俺の千冬姉がこんなに可愛いはずが……あった   作:pluet

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第9話

 IS学園の地下50mにある特別区画の内の一室。

 私は先ほど終わった解析結果を持って入る。

 ……といっても、ほとんど何も解らなかったという事が分かった、というだけなんですけどね。

 

「失礼します」

「山田先生……解析の方はどうでした?」

「はい、やはりあれは無人機だったみたいです。どのような方法で動いていたかは不明……織斑君の攻撃で機能中枢も焼切れてますから、修復も無理みたいです。それにコアは―――」

「未登録の物、か」

「! ……心当たりがあるんですか?」

「……私は確実にISの両腕と両足を斬り落とした。しかし、見てください。最後の砲撃の時 腕が再び接続している」

 

 織斑先生が見つめるディスプレイには、先ほどの戦闘映像が映し出されていた。

 確かに、斬り落されたはずの腕とその肩の部分が互いにケーブルを延ばし、接続された。

 

「そんな……確かに、ISには自己修復機能がついています。でも、あんな短時間で修復できるものじゃないですよ」

「あぁ、現行の技術ではそれは不可能だろうな。だが、現実にこうして存在している」

 

 無人機の遠隔操作(リモート・コントロール)もしくは独立稼動(スタンド・アローン)、それに異常なほどの修復能力。

 ……そんな凶悪な代物が作れる企業や国家はない。

 でも、個人なら? 一人しか、いませんよね……

 

「篠ノ之博士……」

「まぁ、十中八九そうだろうな。こうして、一夏を危険な目に遭わせるとは。フフフ、どうしてくれようか」

 

 あぁっ、織斑先生が持ってるコップに(ひび)が……っ!?

 ご愁傷様です、篠ノ之博士。

 きっと、あのコップみたいに掴まれちゃうんでしょうね……

 あぅぅ、想像するだけで痛いです。

 

「そもそも、アイツは一夏の事を馴れ馴れしく、いっくん、いっくんなどと呼びおって……羨ま……んんっ、けしからん」

 

 うわぁ……ブラコン全開ですね、織斑先生。

 私は一人っ子だったからよく分からないけど、確かに織斑君みたいなカッコいい弟がいたら私もああなっちゃうのかも。

 もし私がお姉ちゃんだったら、なんて呼ばれるんだろう……織斑先生みたいに『真耶姉』かな? それとも『お姉ちゃん』とか『姉さん』?

 あぁでも、織斑君になら『真耶』って呼んでもらいたいかも……なんて一人で余計な事を考えていると

 

「山田先生……?」

 

 ……あ。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ―――!!! 

 

 あ、あはは、隣からすごいプレッシャーがしてますよ……?

 

「私の一夏を使って好き勝手に妄想するとは本当にいい度胸だな?」

「い、いいえ! わ、私、別にそんなつもりはッ!?」

「フフフ、そのように頭を使ってさぞお疲れでしょう? そういう時は塩分を取るといいらしいですよ?」

「へっ? それを言うなら糖分なんじゃ……」

 

 織斑先生は私の分のカップにコーヒーを注ぐとそこに大量のお塩を入れ始めた。

 っていうか、なんで塩がこんな所にあるんですかぁっ!?

 ああああ!? そんな大匙で山盛りにぃ!? それコーヒーじゃないですッ! 真っ黒な飽和食塩水ですよぅ!?

 

「さぁ、死をくれてやろう……!」

「ひぃぃぃぃっ!? 飲めませんよぉっ?! 塩分過多で死んじゃいますッ!?」

「そうだな」

 

 しれっと言わないでください! って、そんな近づけちゃ……い、嫌ぁぁぁーーーーッッッ!?!?

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 例の無人機乱入事件から数日。

 俺は今、IS整備室にやってきている。

 

 ……そんな所があったのか、と言って千冬姉に叩かれた事はさておき。

 なんで俺が整備室にやってきているかというと、鈴との試合が有耶無耶になってしまったから、仕切り直しって事で模擬戦をしたんだが……どうにも白式の燃費が悪い所為で鈴を削り切る前にエネルギー切れになってしまった。

 イグニッション・ブーストを見切られてしまったのが痛いよなぁ。

 まぁ、俺がもっとうまく使えれば問題ないんだろうけど、その前にエネルギー切れになっちまったらどうしようもない。

 そんなわけで千冬姉に相談してみたところ、ここで調整しろと言われたのだ。

 

 ちなみに千冬姉はついてきていない。

 現役の頃から整備に関しては苦手だったと、苦い顔をしていた。

 ……まぁ、千冬姉って機械の類が苦手しなぁ。いつだったか、洗濯機の前で一時間ほど頭捻ってたし。

 

 そんな訳で言われるがままにやってきたんだが、ISに関するの知識の乏しい俺がどこまで調整できるか甚だ疑問である。

 一応、2年の整備科に配られる教科書や整備マニュアルを渡されたんだけど……さっぱりだ。

 むむむ、こんなことならセシリアとか鈴とか連れて来るべきだったか。

 専用機持ちなら、この辺りの知識もあるだろうし。

 

 でも、箒も含めて今日に限ってどこにもいなかったんだよなぁ……3人で遊びにでも行ってるのか?

 

「あー、おりむーだぁ~」

 

 はぁ、どうしたものか、と頭を悩ませているところに聞き覚えのあるのほほんボイスが。

 

「あれ? のほほんさんとかなりん……新聞部1年エースの」

「うー、それ恥ずかしいからやめてよぉ……」

「あ、すまん。それで二人はどうしたんだ?」

 

 基本的にここを使うのは専用機持ちと2、3年生ぐらいだ。

 まぁ、別に入るのが禁止されてるわけではないから問題はないんだけど。

 

「てひひ、今日はかんちゃんのお手伝いなんだよー」

「かんちゃん?」

 

 相変わらずのほほんさんの付ける渾名は独特だなぁ。

 かんちゃん……神田? 神崎? 少なくとも、うちのクラスにはいないと思うが。

 聞き覚えがなくて首を傾げる俺に、かなりんが助け舟を出してくれる。

 

「あ、本音ちゃんが言ってるのは更織(さらしき)さんの事……って言っても分からないよね。4組のクラス代表の子なんだけど」

「あーそうだな。クラス対抗戦で会ってたなら分かったんだろうけどな」

「ちゅーしになっちゃったもんね~」

 

 あの後、対抗戦は例の襲撃事件の所為で中止となってしまった。

 あの無人機についても箝口令がしかれ、俺や鈴なんかは直接やりやったわけだから誓約書まで書かされた。

 そういえば、誓約書を持ってきた山田先生が終始涙目だったのはなんだったんだろうか?

 ……よく考えたら、いつものことだった。

 

 ん? 4組? 4組と言えば、俺等以外で唯一専用機持ちがいるクラスじゃなかったか?

 クラスの誰かが言ってたような気がするけど。

 

「うん。それが更織さんのことだね。更識 簪さん。日本の代表候補生でもあるんだよ」

「なるほど、(かんざし)で、かんちゃんなわけか。

 つまり、のほほんさん達は、その更織さんの専用機の整備の手伝いってことなんだな」

「あ~、そうなんだけど……まだ、専用機は完成してないの」

「へ? なんでだ?」

 

 セシリアや鈴の専用機は国を挙げての第3世代型武装のテストモデルの兼ね合いもあって、国家規模で支援とかがあるとか言ってたんだけど。日本じゃ違うのか?

 

「それはねー、おりむーの所為なんだよー」

 

 何故に。

 俺は何もしてないぞ? ……たぶん。

 

「更織さんの専用機って、倉持技研が担当してるんだけど……」

「あそこの人達は皆おりむーのISに『ハァ ハァ ハァ』してるからねー。かんちゃんの機体がほったらかしにされてるのさ~」

「ぐぬっ、確かに俺の所為でもあるか……あと、その言い方はやめなさい」

「は~い」

 

 素直でよろしい。

 それにしても、俺の知らない所でいろんな人に迷惑をかけてるんだな……

 つか、倉持技研も白式にしか手が回らないわけでもないだろうに、何やってんだあの人等。

 またISについて壮大な討論でも繰り広げてるんだろうか―――――

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 倉持技研のとある会議室では議論が繰り広げられている。

 

「白式は私の婿」

「あら、白式は今私の横で寝てるわよ」

「イザナミだ」

「なん……だと?」

「むしろ白式×打鉄とかどうよ?」

「『この雪片弐型をどう思う?』『すごく、大きいです……』……こうですか、分かりません」

「『ああ、すごいです。キミの零落白夜で僕のSEがゴリゴリ削られて……!』と、続くのね」

「そうして、お互いのブレードでツキ合うような関係になるのね……! 濡れるわ……!!」

「主任! 早速薄い本を書こうと思うんですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、一番いい絡みを頼むわ!」

 

 会議は続いていく。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ……変な電波を受信してしまった。酷い混線だ。

 頭痛が痛いとはこういう事を言うのだろうか。

 思わず眉間を押さえてしまう俺であった。皺がよってるのがよく分かるなー。

 

「どうしたの、織斑君……顔色 悪いよ?」

「あ、あぁ……なんでもない。それより、俺もその更織さんに会わせてもらってもいいか? 何か迷惑かけちまったみたいだし」

「おー、おりむーはえらいねー」

 

 いいよー、なんて言いながら整備室の奥の方へとぽてぽてと歩いて行くのほほんさん。

 

「そういえば、織斑君はなんでここに? いつもは篠ノ之さん達や織斑先生と一緒なのに、一人なんて珍しいね?」

「あー、白式の調整に来たんだけど、さっぱり分かんなくてさ。今日に限ってセシリア達もいないし……」

「そうなんだ。あ、なら私から先輩に頼んでみようか?」

「? 先輩って……黛先輩の事か?」

「うん。先輩 2年整備科のエースらしいから。私や本音ちゃんもある程度はできるんだけど、先輩の方が詳しいし」

 

 なんて事を話しながら、俺達ものほほんさんの後をついて行くと――

 

「じゃあ、こっちやってあげるね~」

「や、やめて……私だけでやるって……言ってるのにっ……」

「私はおじょーさまの専属メイドだから手伝うのは当たり前なんだよー」

「お嬢様はやめて……」

「てひひ、はーい」

 

 そこにはのほほんさんに振り回されて、わたわたしてるメガネをかけた女の子がいた。

 あの娘が件の更織さんなのだろう。

 というか、のほほんさんが言ってるお嬢様だかメイドだかは何なんだ?

 とりあえず、のほほんさんがメイドやっても仕事は捗りそうにないけども。

 逆にフォローする人の手間が増えるだけなんじゃなかろうか。

 

「あー、おりむー今 しつれーな事考えたでしょー!」

 

 どうしてこうも俺の思考は読まれてしまうのか。

 のほほんさんにぱしぱしとだぼだぼな袖ではたかれる。

 ここはいろんな機材があるんだから、袖は捲くっておきなさい。

 

「織斑君、お母さんみたいな事言うんだね……」

「それほどでもない。っと、君が更織さん?」

「……う、うん。そう、だけど……」

「ごめんっ! 何か俺の所為で君に迷惑かけちゃったみたいで……今更かもしれないけど、本ッ当にゴメンッ」

 

 いきなり頭を下げた所為か、更織さんは目を白黒させている。

 それでも、言いたい事は分かってくれたようだ。

 

「……え、あ……そ、そんなに謝らなくても……いい……別に、織斑君だけの所為じゃ……ない、し……」

「それはそうかもしれないけど、けじめは付けたいからな」

「おぉー。おりむーが珍しくまじめだ~」

「そうだよね。いつもなら「ですよねー」とか言ってふざけるのにね」

「そ、そうなの……?」

 

 

 台無しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、こんな感じで更織さんと知り合ったわけなんだが、何故かその更織さんに白式の調整を手伝ってもらっている。

 

「何か……ホントゴメンな……」

「ううん……私の方もその、行き詰ってたし……それに白式のデータも、参考になるし……」

「おりむーはダメダメだねー」

「ぐっ、言い返せない……」

 

 何をしたらいいかさっぱりだった俺は、悪いと思いつつ更織さんにアドバイスを貰っていたんだが、気が付けば白式の調整がメインになっていた。どうしてこうなった。

 そして白式の操縦者たる俺はというと、その調整に関しては授業外でISにほとんど触れる事すらないのほほんさん達にすら及ばず、機材を運んだり、データを持っていったりと雑務しかできない役立たずに成り下がったのである。

 

「んー、やっぱりこれ以上は無理かもー。あんましやっちゃうと、機動力が落ちちゃうよー」

「そうだね。でも、5%ぐらいエネルギー効率は改善したんじゃないかな?」

「おお! 何をどうやったかは分かんなかったけどありがとう!」

「……ISの最適化はすごい……だけど、ちゃんと調整してあげないと、バランスが悪くなる……」

「まー、おりむーは武器がブレードしかないからねー。スラスター出力と零落百夜にエネルギーを振るっていうのもー間違いじゃないんだけどねー」

 

 更織さん達曰く。

 俺の白式は機動力と攻撃を重視した物に自己進化して行ってるらしい。

 定期的にフラグメントマップを見て調整した方がいい、というありがたいアドバイスもいただいた。

 フラグメントマップってのは………えーと、パーソナライズによる自己進化の道筋と、このマニュアルには書いてある。

 つまり、これを見れば自分のISがどんな風に自己進化してるかが分かる訳か……。

 だけど、肝心のフラグメントマップを読み取れるようになるまで時間が掛かりそうだな。

 ……うん、頑張ろう。

 

 ま、ともかく。これで少しは燃費も良くなったことだし、もう少し鈴に喰いつければいいんだけどな。

 いや、その前にイグニッション・ブーストの練習が先だろうか?

 スラスターにまわすエネルギーを調節すれば、短距離での移動とか小刻みに使って、反転とかそのままターンできるようになるらしい。戦術の幅も広がるかもしれない。

 などと、次の試合の事を考えていると―――

 

「あっ! もうこんな時間だ。ごめんね、私先輩に呼ばれてるから片づけるの任せてもいいかな?」

「ああ。後は俺が片付けとくよ。のほほんさん達はどうする? 終わりにするんなら俺が片付けておくけど」

 

 というか、本気で申し訳ないんで片付けぐらいさせてくれ。

 そう言うとすぐさま喰いつく、のほほんさん。

 

「やたっ。私もお仕事があるんだー。それじゃ、よろしくねー」

「ホントにありがとな。更織さんはどうする? 終わるんなら更織さんのも片付けておくけど」

 

 とてとてと走り(?)去っていくのほほんさんを見送りながら更織さんに訊いてみる。

 

「あ……私はその、続き、やるから……」

「そっか。じゃあ、こっちだけ片付けるな。あ、他に持ってきてほしい物があったら言ってくれよな」

「う、うん……あり、がと……」

 

 よし、それじゃあ片付けるとしますか。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 織斑、一夏……世界で唯一の男性のIS操縦者。

 私のIS『打鉄弐式』の完成が遅れている原因。

 でも本当は、織斑君の所為じゃないって分かってる。

 これは、きっとただの八つ当たり。倉持技研から政策が遅れるって聞いた時に、自分から望んで一人でやろうと思ったから。

 

 ……姉さんみたいに。

 昔から、一人で何でもできた……自慢の姉。

 

 でも、私は……そうじゃないから。

 いつも、姉さんと比べられて……“あの”目で見られる。

 失望、諦観、嘲笑。いろんな負の感情が混ざり合った、そんな視線。

 誰もが、姉さんを通してでしか私を見ていなかった。

 

 だから、いつしか私は心を閉ざしていた。

 そして、できるだけ姉さんと関わらないようにした。

 そうすれば、傷つかないで済むから。

 

 それに、姉さんだって私みたいな妹なんて……きっと……。

 

「―――さん? 更織さん、どうかしたのか?」

「え……!?」

 

 肩を揺すられて我に帰る。いつの間にか、随分と深く考え込んでいたらしい。

 織斑君が心配そうにこちらを見てきている。

 というか……

 

「か、顔っ……近い……っ」

「あ、ごめん」

 

 い、いつもこんな風にしてるんだろうか、この人は。

 いくらなんでもデリカシーとか、いろいろ足りてないんじゃないだろうか。

 本音はお姉さんがいる男の子は異性に疎くなるって言ってたけど、本当だったらしい。

 

 織斑君のお姉さん……織斑 千冬先生。

 ISの操縦技術では他の追随を許さず、世界最強の名を手に入れた。姉さんと同じ領域にいる正に天才の一人だろう。

 ……織斑君は…なかったのだろうか。私みたいに比べられた事が、あの身も(すく)んでしまうような視線に晒された事が。

 

 気が付けば、私は織斑君に尋ねていた。

 織斑先生と比べられて、辛かったりしなかったのかと……。

 

「んー、そりゃあるに決まってる。元々、俺なんてそんな素行がいいとか言えなかったし、千冬姉と比べられてバカにされた事だってある。まぁ、その後 千冬姉までバカにしやがったからぶん殴ってやったけどな」

 

 ……そ、そんな胸を張って言われても、困る。

 と言うか、アグレッシブすぎ……。

 

「……確かに比べられたり、バカにされたりするのが辛いってこともあった……けどさ」

 

 織斑君はさっきまでのおどけてた態度を一変させて、真剣な目をする。

 

「俺が千冬姉の事を大事に思ってることとか、憧れてる事には関係ないんだよ。

 だから、俺は千冬姉の弟として恥ずかしくないように努力する。……それで今度は、俺が千冬姉を護るんだ」

「……そう、なんだ………」

 

 まだ、全然なんだけどな。

 そう言って照れたように笑う織斑君。

 私とはまるで違う。私は、ただ逃げているだけ。姉さんから……そして、自分からも。

 

「そんなことないだろ?」

「え……?」

 

 織斑君がそう口にして、思わず声が漏れてしまった。

 もしかして、口に出してしまってたんだろうか。

 

「更織さんが打鉄弐式を自分で完成させようとしてるのだって、そのお姉さんに追いつこうと思っての事なんだろ?

  ……まぁ、俺の所為ってのが多分に含まれてるんだろうけど」

「!」

「ISの開発とか、整備とか俺はよく分からないけどさ。その更織さんの気持ちは分かるような気がする。

 俺に手伝える事があれば何でも言ってくれよ? 一人で頑張りたいのも分かるけど、無理したら元も子もないだろ?

 そんな事してたら、のほほんさん達も心配するしな。勿論、俺だって心配するぞ」

「……う、ぁ………」

 

 う、顔が火照ってるのが分かる……

 真剣な目をしたまま、そんな言葉をかけてくれる織斑君に、私は曖昧に頷く事しかできなかった。

 

 

 

 その後、織斑君は片付けが済んだようで、私に声をかけてから整備室から出て行った。

 それを少し残念に思いながら、私は再び打鉄弐式に向き合った。

 

「私……頑張るから……」

 

 これから私と一緒に頑張ってくれるこの子に向けて、そう宣言する。

 まだ、織斑君みたいに胸を張っていう事はできないけれど、私も姉さんに追いつきたいから。

 ……そして、昔みたいにお姉ちゃんと笑いあえるようになりたいから。

 

 そして、私は空間投射ディスプレイを呼び出してキーボードを叩き始めた。

 ――そのタッチは心なしか、普段よりも軽いものだった。 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 更織さんと知り合った日の夜。

 

 千冬姉の夜の補習授業も終わり、二人でゆっくりしているところだ。

 それにしても、久しぶりにこんなにゆっくりとした時間を過ごしてる気がする。

 入学してから2ヶ月、なんというかイベントが目白押しだったしなぁ……望んでもいなかったけど。

 俺としては、もっとゆったりと事を進めて行きたいんだけども。……無理かなぁ……無理だろうなぁ。

 何を隠そう、俺はトラブルの達人なのだ(巻き込まれる方の)

 

「どうした、一夏……そんな顔をして」

「いや、なんでもないよ」

 

 心配そうな顔でこちらを覗き込んでくる千冬姉。

 むぅ、そんな心配されるような顔してしまっただろうか?

 箒たちにも考えてる事が顔に出てるとよく言われる。くだらない事を考えてる時とか、特に。

 そういえば、千冬姉と同じ部屋で寝るようになってからも2ヶ月になるんだな。

 ……毎朝、寝ぼけて俺のベッドに入ってくるのはそろそろやめてほしいんだが。

 

 その辺どうにかならないのか、と訊いてみるものの。

 

「無理だな」

 

 ばっさりだった。

 入ってくるだけならまだしも、その時の服装がなぁ。

 俺のシャツだけ羽織ってたり、下着だけとか。俺をなんだと思ってるんだよ……

 まさか、俺以外にもこんな風に無防備なんじゃないだろうな……? 気を付けなければ!

 

「安心しろ。お前の前 以外でするつもりなどない」

 

 そんな胸を張って言われても、その、反応に困る。

 まぁ、千冬姉はそんな俺を見て楽しんでいるようだったが。

 

 などと千冬姉と他愛もない話をしていると、コンコン、とドアが控えめにノックされた。

 誰かが来たらしい。こんな時間に珍しいな。

 

「チッ、誰だ一夏との時間を邪魔しおって……」

 

 愚痴をこぼす千冬姉の後を追って入り口の方に向かうと、部屋の前にいたのは山田先生だった。

 いつにも増して挙動不審な様子である。

 

「あ、あああのッ、夜分にし、失礼します!」

「そうだな。失礼だから、早々に立ち去るといい」

「いやいや、千冬姉 何言ってんだよ。何か用があるんですよね?」

「うぅ……はい、あの……その、ですね? ……お、怒らないで、聞いてくれますか?」

「事と次第によっては容赦はしない」

「ぴぃっ!?」

 

 ギロリと山田先生を威嚇する千冬姉。

 山田先生はぷるぷると、恐怖のあまり(すく)み上がってしまっている。

 

「怖がらせたら話が進まないじゃないかよ……。大丈夫ですよ、山田先生。別に怒りませんから」

「ホント、ですか? 嘘だったら、泣いちゃいますよ……?」

「はい、もちろんですよ」

 

 俺は、という注釈は付きますけどね。

 つまり、千冬姉はその限りではないということです、はい。

 果たして山田先生の察知スキルが低いのか、俺がうまく表情を隠せたのかは分からなかったが、俺の内心を察することなく、安心して話し始める山田先生だった。

 

「実はですね、織斑君に寮の部屋が用意できたので、お引越しになったんですよ」

「あ、そうなんですか」

「………」

 

 山田先生の言葉を聞き、千冬姉が停止した。心なしか、顔も若干引き攣ってるような気もする。

 どうしたんだ、いったい。目の前で、手を振ってみるも反応はない。

 うーん、まあ、すぐに戻ってくるだろう。

 それにしても、ようやく部屋が確保できたのか。このまま、ずっと千冬姉と一緒になるんじゃないかと思ったぞ。

 

「それで、すぐに移った方がいいんですか?」

「あ、そうですね。できれば、そうしてもらえると助かっちゃいます」

「分かりました。用意します」

 

 荷物が多いわけでもないし、すぐにまとめられるだろう。

 山田先生に声をかけてから部屋に引っ込もうとしたところで、我に返った千冬姉に呼び止められた。

 

「ま、待て、一夏! 部屋を移動する必要などないッ! お前は私と……!」

「お、織斑先生……でも、そうしないと明日来る転校生さん達の部屋がなくなっちゃうんですよぉ。ほら、今朝の職員会議で言われてたじゃないですかッ」

「知るかッ! ラウラとそのもう一人を同じ部屋に押し込めればいいだろう!

 男だろうが関係あるかッ! 軍人はそのような事でうろたえない……!」

「そういう問題じゃないんですよぉ……」

 

 千冬姉の剣幕に押され、涙目になってしまう山田先生。

 もはや、その顔がデフォなんじゃないかと最近よく思う。

 まぁ、このままだと話が進まないから千冬姉を宥めるとしよう。

 

「千冬姉、そんな心配しなくても大丈夫だって。朝も自分で起きれるし、弁当もちゃんと作るからさ」

「違うッ! 私が言いたいのは……っ!」

「ん? あぁ、そうか。大丈夫、ちゃんとここの部屋の掃除もしに来るから安心していいぞ」

「……ッ」

「あだぁっ!?」

 

 無言で殴られた!?

 

「ふん、お前がそう言うのなら好きにするがいい。……私も好きにさせてもらう」

「?」

「じゃ、じゃあ織斑君は準備をして、この部屋に行ってくださいね?」

「あ、はい。わかりました」

 

 よく分からないが、許されたらしい。

 何か最後ボソッと言ってた気がするけど、訊いても教えてくれないんだろうなぁ……。

 とりあえず、山田先生から鍵を受け取って、荷物をまとめ始める。

 

 が、千冬姉と山田先生の話は続いているようで……

 

「じゃ、じゃあ、私は事務系の仕事があるのでこれで!」

「まぁ、待て。そんなに急いでどうする。ゆっくりしていけばいいではないか、なぁ?」

「ひぅっ!? で、でででも仕事が残ってますし!」

「フフフ、明日からは山田先生も実機を使って講習するからな。みっともない姿を晒さないように、きっちりと私が指導してやろう」

「あ、あれ? 聞こえてないッ!?」

「ふむ、いまなら第2アリーナが空いてるな……では、行くぞ」

「あうあうあうあうあう……」

 

 そのまま、ずるずるとドナドナされていく山田先生。ご愁傷様です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、準備も済んで新しい部屋に着いたわけなんだが、荷物を置いたところで来訪者が。

 

 『『『………』』』

 

 どこから聞きつけて来たのか、やってきたのは箒、セシリア、鈴の三人だった。

 そして、何故か何も言わずに顔を赤くしてこちらを見るだけだ。

 なんだ、風邪か? 季節の変わり目だからな、体調管理には気を付けなきゃいけないぞ?

 

「別に風邪なんてひいてないわよっ!!」

「そ、そうですわ!」

「そうなのか……で、何しに来たんだよ? あ、何か用があるなら、部屋に入るか?」

「ここでいい!」

 

 そうは言うものの、全く話そうとしない三人。

 なんというか、お互い牽制しあってるような、そうではないような。よく分からん。 

 

「……っ、一夏! 月末の個人トーナメントの事だがな!」

「あ、抜け駆けはなしですわよ!?」

「はぁ、何なんだよ……」

 

 三人は声を合わせて(たぶん偶然だろう)

 

『『『優勝したら―――』』』

「したら?」

『『『私(アタシ)と付き合ってもらう(わ)(います)!!!』』』

 

 

 ………はい?

 

 

 

 

 

 よく分からないが、こいつらが優勝したら、買い物か何かに付き合う事になるらしい。

 なんでわざわざ自分でハードルをあげるんだ? こいつ等は。

 別に時間さえ合えば、いつでも付き合ってやるのにな……なんて、本人達に言わせれば的外れな事を考えながら、俺はとりあえず「お、おう」と言うに留まるのであった。

 

 

 




読了感謝です。
随分早いうちから簪ちゃんの登場でした。
ISヒロイン陣でも割りとお気に入りなキャラなんですが、上手く表現できてない気がしてなりませぬ。
さて、次回はようやくシャルとラウラが登場。これで、サブヒロイン陣が揃いますね。

誤字脱字などありましたら、ご報告いただけるとありがたいです。
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