俺の千冬姉がこんなに可愛いはずが……あった   作:pluet

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第6話

 パーティーの翌日、SHRも終わり授業の準備をしている俺にクラスの子が声をかけてきた。 

 

「ねぇねぇ、織斑君はもう2組の転校生のこと聞いた?」

「転校生……?」

 

 まだ4月も終わってないこんな中途半端な時期にか?

 どうせなら入学式に合わせりゃいいものを……。

 

「んー、何でもその娘、代表候補生なんだって。中国の」

「あら、今頃になってわたくしの危ぶんでの事かしら?」

「あはは、セシリアっておもしろいねー。座布団をあげよう」

「ちょっと!?」

 

 セシリアの強気発言が軽く流される。

 というか、イギリス人のセシリアに座布団をあげるって言っても意味分かんないだろ。

 

 でもまぁ、確かにセシリアの事を危ぶんでってだけじゃ根拠としては弱いな。

 のほほんさんが言ってたけど、セシリアの他にも代表候補生はいるらしいし。

 そもそも、危ぶむんだったら最初から入学させるだろ。

 

「ふん、どちらにせよ隣のクラスの話なのだ、そう騒ぐほどの事でもあるまい」

 

 などと身も蓋もない事を言うのは箒である。

 さっきまで不機嫌そうに外を見てたくせにいつの間にこっちに来てるんだ、お前は。

 ……機嫌が悪そうなのは変わってないけど。

 

「あら、不機嫌そうですわね、箒さん。何かいい事でもあったのかしら?」

「……別に、どうやって昨日の件をどう妨害してやろうかと考えていたまでだ」

「……昨日の件?」

 

 何かあったっけ?

 途中で千冬姉達が乱入したけど、極普通のパーティーだった気がするが。

 

「なっ、そんな事させませんわッ! だいたい既に成立した約束ではありませんか! 往生際が悪いですわよ!!」

「貴様がそれを言うか! 散々人の約束を横から邪魔しておいて!!」

「なぁ、さっきから何の話をしてるんだ?」

 

 どうにも話が見えなくて二人にどういうことなのか訊いてみる。

 が、すぐに一蹴されてしまう。

 

「い、一夏さんには関係ありませんわっ!」

「そ、そうだぞ! べ、別に一夏との写真が羨ましいわけじゃないんだからなッ!?」

「そうなのか? だったら、箒は一緒に撮らなくてもいいんだな」

「へっ?」

「いや、のほほんさんがな? セシリアとだけツーショットはずるいって言うから一緒に撮る事になったんだよ。

んで、他にも撮りたいって子がいるからついでに箒も……って思ってたんけど、余計なお世話」

 

 だったな、と最後まで言うことは(かな)わず、ものすごい勢いで箒に遮られる。

 

「い、一夏がそこまで言うなら仕方ないな! 一緒に写ってやろうではないかッ!! まったく、仕方のない奴だな!」

 

 仕方のないのは箒だろ……。支離滅裂じゃねーか。

 見ろよ、皆もそれはねーよって顔してるぞ?

 何故か一人で満足気にしている箒は気付く事すらしないてないし。

 

 まぁ、指摘するのは竹刀が飛んできそうだからやめよう。

 千冬姉に学習能力がないとか言われてるけど、ちゃんと学習するんだぜ? 俺も。

 

「そ、そんなのダメですわッ! これは最初にお願いしたわたくしの特権ですのにッ!」

「ふん、そんな特権などどこにもない。それに私は“一夏から”頼まれて写真を撮るのだ。“自分から”頼まねばならないお前とは違うんだ」

「おい、俺がいつ頼んだ」

「本当に都合のいいオツムをしていらっしゃいますわねッ! いいですわ、前回のよりも鮮烈に明確に敗北を味合わせて差上げますわッ!」

「ふ、私が二度も遅れを取るとは思わないことだなッ!」

「おい、聞けよ」

 

 フフフと哂いながら視線の火花を散らせている二人。

 こっちの話を聞きやしない。

 

 というか、そろそろ授業が始まるから席に帰った方がいいぞー、次って千冬姉の授業だし。

 なんて俺の控えめな提案も完全に黙殺されたとき、突然ガラリと教室のドアが開き何かが飛び込んできた。

 

「あ、あんた達いつまでやってんのよッ! 完全に入るタイミングを失っちゃったじゃないッ!」

 

 どこかで聞いた事のあるような怒声が聞こえた。

 でも、あいつは中国に帰ってったはずなんだけどな……? と首を傾げながらも、ドアの方に目をやる。

 果たして、そこには俺が予想した通りの人物が立っていた。

 

「鈴?」

「久しぶりね、一夏っ!」

 

 そこにいたのは、俺のセカンド幼馴染。

 (ファン)鈴音(リンイン)がそのトレードマークたるツインテールを揺らしながら、声をかけてきた。

 ……自分で言っておいてなんだが、幼馴染をファースト、セカンドって言うのも何か変だな。

 

「おう、久しぶりだな……でも、とりあえずそこをどいた方がいいぞ」

「何よっ、せっかく久しぶりに会ったのにどけだなんてご挨拶ねッ!」

 

 頬を膨らませて、そんな事を言ってくる鈴。

 

 いや、そういうことじゃねーよ。

 お前が入り口塞いでる所為で山田先生が入れないで困ってるんだよ。

 なんて俺が口に出す前に、山田先生がいつものようにやんわりと注意する。

 

「あ、あの~、あなたは2組の鳳さんですよね? もうすぐ授業が始まりますから教室に戻ってくださいね」

「へっ? ……あ、あああぁぁぁッ!?」

 

 山田先生がそう言うと、鈴は慌てて隣の教室に帰っていった。

 結局、何しに来たんだアイツ?

 

「えーと、とりあえず授業を始めますね。皆さん、席についてくださーい」

 

 それを聞いて、ぞろぞろと皆が席についていく。箒とセシリアを残して。

 ……皆が席についてるんだから、お前らも早く座れよ。

 

「一夏さん? 後でさっきの方との関系を洗いざらい吐いてもらうのでそのおつもりで」

「うむ、逃げたら……」

『分かってるな(ますわね)?』

 

 二人してギロリと俺を睨んでから、それぞれの席へと帰っていった。

 お前らさっきまで睨み合ってたのに、息ぴったりだな。

 あと、女の子がそんなドスの利いた声を出すなよ、山田先生もおびえてるじゃねーか。

 

 ……というか、千冬姉がいない。

 このIS操縦理論の授業は千冬姉の担当だったはずなんだけどな。

 

「山田先生、質問です」

「はい、どうしました? 織斑君」

「織斑先生はどうされたんですか? この授業って織斑先生の担当でしたよね?」

「はい、そうなんですけどね……私もよく分からないんですが、織斑先生の机の上に用事があるから先に授業を進めておいてくれって書き置きが残されてたんです」

 

 なので私が来ました……と山田先生。

 仕事に関しては一切手を抜かない千冬姉にしては珍しいな。

 何かあったんだろうか?

 

 そして、代理の山田先生の授業が始まったわけだが、結局その授業の間に千冬姉は戻ってくる事はなかった。

 いったいどこで何をしてるんだろうな、俺の姉上様は。 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 私、黛 薫子は空き教室で織斑先生と相対している

 無論、昨日の件についてだ。いきなり呼び出されて驚いたけど、これはチャンス。

 織斑先生と織斑君。二人の関係についてじっくりと訊かせて貰おう。とっておきもあることだしね。

 ふふふ、こういう機会を物にしてこそ一流のジャーナリストなのよ。

 

「……それで、例の物は用意できたのか?」

「えぇ、抜かりなく。それで、物は相談なんですが……ネガだけは勘弁してもらえません?」

「言わなくても分かってるだろう? 答えはノーだ」

 

 にべもない。

 まぁ、こうなる事は分かってたし、本番はここからよ。

 

「ちぇっ、じゃあその代わりに取材させてくださいよー」

「言わなかったか、私は身内ネタでからかわれるのが嫌いだ」

「痛ッ!? 何もはたくことないじゃないですかぁ……。だったら、この写真も付けるって言ったらどうです?」

「……教師を買収しようとはいい度胸だな」

 

 懐から、一枚の写真を取り出す。

 勿論、織斑君の写真。それもセシリアちゃんと戦ってるときに見せたキリッとしてる顔だ。

 これが撮れただけでも授業を抜け出した甲斐があったってものだわ。

 しかるべきところで売り出せば、軽く諭吉先生がご登場するお値段になるんでしょうけど、今から手に入る情報の事を考えれば惜しくはない。

 これさえあればブラコンまっしぐらの織斑先生なら容易く調略できるわ!

 

「うふふ、ジャーナリストは記事のためなら悪魔にも魂を売るの(ひゅっ)で……って、あれ? 写真が?!」

「一つ、教えておいてやろう……人質を目の前に晒したまま交渉するのは無謀だ。このようにすぐに奪われてしまうからな」

「か、勝手に生徒の私物を取り上げないでくださいよっ!?」

「確かに、この写真はお前の私物だろう。だが、この被写体になってる一夏は私の物だ。つまり、これを私が取り上げてもなんら問題はない」

 

 ひっどい暴論なのに妙に説得力があるんですけどッ!?

 くっ、さすがブリュンヒルデ……! 現役を引退したからって侮っていたわ。

 

 何とか反撃の糸口を見つけないと――――そんな甘い考えを抱いていた時期が私にもありました。

 

「さて、黛……これだけではないだろう? 相川の報告によると定期的に売り出されているらしいからな」

 

 ……バレてるぅぅ!!?

 なんか冷や汗が止まらないんですけど!

 こ、ここは逃げるしかないわ! 三六計逃げるに如かず、昔の人はいい事言った!

 ありがとう! 貴方のおかげで私はまだ戦えます!

 

 ――――でも

 

 「……あ、私 授業があるのでこれで失礼します!」

 「逃がさん」

 

 逃げるタイミングも教えて欲しかったナー……

 

 

 

 

 

 

 

 そして、私の持っていた織斑君に関する資料は全て織斑先生に回収されてしまった。

 ブラコン恐るべし……今週のメインはコレでいきましょう。

 

 反省? なにそれ、おいしいの?

 

 

 

 ◇

 

 

 

 昼休み。

 学食に向かっている俺は、箒達に謂れのない罪で責められている。

 

「お前のせいだぞっ!」

「一夏さんのせいですわっ!」

「何でそうなるんだよ……」

 

 この二人、午前中の授業で山田先生からそれぞれ5回ずつ注意を受けているのである。

 セシリアの席は教室の後ろの方だから正確には分からないが、こいつ等は山田先生の授業をほったらかしにして百面相しながらブツブツ呟いていたのだ。

 今日の授業、本当に千冬姉がいなくてよかったな……いたら今頃頭部が陥没してるぞ。

 

 まぁ、そんな箒達の文句を聞き流しながら学食に着いたわけなんだが、券売機の前にちっこいのが立っていた。

 ……さっきもそうだったけど、なんでわざわざ人の邪魔になるとこに立ってるんだ、お前は。

 

「遅いじゃない、一夏。あたしがどんだけ待ったと思ってんのよ。あんたの所為で麺が伸びちゃったじゃないッ!」

 

 ずいっと、こっちに盆を向けてくる鈴。

 勝手に待っといて理不尽じゃね? と、口に出すのは簡単だが言ってしまうとややこしい事になるから言わない。

 

「ふんっ、勝手に待ってたくせになんて言い草だ。それに、一夏は私と食べるのだ、関係ない者は退いて貰おうか」

「ちょっと!? 勝手にわたくしを省かないでくれません!?」

 

 えぇー、それ言っちゃうのかよ……俺 言うの我慢したのに意味ねーじゃん。

 

 そして勝手に省かれたセシリアは箒に食ってかかっている。

 仲がいいのか悪いのか一度はっきりさせておいて欲しい……ぎゃあぎゃあと姦しく言い合う二人を見ながらそんな事を思う。

 ふむ、二人なのに姦しい……なんつって。

 

 ま、くだらない冗句はここまでにしてとりあえずはメシだな。

 今日は何にしようかなっと……

 

「ね、ねぇ、一夏? アタシが言うのもなんだけど、あいつ等放っておいていいの?」

「ん? あぁ別にいいだろ、いつもの事だし」

「……相変わらずフラグ建てまくってんのね、コイツ」

 

 むぅ、いつもの和定食もいいけど、こっちの中華定食もいいな。

 鈴を見たら久しぶりに酢豚が食いたくなった。鈴の親父さんの酢豚、うまかったなぁ。

 ……ん? そういや鈴と酢豚で何かあったような気が………はて? なんだったっけ。

 まあ、いいか。思い出せないんなら、大した事でもないだろう。

 

 そのまま中華定食を選び、食堂の“お姉さん”からお盆を受け取る。

 心なしか酢豚の量が増えている。いつもは平等なのにおかしな事もあるもんだなー(棒)

 受け取ったお盆を持って適当に空いてる席に鈴と座る。

 

「朝にも言ったけど久しぶりだな、鈴」

「そうね、中2の冬だったから一年ぶりってとこかしら」 

「だな。それにしてもいつこっちに帰ってたんだ? 連絡ぐらいしてくれりゃいいのに」

「まだ帰ってから2日と経ってないわよ。あっちでバタバタしてたから、入学式にも間に合わなかったんだし……」

「ん? って事は、朝言ってた転入して来た中国の代表候補生ってお前の事だったのか」

「それぐらい気付きなさいよッ!?」

 

 なんだ、俺が悪いのか?

 なんつーか、昔から一緒にいたせいであんま中国人って感じがしないんだよな。

 

「でも、たった1年で代表候補生ってすごいよな」

「べっ、別にたいしたことないわよ。それよか、あんたの方こそいつの間にかIS乗れるようになってるし、そっちの方が驚きだわ」

 

 なんて事を話しつつ、思い出話に花を咲かせているとようやく箒たちが合流して来た。

 そして、席につくと同時に鈴について訊いてくる。

 

「それで、そろそろお前達がどういう関係か説明して欲しいのだが?」

「そうですわっ! も、もしかしてお二人はつ、付き合っていらっしゃるのかしら……!?」

「べ、べべ別にあたし達はそんなんじゃ……えへへ」

 

 セシリアの質問にわたわたと手を振りながら答える鈴。なんでそこで照れるんだ?

 

「そうだぞ、どこをどう見りゃそうなるんだよ。ただの幼馴染だぞ」

「………ッ」

「……なんで睨むんだよ」

「うっさいわねッ! 何でもないわよッ!!」

 

 どう考えてもうるさいのは鈴の方だろ、なんで怒ってるんだよ。

 勝手に怒ってる鈴を他所に箒から怪訝そうな声があがる。

 

「……幼馴染、だと?」

「あぁ、そう言えば箒とは入れ違いになったんだっけ。小4の終わりに箒が引っ越してから、鈴が転校して来たんだよ。正確には小5の頭だけど」

「ふぅん、ってことはあなたが篠ノ之さんなんだ……初めまして、よ ろ し く ね?」

「あぁ、こちらこそだ……ッ!!」

 

 二人がすっげー笑顔で握手している。おお、ファーストセカンドの間に友情が芽生えた!

 ギリギリって音と二人に浮かんでる青筋は幻聴および幻覚に違いない。

 昨日の疲れが取れてないせいだな、うん。

 俺は何も見てないし、聞いてもいないぞー。

 

 そんな(見た目だけは)仲よく握手している二人に、またしても省られたセシリアが食ってかかった。

 

「わ、わたくしを置いて勝手に盛り上がらないでもらえますッ!?」

「……誰?」

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわッ! 代表候補生なら他の国の候補生の事ぐらい知っておきなさいなッ!!」

「いや、あたし別に他の国の事とか興味ないし」

「それはそれでどうなんだ、もっとアンテナ張っとけよ代表候補生」

 

 あっけらかんと言い放つ鈴にツッコミを入れる。

 というか、セシリアが怒りのあまり、顔を真っ赤にしてプルプル震えてるんだが。

 どうどう、落ち着けー。

 

「それに、知らなくても戦ったら勝つんだから何の問題もないわ。ほら、アタシって強いし?」

 

 いや、知らねーよ、そんなこと。どっから来るんだ、その自信は。

 まぁ、代表候補生になったんだから、相応の実力はあるんだろうけど……相変わらずのビックマウスだ。

 そうやって強気な発言しといて、何回 痛い目見たのか忘れたんだろうか、こいつは。

 

「ま、でも残念だったな。もう少し早くこっちに来てれば、クラス代表になれたかもしれないのに」

「なったわよ?」

「は? なに言ってんだよ、クラス代表の選考は先週までだったはずだぞ?」

「知ってる。だから、ウチの代表の子にちょーっとお願いして代わってもらったの」

 

 ……誰だか知らないが、せっかく代表になったのに不憫だなぁ。

 コイツの場合、お願いという言葉に脅迫というルビが振ってあるからな。

 まったく、もうちょっと気を遣えよ、日本の謙虚な心を忘れたのか。

 

「ところで、アンタもクラス代表になったのよね?」

「あぁ、成り行きだけどな……ん? ということは今度の代表戦で鈴と当たるかもしれないってことか」

「! そ、そうよ? その時は手加減なんてしないんだからねッ!?」

「おお、当たり前だろ? 俺も全力で行くからな」

 

 前回のセシリアの時は負けちまったけど、あれからも千冬姉に扱かれてるんだ。負けるわけにはいかない。

 そんな事を思ってると、箒が何かぼそりと呟いた。

 

「ふん、どうせ一夏を倒せば自分の強さに惚れるとでも思っているのだろう? その浅はかさは愚かしいな」

「ななな、何言ってんのよっ!? そんなわけないじゃにゃいっ!!」

「そうですわっ! 戦うことぐらいで惚れるなんてどうかしてますわッ!!」

「……まず、お前は鏡を見るべきだな」

「? どういうことです?」

「……そんなだからちょろいなどと言われるのだ」

「いつわたくしがちょ、ちょろいなんて言われたんですのッ!? ちょろくなんてありませんわー!」

「ちょっと! あたしを無視すんなーッ!!」

 

 がぁーっと吠える鈴。

 さっきとは立場が逆になったな。

 

 それにしても、全く話に入れない。

 コレが噂のガールズトークと言う奴か。

 こんなに騒がしいイメージはなかったんだが、現実はこんなもんらしい。

 

 

 ……さて。

 

「ごちそうさまでした」

『『『へっ?』』』

「お前らもさっさと食べないと授業に遅れるぞー」

 

 三人の前に置いてある昼食はその量を全く減らすことなく、冷めてしまっていた。

 まぁ、セシリアのサンドイッチは問題ないけど、鈴のラーメンなんて悲惨だ。

 麺が伸びきって、スープを全部吸ってしまってる。

 料理屋の娘だけあって、食事にはうるさいのに……珍しい事もあるもんだ。

 

「な、なんで教えてくれなかったのよ!?」

「いや、何か楽しそうに話してたから、水を注すのも悪いと思ってな」

「なんて無駄なとこに気を遣うのよ、アンタは!! もっと気を遣うべき所があるでしょうがッ!?」

「そうか? ま、次 実習だから俺は先に行くぞ」

「あたしだって同じよぉーッ!!」

 

 まだ後ろの方で鈴がぎゃあぎゃあ言ってるが、俺の場合 着替える場所が違うから早く移動しないと千冬姉スイングが飛んで来るんだよ。悪いな。

 それにしても、鈴も文句言う暇があったら食べればいいのに。

 箒たちは黙々と食べてたから大丈夫だろうけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ウチのクラスと合同であった実習に遅刻した鈴は、頭に出席簿が容赦なく降り注ぐ事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ 今日の鈴さん ~

 

 

 遅刻したせいで千冬さんからきっつい一撃を貰ってからしばらく。

 授業も終わって、着替えているところだ。

 

「うぅ~、まだ頭が痛い……年々威力が増してるような気がするわ……」

「遅刻したアンタが悪いんでしょ? 自業自得じゃない」

 

 同室になったティナ・ハミルトンが呆れたように言う。

 くぅ、正論過ぎて言い返せないじゃないっ。

 もうっ、これも全部一夏のせいなんだから!

 

 ……そういえば、結局あの約束の事訊けなかったなぁ。

 

(次に会うときには今よりもずっと、ずっと料理の腕上げて……そしたら、ま、毎日酢豚作ってあげるんだからねッ!)

(おう、楽しみにしてるぜ)

 

 ……覚えてる、わよね。

 今日だって、昼食に酢豚食べてたし……。あ、も、もしかして、あれって遠まわしなアピールだったのかしら……?

 一夏は約束をちゃんと覚えてて、あたしの事を待っててくれたって事……?

 

 あ、あ、あぅ……っ、ど、どうしよぉ……っ!

 どんな顔してアイツに会えばいいのよ……!

 

「………」

「どしたの、鈴? 顔 真っ赤になってるわよ?」

「な、なんでもにゃいわよ!」

(何、この可愛い娘……!)

 

 よ、よし、女は度胸!

 こんなところで悩んでる間に他の奴等に掻っ攫われるわけにはいかないわ!

 放課後になったら、あいつの所に行って……約束の事について訊きましょう。

 

 そしたら、私と一夏は晴れて―――――

 

「ティナ、あたしやるわ!」

「! ……そう、やるのね。大丈夫よ、貴方ならやれるわ!」

「あ、ありがと……」

 

 ふふふ、一夏! 待ってなさいよっ!!

 

 この時のアタシは一夏が朴念神であることや、まだ倒さなきゃいけない人がいることも完全に忘れて、ただ浮かれていたのだった。




読了感謝です。
もはや、タイトル詐欺のレベルで千冬姉の出番がないですね。暗躍はしてるけど。
ともあれ、鈴ちゃんの登場回でした。登場回だからといって、優遇されるわけじゃないのはもはや伝統。

では、誤字脱字などありましたらご報告をお願いします。
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