Fate/Grand Orger in 仮面ライダーゴースト~英霊の力を纏いし、雪花の少女~ 作:風人Ⅱ
―カルデア・通路―
オルガマリーの顰蹙を買い、半ば叩き出される形でマシュと共に管制室を後にした彩人。一先ず説明会が終わるまでは自分に充てがわられた部屋で待機しておこうと言う事になり、部屋までマシュに案内される道中で先程の管制室での件を話していた。
「先輩、着任早々災難でしたね……。ですが、所長の癇癪にも同情の余地アリです。失礼ながら、先輩はカルデアについて無知過ぎます」
「あははっ……まぁ、確かに……正直、パンフレットで分かる部分だけ読んだ程度の知識しかなかったから、さっきの説明会も殆ど置いてけぼりになってたよ……。そんなにわか知識の奴が何食わぬ顔であの場に混ざってたら、所長さんが怒るのも無理ないよな」
「全くです。今の先輩は、言ってしまえばうっかり迷い込んだレベルです。ほぼネコと同義です。……まぁ、私も同じようなものですが……」
「?そうなのか……意外だな……。俺よりもマシュの方がずっと色々詳しそうだと思ったけど」
「いえ、それは買い被り過ぎです。務めて二年になりますが、私もよくは分かりません……のんびり忍び込んだレベルです。ほぼワニと同義です……」
「そ、そうなんだ。ワニなんだ……ワニ……?」
「はい……。私の知識も先輩と同じで、パンフレットにある程度ですが、先輩の為に復唱します」
マシュの独特な謎比喩に密かに首を傾げる彩人の反応に気付かず、彩人に改めてこのカルデアについて説明する為、一拍置くように眼鏡の位置を直して話し出すマシュ。
「ここ、人理保障機関カルデアは人類史を永く、何より強く存続させる為、魔術・科学の区別なく研究者が集まった観測所……。人類の決定的なバットエンドを防ぐ為に、各国共同で設立された特務機関なのです」
「特異機関、か……だからネットで幾ら調べても分からなかったんだな……」
「その通りです。カルデア設立の出資金も各国合同で行われてるぐらいですから、その情報統制も抜かりありません。因みに出資金の大部分などは、アムニスフィアが出資しています」
「……アムニスフィア……あ、さっきの所長さんと同じ?って事は……」
「はい、オルガマリー所長のご実家ですね。所長は悪党ではありませんが、悪人です。気に入らないスタッフは、平気でクビを切ります。―――あ、いえ……どうでしょう?性格が悪い人だから悪人……と言っていいのでしょうか?」
むう?、と顎に手を添えて何やら思案するマシュ。しかし納得のいく答えは得られなかったのか、若干申し訳なさそうな顔でペコリと頭を下げた。
「すみません……先輩を励ましたいのですが、お洒落な台詞回しとか、ちょっと慣れてなくて……」
「ああ、いや、気にしなくていいよ。その気持ちだけでも十分嬉しいし、マシュが言いたい事も何となく伝わったからさ」
マシュが伝えったかったのは恐らく、要点だけ掻い摘めばあの所長も根っからの悪い人ではない、という事だろう。
それは何となく分かるような気がする、と、先程あれだけ彼女に罵られたにも関わず、彩人が所長に抱いた印象はそれほど悪く感じてはいない。
そう思える訳は色々あるにはあるのだが、1番の理由はやはり、カルデアや未来消失という絶望的な事態に対してもしっかり向き合っているのが感じられるからか。
莫大な資金が出資されているカルデアをあの若さで責任者として背負い、しかも其処へ人類滅亡などという突拍子もない絶望の未来を防ぐ使命なんて想像も付かない重みが積み重なっているにも関わらず、それでも自分の役目を果たそうとしてる。
本当に根っからの悪人ならば人類を救おうなどと考える筈もないだろうし、それよりもレイシフトを悪用して好き勝手に過去を改変する事だって出来ただろうに、あの所長からはそんな野心の欠片も感じられない。
(もし俺が同じ立場だったら……いや、とてもじゃないけど考えられないよな……。きっと途方もない重みで、耐え切れずに全部放り投げて逃げ出してしまうのが関の山だろうし……)
そう考えれば、やはり彼女は凄い人なのだろう。正直尊敬の念すらも覚える。
寧ろ半端な気持ちでここに来て、その真剣な気持ちに水を指すような真似をしてしまった自分の方に非があるし、人類の存亡を掛けた絶対に失敗出来ないミッションだと考えれば先程の彼女の言い分も最もだ。
(やっぱり、俺には最初から向いてなかったのかもな……そもそも人類の危機なんて大事な瀬戸際の時に、父さんと母さんと同じ世界を見てみたいだなんて、子供染みたこと考えて……)
「……先輩?どうかしましたか?」
「……うん?ああ、なんでも……ちょっと自分の浅はかさを反省してたって言うか―――って、危ないっ!?」
「え……『フォウッ!』きゃっ?!」
これじゃ先程のマシュの言う通りだなと、無知な自分の至らなさに自己嫌悪していた最中、心配そうに顔を覗き込むマシュの背後から猛スピードで迫る影に気付いて彩人が声を荒げる。マシュもその気配に反応して咄嗟に振り返ると、白い影……先程何処かへと去っていった筈のフォウがマシュの顔に目掛けて勢いよくジャンプし、マシュも驚いた拍子にそのまま床に尻餅を着いて倒れ込んでしまった。
『フォウ、フォーウ!キュー!』
「フォウ?!ちょっ、いきなり何やってっ……!大丈夫かマシュっ?!」
「いつつっ……い、いえ、いつもの事ですっ。問題ありません……。フォウさんは私の顔に奇襲をかけ、そのまま背中に回り込み、最終的に肩へ落ち着きたいらしいのです……」
『フォウ!』
「な、成る程……日常茶飯事、って奴か……とにかくほら、立てるかっ?」
新たに判明したマシュ達の奇妙な習慣に対して少し反応に困りつつも、彩人はマシュが起き上がりやすいように手を貸そうと右手を差し伸べる。すると、それを目にしたマシュは「あ……」と何やら驚いた顔で僅かに目を見開き、自身の右手を見下ろした後、彩人の右手を徐ろに掴んで握り、ゆっくりと引き起こしてもらった。
「よっとっ……大丈夫?腰打ってたけど、どっか怪我とかは……」
「いえ、大丈夫です。すみません、お手を煩わせて……」
「いや、いいよ。マシュには此処に来てから何度も助けられてるし、これぐらいはさ」
「…………」
そう言って気にしなくていいと、何処か母親の面影のある笑みで笑い掛ける彩人。すると、マシュも何やらまじまじとそんな彩人の顔を見つめた後、先程彩人と手を握った自身の右手に目を落としていく。
「……?マシュ?どうかしたか?」
「……!あぁ、いえ、何でもありません。ただ少し、何と言うか……今まで誰かと直接手を繋いだ事なんて殆どありませんでしたので、少し、新鮮だったと言いますか」
「……新鮮?」
それはどういう意味だろうかと、何処か貴重な体験をしたと嬉しそうに微笑むマシュの意味深な言葉に対して訝しげな声を漏らす彩人だが、その疑問を彼女に直接問い質す前に、目的地である個室の前に辿り着いてしまった。
「ああ、着きました、此処ですね。先輩、こちらが先輩用の個室となります」
「あ……あぁ、そっか。ここまでありがとう。……ところで、マシュは何チームなんだい?」
「ファーストミッション、Aチームです。ですので、すぐに戻らないと」
「ああ……そう、なんだ……」
つまりマシュと会えるのも、もしかしたらこれで最後になるかもしれないという事か。
なにせ自分は最低限の条件であるとされる魔術回路をどうにか出来なければ、すぐにでも此処を追い出される事になる。
彼女がミッションから帰った時には、果たして自分はまだこのカルデアに残っていられてるのだろうかと、もう彼女に会えないやもしれないという可能性を考えて彩人が内心少し寂しさを募らせていると……
『キュー……キュッ!』
―ピョンッ!ガバァッ!―
「どぉおおおおッ?!ちょっ、何だっ?!フォウっ?!なに急に顔に張り付いてっ?!」
「ふふ、フォウさんが先輩を見てくれるのですね。これなら安心です」
「いやマシュも笑ってないで助けっ、イッタァッ?!ちょっ、爪ぇええっ!!爪が顔に食い込んでるいだだだだだだだだだだだだだだァッッッッ!!!!?」
ガリガリガリガリ!、と爪を立てて彩人の顔に必死に張り付こうとするフォウを絶叫と共に引き剥がそうと試みる彩人と、否が応でも離れまいとして彩人の顔に更に密着していくフォウ。
そんな二人の攻防戦にマシュも思わず微笑ましげに笑いつつ、管制室に戻るべく、踵を返しながら彩人に向けて別れを告げる。
「それでは、私はこれで。───運が良ければ、またお会いできると思います」
「ぐッ!あ、マシュ……!」
どうにかやっとの事でフォウを顔から引き剥がし、慌ててマシュを呼び止めようとする彩人だが、その頃には既に、マシュの背中は彩人の声が届かない程の距離まで遠ざかってしまっていた。
「ッ……言っちゃったか……出ていく事になる前に、最後にちゃんと挨拶ぐらいしておきたかったんだけどな……」
―――運が良ければ、またお会いできると思います。
去り際に彼女が口にした台詞が頭の中で繰り返し流れ、出来ればそうなれたらいいよなと複雑げに笑う中、彩人が顔から引き剥がしたフォウが手の中から逃れてそのまま腕をよじ登り、背中に回って肩に乗っかっていった。
「……もしかして、俺が一人にならないようにわざわざ残ってくれたのか?」
『フォウ、フォー。キュー!』
「ハハハッ、そっか……じゃあ、まぁ、その心遣いに有り難く感謝しつつ、一緒にマシュの帰りを待つか?」
まぁ、悲観的になるのはまだ早いだろう。もしかしたら、治療を受けた事で魔術回路を得られる可能性だって無くはないだろうし、希望を捨てずに前向きに考えようと「よしっ……!」と気合を入れ直し、取りあえずマシュかレフでも戻って来るまで待機してようと、彩人は案内された個室に足を踏み入れていくのだった。
◆◇◆
―彩人のマイルーム―
──で……
「はーい、入ってま――――って、うぇええええええええっ?!誰だ君はっ?!ここは空き部屋だぞっ?!ボクのさぼり場だぞっ?!誰の断りがあって入ってくるんだいっ?!」
「」
……自分の部屋だと案内されて入った室内に何故か、台詞からして既にダメ男感が漂う男性が事務机の上にパソコンやら菓子袋やらを開いて散らかし、椅子の上で伸び伸びと寛ぐ姿があったのだった。
「……いや、あの……ここが部屋だと案内されたんですけど……」
「え?君の、部屋?ここが?……あー、そっかぁー……遂に最後の子が来ちゃったかぁー……」
と、あまりのグータラ気味に若干引き気味の彩人の台詞から何かを察したのか、男性は机に寄り掛かりながらしばし残念そうに唸ると、気を取り直して椅子から立ち上がり、笑みを浮かべて彩人に自己紹介していく。
「いやあ、はじめまして彩人君。予期せぬ出会いだったけど、改めて自己紹介をしよう。ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキン。何故かみんなからDr.ロマンと略されていてね。理由は分からないけど言いやすいし、君も遠慮なくロマンと呼んでくれていいとも。実際、ロマンって響きはいいよね。格好いいし、何処となく甘くていい加減な感じがするし」
(……あぁ、ロマンってそういう……)
ようするに頭がゆるふわ係なんだこの人、と略称の由来をなんとなく察した彩人が微妙な顔で苦笑いを浮かべる中、男性……"ロマニー・アーキン"は彩人の前へと歩み寄る。
「とにかく、話は見えてきたよ。君は今日来たばかりの新人で、所長のカミナリを受けたってところだろ?」
「?そうですけど、何で其処まで……」
「分かるかって?そりゃそうさ、何だってボクも同類だからねー。何を隠そう、ボクも所長に叱られて待機中だったんだ。もうすぐレイシフトの実験が始まるだろ?スタッフは総出で現場に駆り出されているんだけど、ボクはみんなの健康管理が仕事だから。正直やることがなかったんだ。霊子筐体(コフィン)に入った魔術師達のバイタルは機械の方が確実だしね」
「あー……成る程。で、サボってたところを所長に見付かった、と?」
「そうそう。「ロマニが現場にいると空気が緩むのよ!」って追い出されて、仕方なくここで拗ねてたのさ。でもそんな時に君が来てくれた。地獄に仏、ボッチにメル友とはこの事さ!所在無い同士、ここでのんびり世間話でもして交友を深めようじゃあないか!」
「……そもそも、ここって俺の部屋じゃないですかね」
「うん、つまりボクは友人の部屋に遊びに来たって事だ。ヤッホゥ!新しい友達が出来たぞぅ!」
(……oh……どうしてこうなった……)
『…………フウ』
つい先程まで哀愁な雰囲気に浸っていたところをいきなりハイテンションなダメ男に絡まれ、内心思わずそんな声を溢しながら遠い目を浮かべてしまう彩人。
ロマンもロマンでそんな温度差に気付かず「君もお酒飲むかい?あ、君は年齢的にまだダメだったかー!ま、実はボクもアルコールは苦手なんだけどね、ハハハハッ!」とグイグイ絡んで来るわ、そんな光景を前にフォウも何処か哀れなものを見るような目で二人を一瞥した後、二人を無視して備え付けのベッドの上に乗り一人寛いでいくのだった。