俺の千冬姉がこんなに可愛いはずが……あった   作:pluet

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第4話

 どうやら、俺はまだこのIS学園でIS操縦者としてやっていくのに、覚悟ってモノが足りていなかったようだ。

 放課後、学園のアリーナにてそんな事を思う。

 

 今更だが、ISってのは女性限定で纏う事のできる兵器である。

 そのISの特性上、量子化されている機体や武装を展開した時に、操縦者はその動きを阻害するような服装であってはならない。

 よって、通常ISを展開する場合、その操縦者はISスーツなる自身の動きを制限しないアンダーウェアを着てる。

 一応、動きを阻害しないってだけじゃなく、ISが展開しているシールドバリアが消えた時に攻撃を受ける事を想定して、ある程度防弾や防刃仕様が施されているが、俺が言いたいのはそんな事じゃあない。

 

 あー、つまり、その、何だ……。

 ISスーツってのは一口に言ってしまえば、スクみ……いやいや、甚だ露出が多いのだ。

 ここまで言えば、俺が何が言いたいか分かるだろ?

 

「どうした、一夏? そんな明後日の方を向いたまま、私の訓練が受けれると思っているのか?」

「………」

 

 目のやり場に困る……ッ!

 

 目の前には訓練用IS『打鉄(うちがね)』を纏った千冬姉が悠然と立っている。一応、世界大会の映像とか見てて分かってはいたんだが、あのメリハリのある身体にこの装備は卑怯だろ。

 実の姉弟ではあっても、俺は KENZEN な男なんだぞ。そこのところ分かってるのか、スーツ開発者!

 いかん、落ち着くんだ織斑一夏。訓練された弟は姉にそんな感情は抱かない……!

 

 というか、現役時代この格好でテレビで放映されたのか。

 ……束さんに頼んでデータを全部消去してもらえないだろうか。

 

 とまぁ、どうでも言い事を考えつつ、どうしてこんな状況になったのかを考える。

 考えるまでもなく、セシリアとの戦いに備えての話だったな、うん。つまり、こんな事になったのも俺が原因、と。

 

 入学してから今までの授業は主にISについての基本的な動作や関連する法律などを学ぶ座学や、一般教養の科目を中心にやってきていた。

 そのため、この学園のメインであるISの訓練機を使った実習ってのは、それらがある程度習熟できた暫く先の事になるはずだった……が、しかし。

 5日後に迫った代表候補生であるセシリアとのクラス代表決定戦を前に、まともにISを機動すらできない俺が戦うってのは無謀すぎると千冬姉が特別に放課後の時間を使って教えてくれる事になったのだ。

 その際に箒が「私との約束はどうしたのだ!」と木刀を持ち出して来た所為で、学園中を逃げ回るは羽目なったのは忘れたい。

 

 一方の対戦相手であるセシリアは既にIS稼動時間が300時間オーバーなので「まぁ、そのくらいハンデにもなりませんわ」とかなんとかであっさり認めてくれた。

 男だなんだとバカにしてきたが、案外いい奴なのかもしれない。それとも、ただの余裕か慢心か。

 それならそれで、対戦の時に油断でもしてくれるかもしれないな。

 

 などと、現実逃避を兼ねて現状の整理をしていた俺の顔は、千冬姉の手によってぐいっと強引に視線を戻された。

 

「いい加減こちらを向け」

「……うぅ、分かったよ」

「まぁ、そうやって意識してくれるのはいいが、今から行うのは訓練だ。そうやって呆けたままでいると……」

「……いると?」

「こうだ」

 

 ザシュッ! と打鉄の主武装である近接ブレードがちょうど俺の首の高さで振るわれる。

 ……あれ? 訓練と称じた斬首刑か何かだったのか、コレ?

 だらだらと冷や汗が流れる。

 

「まぁ、とにかく打鉄を展開しろ。話はそれからだ」

「ん、分かった」

 

 とりあえず、目の前に持ってきてある打鉄に身を預け、試験会場でやったように展開を試みる。

 千冬姉や山田先生の授業を受けて、ある程度理解が追いつくようになった今でもこれが装着される仕組みが分からん。なんで勝手に装着されるんだ?

 

「よし、できた」

「今はこれでいいが、ISの装着は1秒を切る速さで行えるようになれ。まぁ、それはお前の専用機が届いてからの方がいいかもしれないがな……」

「え? 専用機って……」

「あぁ、まだ言ってなかったか。お前がIS操縦者になったときから束に頼んでいてな、本番までには届けるように言ってある」

「何かすごく優遇されてる気がするのは気のせいか?」

 

 まぁ、ド素人が代表候補生と戦うんだからこれぐらいはあって然るべき事なのかも知れないけどさ。

 と思ったけど、それだけではなく、俺が世界で唯一の男のIS操縦者だって事も関係してるみたいだ。

 所謂きな臭い政治がらみの話ってことらしい。

 ま、貰える物は貰っておく主義だからいいけどな。

 

 ともかく、こうして手伝ってくれる千冬姉や箒のためにも無様な結果に終わらせるわけにはいかない。

 やるからには勝つ。少なくとも、千冬姉の顔に泥を塗ることだけはできない。

 

「では、訓練を開始する。初めに言っておくが、お前の勝率は限りなく低い」

「へっ?」

「当たり前だろうが、仮にもオルコットは代表候補生だ。お前のような素人の攻撃はまず当たらないだろう。それに専用機に関しても急がせて入るがアイツの事だ、面白そうだからとかいう理由で本番当日に届けるかもしれん。つまり、乗り慣れてない状態で戦う羽目になることもありうる」

「………」

 

 確かに、束さんならやりかねん。

 基本、行動理念が面白い面白くないで動いてる人だからな。

 

「つまり、お前に残された勝機は相手に生じた隙や焦りにつけ込むしかないだろう。そのためにはまず回避だ。可能な限り避け続けろ」

「ん、ド素人の俺に避けられて焦れたところを狙えって事か」

「そういうことだ。まぁ、後は最低限のダメージを抑えて油断した所を叩くと言うのもあるが、それはダメだ」

「……? 確かに誰も好き好んでボコボコにされたかないけど、なんでだ?」

「………心配するだろうが」

「うん? ごめん、聞こえなかった。もう一回……痛っ!?」

「話は終わりだ、私が攻撃してやるからきりきり避けろ」

 

 そう言って斬りかかってくる千冬姉……って、おわぁ!?

 それ絶対素人相手の太刀筋じゃないだろおおおおおッ!?

 

 

 

 

 その日から、決戦当日まで訓練と言う名の私刑が続くのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 そして、本番当日になった。

 うーむ、それにしても何故かここ数日の記憶が虫食い状態なんだが、これはどういうことなんだろうか。

 授業の内容とかは覚えてるんだけど、放課後以降の記憶が曖昧だ。

 気がついたらベッドの上とかがデフォルトだった。

 

 朝、箒と飯を食うときとかすごく可哀想な目で見られてたから、どうしてなのか訊いてみても絶対目を逸らすんだよなぁ。

 そういえば、セシリアも同じように気の毒そうな顔してたっけか……。

 

 ま、そんな事はともかく。

 俺は第三アリーナのピットにいるわけなんだが、千冬姉が言ってた俺の専用機が届かない……どうしよう。

 

「なぁ、箒」

「あぁ、どうした一夏」

「正直、専用機よりも打鉄でやった方がいいような気がしてきたんだが」

「……せっかく千冬さんが用意してくれたものを無碍に扱うと酷い事になりそうだがな」

「………」

 

 確かに。IS持ち出して来て俺の体をブレードで、ずんばらりんとかありそうだ。

 といっても、このアリーナの使用時間ってのも限られてるからのんびりしてるわけにもいかないんだよな、セシリアも既に待ってるし……。

 

 横に映し出されてるモニターの映像を見ると、青を基調とした機体を纏ったセシリアが宙を浮いていた。

 持ってる武器から見て、遠距離型みたいだな。

 俺、千冬姉からは主に近接戦闘における回避しかやってなかった気がするんだけど……。

 今までの苦労はなんだったんだと思ってたら、山田先生が息を切らせながら駆け込んできた。

 

「織斑君、織斑君、織斑君ッ!!」

「三回言わなくても聞こえてますよ、山田先生」

「織斑君の専用ISが到着しましたっ」

 

 山田先生がそう言うや否や、ガコンと無骨な音を立て隣の搬入口が開き出す。

 ――――そして、その白い機体が俺の眼前に現れた。

 

「これが、俺の専用機……」

「はいっ、これが織斑君専用IS『白式(びゃくしき)』ですよ!」

 

 白式、俺の専用機か。

 うん、なんかいいな。専用機って響きがこう、男のロマンっぽくて。

 

「バカな事を考えてないでさっさと装着しろ。時間は限られているんだからな」

「了解です」

 

 とりあえず、いつの間にか隣まで来ていた千冬姉の言われるがまま、ISを装着する。

 まぁ、装着と言っても俺が何もしなくとも勝手に動いて最適化するんだけど。

 なんて事を考えながら待っていると、目の前にセシリアのIS『ブルー・ティアーズ』と白式のデータが流れ始める。

 

 ……何だこの機体。

 武装が近接ブレード一本って……零式にだってハイパーブラスターとかアーマーブレイカーとかあるのに。劣化ダ○ゼンガーみたいなものだろうか。

 でも、この万能感はすごい。今まで訓練で使ってきた打鉄以上のそれに、思わず気分が高揚してしまう。

 これで一次移行(ファースト・シフト)がまだなんだから恐れ入る。 

 そんなこと思っていると、千冬姉が声をかけてきた。

 

「ちっ、時間がないな……。初期化(フォーマット)最適化処理(フィッティング)は実戦でやれ。

……大丈夫だ、訓練の事を思いだせ。お前ならできる、そうだろう?」

 

 千冬姉が寄せる信頼がくすぐったい。

 それに答えるように、言葉を紡ぐ。

 

「あぁ、なんたって俺は千冬姉の弟だからな。その顔に泥を塗るわけにはいかないさ」

「ならばいい。それと……」

「分かってますよ、織斑先生」

「馬鹿者、お姉ちゃんだ」

「まだそれを言ってるのかよ!?」

 

 しつこいな、おい!?

 ま、でもこれで余計な力は抜けた気がする。案外これを狙ってたのかもな。

 

「篠ノ之さん、私たちの事忘れられてません……?」

「お姉ちゃん……だと? 一夏のシスコンも大概だが、千冬さんのブラコンも拍車がかかってきてないか? 早く手を打たねば、手遅れに……!」

「あ、あのぅ、聞いてます? 篠ノ之さ~ん?」

 

 後ろの方で何かブツブツ言ってる箒と涙目の山田先生の姿が“見える”。

 ――――これはハイパーセンサーの補正のおかげか。

 というか、箒の目が虚ろになっててちょっと怖い。フォローしてから行くか。

 

「箒」

「ッ! な、なんだ?」

「山田先生が泣きそうだぞ」

「へっ!? あ、いや、これは先生を無視してたんじゃなくてですね!?」

「うぅ~、いいんですよー、どうせ私は先生らしくないですし~」

「違いますって!? あーもう! 一夏のせいだからな!!」

「なんでだよ。まあいいさ……箒」

「だからなんだ!」

「―――行ってくる」

「!」

 

 ――――あぁ、勝って来いッ!!

 

 その言葉を背に受けながらゲートから飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 アリーナに到着し、俺より上方に浮いていたセシリアと相対する。

 いつものように偉そうに腰に手を当てたまま声をかけてくる。

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

「そりゃまぁな。あそこまでお膳立てされてんだ、やらなきゃ嘘だろ?」

「ま、そうですわね。……それより、お体の方は大丈夫ですの?」

「ん? 何がだ?」

「い、いえ、特に何もないのならいいですわ……」

 

 おかしな事を言う奴だ。

 でも、こうやって話してる間にも最適化が行われてるわけだからいいけどな。

 この勝負の鍵は一次移行にかかってる。

 それが終わるまではできるだけ力を温存して、勝機を逃さないようにしないと。

 

 そんな事を考えながら、改めてセシリアのブルー・ティアーズの武装を確認していると、これまた偉そうにビシッと俺を指を指してくる。

 どうでもいいが、人を指差してはいけないと教わらなかったのだろうか、このお嬢様は。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

「チャンス?」

「このまま戦えば私の勝利は自明の理。ですから、無様な姿を皆さんに晒す前に謝ってくだされば、許してあげない事もなくってよ」

「そいつは受けれられないな。ここで謝った方がよほど無様を晒す」

「ふふ、まあ、そうでなくては戦う甲斐がないというものですわ。

では、一手、踊っていただきましょうか、(わたくし)、セシリア・オルコットとブルーティアーズが奏でる円舞曲(ワルツ)で……!」

「生憎、俺が踊れるのは盆踊りと日本舞踊だけだ……!」

「地味にすごいですわね!?」

 

 そんなセシリアの咆哮(つっこみ)と共に、セシリアの持っていたレーザーライフル『スターライトmkⅡ』が火を噴いた。

 ハイパーセンサーの警告が表示され、上昇する事で回避する。

 

 まぁ、撃たれると分かっているものを避けるのはそう難しいことじゃない。

 ましてや、直線的な攻撃なら尚更だ。

 

 ここからが正念場だ。

 量子化されていた近接ブレードを呼び出し、構える。

 千冬姉が言っていた通りに、避け続けるにも限界がある。

 本来の用途とは違うが、少しの間 盾になってもらおう。

 

「初撃を避けたくらいでいい気にならないことですわ!」

 

 次々に精密な射撃が放たれ、俺へと襲い掛かってくる。

 でも、その正確な射撃だからこそ、ハイパーセンサーを備えるISならその射線を見切ることができる。

 

 千冬姉に身体に叩き込まれた回避術が今此処に……!

 捻り、旋廻、上昇、下降。狙いを定めさせない。

 セシリアもこちらの回避先を先読みし、撃ちこんでくるがブレードを盾にダメージは最小限に抑える。

 近接での回避しかしてこなかった千冬姉との特訓だが、攻撃への反応速度は格段に上がった気がするな。

 

 でも、こんな程度でどうにかなる程度の腕で一国家の代表の候補になど選ばれるわけもない。

 セシリアは決定打を与えられないと見るや、すぐに戦術を変更する。

 

「くっ、この一週間の特訓とやらは伊達ではなかったということですわね……。ですが、それだけでこの私に勝てるとは思わない事ですわッ!!」

「ちぃ……!」

 

 ブルー・ティアーズに付いてるフィン・アーマーから4つほどビットが分離し、それぞれが不規則に動き回り俺へとレーザーを放ち始める。

 さすがに多角攻撃の回避なんぞ教えてもらってない。それでも必死に避けるが、その回避先にもビットが配置されて、レーザーが撃ち込まれる。

 ブレードを盾にしても凌ぎ切れるもんじゃないぞッ!

 

 何とか直撃を避けながらも逃げてるけど、着実にシールドエネルギーが削られていく。

 くそっ、最適化なんて待ってられないっ……こっちから仕掛けるッ!!

 

「せりゃあッ!!」

 

 被弾覚悟で一つのビットに一気に接近する。

 さすがにISの加速ほどの速さはビットにはないらしく、ブレードで真っ二つにする。

 が、その隙を狙われセシリアからライフルの射撃が襲いかかる。

 

「その隙、いただきますわっ!!」

「つぁっ!?」

 

 無理矢理身体を捻り、何とか直撃だけは避ける。

 こんなの千冬姉の九頭龍閃もどきに比べれば、なんてことはないッ!

 

「……無茶苦茶な回避をしますわね」

「……必要に駆られて学ばざるを得なかったんだ」

 

 その同情の視線が痛い。

 ま、なんとなくだがコツが掴めた。

 それに、もう少しで相手の攻撃の癖とか分かりそうなんだが……。

 

「はっ!? 呆けている暇などなくってよ!!」

「自分だってしてたくせにッ!!」

 

 まずは、このレーザーの雨を切り抜けてからだなッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 ―――シールドエネルギー残量 114

 中破判定か……ええい、最適化はまだかよっ!?

 あれから15分と少し。そろそろレッドアラートがなり始めるレベルだが、例のビットもさらに一個潰して残り2機。

 そして一向に最適化が終了する気配もない。

 

 いやはや、千冬姉の訓練がなかったらもう負けてたかもな……

 

「初見でこれほどまでに私もブルー・ティアーズを避けて、その上2機も落とすとは……認識を改めますわ」

「そいつはどうも、すぐに残りの2機も叩き斬ってやるよ」

「ふふっ、できるものならやってごらんなさいな」

 

 まぁ、耐えた分だけ見えてきたものもあった。

 あのビット……自動起動兵器かと思ったがどうやらそうでもないらしい。

 あのビットが攻撃してくる間は、セシリア本人からは攻撃をしてこない。同時に狙ったほうが効率がいいのにも拘らず、だ。

 こっちを侮っての余裕かとも思ったけど、それなら一機やられた時点で撃ってきてもいいはずだ。

 つまり、あのビットはセシリア本人が操作していて、そっちに集中してる所為で同時にライフルで狙うなんて事はできないって事なんだろう。

 

 ビットの役割は攻撃・攪乱・誘導の三つ。

 攻撃は基本的に俺の一番反応の遠い角度で狙って撃ってくる。それもタイミングを微妙にズラし、回避予測位置を狙ってくる。

 誘導は狙っている位置に相手を誘導して、ライフルでズドン。これが基本戦術。

 

 まったく、俺のISとは相性悪いなぁ。

 近づけばこっちにも分があるんだろうけど、向こうだって近接の備えはあるだろうし。

 ともかく、あのビットをどうにかしなくちゃ、近づくことも出来やしない。

 

「さぁ、終幕といきましょうか!」

 

 その宣言と同時に再びビットが襲いかかって来る。

 でも、これで来るって事はセシリア本人からの攻撃はないッ!

 

「つまり、俺はこっちのビットだけに集中すればいいってワケだッ!」

「その様子だと、このブルー・ティアーズの仕組みに気付いたようですね……でも、甘いですわッ!」

「なぁっ!?」

 

 セシリアはビットを操ってるにも拘らず、ビットを射出したものとは別のアーマーからミサイルを撃ち出し、さらにはライフルで射撃をしてきた。

 ミサイルはともかく、ライフルを撃てるはずが……って、そうか! 俺がビットを破壊したからその破壊した分だけライフルへ思考が割けたのかッ!?

 つか、避け切れ――――――ッ!!?

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ピットから一夏を見送った私は、一夏の戦う姿を見逃しまいとそのままピットで観戦していた。

 

 さすがに銃器相手だと近距離主体の一夏では分が悪いらしく先ほどから、ほとんどワンサイドゲームと言っていい程に一夏はオルコットに追い込まれている。

 だが、そんな中でもアイツは勝機を見つけたようで目が輝いている。

 ……私の好きな顔の一つだ。

 

 こほんっ……そしてオルコットの正確な射撃を華麗とは言い難いけれどもかわしつつ、残ったビットの一つへと突貫する一夏だったが、そこを目掛けてミサイルでの攻撃と今まで同時には使わなかったライフルでの射撃が浴びせられた。

 そんな……ッ!

 

「一夏……!」

「ふ、機体に救われたな……というか、何だこの謀ったかのようなタイミングは」

「へっ?」

 

 千冬さんがそうひとりごちるとほぼ同時に、一夏を包むように漂っていた煙幕が吹き飛ばされるかのように散らされていき、そこに一夏のIS『白式』の本来の姿が現れた。

 

「良かった、無事か……」

「当たり前だ。こんなところで終わるような柔な鍛え方はしてない」

「ふふふ、またそんな事言って、織斑先生もずいぶん心配してたじゃないですか。ほら、強く握っちゃってたせいでスーツに皺が……って、痛い痛いッ!?」

「山田先生はウチの弟並みに学習能力がないようですね。先ほど私は身内ネタでからかわれるのは嫌いだと言ったはずですが?」

「あうぅぅ、すいません~~っ! そんなに強く握られたら千切れます! 千切れちゃいますぅぅぅぅ!?」

 

 ………一夏、私はちゃんと応援してるからな!

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ―――フォーマットならびにフィッティングを終了しました、確認を押してください。

 ようやく、か。

 一次移行が終了して、白式は新しい姿に……いや、本来の姿か。

 とにかく、俺専用の機体になったわけだ。

 

「なっ、一次移行!? まさか今まで初期設定のままで…ッ!」

「ま、そういうことになるな。つまり、こっからが本番って事だ」

 

 そう言って改めてブレードを構え……っと、こっちも変化してたのか……『雪片弐型』?

 雪片って、千冬姉の使ってた武装だよな……?

 ははっ、なんてこった。

 

「全く、俺は最高の姉を持ったな……俺にはもったいないくらいだ」

 

 雪片を正眼に構え、刀身をエネルギーブレードへと転換する。

 まさか、これを受け継ぐことになるなんて……束さんの仕業だな?

 どこかでしてやったりと笑っている彼女を想像し、苦笑してしまう。

 

 でも、これならいける。

 いつだって千冬姉に守られっぱなしだった情けない俺でも、やれる。

 

 今度は、今度こそは―――

 

「俺が守る番、だよな」

「……は? あなた、いったい何を――――」

「いや、こっちの話だ。そんじゃま、行くぜッ!!」

「なっ!」

 

 さっきとは比べ物にならないほどの加速。旋廻速度。

 これが白式か……!

 

 セシリアが再びビットとライフルでの波状攻撃をしてくるが、遅い。

 攻撃直後を狙いビットを叩き斬る。

 迫ってくるミサイルのスラスターを破壊して、一気に接近する。

 

 雪片の使い方は何度も千冬姉の映像で見てきた。

 振るい方は、この一週間で俺が一番よく見てきた!

 

「くぅ、調子に乗って……!」

 

 残ったビットとライフルで攻撃してくるが、上昇してかわす。

 そのまま高度を上げ、急旋回。

 追ってきていたビットをすれ違い様に斬り裂き、そのままセシリアへと降下する。 

 

「さぁ、これで終わりだぁッ!!」

 

 ライフルから撃ち出されるレーザーを切り払い、降下の推進力と共にセシリアに斬りかかり――――

 

 

 

 アリーナに、決着を告げるブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 ――――結果から言おう。

 

 

「で、何か言い訳はあるか?」

「……ありません」

 

 負けました。

 エネルギー切れというなんとも無様な幕引きで。

 

「……さぁ、これで終わりだぁ、だったか?」

「スイマセン、許してください、箒さん!」

「ふん」

 

 ピットに戻った俺は、このように箒に試合中のセリフを棒読みで言われるという辱めを受けているところだ。過去の黒歴史を暴露される気持ちってこんな感じなんだろうな! 涙が出そうだ!!

 

 それにしてもなんで突然エネルギーが切れたんだ?

 まだエネルギー残量は80近くはあったはずなんだけど……。

 

「それがあの雪片の特性だからだ」

「千冬姉……」

「まぁ、その辺りは帰ってからじっくりと教えてやる。それよりも、だ」

 

 うあっ、千冬姉からも説教かよ……まぁ、あんだけ大見得切ってこの結果だから仕方ないよな。

 

「お前は訓練で私が言った事を忘れたのか? ん? 言ったはずだな、避け続けろと」

「いや、でも千冬姉 近接しかしなかったって、痛ひッ!?」

 

 そんな反論など通じるはずもなく、頬をつねられる。新パターンだ!

 

「そんな言い訳は聞いていない。まったく、どれだけ私が心配したと思っているんだ……」

「ひゃい、すみましぇん……」

「まぁ、試合自体は初めての割りによく動けていた方だ……及第点もやれんがな」(むにむに)

 

 褒めてるのかそうでないのか。

 というか、いい加減に頬を引っ張るのをやめてもらえないだろうか、お姉様。

 

「急降下からの斬撃はいい……だがッ! 完全停止もできない分際でそんな事をすればああなるのは分かっていただろう!

オルコットを巻き込み、抱きついたまま錐揉みしながら墜落など……そうやって、またお前はフラグを建てるのかッ! 狙っているのか!!」

「あい、申し訳ございません……」

 

 千冬姉が後半何を言ってるか全く分からんが、こういう時は理由なんか分からなくてもとにかく謝れって弾が言ってた。

 それにしても誰に謝らされてるんだ、あいつ?

 彼女が欲しい欲しいとか言ってたから、彼女はいないんだろうし……。

 などと、別な事を考えていたら例のお約束が飛んできた。

 

 スパーンッ!!

「一夏、聞いてるのかッ!!」

「ごめんなさい」

 

 最近、脳細胞よりも頭皮の方が心配になってきた俺なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日談。

 

 

 クラス代表決定戦の次の日。

 結果は負けてしまったけど、クラス代表にはならずに済んだと意気揚々とその日の授業を迎えた訳なんだが……。

 

「では、一年一組のクラス代表は織斑一夏君に決定しましたー。あ、なんか一繋がりで縁起も良さそうですねっ」

 

 一が並んでも縁起がいいとは聞いた事などないが、とりあえず――――

 

「なんで俺がクラス代表になってるんですかッ!?」

「馬鹿者、質問があるなら挙手をしろ」

 

 また叩かれる。出席簿超痛ぇ。

 大人しく着席して、手を上げる。

 

「質問」

「なんですか織斑君?」

 

 小首を傾げる山田先生。

 いや、先生分かってるでしょう。

 

「なんで自分がクラス代表になっているんですか?」

「それは私が辞退したからですわっ!」

 

 あんですと?

 後ろの方でがたんという音がして、振り向くとセシリアが立ち上がりこちらへ近づいてくる。

 

「試合の結果こそあなたの負けでしたが、この私を相手取ってあそこまで立ち回り追い詰めたのは称賛に値しますわ」

 

 おお、何か微妙に褒められてる?

 自分を上に見てるのは変わらんけど。

 

「そ、それで、ですね……。あの時大人気なく怒ったのを私も反省いたしまして……クラス代表を一夏さんに譲って差し上げようと思ったのですわ」

 

 俺はやりたいとか一言も言ってないけどな。

 なんて事を考えてる間にセシリアは俺の目の前までやってきて、爆弾を投下した。

 

「そ、それに、私にあんな事をなさった責任も取ってもらいませんと……」

「いや、責任ってなんのだよ」

「私、あのように力強く殿方の腕に抱かれたのは……その、初めてだったんですよ?」

「何の話だっ! それに、そんなことなら私にだって権利はあるぞ!」

 

 何故か箒が参戦した。

 ずんずんセシリアへと近づいていき、二人してぎゃあぎゃあと言い合っている。

 というか、お前ら千冬姉の目の前でよくそんな事ができるな。授業中だぞ、今。

 

「いい加減黙らんか、貴様等ッ!!」

『あうっ!?』

 

 千冬姉の出席簿アタックが二人の頭に炸裂した。

 心なしか、俺の時より威力が高いように思える。

 

「貴様等、私の言った事を忘れ他とは言わせんぞ……コイツは私のだっ!!」

 

 ……あー授業っていつ始まるのかなー。

 そろそろ趣味・特技の欄に現実逃避の項目を追加できそうだ。

 そんな現実逃避をしてる俺に隣の席の……えーと、そう、相川さんが話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ、やっぱり織斑君は織斑先生に愛されてるんだねー」

「……愛ってなんだ、愛って」

 

 振り向かないことだろうか。

 少なくとも、こうやってクラスメイトの前で自慢されることじゃないはずだ。

 

「フフフ、冬×夏……いえ、意表をついて夏×冬。学園祭に向けて執筆を開始しなきゃね」

 

 俺は、何も聞いてナい。

 

 

 こうして千冬姉の身内自慢と言うか、俺自慢の演説を聞かされるという羞恥プレイを受けながら1限目の時間は過ぎていくのであった。

 

 

 




読了感謝です。

クラス代表決定戦の終わり。
こういう試合に関しては、教師である以上絡みにくいですね。
ただ、放課後の訓練機の使用とかかなり職権乱用だったりします。

では、誤字脱字などありましたらご報告いただけるとありがたいです。
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