで食べないと身体によくないぞー
「そして喜べ、織斑、篠ノ之。お前等は遅刻しなくてもきっちり10周走らせてやろうじゃないか。さっさと着替えてグラウンドに来るんだな、他の者が来るまでに終わらなければ授業後に回してやろう」
「そんなっ!?」
「マジかよッ!?」
「どうした? もう5周追加してほしいのか?」
『……喜んでやらせていただきます』
周りから同情の視線が惜しみなく注がれる中、俺達は急いで朝食を食べるのであった。
ちなみにこのIS学園のグラウンド、一周当たり約5キロ。
無論、その日の休み時間と放課後は完全に潰れたのであった。
ランナーズハイの境地に初めて至った、そんな2日目。
~ 今日の篠ノ之さん ~
ぼふっ
寮のベッドに疲れた身体を投げ出す。
「………疲れた」
普段ならしないようなだらしない格好になるが、今日くらいは許されるだろう。
まさか、本当に十周走らされるとは……。放課後は一夏を鍛え直すはずだったのに……!
くっ、コレも全部一夏のせいだ!
一夏が私にあ、あんな事を………えへへ(思い出し照れ)
そ、それに考えようによっては今日一日一夏とずっと一緒に居たわけで……ん? なんだ問題ないではないか。
「篠ノ之さん、私先にシャワー借りるよー?」
「ふふふ、明日も一夏と一緒……」
「……なんで一人でにやついてるのかしら、この娘」
ふと気が付くと、同室になった鷹月さんに不審そうな目で見られていた。
はて?
読了感謝です。
織斑姉弟の朝の光景とお姉ちゃん嫉妬するの巻でした。
うん、エロくないよ、髪を梳かしてただけだもの。
だが、やっぱり一夏は許されざるよ。
誤字脱字などありましたら、報告していただけるとありがたいです。