Fate/Grand Orger in 仮面ライダーゴースト~英霊の力を纏いし、雪花の少女~   作:風人Ⅱ

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プロローグ①

 

―新都・コペンハーゲン―

 

 

「―――じゃあ、俺はこの辺で。今日もお疲れ様でした、ネコさん」

 

 

「はいよー、お疲れー!藤村にも宜しく伝えといてねー、アヤやん♪」

 

 

「ぅぐ……だ、だからその一昔前の女性アイドルみたいな呼び方は止めて下さいってば……!」

 

 

午後六時半。夕暮れも過ぎて辺りが暗くなり始める新都にある、とある酒屋店・コペンハーゲン。

 

 

曾て若かりし頃の父も働いていたと言うツテからその店で働かせてもらい、酒瓶をトラックの積み荷から運び終えた彩人は店内の時計を見て定時を確認し、バイト先の先輩であり、酒屋の娘である音子(通称ネコさん)に挨拶を交わした後、更衣室で私服に着替えてから店を出た。

 

 

その後、彩人と同じく仕事終わりの人々が行き交う交差点を駆け抜けて父の実家がある深山町に繋がる大橋を目指しつつ、スマホで時間を確認し、家に帰り着くまでの時間を計算して顔を引き攣らせる。

 

 

(まずいなぁっ……このままじゃ帰り着くのは七時台になりそうだ……。今の時間じゃ桜さんももう夕飯の準備始めてるだろうし、帰ったら遅れたこと謝らないとっ……)

 

 

申し訳なさそうに頭を掻きながら走るスピードを更に早めつつ、彩人が脳裏に思い起こすのは、父親の実家でお世話になっている女性の一人……父の学生時代の後輩であり、母の妹である間桐 桜の顔。

 

 

元々はロンドンで両親と共に暮らしていた彩人が高校進学の際に冬木の学校に通い、一人暮らしをすると決めた際に世話係を買って出てくれた人であり、母が渋々ながらも自分が離れて一人暮らしをする事に納得してくれたのも彼女の力が大きい。

 

 

それ故に自分も日頃から頭が上がらないのだが、その件を抜きにしても、彼女には怒らせるととてつもなく怖いという周知の事実があったりする。

 

 

特に彼女の実家である間桐家では、彼女がヒエラルキーの頂点に君臨して兄である間桐慎二も戦々恐々の日々を送っているとか、いないとか。

 

 

まぁ、あの人は普段の調子はアレなのだが、昔はよく太鼓持ちをすると気前よく小遣いをくれたりなど何かと良くしてくれた事もあったので、その辺に関してはちょっぴり同情を覚える。怒った桜さんの恐ろしさを知っているので、特に。

 

 

(俺もそうならないように気を付けたいけど……って、あーしまったっ、信号に捕まったっ……!)

 

 

昔の思い出を振り返るあまり無意識にスピードを落としてしまってたのか、いつもなら間に合った筈の信号に足止めを食らってしまった。

 

 

このペースでは七時台までに間に合わない。スマホの画面の時間と赤信号を交互に見て気が逸り、此処は遠回りしてでも急ぐべきかと、青信号に切り替わっている他の横断歩道を見付けて進路変更し、そのまま駅前を通り過ぎて大橋に向かおうとするが……

 

 

「―――其処の君。ちょっといいかな?」

 

 

「ッ!あっ、と……へ?」

 

 

急いでいた所を急に後ろから誰かに呼び止められ、思わず足を止めてつんのめりになりそうになる彩人。

 

 

それでもどうにか転びそうになるのを耐えて背後に振り返ると、其処には、何やら見慣れないスーツ姿の男性が足元に置いたジュラルミンケースを傍らに、彩人を見つめて佇む姿があった。

 

 

「失礼。突然で申し訳ないのだけど、君、もしかして遠坂彩人君かな?遠坂家の現当主、遠坂凛さんの息子さんの」

 

 

「え……あ、はい、そうですけど……スミマセン、どちら様でしょうか?」

 

 

「ああ、名乗りもせず申し訳ない。実は私、こういう者でして」

 

 

母の名前を出して来たということは、母の知り合いか何かだろうかと思い怪訝な表情で彩人がそう聞き返すと、男性はスーツの内ポケットから名刺のようなモノを取り出して彩人に差し出す。それを見て、彩人も軽く頭を下げながら恐る恐る男性の手から名刺を受け取り、男性の名前と共に其処に書かれてるあるワードを目にして訝しげに眉をひそめた。

 

 

「人理継続保障機関、カル、デア……の、スタッフさん……?」

 

 

其処に記されていたのは、何やら随分と仰々しい名前の聞き覚えのない機関名であり、思わず訝しげな反応を見せる彩人に対し、男性は淡々とした口調で話を続けていく。

 

 

「その名刺にも書かれていますが、私は人類の未来を語る資料館。時計塔の天体科を牛耳る魔術師の貴族である、アニムスフィア家が管理する機関・カルデアのスタッフです。今日は折り入って貴方にお話があり、こうして足を運んだ次第です」

 

 

「は……はぁ……え、時計塔……?魔術師、って……?」

 

 

どゆこと?と、間髪入れず立て続けにそう説明する男性の話の内容に理解が追い付かず、困惑を露わにする彩人を他所に男性は足元に置いてあるジュラルミンケースを開き、其処から一枚の白い封筒を取り出して彩人に差し出した。

 

 

「実はつい先月、カルデアにて行われた才能ある一般人からマスター候補を選抜する際に、貴方が候補の一人として名前が上がりましたので、その件を貴方にご報告にと」

 

 

「マス、ター……?候補って……あの、スミマセン、さっきから一体何の話を……?」

 

 

「本来であれば名門のマスターとして選ばれる所、貴方は魔術回路を持ち合わせていない事から難しいだろうという話にはなりましたが、念には念をというレフ教授からのご指示で、貴方には一般枠からの応募の許可が下りました。つきましては、こちら、その申込書とカルデアへの案内書が入っておりますので、どうぞ、前向きにご検討して頂けるのであれば、そちらの書類を後日お送り下さい。では、失礼」

 

 

「……え?え、ちょっ、待って下さいっ!いきなりで何がなんだかっ……!もう少し説明の方をっ!」

 

 

聞き慣れない単語ばかりを含んだ説明のせいで思考が停止し、呆気に取られていた所に封筒を手渡され漸く我に返り慌てて男性を呼び止める彩人。

 

 

しかし男性はそんな彩人の呼び掛けには応えず、そのまま早足気味に駅の人混みの奥へと姿を消していってしまい、残された彩人はただただ呆然と男性が消えた駅の人混みを見つめ、渡された白い封筒に目を落とした。

 

 

「……魔術師……?人理継続保障機関、カルデア……?何でそんな人が、母さんの事を……?」

 

 

思わず心の中から湧き出る疑問を吐露するも、それに答えてくれる人はいない。

 

 

何がどうなってるんだ、と、彩人はもう一度駅の方に目を向けた後、拭いきれぬ困惑を抱いたまま踵を返して帰路に着いたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―衛宮邸―

 

 

深山町、衛宮邸。曾て彩人の祖父が買い取ったと言うこの武家屋敷は、現在家主である父が母と共にロンドンで暮らしている事から、家の管理は間桐桜と、彼女と両親の元教師である藤村大河に任されている。

 

 

そして、穂群原学園に通う為にこの屋敷から通学している彩人は先程帰宅し、桜や大河と共に夕食を終えて自室として使っている和室へと戻った後、畳の上に寝っ転がりながら蛍光灯で照らされる天井をジッと見上げていた。

 

 

(……カルデア……魔術師……マスター……結局、あの人が何だったのか、言ってる事も何一つ分からなかったし……もしかして、新手の詐欺とか何かなのか……?)

 

 

普通ならそう考えるのが妥当だろう。実際に気になって先程ネットでも軽く調べてはみたが、人理継続保障機関などという組織に関する情報は何処にも載ってはいなかったのだから。しかし……

 

 

(……まぁ、仮にもし此処に書いてある事が本当の事なのだとしたら、ネットになんか載ってないのも無理はないのかもしれないけど……)

 

 

身体を起こして机に寄り、その上に投げ出した白い封筒から取り出した、案内書を手に取ってもう一度中身を開く。

 

 

それによると、カルデアは各種の研究や実験が国連の承認の下で実施されているらしく、ネットなどにその情報が流れていないのも、もしかしたら国連が情報統制している可能性があるからかもしれない。

 

 

無論、此処に書いてある事を全て事実、と断定した場合はの話だが……。

 

 

(けど、魔術師……か……。母さんの名前や家の事を出してきたって事は、やっぱり母さん……いや、もしかしたら父さんも……?だとしたら、あの二人がずっと俺に隠してた事って、この事なのか?)

 

 

カルデアの件もそうだが、魔術だの、魔術師だの、マスターだの、此処に書かれている内容はソレとは無関係の世界で生きてきた人間からすれば、どれも胡散臭いと一笑するモノにしか思えないだろう。

 

 

だが、彩人にはそうする事が出来ない根拠があった。

 

 

何故なら、幼い頃に母の書物に密かに出入りし、子供にはとても理解出来ないような文字で書かれた魔道書らしきボロボロの書物を目にした事があったし、母に抱き抱えられた時に薬草のような匂いがしたり、夜中にトイレから部屋に戻る時、父が暗がりのリビングで何もない空間から"剣"を生み出すという、まるで魔法のような瞬間を実際に目の当たりにした事もあったからだ。

 

 

アレは一体何だったのか……。問い詰めたい気持ちもなかった訳ではないが、息子の自分にも何も言わないという事は、二人にとってはそれだけ自分には隠したかった事なのかもしれない。

 

 

ならば、二人がいつか話してくれるようになれるまでは追及せずにおこうとこの年まで貫き通していたが、あの男の言を借りれば、自分の両親は恐らく魔術師……。

 

 

つまりあの日に見た父の魔法のような力は、魔術による物だと言う事になるのだろうか。

 

 

(魔術……か……もしそんなものが本当にあるのなら、あの二人の息子の俺にも魔術を使えたりとかするんだろうか……?)

 

 

そう考え、掌に目を落とし、試しに父のように剣を出せないかとイメージして力を込めてみるが、しばし様子を見ても何かが起きる気配はない。

 

 

やはり駄目か……、と落胆で肩を落としながら畳の上に力無く寝っ転がる彩人だが、両腕を広げて暫く天井を見上げ考え込んていると、何か思い至ったように急に身を起こし、机の上の申請書に手を伸ばした。

 

 

(……ちょっとだけ。ちょっとだけ試してみようかな……ダメだったらダメだったで諦めは付くし、応募するだけならタダ、だよな?怪しいようだったら途中で辞退すれば良い訳だし、ウン……)

 

 

内心でブツブツと呟きながらペンを手に申請書にサインしていく彩人だが、その様子は何処か自分に言い聞かせてるようにも見える。

 

 

動機はただの好奇心と興味本位。

 

 

しかし、実際には両親が長年自分に隠していた魔術の世界というモノを覗いてみたいという、僅かながらの憧憬の念を拭い去れなかったから。

 

 

そんな想いから、最後の欄まで書き上げた書類をもう一度一から確認し、誤字脱字がないのを確認してから白い封筒に戻した書類を、次の日の学校への登校途中にポストに出した。

 

 

―――そして、それから1週間後……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―???―

 

 

――――標高6,000メートルの雪山。

 

 

目の前に広がるのは地平線の果てまでも続く険しい岩山と、その上に降り積もる白い雪。

 

 

空は雪雲に覆われ、吹き抜ける冷たい突風が肌を突き刺し痛みすら覚える。

 

 

そんな極寒の地にて、何故か雪山に似つかわしくない研究所のような巨大な施設が存在し、その施設の前にて……

 

 

 

 

 

「…………ここが…………カル、デア…………?」

 

 

 

 

 

……目を凝らさなければ雪景色に溶け込んでしまいそうな白い礼装に身を包み、彩人は呆然と目の前に佇む巨大な施設のゲート前にポツンと立ち尽くしていたのだった。

 

 

―――数日前、半ば半信半疑に出したカルデアのマスター募集への申込書に関する通知書が届いた。

 

 

結果はなんとまさかの合格。一緒に封入されていたパンフレットからカルデアが在る場所が海外にあると知り、桜と大河に内緒で準備した、長く使ってなかったパスポートと生活品を詰めた荷物を手に、連休始めを使ってカルデアに行く事を決意。無論、両親や桜達には内密で、友人の家に泊まりにいくと嘘を吐いてだ。

 

 

案内書通りに向こうに連絡を取り、空港で待っていた局員の案内を受けて行先も告げられぬまま飛行機に乗せられ、空の旅を数時間、更に空港に着いた矢先に乗せられた車に揺られて更に数時間……。

 

 

流石に疲労を感じずにはおられず、いつの間にか居眠りをしていた所を起こされて最初に目に入ったのは、真っ白な雪原。

 

 

起きた矢先に飛び込んできたその光景に呆気に取られる暇もなく、車の中でカルデアに入る為に必要な指定の服であるとされる衣装一式を渡され、言われるがまま車内で着替えさせられた途端に車を降ろされ、此処に向かってくれと指示を受けて辿り着いたのが、この場所……。

 

 

何か特別な素材か、それともそれ以外の『何か』がこの服に施されているのか、思いのほか雪に足を捕らわれる事なく順調に此処まで進み、目の前に現れた妙な威圧感すら覚える施設を前にした彩人がただただ唖然とするばかりで言葉を失う中……

 

 

『―――塩基配列ーーヒトゲノムと確認。

霊器属性ーー善性・中立と確認。

99%の安全性を保証。

ゲート、開きます』

 

 

―プシュウゥッ……ギュイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ……!―

 

 

「ッ!あ、開いた……?」

 

 

ゲートから不意にガイダンスと思わしき音声が鳴り響き、何か認証らしきモノを行った後、固く閉じられていた目の前の鉄製のゲートが機械音と共にゆっくりと開かれた。

 

 

まるでTVで見たフィクションに出てくる秘密基地のようなそんな光景を前に彩人も若干圧倒されつつも、物珍しげに辺りを見渡しながらゲートを通って中へと足を踏み込むと、次に目の前に立ちはだかったのは、また別のゲート。

 

 

直後、再びガイダンス音声が響き渡る。

 

 

『ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。

ここは人理継続機関 カルデア

最終確認を行います。

名前を、入力して下さい』

 

 

「え……あ、あぁ……コレ、かな……?」

 

 

いきなり名前を入力しろと指示されて一瞬慌てふためくが、ゲートの脇に備え付けられる電子機器を発見して近づき、画面に表示される案内通りに指で操作していく。

 

 

「俺の、名前は……」

 

 

―ピッピッ、ピッ―

 

 

『遠坂 彩人』

 

 

文字を入力、変換してエンターキーを押す。

 

 

直後、画面に『connecting』の文字が暫く表示された後、画面が切り替わり『OK』の文字が現れ、ガイダンス音声が再び響く。

 

 

『認証、CLEAR。

貴方を霊長類の一員である事を認めます。

初めまして、新たなマスター候補生。

どうぞ、善き時間をお過ごしください―――』

 

 

―シュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ……!!!―

 

 

「え?なん……あ――――」

 

 

認証の完了を告げるガイダンス音声を耳に、突如、彩人の目の前の視界が真っ白な光に包まれる。

 

 

何が起きてる?

 

 

そんな疑問を抱くよりも先に、彩人が視る世界が一瞬で白く塗り潰され、次第に意識が遠退き、

 

 

そして―――再び彩人の意識は暗転し、闇の淵へと静かに沈んでいくのであった。

 

 

 

 


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